IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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超ダークホース 後編

 

「ど、どういうことだよ!?」

 

 

 ただいま絶賛混乱中である。何せ、居ない筈の存在が居るらしいのだ。今ほどカメラを設置しなかったセイスに苛立ちを覚えた記憶は無い…。

 

 大変もどかしいが相変わらず映像無しなので、音声だけでどうにかするしか…。

 

 

『『あすち~』は、ちょっとなぁ…』

 

『むぅ~嫌なの?じゃあ、『あずあず』は~?』

 

『それは僕の苗字が『東(あずま)』だからかい?』

 

 

 ラッキーなことに、早々にフルネームという名の手掛かりをゲットできた。早速うちの組織とこの学園、さらには政府のデータベースへとアクセスを試みる。 

 何せこのIS学園に居る男なのだ。清掃員や事務員でも無い限り、俺達の同業者…つまり裏社会の人間である可能性が大きい。下手をすれば敵対することにもなる。

 

 

「『東明日斗(あずまあすと)』か…データベース検索開始!!」

 

 

 検索にはしばらく時間が掛かるだろう…それまでは、耳の穴をかっぽじってよく二人の会話を盗み聞くとしようか…

 

 

『やっぱり、今まで通りがいいかな?』

 

『えぇ~…』

 

『そんな上目使いしても…』

 

『むぅ~…』

 

『しても…』

 

『むむむぅ~』

 

『あぁもう、分かったよ。好きに呼んでいいよ…』

 

『やった~!!じゃあ、これからは『あすち~』って呼ぶね~』

 

『はいはい……本当に可愛い子だな、君は…』

 

『えっへへ~♪』

 

 

 おい、誰か苦いもの持ってこい…

 

 

「何なんだよコイツらは!?普通に初々しいカップルじゃねえかよ!!」

 

 

 こ、これは中々進展しない『ハーレムサマー』や、無自覚で夫婦漫才を繰り広げる『M&6』よりタチが悪いんじゃね!?……主に、俺の精神的に…

 

 

「あぁもう…早く検索終了してくれ……」

 

 

 『東明日斗』の情報を検索中のパソコンに目をやると、未だにデータ検索の真っ最中のようである。下手をするとこのままセイス達が帰ってくるまでずっと二人のやり取りに耳を澄ます羽目になりかねない。そんなの御免被る…。

 

 

「…ん?」

 

 

 そんな時、ある事に気付いた。仕事用のパソコンモニターには、常に設置された複数の隠し撮りカメラの映像が映っている。そこの一つに、とある人物が映りこんでいたのだ。

 

 

 

「……『相川清香』か…」

 

 

 

 のほほんさんのクラスメイトであり、友人の『相川清香』が彼女の部屋へと真っ直ぐに向かっていたのである。再度盗聴器に意識を向けてみると、部屋の二人はその事に微塵も気づいていないようだ。

 

 

「これは、ひょっとしてチャンス?」

 

 

 十中八九、相川さんの目的はのほほんさん。となれば、このまま彼女がのほほんさんの部屋の扉を開けるのは必然。つまり謎の男、『東明日斗』と遭遇する可能性が高い。

 

 

「しかも彼女の性格上、友人の部屋をノックする可能性は低い…すなわち、半ば不意打ちで……」

 

 

 これは本当にラッキーだ…早々に幽霊の正体見たり、ってな。ま、できることなら俺たち自身の手で捕まえるなり接触するなりしたかったが、正体不明のままよりマシか…

 

 

「さぁ行け、相川清香!!奴の正体を暴くのだー!!なんてな…」

 

 

 ふざけている間に彼女はどんどんのほほんさんの部屋へと近づいていく。俺は心の中でカウントダウンを開始した。

 

 

『ねぇねぇ、あすち~』

 

『何かな?』

 

 

 

―――残り30m…

 

 

 

『さっきから言おうと思ってたんだけどね~』

 

『何をだい?』

 

 

 

―――残り20m…

 

 

 

『この前からずっとね~』

 

 

『…?』

 

 

 

―――残り10m…

 

 

 

『誰かさんがね~』

 

 

『ふむふむ…』

 

 

 

―――残り0m、ドアノブに手を掛けた…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私たちのお話を盗み聞きしてるみたい~』

 

 

『あ、やっぱり?』

 

 

 

 

 

 

―――え…?

