IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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夏祭りの舞台裏 中篇

 

 

 

「……さて、次いくか。」

 

 

 

 やや人気のない場所で部下たちに指示を出していたのであろう同業者を拳一発で沈め、そいつを目立たない場所に放り投げて次の獲物を捜す。

 

 

 

「オランジュ…」

 

 

『北東にそれっぽいのが居る。神社の正面入り口の方を向いてる野郎だ』

 

 

「…みっけ」

 

 

 

 オランジュの言った方向を見ると、先程黙らせた奴らと全く同じ雰囲気を出している奴が居た。そいつの視線の先には、織斑一夏とぬいぐるみを持った箒、そして大型テレビを抱えた五反田食堂の看板娘である五反田蘭が居る…。

 

 ていうか、あのテレビは射的の景品なのか?一般人がよく取れたな… 

 

 

 

 

「んじゃ、ちょいとプロの腕前を見せますか」

 

 

 

 

 ターゲットである男は自分の居る場所から結構離れている。走ったら微妙に間に合わない気がするし、唯一の飛び道具であるコルク銃も威力がいまいちになるだろう…。

 

 

 

「そんなわけで少し手を加えます、なんつって…」

 

 

 

 鼻歌混じりで懐から型抜き屋からパクッた針を取り出し、その針をコルク銃の弾にプスリと差し込んでそのまま装填する。これで即席矢弾の完成である…。

 

 

 

「……。」

 

 

 

 息を殺し、遠くで俺に背中を向けている形になってる男のとある部分に狙いを定める。通りを歩く人々に間違っても当たらぬように、タイミングを過度な位に読む……といっても、三秒だけだが…。

 

 

 

「Descarga (発射)」

 

 

 

 狙いを定めた俺は引き金を引いて弾丸を発射した。発射された針付きのコルク弾は人混みの中を真っ直ぐに横切り、そのまま男に向かって突き進む……そして…

 

 

 

 

―――トスッ

 

 

「うぐぉっ!?」

 

 

 

 

 矢弾は男の後ろ首に存在するとあるツボに刺さり、呻き声を上げながら崩れ落ちた。ティーガーの兄貴曰く、そこのツボに針が刺さると抜くまで動けないらしいのだが、本当だったらしい…。

 

 男は倒れたままピクピクと痙攣しているだけで、一向に起き上がる気配が無い……あ、見回りの人に医務室へ連れて行かれた…。

 

 

 

「今ので何人目だ?」

 

 

『さっきので6人目。お前が焼きそば食う前に仕留めた人数と合わせたら丁度10人だ』

 

 

「……半分か…」

 

 

 

 それにしても多すぎる。日本の暗部は何してやがんだ?防諜に疎いのは昔かららしいが、今の御時勢にこのザルッぷりはどうかと思うぞ。最近の裏社会の連中には『更識家に注意すれば日本の闇はカス』なんて言われてるのを日本政府の連中は知ってるのだろうか…?

 

 

 

『…あれ?』

 

 

「どうした?」

 

 

 

 唐突にオランジュが怪訝な表情を浮かべてそうな声を出した。そして、その口からとんでもない言葉が出てきた…。

 

 

 

『……敵が減ってやがる…』

 

 

「何…?」

 

 

 

 こちらを常にサポートできるように、オランジュはさっきからずっと敵の動きを把握し続けていた。にも関わらず、今のちょっとした間に敵が消えていたのである…。

 

 

 

「もしかして引き上げたのか…?」

 

 

『さぁ、どうだろうな?……あ、また減った…』

 

 

 

 まぁ隠密行動や暗躍において、人員がある程度潰されたら中止するのが得策ってもんだ。そんなに不思議な話では無いが…

 

 

 

 

 

 

―――ところが、事態はそんな甘っちょろいもんじゃ無かったようである…

 

 

 

 

 

 

『ん?……うげッ!!セイス、すぐにそこから離れろ…!!』

 

 

「はい?」

 

 

『“彼女”がそっちに向かって…』

 

 

 

 

 

