IS学園潜入任務~壁の裏でリア充観察記録~   作:四季の歓喜

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ボチボチ再開しようかと思います


アイカワラズ~京都決戦 その1~

 

 

 

「始まったか」

 

 歴史ある京都の街、その空を複数のISが互いを墜とさんと駆け巡る。一足先にアジトへと襲撃してきたアリーシャと、それを迎え撃つレインとフォルテ、そして時間差で合流してきた学園の専用機持ち達。IS同士による戦闘は映像資料も含め何度も何度も見たが、一度にこれだけの数が集まって行われるのは滅多に無い。

 

「やぁ、セイス」

「アイゼンか」

 

 遠く離れた建物の屋上でその戦闘を眺めていたら、いつの間にか隣に現れていたアイゼン。こちら側の援軍として既に京都入りして活動していたが、京都に来て顔を合せるのは今日が初。そして、こいつがEOSなんかに乗っているところを見るのも初だ。IS学園で専用機持ちやティナが使っていた奴よりもごつくてデカく、何より全身兵器だらけ。明らかに軍事仕様を超える改造っぷり、技術部の気合の入れっぷりが良く分かる。現に改めて支給された新型強化スーツと、多機能搭載型フルフェイスメットも、マニュアルの通りなら中々の性能を持っている。

 

「操縦できるのか?」

「三分で慣れた」

「ははっ、流石」

 

 戦況は、あまりよろしく無い。こちらの最大戦力である姉御はオーバカ…もといオータムの救出に向かいたいだろうし、マドカは織斑一夏を殺しに行った。一応アリーシャはこちら側についたが、彼女にはまだ向こう側であるフリを続けて貰う手筈。だから実質、レインとフォルテの二人で学園側の戦力を食い止めなければならない。IS学園のイージスコンビの異名は伊達では無いのか、あの数を相手に善戦しているものの、そう長くは持たないだろう。そうなると、非常に困る。

 

(……マドカ…)

 

 天災お手製の最強の機体を手に入れ、一対一で殺り合う舞台も整った。こんな機会、そう何度も廻ってくるもんじゃない。アイツの復讐を、アイツの宿願を、アイツの未来を叶える為にも、邪魔する奴は…

 

「そんじゃ…」

「行きますか」

 

 

 

 全 い ん 殺 し テ や ル

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「あぁもう、鬱陶しいわね!!」

「それはこっちのセリフっス!!」

 

 甲龍の衝撃砲が放たれ、コールド・ブラッドの氷壁が防ぐ。

 

「ハハッ、思ったよりやるじゃねーか後輩共。なら、これはどうだ!?」

「舐めるな!!」

「そこぉ!!」

 

 ヘル・ハウンドの業火がシュヴァルツェア・レーゲンへと踊り掛かり、同時にラファール・リヴァイ・カスタムの銃口が火を噴く。

 幾度も交わし躱される、必殺の一撃。もう何度目になるか分からない応酬を繰り広げる彼女達の均衡は、辛うじて保たれていた。とは言え、やはり数の差はどうしようもなく、一度間合いを取って息を整えようとするレインとフォルテの表情は苦い。と、そんな時だった。

 

「チッ、中々に面倒だな。って、ん?」

「この通信は…」

 

 そんな二人の元に届いた通信の内容に、彼女達は別の理由で顔色を悪くする。

 

「正気の沙汰とは思えないんスけど…」

「けどアイツならやりかねないな。言うこと聞いてやれ、フォルテ」

「了解っス!!」

 

 言うや否や、コールド・ブラッドの力をフルパワーで起動させ、無数の氷の塊を出現させたフォルテ。全方向360度、かなりの広範囲に現れた氷の塊はこの戦闘区域一帯にまで届いていそうだった。それこそ、彼女達の跳ぶ空から地上まで全ての範囲に…

 

「何をするつもりだ?」

「ラウラ、来るよ!!」

 

 突然のフォルテの行動に警戒するラウラだったが、虚を突くように接近してきたヘル・ハウンドに思考を中断し、即座に迎え撃つ。炎を纏った拳と、プラズマ手刀が激しくぶつかり合う。

