ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第三章『意地こそが最高の力となる -Duel-』《ゆっくりに見える》

 2

 

 葵春樹はセシリアとの試合が終わり、一夏の下へ戻ると、一夏と箒の二人が出迎えてくれた。

 

 一夏と箒の二人は、喜びの声を上げているのと同時に、少しばかり春樹という存在を疑っていた。ISを動かすことについて初心者のはずの春樹があそこまでの動きが出来て、イギリスの代表候補生に勝ってしまうことに。

 

 しかし、ここは一先ず勝ったことを喜ぼうと、一夏は春樹に声をかける。

 

「春樹、惜しかったなぁ! ってか、お前すげーえな! どこで覚えたんだよ?」

 

 一夏はそういった質問を吹きかけてきたが、そのときある女性からも同じ質問が帰ってきた。

 

「そうですね……、葵君はなぜあれだけのISの操縦ができるんですか?」

 

 そこにいたのは山田真耶先生だった。彼女もそこについてはやはり疑問に思うようだ。

 だがしかし、ISの起動が二回目だというのにアレだけの操縦を見せつけ、さらに代表候補生を追い詰めるところまでいってしまうほどだから、先生だって気になるのは仕方が無いことだろう。

 

「まあ、それは……イメージですかね?」

 

 春樹は自信がなさそうにそう言った。

 

「イメージですか?」

 

 山田先生は正直よくわからなかった。彼はイメージというがどんな意味なのか。なんらかのイメージトレーニングかなんかなのか、と疑問に思っていた。

 

「はい、なぜだか分かりませんが、色んな雑念が消えて鮮明にイメージできたんです。どういった動きをすればいいのか。その動きをするにはどうすればいいのか、とか」

 

 山田先生はなるほど、と思っていた。彼のいうイメージはそういうことだったのかと。

 春樹の言っている事は、常に状況が変わっていく戦闘中のやるべき事を無意識のうちにすぐに理解し、行動に移れる。という一種のスキルを持っていた。

 しかし、それとISを動かせることとは結びつかない。なぜ自分のイメージする動きをまだ操縦も慣れていないだろうISで出来るのか。謎は深まるばかりだ。

 

「そうですか……なるほど。では、次は葵君と織斑君の試合ですね。織斑君、準備をしてください。そして葵君、連続で戦ってもらう事になりますが、大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません」

「はい、では織斑の準備が終わり次第試合を開始します」

 

 山田先生のその声で一夏も自分のISのところへ行き、ISの装着を始めだした。一夏のISである白式(びゃくしき)は試合前に見たものとは変わっていた。恐らく、事前に初期化フォーマットとフィッティングを終わらせて第一形態移行(ファースト・シフト)させたのだろう。

 

 あの大型のスラスターを見る限り、一夏のISも超高速型なのだろうか。

 春樹はISの近くでのスペックを確認し、武装の特性を見ていた一夏に話しかけた。

 

「一夏、今度は俺相手だ。本気で来いよ?」

「おうよ! ISでの勝負は今回が初めてだからな。今回は負けねぞ!」

「ああ、こっちこそ。じゃあ、俺もISの確認に行って来る」

 

 春樹は一夏の下を去り、逆のアリーナの操縦者控え室に向かった。

 ちなみに、一夏と春樹の二人は小さい事からなんにしても勝負してきた。下校時間、どちらが先に家に着くか勝負し、テストではどちらが良い点数を取れるか、夏休みの宿題はどちらが先に終えるか。など、どうでもいいことを含め、勝負してきたのだ。 

 

 一方箒は、これからの戦う一夏と春樹がいったいどうなってしまうのか不安だった。もしかしたらどっちかが死んでしまうんじゃないか、とも思えてしまったからだ。

 

 今日、この日まで結局ISによる練習が出来なかった為、訓練は剣道によるイメージトレーニングを続けていたが、あの二人が戦うとそこにスポーツという概念がなくなる。本当に人を殺すという殺気しか箒には感じられなかった。

 

「一夏」

「ん? なんだ、箒?」

「い、いや。春樹とはその……」

「ああ、アイツとは小さい頃からくだらないこととかで勝負してきたからな、今回もその一環だよ。どちらが上手くIS使えるか、っていったところか?」

 

 一夏は笑顔で答えたが、箒にはその笑顔が何を示しているのか……それがわからなかった。なにより、剣道での勝負時の殺気。それは今の一夏の言葉では到底説明しきれないようなものだった。

 

(一夏と春樹……。あんな二人だったろうか……?)