 無線越しに聴こえてきたのは焦燥感に駆られるオランジュの声…『彼女』という言葉に、背筋に嫌な汗が垂れるのを感じる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁい、お久しぶりねクマさん♪」

 

 

「ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 背後から聴こえてきたのは随分と聞き覚えのある女の声。一度目はIS学園で、二度目は五反田食堂で聴く羽目になったその声は俺の体に緊張感を走らせるのには充分過ぎた…。

 

 ギギギという音が出そうな位にぎこちなく首を後ろに向けると、『O☆HA☆NA☆SHIしようゼ!!』と書かれた扇子を広げ、こちらニコニコしながら見つめてくる赤い瞳の水色ヘアーが立っていた…。

 

 

 

 

 

 

「さ~て、いつだかの続きをしましょうか…?」

 

 

 

 

 

 

 『更識家に注意すれば日本の闇はカス』…その最も注意しなければいけない『更識家』の当主と3度目の邂逅を果たした俺って、いったい何なのさ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いや~、ようやく良い事があったわね…)

 

 

 

 ここしばらく、織斑一夏と接触する前に下調べや外堀を埋めることに集中していた。けれど、いい加減に直接接触しようかと思った矢先に政府からの依頼である。無駄に長ったらしく、遠まわしな言い方をしていたが要約すると…。

 

 

 

 

 

 

―――『男性操縦者狙いの敵さんが大勢入って来ちゃったから、対応よろしく!!(グッ!!』

 

 

 

 

 

 

 よくブチ切れなかったと自分を褒めてやりたかったぐらいである…。というか、本当にそろそろ行動しないと布仏姉妹…特に、虚(うつほ)の方に小言を言われかねない。

 

 しかし、何だかんだいって上からの指示故に無視することも出来ず、現地に到着。八つ当たりを兼ねて標的を次々と沈黙させていたのだが、次に狙いを定めた男が何もしてないのに倒れるという事態が発生。よく見ると、そいつの首には針の付いたコルクが刺さっていた。もしやと思い、とある方向に視線を向けてみれば随分と身に覚えのある気配があったわけで…。

 

 

 

 

 

 

「運命の再会って、良いと思わない?」

 

 

「あんたと運命?ハッ、悪い冗談だ…」

 

 

 

 

 

 

―――初の出会いでは取り逃がし、二度目は見逃してやった彼がそこに居た…

 

 

 

 

 

 

 

「あら、今日は饒舌になってない?」

 

 

「素性バレたく無いから口数減らしただけだ。けど、どうせ俺の素性は調べてあるんだろう…?」

 

 

「まぁね、お察しの通りよ『セイス』君…?」

 

 

 

 

 

 

 

 亡国機業のエージェント、『セイス』…ぶっちゃけると、彼の素性を調べた時は冷や汗が流れた。色々とやってきた経歴は勿論のこと、彼自身の正体を知った時は大変驚いたものである…。

 

 

 

 

「それとも、『AL-№6』と呼んだ方が良いかしら?」

 

 

「はっはっはっは……ブッ殺すぞ…?」

 

 

「きゃあ~お姉さん怖くて震えちゃ~う♪」

 

 

 

 

 調べた時に彼に対してその呼び方は禁句であると聞かされていたのだけど、本当のようね。今、いつも通りにふざけて見せたけど……結構、強烈な殺気をお持ちで…。

 

 

 

 

「冗談はさておき、大人しく捕まって貰えるかしら…?」

 

 

「それこそ悪い冗談だ」

 

 

「あら、そう…」

 

 

 

 

 

 当然と言えば当然ね…ま、だったらやる事は決まってるけど……。 

 

 

 

 

 

「じゃあ、お姉さんと激しく運動して貰おうかな~?」

 

 

「実力行使ってか?上等だよ…」

 

 

 

 

 

 調べた経歴に嘘は無いみたいね…彼の殺気に私が大して動じなかったように、彼もまた私の殺気に正面から向き合っている。それはそれで微妙に傷つくんだけど、今は忘れよう…。

 

 

 

 

