龍司side
今日は朝起きるとカレンダーの目印に気が付いた。
その目印は・・・モカの誕生日の目印である。
去年はネックレスをプレゼントした。今年は違うものをプレゼントしようと思っている。何にしようかな?形として残るものがいいな。とりあえず、買いに人間界に行こう。
~豆知識~
人間界とは今、俺たちのいる妖怪の世界とは少し違う。別世界にいるわけではなく、結界によって人間界と隔てているのだ。この結界によって人間界と隔て、妖怪独自の世界で俺たちは暮らしている。中には人間界に交じって暮らしている者もいるそうだ。人間にばれたらヤバいとは思うけど・・・
ちなみに地上と呼ばれるものも人間界をさします。
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ドン! ドドン! ドドドン!! ドーーーーン!”
花火が盛大に打ちあがっている。
パーティー会場では数多くのヒト?妖怪たちが集まり、モカの誕生日を祝っていた。
「「「「Happy birthday to you♪ Happy birthday dear MOKA♪ Happy birthday to you♪」」」」
「「「モカちゃん誕生日おめでとう~~~~~~」」」
刈愛の声に合わせ盛大な拍手が鳴り響く。モカは照れていた。
「じゃあ、まずは私からの誕生日プレゼントね! 頑張って作ってみたの~!」
そういって刈愛が取り出したのは大きなぬいぐるみだ。
動物?キャラクター?と思わしき型をしているが、何なのか分からない。想像力が豊かじゃないと当てられそうもない。
「わぁ~い! 手作りくまさんだぁ!」
「一応、ウサギさんなんだけど……」
「う、ウサギさん嬉しいなぁ!」
次は心愛の番だ。きれいに装飾された箱を目の前のテーブルにドンッ、と置く。
何が入っているんだ?重そうだな。
「刈愛姉さまって以外と不器用なのよね~。あたしはもっと可愛いものよ!」
「ははっ、いつも喧嘩してる心愛からのプレゼントだなんて、何か照れる・・・」
言葉通りいつもケンカして…尚且つボコボコにしている心愛が、プレゼントをくれることに、喜んでいるように見える。
箱を開けてみると、中から現れたのは可愛い顔をした一匹のコウモリだった。
「あたしが捕まえたバケバケコウモリのこーちゃんよ! 特技は武器に変身すること。萌香お姉さまの式神にどうぞ!」
ハイテンションの心愛に合わせ剣に変身するバケコウモリのこーちゃん。
試しにモカが持ってみると、あまりの重さにガクッと剣を取り落としそうになった。
「お、重――ッ!」
「そうそう。欠点は体重が百キロあることよ。あとめっちゃご飯を食べるヨ。」
「あ、ありがたいけど、遠慮しとくよ。こいつは私より怪力のお前向きだし、もうお前に懐いているようだしな」
ショックを受けた心愛は座りこみ、落ち込む刈愛の隣に同じく座りこむ。
バケコウモリのこーちゃんは心愛の元へ飛んでいく。
「ん、じゃあ私のは気に入ってくれるかな?真紅のドレス・・・♡」
取り出したのは一着の深紅のドレスだ。モカはさっそく試着する。
「とってもよく似合っているよモカ!」
モカのドレス姿に見惚れる姉妹。心愛は鼻血を出して倒れてしまった。深紅のドレスがモカの銀髪とよく合っており、本人の愛らしさ出している。
「どう、龍司?」
上目遣いで俺に尋ねるモカに、胸の奥から熱い何かが溢れるような、何とも言えない感覚が沸き起こるのを感じた。
「よく似合っているよ。可愛い。」
俺の言葉にモカは嬉しそうに微笑んだ。
モカは笑ってる時が一番可愛いな。
――—―俺もプレゼントを渡さないと。
「最後に俺だな。俺からのプレゼントはこれだ」
懐から箱を取り出す。ワクワクした顔で受け取ったモカは包装を開いた。
「これは指輪?」
中に入っているのはモカの髪と同じ色――銀色の指輪だ。
「ありがとう、とっても嬉しいよ・・・ありがとう。」
一茶さんとアカーシャもほほ笑んでいた。
俺の視線に気づいたのか俺のほうに向かって手を振っているので行ってみると・・・
「・・・君の教育のおかげかな・・・。存外仲良く育ったものだ。」
「一茶さん。」
「君と龍司に話がある。」
二人の表情今までにないほど暗くなる。言われるがままに別室へついて行った。
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「話というのはモカと君の預け先が決まった。」
「どういうことだ?」
「別居中の玉露が館に戻ってくる。あいつは何かとお前と萌香を毛嫌いしているからな。動くなら早いほうが良い。」
玉露? たしか刈愛と心愛の実母だったな・・・。会ったことないが、二人のことをよく思っていないなら出ていかないといけないだろう。
「そういうことなら俺も出て行ったほうがいいな。いつまでも世話になるわけにもいかないしな。」
「すまないな。」
深刻そうな表情で謝る一茶さん。
「あと、実は今日気になる情報を耳にした。
長女の亞愛のことでな・・・・・」
ぶっーーー
んっ?なんだ?誰かいたのか?
