ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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Episode7全編書き終わるのがいつになるか分からないから、すでに書き終えている序章をフライングして公開します。


【あらすじ】
ついに春樹が帰ってきた!
感動の再会を果たした春樹と束は、お互いの気持ちを確かめ合う。
そして、それと同時に凰鈴音も日本へとやってきた。
暗い日々から少しだけ離れて、みんなは久しぶりの楽しい時間を満喫する。


Episode7(凰鈴音編)
序 章『その気持ちを正直に ‐Confession‐』


 篠ノ之束は組織本部の会議室でそわそわしていた。なぜなら、もう少しで彼と再会できるからである。

 いざ、こういう展開になってしまうと内心焦りだしてしまう。聞きたかったこともどこかに行ってしまい、残るのは会えるという事実だけに興奮しきっている彼女だけ。ウサミミのようなカチューシャをぴょこぴょこ激しく動かしながら彼女は唸る。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ。ちーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん。どうしよぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「落ち着け束! ほら、いいか、深呼吸するんだ」

 

 千冬だって、春樹は家族の一人だと思っている。興奮しているのは束だけじゃないのだ。

 この二人がそろって深呼吸する光景はとてもシュールなものがある。それを傍から見ていた剣崎結城はそう感じてしまった。一人は第一回IS世界大会の優勝者で、もう一人はそのISの生みの親が、年下の男に会うというだけでここまで緊張しきってしまっている。

 だからといって今の彼女らに何か言えるか、となると何も言えない。

 

「な、な、な、何から言おうかな……とりあえずおかえり、かな? え、えへへ」

 

 束はぶつぶつと独り言を言いながらニヤニヤし始めてしまっている。

 これが天才少女篠ノ之束なのかと思うと結城は頭を抱える。つい先日では寂しさのあまり泣き出してしまったというのに、いざ再会できるとなればこのありさまだ。なんだかんだ言っても、彼女だって一人の女の子、ということだろうか。

 

「いや、それともここは落ち着いてクールに? 私を放り出して何をしていたのかしら? みたいな? いやー、それは私のキャラじゃないし、えーと、えーと……ドスレートに会った瞬間に抱き付いてみたり……? きゃあああああああああああああああ!! ダメダメダメぇ!! そんなことをしてしまったら、はしたない女だって思われちゃうぅ! それもそれでアリだったりして……えへへへへへへへ」

 

 そんな彼女を見て剣崎結城は思った。

 

(春樹さん……早く来てえええええええ。束さんの、束さんのキャラクターが崩壊しちゃううううううう!!)

 

 そう思うが、結城は彼、葵春樹の事を良く知らない。男でISを動かせる男の一人である、という事ぐらいだ。彼はいったいどのような人物なのか、少々興味があった。そして、言わなくてはならないのだ。

 お前は、大事な人を放り出して何をしていたのか、と。

 今ではテンションが上がりまくっている彼女も、先日は身を震わせて泣いていた。本当に辛そうだった。それを見ていた自分だって心が痛んだ。自分では、どうすることもできない事実に。

 

「ねぇ、束さんって、あんな人だっけ? ……あ、あんな人だったね」

 

 本日、ようやくこの場に現れた金髪のフランス人女子、シャルロット・デュノアは今日最初の言葉は自己完結してしまうという形に終わる。

 

「おはようシャルロット。つか、お前自分で言っておいて自己完結ってどういう事だよ……。半ばあきらめてる感じがひしひしと伝わってくるんだけど」

「うん。臨海学校研修でいきなり水着姿で現れたと思ったら砂に足を取られてコケちゃうし、そのあとみんなの前で春樹に抱き付き始めるし……。束さんの溺愛っぷりは見てる方が恥ずかしくなるレベルだよね」

「駄目だこいつ……早くなんとかしないと……」

「え?」

「い、いや何でもない。由実の奴がよく言ってたから。アハハハハ……」

 