 

 結局のところ、二人に何があったのかは聞けなかった箒であった。

 

 

  3

 

 

 春樹は一夏とは逆側の操縦者控え室に来ていた。

 

 そこにはセシリア・オルコットがおり、何やら向こう側、一夏の居るところをずっと見つめていた。

 

「お、オルコットさんじゃないか。お疲れ様」

 

 春樹がセシリアに話しかける。するとセシリアは驚いたように春樹の方を見た。

 

「え、春樹さん!?」

「なんだよ、そんなに驚いて……。当たり前だろ、今度は一夏と戦うんだから、どっちかがこっちに来るのは」

 

 春樹はため息をついて自分のISのデータを閲覧した。先ほどの試合は十分に武器の特性を知らないまま戦っていたのだから、しっかりと頭に叩きこ込むために。

 しかも今度の相手は一夏である。小さい頃から一緒にいた一夏は春樹の特性・性格・癖等、あらゆる点を知っている。今まで争ってきた人だし、人間観察は彼の方が得意だ。なんでも色んなところにすぐに気づく。

 

「あの……春樹さん」

「なんだい、オルコットさん」

「あ、わたくしのことはセシリアで、呼び捨てで構いませんわ」

「そうかい。で、セシリア、何の用だい?」

 

 するとセシリアは申し訳なさそうに春樹の顔を見て言った。

 

「あの……なぜあんなにも強いのですか? 春樹さんはISの起動が僅か二回目と聞きました。なのにあれだけの動き。いくら身体能力が高いといっても……」

 

 セシリアの疑問は当然だろう。なにせ代表候補生として選ばれた自分のISの操縦技術は当然ながら自信があった。少なくとも、これから少しずつ覚えていく一般の生徒よりは上手くISを動かせる自信ぐらいはあった。

 

 しかし、ついこの間の入試試験の実技で初めて操縦し、今回ので二回目という春樹。

 彼の操縦はどう考えても物凄い長い間練習し続けた様なベテランの動き。とても二回目の起動とは思えない。春樹を少し不審に思ってしまうのは仕方が無いだろう。

 

「それはな、俺には守りたい人がいるんだ。その為に強くなったんだよ。まあ、ISは動かしてみるまで自分に動かせるかどうか心配だったけどね。でも、そんな心配は要らなかったよ。ISは自分の思うとおりに動いてくれた」

「守りたい……人?」

「ま、色々とな。過去に辛い思いをしてきたんですよ、俺は」

 

 春樹は少し微笑んで彼女にそう言った。

 

「そうなんですか……」

 

 セシリアは少々焦った。もしかしたらあんまり触れて欲しくない話をしてしまったのではないかと、セシリアは慌てて謝る。

 

「あ、あんまり触れて欲しくない事でしたのなら謝ります。すみません……」

 

 謝り出したセシリアに春樹はいままでの彼女とはまったく違う態度を取っている事に驚きながらも、セシリアのその行動をやめさせた。

 

「セシリア、やめてくれよ。そんな気にするほどの重い話でもないから」

「ですが!」

「あー、セシリア。そんなことより、俺はセシリアと仲良くしたいんだけどな……」

「え?」

 

 彼女は少々焦った。急に春樹がそんなことを言い出すものだから、セシリアも驚いてしまったのだ。

 

「俺、クラスのみんなと仲良くしたいんだ。成り行きでIS学園に入学することになっちゃったけど、それでもこうなったてしまったからには、うまくやっていかないとね」

「は、はい! わたくしでよければお友達になりましょう」

 

 二人は握手を交わす。

 セシリアは男と手をつないだせいなのか、少々顔が火照っていた。

 

「じゃ、これからよろしくね、セシリア」

「あの、ありがとうございます」

「気にすんなよ。それほどの事でもないじゃん」

 

 するとアナウンスが入った。一夏との対戦の時間だ。

 

「そういうことで、行ってくるよ」

「あ、はい。春樹さん、頑張ってくださいね?」

「分かったよ」

 

 そして春樹はISを起動させる。全身が白い装甲に包まれ、背中には大きな翼が広がる。本当に金属で出来ているのかと疑問に思うほどのしなやかで美しかった。

 

 そして春樹はアリーナの方へと飛び出した。

 目の前には白い装甲で大型のスラスターが印象的なIS、白式がそこにあった。

 

 すると、一夏の方から話しかけられた。

 

「よう、春樹。全力でお相手するぜ」

「オッケー、油断せずに行こう」

「ふふ、お互いにな」

 