 

 

 

 

 

 

 言葉を失ったと同時に扉が開かれた音が聴こえてきた…予想通り、ノック無しで扉を開いた相川さん。ギリギリまで会話をしていた二人にとって、半ば不意打ちに近い形で入ってきた相川さんを前に、隠れる余裕は無いのだが…

 

 

『本音、お昼食べに行こ…って、何で壁と向き合ってるの?』

 

『ん~さっきまで瞑想してた~~』

 

『は?』

 

 

 

 

 

―――な に が お き て い る ?

 

 

 

 

 

 待て待て!!二人の発言で既に頭が真っ白になりかけたってのに居ないだと!?あんなタイミングでいつ隠れたんだ!?

 

 

「まさか…俺達みたいに隠し通路や部屋を造って……」

 

 

 

 

―――ピピッ!!

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 突如鳴ったアラーム音…目を向ければ、さっきまでデータ検索をしていたパソコンがその作業を終えたようだ。今の状況から半ば現実逃避をするように、俺はパソコンのモニターへと目を向けた…

 

 

 

 

 

 

 

―――『東明日斗』

 

 

―――1月24日生まれ

 

 

―――男性

 

 

―――日本生まれ日本育ち

 

 

―――職業、学生

 

 

―――最終学歴、藍越学園1年生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――“享年”15歳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え…?」

 

 

 

 享年?……死んでる…?…いや、え?……どういうことだ…?確かに二人の会話は…!!

 

 

「他の…他の『東明日斗』は……!?」

 

 

 やけに冷たい汗を滝のように流しながら、コンピューターが集めたデータを何度も見直す。けれども、何度確かめても出てくるデータはこの『東明日斗』しかなくて…

 

 

「ッ!?」

 

 

 その時、嫌な気配を感じた俺は…やめればいいのに監視カメラの映像が映っているモニターへと視線を向けてしまった。するとそこには、相川さんに誘われて食堂へと向かうのほほんさんが映っていた。二人は隠し撮りカメラの目の前を横切るように歩いていく。先に歩くようにして、相川さんが隠し撮りカメラの前を通り過ぎる。それに続くように、のほほんさんもカメラの前を横切る。

 

 

 

 

 

―――直前に立ち止まってこっちを見た…

 

 

 

 

 

 

「ッーーーーーーーーーーーーーー!?」

 

 

 

 楯無でさえ気づいていない隠しカメラの方を、いつも閉じているような細い目を薄っすら開き、妖艶な微笑を浮かべながらこっちを見つめている……映像越しに居る俺に対して、視線を送るように。そして、彼女は右手の人差し指を立てながら、その手を自分の口元に持っていき、口を動かして声を出さずに言葉を紡いだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナ イ ショ ダ ヨ ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、まるでタイミングを合わせたかのように全てのモニターが砂嵐になった…。

 

 

「……は…はは……はははは…あはははははははははははははははははははははは!!」

 

 

 

 恐怖とかSAN値とか色々と振り切った俺は自然と壊れたような笑い声を上げるしかなかった。けども、現実は無情である…。

 

 

 

 

―――ゴトッ!!

 

 

 

 

「うひぃ!?」

 

 

 

 本能が告げる…自分以外、誰も居ない筈のこの部屋で出た物音の方へと、視線を…顔を向けてはならないと。だけど、まるで見えない力に引っ張られるようにして、俺はゆっくりと音のした方へと首を廻す……そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎいいぃぃいあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 最後に叫んだ後、俺は意識を失った。いや、正確に言うなれば記憶が無い。何でも、セイス達が帰ってきて最初に見たのは虚ろな表情で『のほほん怖い』と『南無阿弥陀仏』を繰り返す俺だったそうだ。

 後、俺が振り返った時に何を見たのかは…俺が仏国人なだけに知らぬが仏って奴だ……ていうか、思い出したくないから訊かないでくれ…

 

 

 




ここハーメルンでは、このホラーコンビの話をもっと書こうかな…?

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