 

「オラァ!!」

「ハアァ!!」

 

 

 タンッ 

 

 

「貰ったッス!!」

「させないよ!!」

 

 

 タンッ タンッ

 

 

「まったく、本当に厄介な奴等っスね」

「オレ達のコンビを相手にここまでやれるとは、正直予想外だ」

「これだけの戦力差を相手に耐えておきながら良く言いますわ…!!」

「ダリル先輩、フォルテ先輩、今からでも遅くはありません、戻ってきて下さい」

 

 

 タンッ タンッ タンッ

 

 

「生憎とそれは無理だ」

「私も、もう決めたことっスから……って、あ…」

 

 

 タンッ タンッ タンッ タンッ

 

 

「……うわ、マジでやりやがったっス…」

「やっぱりアイツは人間じゃねぇ、化物だ…」

 

 専用機持ち達とぶつかり合い、再びの仕切り直し。その場に居る誰もがそう思った時だった、レインとフォルテの二人が表情を引き攣らせたのは。そして、言葉の通り化物を見るような目をする二人の視線の先に居たのは、ラウラだった。

 

「化物か……確かに私は、鉄の子宮から生まれた存在だ。だが、それでも……」

「ラウラを…僕達の友達を、そんな風に呼ばないで!!」

 

 

 タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ 

 

 

 親友を侮辱された故か、激昂するシャルロット。他の専用機持ち達も思うことは一緒なのか、彼女のように言葉にこそしなかったが、その目には明らかに怒りの炎が灯っていた。その事に少し、ラウラの目頭に熱い物が込み上げてきた。

 

 

 タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ タンッ!!

 

 

 故に彼女達は致命的なまでに、気付くのが遅れてしまった。コールドブラッドの作り出した氷塊を足場に、自分達の元へと駆け上ってくる一匹の狂犬の存在に。

 

 

「あースマン、ボーデヴィッヒ、お前のことを言った訳じゃないんだ」

「えぇ、化物なんてとんでもない、遺伝子強化素体なんて可愛いもんスよ……”その人”と比べたら…」

 

 

 

 

 

 

 きひっ

 

 

 

 

 

 

「ッ、シャルロット、右だぁ!!」

「え…」

 

 ラウラの叫びと、突如感じた殺気に反応し、振り向いたシャルロットは、その姿を見た。見たからこそ、その動きを止めてしまった。

 

 

『一度で良いから、真似して言ってみたかったんだよなぁ』

 

 

 ここは空、それこそISでも無ければ辿り着けない領域。そこに、何故…

 

 

『ごきげんよう(こんにちは)、そして…』

 

 

 黒い強化スーツを纏っただけの生身の人間が、ISを纏う自分目掛けて飛び掛かってくる!? 

 

 

『ごきげんよう(さようなら)!!』

 

 

 混乱するシャルロットの思考ごとぶった切るように、深紅の刃が振り下ろされた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「うぅ…」

 

 気を失っていたのは一瞬、だがその一瞬の内にシャルロットは空から引きずり落とされ、地上の街にISごと叩き落とされていた。その過程で建物を一軒潰すように巻き込んでしまったが、幸い無人だったのか巻き込まれた民間人は居なかった。

 

「今のは、いったい…」

『シャルロット、無事!?』

 

 謎の襲撃者に戦慄するが、鈴からの通信に我に返り、空を見上げると自分抜きで戦闘が再開されていた。そうだ、まだ戦闘は終わっていない。

 

「大丈夫、まだ戦える!!」

『分かったわ。でも、あまり無茶はしないでッ…』

『鈴さん!!』

 

 突如割りこんできたセシリアの叫び、それとほぼ同時にシャルロットの視線の先に居たブルー・ティアーズが甲龍を突き飛ばし、ほんの一瞬の間を置いて爆炎に包まれた。

 

『セシリア!?』

『平気です、掠り傷ですらありませんわ!!』

 