 そして試合開始の合図を待つ。目の前に数字がカウントダウンされていき――その数字がゼロとなった瞬間、一斉に二人は動き出す。

 

 観客は何がなんだか分からなくなっている。モニタルームにいる千冬と山田先生も何が起こっているのか、肉眼で確認するのも一苦労なぐらいの高速戦闘が行われていた。

 一夏は長剣、雪片弐型を何回も何回も春樹に切りつける。だが、間一髪で春樹はそれを避けている。

 

 やはり一夏の白式も超高速型だ。しかも装甲が凄く薄く、一撃攻撃を受けただけでやられそうなくらい脆い。

 

 そういう点では春樹の熾天使(セラフィム)も同じような仕様だが、速さで言えば熾天使(セラフィム)の方が少々速かった。

 

 だが、その速さをものにしている春樹もその次に速いISを扱っている一夏も、正直言ってこの二人を止められるものはいるのかと問いたい位である。一人挙げるとすれば彼らの姉である織斑千冬だろう。ただ、春樹にとっては「姉のような存在」ではあるが……。

 

 春樹も目には目をという風に、一夏の剣に剣で挑んでいる。装備が雪片弐型しかない白式は熾天使(セラフィム)と違って接近戦特化型であり、オールマイティに対応できる。つまり、接近戦になったときの対応力は断然違う。こうなれば、近距離攻撃の威力が高い白式が断然有利になる。

 

 しかし、春樹のプライドが遠距離戦に持ち込むなんていうつまらない事はしなかった。春樹は一夏に剣で勝負を挑みたいのだ。

 一夏はそんな春樹に答えるように今まで剣道で鍛え上げられた太刀筋がものをいった。もちろん、春樹もそれに遅れを取っていない太刀筋だ。

 

(春樹、中々やるじゃねえか。でも、これは俺の距離だ!)

 

 一夏は白式の必殺技である零落白夜を出すタイミングを窺っている。

 零落白夜とは、自分の稼動エネルギーを雪片弐型に集中させ、相手のシールドバリアーを切り裂き、相手に直接のダメージを与えることができる。

 

 すると、ISの機能である絶対防御なるものが発動する。

 

 これは操縦者の身の安全を守るための機能で、これが発動するとIS中のシールドエネルギーをあるだけ使い操縦者を守る。というものである。つまり、決まれば勝利といったような能力であるのだが、あくまで決まれば、というものなのでである。

 

 そしてこの零落白夜は、先ほども言ったとおり稼動エネルギーである電気を大量に消費して使う能力。つまり使えば使うほどISの燃料がなくなっていく。限界を超えると白式は動かなくなり、使用不可になる。

 

 使うにしても三、四回が限度といった非常に使いにくい能力であるが、白式は装甲、シールドエネルギーを犠牲にした超高速型。使いこなせれば相手が気がつかないうちに仕留めるというのも可能なのである。

 

 一夏は切り札である零落白夜の出しどころをずっと窺っていた。

 春樹と一夏は互いに斬りかかるも互いの剣で弾くのみであり、致命的な攻撃は一度も入っていない。

 

 高速戦闘が続く中、一夏春樹に話しかける。

 

「おい春樹、そんなもんかよ。こっちはまだまだ加速するぜ?」

「こっちは使える武器がまだまだあるんだよ、油断すんな!」

 

 一夏の武器は雪片弐型しかないが、春樹にも近接戦闘用の武器はまだある。今使っている日本刀を模したシャープネス・ブレードに加え、鎌形のレーザーブレードもある。更には近距離から中距離に対応できるブレイドガンもあるので、戦闘の柔軟性で言えば熾天使(セラフィム)の方が上なのである。

 

 が、それをしようとしない春樹は、最後まで剣で戦うということを守る気でいるようだ。

 

(でも、キツイな。速さなら俺の方が上。なら、やるしかないか、あれを)

 

 春樹の言う「あれ」とは相手の死角に入った瞬間に急加速をし、一気に相手との距離を詰めて一撃必殺を決める事である。これは織斑千冬も使っていた攻撃であり、名を瞬間加速イグニッション・ブーストという。

 

 そして、春樹はチャンスを掴む。一夏の死角を取ったのだ。

 

(今だ!)

 

 と思うばかりに急加速をし、一夏に向かって刃を向けた。春樹は正直勝ったと思ったのだが、一夏が少し微笑んだように見えた。一転して春樹は正直ヤバイと感じた。

 

(春樹、甘いぜ……その攻撃は俺には通用しない!)