 そして、その時はついに訪れる。

 千冬のスマートフォンに電話がかかってきたのだ。その相手は織斑一夏。つまり、もうすぐここに帰って来るということ。

 千冬の電話の話を聞くと、もう本社ビルの目の前だとか。ということは、五分もしないでここまで来る。

 先ほど以上に緊張が走る。

 この場の雰囲気をここまでにしてしまうほどの人物。いったいどんな人なのだろうか、と結城は気になってしまう。

 

「…………」

 

 束は先ほどの口数はどこに行ったのだろうか、と思えるほどの静けさだ。

 それからすぐの事だった。この会議室の扉が開かれる。

 まずは織斑一夏の姿が、続いて篠ノ之箒の姿が見える。その後ろに、ふんわりと縦ロールのかかった金の長髪に、透き通った碧眼の少女、セシリア・オルコットの姿が現れた。

 彼女は、事前にここに来ることを知らされてあった。もちろん、協力関係になることも。篠ノ之束はそれを承諾。晴れて今日から、正式に自分たちの仲間になったのだ。

 そしてもう一人、今度は結城にとって見慣れない人物だった。顔は日本人のもので、髪は黒い短髪。身長は日本人からしたら大きめの一八〇センチメートル程度。軍人のようなガッチリとした体格を持ってる男だった。

 次に現れたのは、先ほどの男の人とは対照的にとても小さく、身長は一五〇センチメートル程度。しかも顔は童顔。髪の毛をツインテールにしていることから、小学生にも見えなくもない女の人だった。

 そして……そこで人は途切れてしまった。

 重要な人物がここに来なかった。

 

「あ、れ……? 春樹は?」

 

 束は戸惑いを隠せず、震えた声でそう尋ねる。それに答えたのは箒だった。

 

「それはですね姉さん。春樹の奴、ここに来る途中、やっぱり無理だ、と言って急に逆方向に走り出しちゃって」

「ブルーノ、キャシー、あなたたち、何か知らない?」

 

 結城とシャルロットにとっては、見知らぬブルーノ、キャシーという二人。そして、束が親しげに話しかけているのに疑問を持った。いや、結城とシャルロットだけじゃない。一夏と箒もだ。この二人に会うのは初めてなのではないか、と疑問に思ってしまう。

 

「それは――」

「春樹があなたに会えないのは、あなた自身のせいじゃないかしら?」

 

 ブルーノの言葉を遮るようにしてキャシーは言葉を発した。そして、その言葉の意味が束には分からなかった。

 

「どういうこと?」

「それが分からないようじゃ、あなたは春樹の傍に居る資格はないわ。春樹だって、辛い思いをしてたのよ。あなたの近くにいないことがあなたを守ることになると思ったから、春樹は篠ノ之束と会いたい、一緒に居たいという気持ちを封印した。だけど、春樹はこのままでいいのかと思って。あなたが辛いんじゃないかと思ったから、こうやって日本に帰ってきた。その気持ちを察してあげなさいよ! 何? 悲劇のヒロイン気分なの、篠ノ之束、あんたという奴は!!」

 

 若干、話がまとまっていないように聞こえるのは、彼女が感情任せに話したからだろう。なぜ、キャシーがそのように感情的に話したのか、束は分かってしまったのだ。彼女も春樹の事が好きだということが。

 だけど、彼女が話したのは春樹が束をどう思っているのかということ。

 だから――ここで取るべき行動は。

 

「束さん!?」

 

 一夏は驚きの声をあげる。束が有無を言わず会議室を飛び出していったからだ。

 篠ノ之束は運動が得意な方ではない。今まで運動なんてしたことほとんどない。学生時代の体育の時間ぐらいだ。だから、運動を止めて結構な時間が経つ。今でもこの平らな床を走るために蹴っているだけで足がもつれて転びそうになるし、息だって早々に切れてしまっている。