 濛々と立ち込める噴煙を突っ切ってその身が健在であることを示したが、セシリアの言うほど軽いダメージにも見えない。明らかに、先程よりも動きが鈍くなっている。

  ほんの一瞬だが、離れた場所で見上げていたシャルロットには見えていた。地上から甲龍目掛け放たれた一発のミサイルが、そのミサイルから鈴を守ったセシリアの姿が。

 

「鈴、セシリア、気を付けて!! 敵は先輩達だけじゃない、IS以外にも何か別のッ…」

 

 その直後、彼女の背後から膨れ上がる気配。それは先程の黒い襲撃者と似ていて、それよりも大きい。やがて気配は、重い衝撃として彼女の背中を襲った。

 

「うわあああああああああぁっぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 まるで戦車にでも体当たりされたかのような衝撃がラファールを襲い、彼女にぶつかった何かはそのままラファールを盾のように拘束し、付近の民家へと突っ込む。正面から民家に激突したラファールはシールドエネルギーを減少させたが勢いは止まらず、そのまま隣のもう一軒まで突き抜けた。しかし、それでも止まらない。

 

「このおおおぉぉぉぉ!!」

 

 二軒目を貫通したあたりでどうにか拘束を振りほどき、何とか体勢を整えるシャルロット。背後を振り返り、新たに現れた襲撃者を視界に収め、再び驚愕する。

 

「EOS、なんでそんなものが!?」

 

 そんなものがこんな場所に居ることには当然驚いたが、その見た目にも驚いた。通常仕様のEOSとは比べ物にならない程の装甲の厚さと量、過剰にも思える程に搭載された重火器の数々、鈴を狙いセシリアにダメージを負わせたであろうミサイルも見えた。そしてこのEOS、ISのセンサーに反応していない。そのことが、何よりも驚いた。

 

「クッ…!!」

 

 放っておくには、余りにも危険。とは言え、幾ら改造したところで所詮はEOS。ISの攻撃が当たれば一溜りも無く、純粋なパワーでもISには敵わない。下手に攻撃を直撃させてしまえば、搭乗者の命を奪いかねない。そう考えたシャルロットが取った行動は、マシンガンを呼び出し、今ので自分を仕留めきれなかったEOSに対して降伏を促すことだった。

 その選択を、彼女は一瞬で後悔した。銃口を向けられる直前、相手のEOSが尋常じゃない機動力でこっちに向かってきた。咄嗟に引き金を引くも、放たれた銃弾は空を切る。

 

(なんて動きをするんだ、でも…!!)

 

 その巨体からは想像もできない軽快な動きでジグザグに、時には高く跳躍しながら、ラファールから放たれる銃弾を尽く避けながら一気に距離を詰めてくるEOS。相手のその性能と技量に感嘆すらしかけたシャルロットだったが、それでも彼女は最後まで冷静だった。

 

「貰った!!」

 

 間合いを詰められた瞬間、ラピッド・スイッチでマシンガンからショットガンに持ち替え、相手を射程に捉える。向こうも攻撃態勢に入っているが、僅かにこちらの方が早い。シャルロットは勝利を確信し、ショットガンの引き金を引く指に力を込めた。しかし…

 

 

 

 きひひッ

 

 

 

「ッ!?」

 

 ゾッとするような気配を感じ、赤い閃光が見えたと思った時には既に、その手に握っていた筈のショットガンは銃身から先を切り飛ばされ、使用不能にされていた。

 

(これは、さっきの!!)

 

 動揺するシャルロット、そして腹部に走る衝撃。気付いた時には既に、一瞬だけ意識の外に追いやっている内に距離を詰め切ったEOSの拳が、シャルロットに突き刺ささるように叩き込まれていた。

 

「ごうッ!?」

 

 絶対防御で相殺しきれなかった衝撃が全身を駆け巡り、殺し切れなかった勢いによって吹き飛ばされたシャルロットは再びラファールごと民家に叩き付けられた。すぐに立ち上がろうとするが上手く身体に力が入らず、なんとか顔を上げた時には、大型ガトリング砲を取り出して此方に向けるEOSの姿が目の前に…

 

(あ、まずッ…)

 

