IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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また繋がらなくなる前に、先にこっちを投稿…


夏祭りの裏舞台 前編

 

 

 

『あぁ~あぁ~こちら朱色…六番、対象に異常は無いか?どうぞ』

 

 

 人混みから離れた場所で座りながら休んでいたら、耳に装着したイヤホン型通信機からオランジュの声が聴こえてきた。俺はさっきそこで買って食ってた焼きそばを置き、それにひっそりと返事を返した。

 

 

「こちら六番、異常は無い。引き続き任務を続行する」

 

 

『了解』

 

 

 今の俺が居る場所はIS学園では無く、久々に外に出ての任務である。まぁ結局のところ、織斑一夏の外出先なんだが…。

 

 

「ところで朱色…」 

 

 

『何だ?』

 

 

「お土産はたこ焼きでいいか?」

 

 

『俺、頭足類ダメなんだ…』

 

 

「分かった、3パックぐらい買ってけばいいんだな?」

 

 

『聞けよ』

 

 

 ここは『篠ノ之神社』、篠ノ之束博士と篠ノ之箒の実家みたいな場所である。篠ノ之家の人物達が日本の重要人物保護プログラムに適用された後は、彼女らの叔母夫婦が運営しているそうだ。

 

 そして今日、通例行事で篠ノ之箒による神楽舞なるものがあるらしいのだが、どうやら一夏はそれを見に来たらしい…。

 

 

「冗談はさておき、奴も自分の立場をよく理解して欲しいもんだ…」

 

 

『知ってたら知ってたで何も変わらない気がするがな、“俺らの同業者が集まってる”なんて…』

 

 

 

 夏祭りの真っ最中故に、屋台や見物客で賑わっている篠ノ之神社。ここに、織斑一夏を()()しようとしている俺らの同業者が何人か来ている…。

 

 フォレストの旦那曰く、こちらが計画している時期までは一夏に手は出さない予定なんだそうだ。それまでは、こちらの…要は俺達の目が届く場所に居て貰わないと困るのだ。

 

 

「何にせよ、久々の真面目な仕事だ。日頃の鬱憤を晴らすつもりでやるぞ…」

 

 

『あいよ、サポートは任せな』

 

 

 

 あぁ、本当に久しぶりだこの感覚……最近は部屋に引き籠って覘き紛いしかしてなかったからなぁ…。やっとエージェントらしい仕事ができる…。

 

 もっとも…篠ノ之箒と、いつだかの定食屋の看板娘を両脇にはべらした護衛対象を見てると、一気に萎えてしまうが……。

 

 

 

『ところで、本当に手ぶらで良かったのか?』

 

 

 オランジュが言う通り、俺はIS学園を出る際に一切の武器を置いてきた。拳銃どころかナイフさえ持って来てない。強いて言うのなら、ワザワザ選んできた袖の長い浴衣ぐらいだ。しかし、問題ない…。

 

 

「武器なら、そこら中にある…」

 

 

 現地調達…俺の一番大好きな四文字熟語だ。そう言ったら、通信機越しから溜息が聴こえてきたが、特に気にしない…。

 

 

『…と、そんなこと言ってる間に敵さん動き出したぜ?』

 

 

「数は?」

 

 

『12人。こりゃ来てる組織はひとつじゃないな……ま、どうせお前なら余裕だろ…?』

 

 

「当然」

 

 

 

 言うや否や俺は立ち上がり、歩き出す。向かう方向は、さっきまで一夏と彼女らの3人が遊んでいた射的の屋台だ…。

 

 人混みに紛れ、スタスタと近寄っていく。多種多様ないくつもの屋台を通り過ぎながら、三人の居る方向へどんどん近寄っていく。その途中、ちゃっかり商売道具を拝借するのを忘れない…。

 

 

「…失敬」

 

 

―――射的屋のコルク銃

 

 

「よっと…」

 

 

―――ダーツの矢

 

 

「ちょいと失礼…」

 

 

―――輪投げのリング

 

 

「お、こいつもいいね」

 

 

―――型抜き屋の針

 

 

 

 拝借したものを片っ端から浴衣の袖や懐に忍ばせ、次々と使えそうなものを集めていく。さっき焼きそばを食うのに使った割り箸も追加しておこう…。

 

 玩具と侮るなかれ、何故これらの物に使用法における注意書きがあるのか……その意味を忘れてはいけない…。

 

 

 

『六番、ターゲットが一夏に接近を開始したぞ』

 

 

「De acuerdo (了解)、仕事を始める…」

 

 

 

―――さぁ、始めようか三流ども。一流企業(亡国機業)の格を教えてやる…!!