 だけど、束は一刻も早く春樹に会いにいかなくてはならない。私は大丈夫だよ、と伝えなくてはならない。それが、自分の今すぐにでもやらなくてはならないこと。

 

(春樹……春樹……私はあなたに会いたい。春樹が何と言おうと会いたい。自分勝手かもしれないけど、キャシーが言ってくれたんだ。春樹は悩んでいるんだよね。だから、待っているだけじゃ駄目なんだって)

 

 束は春樹がどこにいるのか目星はついているのだ。ずっとそのままにしている春樹の部屋。掃除くらいしかしてない彼の部屋だ。この施設から出て行っていないのであれば、そこにいるはずだ。

 そう思って束は息を切らせながらひたすら走る。

 そして、彼の部屋の前へたどり着く。

 その部屋のドアを開け、部屋の中へ。

 そこには、葵春樹の姿があった。ベッドの上に腰かけていた。

 

「え……? 束、さん? どうして……」

 

 次の瞬間、束の姿はドアの前から消えていた。気が付けば、束の顔は春樹の胸の中にあった。

 

「春樹、会いたかったんだよ? 会いたくて、会いたくて、とても辛かったんだよ?」

「ごめん、束さん。俺、俺は、その、あなたに酷い事をしてしまった。辛い目にあわせてしまった。本当なら、すぐにでも束さんに会うべきだった。それでも、俺は……」

「もういいよ春樹。その理由は言わなくていいよ。私は大丈夫だから。こうやって春樹の事を感じれるだけで十分だよ。満たされているから。ね?」

「はい……。申し訳ないです」

「もう、謝らなくてもいいのに。……ねぇ春樹、覚えてるかな? 臨海学校研修のときの事件で、逃げてるときに私があなたに言おうとしたこと」

「はい……」

 

 お互いの心臓は破裂しそうな想いだった。束も心臓をドキドキさせているし、束がうずくめている春樹の胸からも、心臓がドキドキしているのが伝わってくる。

 

「もう一度、改めて、あなたに伝えます。私はあなたの事が、春樹の事が好きです。もうどうしようもないくらいに大好きです。八歳も年が離れているし、女の子として魅力がないし、春樹からしたら私なんて恋愛対象外かも知れないけど、それでも言います。私の恋人になってくれますか?」

 

 束の顔はすでにリンゴのように真っ赤になっていた。恥ずかしさでここから逃げ出したい気分。もしかしたら、こんな自分を見て春樹は笑っているかもしれない。だけど、ここで逃げたら駄目なのだ。

 

「ねぇ、束さん」

「は、はい!」

 

 緊張のあまり、目をまん丸くして春樹の顔を見る。

 

「そんなにカチカチにならなくても……。まぁ、その、ええっと……臨海学校のとき、俺は束さんを悲しませてしまった。そして、俺が束さんの前から姿をくらますことで、また束さんを悲しませてしまった。こんな最低な俺でも、束さんがまだ俺を好きでいてくれるなら、俺も束さんの事を好きでいたい。だから、ケジメをつけるためにも、ここは俺から言わせてください」

 

 束は無言でうなずく。その表情は完全に恋する乙女の他ならなかった。

 

「俺はあなたと一緒に居たい。だから、俺の恋人になってくれますか?」

「はい……喜んで」

 

 束は笑顔と、涙と、色んなものをぐしゃぐしゃにして、再び春樹の胸に顔をうずくめる。

 そして、どちらからということもなく、自然に二人は唇を重ねた。

 とても短くて軽いキス。だけど、その意味はすごく深くて、お互いに、今まで我慢してきた感情があふれ出してくる。

 無言でも伝わってくるのだ。お互いの気持ちが。

 

「ねぇ、春樹。あのさ、デート、しよっか?」

 

 その時の束の顔は、今まで見たこともないような笑顔に包まれていた。

 それはまるで太陽のように温かかった。


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