でも、まさか亞愛がそんなことを考えていたなんて。
あのやろうと同じことをしようとしているだけだぞ、亞愛!俺はそんなことさせない。
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モカside
なんで私が家を出ていかないといけないんだ?
みんなと別れたくない・・・。
次の日、朝起きると・・・
お母さんが服を物色して鞄に詰めていく。
「お母さん!? どうしたの? どうして私の荷物をまとめてるの!?」
「見てのとおりよ。あなたにはこの家を出て行ってもらうわ。」
昨日の話は本当だったの?まだ別れたくない。
「なんで?」
「このことは前から一茶さんと相談して決めていたことなの。すでに預け先も決めてあるわ。それに昨日の夜あなたも盗み聞きしていたでしょ?」
お母さんがそんなことを言うなんて信じたくなかった。
その言い方だと龍司も出て行っちゃう。
「どうして・・・?どうしてそんな・・・?私が館にいると困るの? 私が邪魔なの、お母さん?」
「今は聞かないで、後で必ず行くから。」
そう言い私の手を握るが・・・振り払ってしまった。今は何も考えたくない。
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龍司side
俺たちは玄関に来ている。モカがこの家を去るからだ。俺たちも後で行くのだが。
アカーシャと亞愛と一茶さんが来ていない。おそらく昨日のことと関係があるのだろう。
「うあぁ~んっ! いっぢゃやだよぉ、おねえざまぁぁぁ! あだじ置いでいがないでぇ~!」
「心愛・・・」
涙や鼻水を垂らしながら号泣する心愛を抱きしめる萌香。
「いつもの勝負はどうずるのよ~! 勝ち逃げだなんでゆるさないんだから。」
「すまない。私にもどうすることができないんだ……」
心愛はまだ離れたくないのか、モカを追いかけようとしたが、背後から刈愛が抱き留めた。
「萌香ちゃん・・・」
「なんだ、刈愛姉さんも泣いているのか。姉さんが泣くと怖いんだけど」
「仕方がないじゃない。だって可愛い妹が出て行ってしまうんだもの」
モカは困ったように笑うだけだ。
「心愛を頼む。私がいないと何かと心配だからな。」
「ええ、わかっているわ。モカちゃんも身体には気を付けてね。」
萌香が俺に目を向ける。表情は複雑で、色々な思いがあるのは分かった。
「龍司・・・」
「なんて顔をしているんだ。俺もアカーシャも後で行くから待っとけ。」
「・・・わかった。龍司、先に行って待ってる。」
「お嬢様、そろそろ時間です。」
運転手がモカに声をかけ、車に歩んでいく。
その姿が見えなくなるまで俺は見届けた。
城に目を向けると、窓からアカーシャが見え、俺は走ってその場へ行くことにした。
着くとそこにはアカーシャと亞愛がいた。
「見送りにはいかなくていいの?」
「……行って萌香の顔を見たらきっとこの決心が鈍ってしまう。だからあなたもここにいるんじゃないの? 亞愛」
アカーシャの問いに亞愛は困ったように頬をかいた。
「あや~、私の『正体』はもうバレてるみたいね。お父さんも一足先に仕事に行っちゃったし、ひょっとして誘ったんだ?私のこと。」
「……」
――正体?昨日言っていたことか。
「かつて一人の真祖が人間の世界を滅ぼそうとした。その名は『真祖の名はアルカード』しかし彼の野望はもう一人の真祖の登場によって打ち砕かれてしまった。その新たな真祖は三人の仲間を従えたった四人で魔と化したアルカードと戦い勝利した。その四人はやがて『四大冥王』と呼ばれている。私はその伝説の真祖の血が欲しい。その強大な力が欲しい。
つまり私の狙いはあなたよ。四大冥王首領、真祖・アカーシャ=ブラットリバー。」
しかし、亞愛の目的というのは一体・・・世界を手にする? 一体何のために・・・。