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『こちらアルファ1、ターゲットを視認した。これより、接触を開始する…』

 

 

「了解、健闘を祈る」

 

 

 

 見物客に紛れながら、祭りの中では普通耳にしないような硬い口調を響かせ、犯罪組織お抱えの誘拐実行チームの彼らは緊張感を漂わせていた。何せ、今回の依頼である『世界唯一の男性操縦者拉致』が成功した際に支払われる予定の報酬は、自分たちが一生遊んで暮らせれるだけの金額だったのだから…。

 

 

 

「…それにしても、随分と拍子抜けしたもんだ」

 

 

 

 この国の暗部は一部を除いてヘッポコと噂されていたが、案外そうかもしれない。現在進行形で依頼を順調にこなしている自分たちが良い証拠である。

 

 

 

「このまま何もなければいいが…」

 

 

 

 

 

 

 

―――人は言う…『それはフラグだ』と……

 

 

 

 

 

 

 

『ぐあああああっ!?』

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 突如通信機から聴こえてきたのは部下の悲痛な叫び。突然のことに、仲間たちの間に緊張が走る…。

 

 

 

『畜生、目に何かが!!…これは、コルク!?……ッ痛ぇ!!今度は耳がッ!!』

 

 

 

 悲鳴を上げた部下が居るであろう方向に目を向けると、本人は屋台の並びのど真ん中でゴロゴロとのたうち廻っていた。当然ながら周りの客の視線が集まり、誰かを人知れず拉致することなんてできない状況になっていた…。

 

 

 

「クソッ…ベータ3、あいつの代わりに行ってこい」

 

 

『了解』

 

 

 アルファ1が失敗した時の為に控えていた予備の仲間を向かわせる。念の為、自分の視線を彼に向けてみると、ベータ3と呼ばれた自分の部下は人目が付かぬように細心の注意を払いつつ、懐から拳銃を取り出す。装填されているのは麻酔弾……それを命中させて倒れた対象を、介抱するフリをしながら連れてけば依頼は達成したも同じである…。

 

 

 

「…ん?」

 

 

 

―――ところが、その時…自分の視界に不穏な者が映りこんだ……

 

 

 

 視界に映りこんだのは怪しげな人影。その影は見物客達の波を掻き分け、足早に銃を取り出した部下の元へと歩み寄っていく。そして…

 

 

 

「なっ!?」

 

 

 本当に一瞬の出来事だった。影は懐から輪投げのリングを取り出し、それを背後から忍び寄った部下の首に引っ掛けて思いっきり引っ張った。同時に、相手の脹脛を踏みつける。それにより、体勢を崩された部下は片足をつくような形でしゃがみこんでしまった。激痛で叫びたいのだろうが、輪っかで首を絞めつけられているせいか声すら出せてない…。

 

 そして、影は相手の後ろを取った状態のまま腕を振りかぶり…

 

 

 

―――ゴッ!!

 

 

 

 部下の首の付け根辺りに重い一撃を喰らわせ、その意識を刈り取った。その間、僅か三秒足らず。あまりに一瞬の出来事だった為、周囲の見物客はそれに気づいていない…。

 

 その異変に誰かが気付いた頃には、首に輪っかを付けて倒れている変な男が残っているだけだった…。

 

 

「だ、誰なんだアイツは…!?」

 

 

 自分の部下を一瞬で屠った謎の人物にただただ戦慄するしかなかったのだが、次の瞬間それさえする余裕が無くなった…

 

 

「ッ!?」

 

 

 

 

―――どこからともなく、自分に向かってダーツの矢が飛んできた…

 

 

 

 

「クッ!!」

 

 

 

 慌ててそこから飛び退いて避ける。地面を転がるようにその場を離れ、部下に指示を出すべく即座に立ち上がって無線機を取り出そうとした……だが、最初に視界に入って来たのは…。

 

 

 

 

 

 

 

「Buenas noches (おやすみ)」

 

 

「ッ!?」

 

 

 

―――さっきの影が、自分に向かって拳を放ってくるところだった…

 

 


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