「じゃあ、早速始めましょ…」

 

 

「ちょっと待った」

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 いきなりこっちを制止するように手を前に出しながら、待てと彼は言い出した。唐突だったため、思わす反射的に動くのをやめてしまう…。

 

 

 

 

「ここはまだ人混みに近い、もう少し離れた場所でやらないか…?」

 

 

「……。」

 

 

 

 

 彼の言う通り、ここはあまり目立たないと言えば目立たない場所なのだけど、祭りで賑わっている通りが割とすぐそこにある。下手をすれば一般人がこっちに来る可能性もある。

 

 

 

 

 

「表の人間は極力巻き込まないのが裏の人間の常識であり、暗黙の了解だろ?てなわけで、もうちょっとだけ“そっち”に行ってやろうぜ?」

 

 

 

 

 

 

 そう言って私の背後を指差す。確かに、その方が互いに良いのかもしれない…。

 

 

 

 

 

 

「…分かったわ、そうしましょ」

 

 

「話が分かるようで助かる。」

 

 

 

 

 

 そして私は踵を返して歩を進め、彼もまた私に追随するように歩き始めた。

 

 

 

 

 

「ところで、あの日は何をしてたの…?」

 

 

「あの日?あぁ、クマの着ぐるみの日か……何って、教えるわけ無いだろ…?」

 

 

 

 

 若干声のトーンを暗くしながら返事をしてくる。怒ってるというより、どことなく落ち込んでテンションが下がっているような…。

 

 

 

 

「因みに、当時の映像は残ったままなんだけど?」

 

 

「…消せよ」

 

 

「嫌よ。クマの姿で全力疾走する君は何度見ても飽きないんだもの」

 

 

「……どいつもこいつもこんなんばっか…!!」

 

 

 

 

 頭を抱えて呻いている気配が後ろからする。というか、絶対にしてる…。自分で言っといて何だけど、可哀相だから話題を変えてあげよう…。

 

 

 

 

「それにしても、本当に凄いわよねぇ…?」

 

 

「……。」

 

 

「夜の鬼ごっこの時もそうだけど、さっきまで犯罪組織の誘拐チームを次々と仕留めてたのも君なんでしょう…?」

 

 

「……。」

 

 

「正直言って、初めて会った時は身体能力が高いだけだと思って舐めてたわ…」

 

 

 

 

 素の身体能力はともかく、技術面ならば負けはしない。そう思っていたのだが、先程見かけたコルク銃による狙撃を考えるにそれは間違いだったと認識を改めた。故に、油断はしない…。

 

 

 

 

「けれど、私だってさらさら負ける気はこれっぽっちも無いんだから。」

 

 

「……。」

 

 

「私は更識楯無…更識家当主であり、IS学園生徒会長……」

 

 

「……。」

 

 

「そして『IS学園生徒会長』の肩書きが持つ意味は二つ……」

 

 

「……。」

 

 

「IS学園生徒達の長である証と…」

 

 

「……。」

 

 

 

 

 『IS学園生徒会長』…その肩書きに恥じない強く、凛々しく、優雅に、堂々とした口調のまま、彼女は背後に居るであろう彼の方を振り向いた……。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「IS学園最強である証なのだ、か…ら……」

 

 

「……。」

 

 

 ところが、彼女の声音は振り返った瞬間、あっという間に尻すぼみとなっていった。何故ならば、自信満々で口上を述べていた彼女が目にしたのは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そこにあった木に画びょうで張り付けられた『戦うわけねーだろ、バーカ!!』と書かれたメモ用紙だけだったのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ…」

 

 

 

 

 

 

 

 つまり自分は、途中から独りで喋ってただけだったと……傍から見れば痛い人をやっていた、と…

 

 

 

 

「ふ、ふふ…ふふふ、あははははははは……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかーさん、あのひとさっきからひとりでなにやってるの…?」

 

 

「シッ!!見ちゃいけません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ブチィ!!

 

 

 

 

 

 祭りで賑わう夜の日に、何かがキレる音が響いた…。

 

 


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