 思わず諦めかけたその時、耳に届いたガトリングの銃声目の前では無く、横から聴こえてきた。そして、銃声と同じく横から飛んできた弾幕はEOSを襲い、その場から大きく後退させた。突然のことに呆けるシャルロットと、怯んだEOSの間に、ブルー・ティアーズとは違う青が割り込むようにして現れた。

 

「シャルロットちゃん、無事!?」

「楯無、さん…」

 

 駆け付けたのはIS学園生徒会長、ミステリアス・レイディを纏った更識楯無。落されたシャルロットの救援、そしてセシリアにミサイルを当てた新手を始末するべく、上を後輩たちに任せて単身降りてきたのである。

 

「ここは私が引き受けるから、一度下がって体勢を立て直してから皆と合流しなさい」

「待って…下さい、楯無さん……敵は…」

「大丈夫、おねーさんに任せなさい」

 

 ランスをEOSに向け、不敵に笑う楯無。その姿を前にして、逆にシャルロットは焦った。

 

「違うんです、楯無さん。敵は、敵は…!!」

 

 そんなシャルロットの言葉を遮るぎるようにして、EOSはガトリング砲を楯無目掛けて放つ。最新式の対空砲にも匹敵する弾幕の密度に思わず眉を顰める楯無だったが、即座にアクア・ナノマシンで水の障壁を生みだし、その全てを防いでみせる。

 

「EOSとは思えない性能ね、流石は亡国機業ってとこかしら。でも残念、このミステリアス・レイディを相手にするには、些か力不足のようね?」

『それはどうかな?』

 

 

 直後、鉛弾に紛れて飛んできた深紅の一滴。その一滴が、水の障壁に触れた。

 

 

「な…!?」

 

 その瞬間、レイディのナノマシンが操作不能となった。障壁はただの液体へと成り下がり、その場で形を崩し、バシャッと音を立てながら水溜りへと変貌した。

 水の障壁が消え、鉛の嵐を止める物は無くなった。しかし依然として、EOSはガトリングのトリガーを引いたまま。となると、当然…

 

「ぐうううぅぅぅぅ!?」

「楯無さん!!」

 

 放たれ続ける無数の弾丸が、一発残らず楯無に命中した。絶対防御によって致命傷こそ負わないが、消し切れなかった衝撃が楯無を襲い、まるで全身をたこ殴りにされているような痛みに悶絶しながら、弾幕の勢いに押されるようにして一歩、また一歩と後ろへと無理矢理後退させられていく。

 やがて、弾切れを起こしたのかEOSがガトリングを止めた。それと同時に、シャルロットの隣まで後退させられた楯無は、力尽きるようにして仰向けに倒れた。未だレイディが解除されていないところを見るにシールドエネルギーはまだ残っているようだが、全身を滅多打ちにされたせいかぐったりしている。見た目の派手さの割に威力は低いのかもしれないが、むしろISの搭乗者へのダメージの方が深刻そうだ。

 

「楯無さん、大丈夫ですか!?」

「げほっ、シャ、シャルロットちゃん、さっきは何て言おうとしてたの…?」

「敵は、EOSだけじゃないって…」

「……あ、そう…」

 

 『スター○ラチナにオラオラされた気分よ…』と呟きながら、どうにか立ち上がる楯無。その視線の先には、ガトリング砲を収納して新たな武器を取り出すEOS。

 

 

 そして、いつの間にかEOSの肩の上に現れた、黒い人影…

 

 

「久し振りにしては随分なご挨拶じゃない、セイス君」

『俺達の関係上、こんなもんで充分だろ?』

 

 フルフェイスのメットのせいで顔は見えないが、確実に嗤っているのは分かった。

 

 

 




○マドカと一夏がサシで殺り合ってる最中
○ごきげん幼女戦記
○EOSは姉御が技術部に依頼して取り寄せた。今回の戦果によっては、IS支援兵器として量産する予定


なにげに今回で百話目、折角なので何か記念話でもやろうかと思います……て言うのは建前で、外伝ばっかやってたせいで本編の空気忘れかけてる上に、当分戦闘シーン続きになるからリハビリしときたいってのが本音です…;

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