昨日、聞いておけばよかった。
「それは少し間違っているところがあるわ。」
いや、合ってるぞ。俺たち四人で倒したはずじゃ・・・
「アルカードを倒したのは私たちの中でも最も強かった・・・神崎龍司よ。」
いつの間にか俺は二人のもとに歩んでいた。
「アカーシャ!何言ってんだ。みんながいたからあいつを倒せたんだろうが!」
俺の急な登場に二人とも驚愕している。
「そうね、ごめんなさい。」
「そうなんだ。やっぱり、龍司も冥王だったんだ。」
亞愛は気づいていたのか。俺が冥王と呼ばれていること。
「それでアカーシャさん。あなたは後悔していないの? モカを館から追い出したことを。大方、私の正体を知ってのさせたなんだろうけど、正直意外だったもの。あなたたち母娘は何があっても離れないって思っていたから。
いつも一緒にいてお互いに支え合ってきたから。誰よりも深い絆で結ばれているようだった。」
目を伏せる亞愛の顔にはある感情が浮き上がっていた。
それは、願望。亞愛の過去に何があったのかは知らないが、今の発現から考えると、ずっと家族を欲しかったのだろう。ここに家族がいるのに、なぜ気が付かない・・・。
「……萌香はね、すごい難産で、生まれてきた時は殆ど死んでいたのよ」
「死んでた?」
「そう、その時初めて神様に祈ったわ、『私の事はどうでもいいから、この子だけは助けて下さい』ってね。その思いは何も変わっていないの。」
そう言って笑ったアカーシャの顔はとても綺麗だった。呆気にとられていた亞愛が小さく笑みを零す。
「そうね、私も萌香のことは大好きよ。あの子と一緒にいると不思議と暖かい気持ちになるの」
「貴女にはよく懐いていたものね」
クスクス笑うお袋に亞愛もほほ笑む。
「是是(そうそう)。性格は違うのに相性は逆にピッタリでね! まあ、龍司には勝てなかったけど。」
「悪い、それは何とも言えない。」
「あ、龍司、今のは気にしないで。」
この後に戦うという感じではなかった・・・が・・・。
「だから感謝しているの、あの子を避難させてくれて。本当はもっと早くに行動するつもりだったけど、萌香のことを考えるとどうしても二の足を踏んでしまった。その結果、気が付けば一年以上も経っていたわ。だって――あなたがここで死んだら、萌香が悲しむもの」
壮絶な冷たい笑みを張りつけた亞愛が強烈な殺気を発する。あまりの強さに、思わず戦闘態勢を取ってしまいそうになった。慌てて心を落ち着かせる。
アカーシャは気にした風もなく変わらない笑みを浮かべている。
「あなたはここが嫌い?」
「……正直に言えば、嫌いじゃない。むしろ居心地がいいわ。まるでぬるま湯のようで、いつまでもここにいてしまいそうになる」
「なら――」
「でも」
アカーシャの言葉を遮り言葉を続ける。その顔には変化はないが、俺には無理をしているようにも思えた。
「私の目的を果たすためにはここにいる訳にはいかないの。最強と呼ばれたアルカードのように“真祖の力”を手にするまで、私は立ち止まるわけにはいかない。だから血が必要なのよ。アルカードを倒して四大冥王と謳われたあなたの血が」
「それで・・・真祖の力を手に入れてどうするの? アルカードのように、自分を苦しめた人間たちを滅ぼすつもり?」
「・・・」
「この棟にはほかに誰も近づくなと言いつけてあるから。邪魔は入らないわ。だから遠慮せずに掛かってらっしゃい。私は母として、貴方の想いを受け止めてあげる。」
「恩にきるよアカーシャさん。」
微笑むお袋に亞愛は先程の冷たい笑みを浮かべた。
「俺は少しの間見ている。だが、亞愛、アカーシャを殺そうとした瞬間、俺はお前を潰す。命の恩人を殺させるわけにはいかないんでね。アカーシャもその辺りよろしく。」
分かってくれたのかアカーシャは首を縦に振ってくれた。