 

 一夏はやはり千冬の実の弟だからなのだろうか、春樹の瞬間加速イグニッション・ブーストは完全に見切られていた。

 

(クソッ!! 仕方がない……)

 

 春樹は一夏の能力を見誤っていた。思った以上の力を見せてくれたのだ。

 彼を仕留めた雪片弐型は実体剣からエネルギーの刃へと変化していた。

 

 零落白夜。

 

 それこそが相手を仕留める一撃必殺の攻撃、切り札である。

 

「これで終わりだぁぁぁ!」

 

 一夏は春樹の攻撃をかわした瞬間、春樹の背中に零落白夜で斬りつけた。元々耐久力のない熾天使(セラフィム)ならばこの攻撃でシールドエネルギーは〇になり、一夏の勝ちになる……はずだった。

 

「最後まで油断すんなよォ!」

 

 一夏は春樹のその一言を聞いた瞬間、目の前にはエネルギー弾があった。

 一夏の攻撃を受けた春樹はシールドエネルギーが完全に〇になる前に、バスターライフルを展開して、ビームを一夏に放ったのだ。

 だが――

 

(また、だ……。周りの光景が、ゆっくりに見える)

 

 一夏に起こる不可思議な現象。それが、この周りが時折スローモーションになるというもの。それが、このタイミングで起こったのだ。

 春樹が放ったレーザーが飛んでくる。だが、ゆっくり流れるそれをかわすことなど容易い事だった。

 

 一夏をそれを避け、シールドエネルギーが消滅することはなかった。対する春樹は白式のワンオフ・アビリティの零落白夜によってシールドエネルギーが〇を刻んだ。

 よって、この勝負の勝敗が決まった。

 

「やった……。俺、春樹に勝っちまったああああああああ!!」

 

 これまで、春樹と戦い勝ったことなど一度もなかった。だが、ついにこの瞬間、一夏は春樹に勝つことが出来たのだ。こんなに嬉しい瞬間は他にはないだろうと思えてしまうほどに嬉しかった。

 

 

  3

 

 

「――ということで、織斑君クラス代表おめでとー!」

 

 次の日学校の食堂にて、とある女子生徒が言うと周りの女子生徒も一斉に「おめでとう!」と言ってきた。

 現在、クラス代表が決定したということで小さいパーティーをしているのだ。

 

「って……なんで俺?」

 

 一夏は疑問に思っていた。あのあと、一夏とセシリアの戦いが行われた。だが、結果は散々たるもので、代表候補生の実力を侮ってはいけないと心に染みた一夏であった。案の定、ボコボコにされたのである。

 

「ま、ありがたく思えよ一夏。セシリアはお前の事を認めて、クラス代表の座を一夏に渡すって言ってくれたんだから。彼女に感謝すべきだよ」

 

 春樹は悪い微笑みをしながら言った。一夏はこの微笑を見るといつも諦めることにしている。こうなった春樹には言葉で勝てないからだ。ただ溜息を吐くだけで、反論はしなかった。

 そして一夏は、横を見ると春樹がなにやらセシリアと仲良くしていた。いや、セシリアが春樹にべったりなのだ。

 

「ありがとうなセシリア。てか、お前らいつそんなに仲良くなった?」

 

 春樹は一夏の方に振り向くなり、とぼけた顔でこう言った。

 

「え、そんな風に見える?」

「ああ、見える」

 

 するとセシリアは顔が真っ赤になり、小さくなっていった。

 一夏はそんなセシリアを見て、春樹の事が気になっている、もしくは好きになったんじゃないかと悟った。

 するとそこへカメラを持った女子が一夏たちの前に現れた。

 

「はい! 新聞局ですが、お話聞かせてもらえますか?」

 

 やはりISを使える男、そしてクラス代表になったのはその男、

という話題に新聞局が食いつかないわけがなかった。しかも先日の一夏と春樹の試合は学園内で一夜にして有名になったのだ。目にも留まらぬ速さでISを動かしていた、あれほどの試合は見たことがないというのが生徒たちの感想。

 

 これを取材しなかったら新聞局は何をやっているんだ、とツッコミが入るだろう。

 

「では、クラス代表の織斑一夏さん。なにかコメントをよろしくお願いします!」

「え……えっとぉ……」

 

 一夏はいきなりの事で言葉を失う。とりあえず何か言っておかないと、間違った印象を皆に植え付けてしまう可能性があると思い、深呼吸をして話し出す。

 

「俺は今までコイツ、春樹といつもくだらない勝負で争っていたんです。だから、今回の試合もその一環というか……そんな感じでISで勝負していました。でも正直、今の俺は春樹より実力的には負けていると思っています。だって、春樹はセシリアを追い詰めることができたのに、俺はセシリアにボコボコにされてしまった。だけど、クラス代表になったからには全力で頑張ります」

 

 そう、そこから出る結論。それは、あの戦い、春樹は本気を出していなかった。なぜ全力で戦わなかったのか分からない。だけど、その事実だけは分かった。正直、一夏はとても悔しがった。、

 

 周りに目を向けると、シーンと静まり返っていた。

 

「あ、あれ? 俺変なこと言った?」

 

 焦る一夏。新聞局の女の子は困った表情をする一夏をこちらも慌てながらもフォローした。

 

「い、いえ。思ったより、重めの話だったから……。こちらとしては軽い感じでよかったんだけども。まぁ、大丈夫。ありがとうございます。では、今度は代表候補生のセシリア・オルコットさんにお話を伺いたい。今回、男性のIS乗りと戦ってどうでしたか?」

 

 セシリアは先日の試合を思い出していた。あの葵春樹の事を。

 あそこまで自分が追いつめられるとは思わなかったのだ。下手をしていれば負けていた。

 

 だが、そこには清々しさも僅かながらあった。

 

 昨日の試合を思い出したセシリアはカッと体が熱くなった。この感じは昨日シャワーを浴びていたときに感じたのと同じであった。彼女はこの感じはいったい何なのか、それに悩まされていた。

 

「ど、どうしたのかな? オルコットさん?」

 

 新聞部の人の言葉でハッと我に返ったセシリアは慌てて言葉を出す。

 

「は、春樹さんは、とてもお強い方です。恐らくとてつもない努力を続けてきたのでしょう。私なんかより、ずっと、ずっと。今回は勝てましたが、次に勝負するときあ負けているかもしれません。ですから、自分をより上のステージへと登ることが出来るように精進しようと思っています」

「ふんふん、なるほど! ありがとうございます! では最後に一年生の期待の星! 葵春樹君にお話をお聞きしたい!」

 

 春樹は落ち着いた雰囲気でこう言った。

 

「昨日の試合はまだISを起動させて二回目なんですが、思ったより上手く動かせてよかったです。セシリアといい、一夏といい、二人に負けてしまいましたが、今度戦う事があれば次は必ず勝ちたいと、そう思っています」

 

「はい、ありがとう! では最後に、三人で写真でも取ろうか! はい、並んで~」

 

 するとセシリアがパァと明るい表情になり、

 

「写真ですか? その写真は私にも貰えますか?」

「え? ああ、いいですよ、もちろん」

 

 セシリアはよしっと言った感じに小さくガッツポーズをした。そしてセシリアは春樹の腕を引っ張って春樹と横になるようにした。

 一夏は春樹の横に行き、並び準は右から一夏、春樹、セシリアと言った感じになる。

 

「じゃあ、いきますよ~、ハイ、3246+4454は~?」

「え!?」

 

 一夏はビックリした、ぱっと聞いて答えられるような問題ではない、っと思うが、しっかりと聞いていれば実に簡単な問題だ。

 

「7700」

「正解!」

 

 春樹がさらっと答えを言ってパシャっとカメラのシャッターが押される。だが気がつくと周りにはクラスのみんながいた。どうやら取る瞬間にカメラに写るように入り込んだらしい。

 

 それでもって箒はキチンと一夏の隣のポジションをゲットしていた。

 

(ナイスだ、箒!)

 

 春樹は箒の方を見て微笑みながらそう思った。

 一方、箒自身はこの皆の流れに身を任せて一夏の隣をゲットしようと必死になっていたのだ。

 案の定一夏の隣をゲットした箒は微妙に一夏の制服を掴んでいた。一夏が気がつかない程度でしているつもりでいるようだが、一夏は流石に気づいてしまう。

 

 チラッと横を見ると箒が自分の袖をちょこっと握って恥かしそうにしているところを。

 そんな箒を見て、ドキッとしてしまう一夏。今までこんな感じになる事はなかったのに、なんか意識してしまう。

 

(ほ、箒……? えっと……なんで顔を赤くしているんだ!?)

 

 一夏がそんなことを考えながら箒を見ていたものだからそれに気づいた箒は恥かしくなりパッと手を離した。周りの女の子達はその様子を見て篠ノ之箒は織斑一夏を狙っている。幼馴染ってずるい、と思っていた。


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