ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

57 / 79
終 章『レポート -Kirishima-』

 セドリックとシャルロットの救出に成功し、デュノア社が保有するISのコアも守りきった『束派』は、今回の任務、十分成功と言えるだろう。

 ただ、失敗した点としてはエムという死人を出したことと、オータムとスコールを取り逃がしたという事。

 一夏がエムを殺してしまったことで、一夏がおかしくなりそうになった騒ぎに紛れて撤退をを許してしまった。『亡国機業(ファントム・タスク)』が逃げ出すのを阻止するより、一夏の心が壊れてしまうのを防ぐ方を優先したからだ。

 箒と楯無が必死に一夏を落ち着かせたため、完全に心が壊れる心配は減ったが、それでも今の一夏は色々と危うい状態だ。もしかしたら、ISに乗るのを投げ捨てる可能性まで出てきてしまう。それだけは何とかしなくてはいけない。

 だからこそ、箒と楯無は必死に一夏を落ち着かせた。

 現在、一夏は気を失って気絶してしまっている。

 

「ねえ、箒さん。一夏は……大丈夫?」

 

 そうシャルロットは尋ねた。命を懸けて自分の命を守ってくれたのに、一夏の心が死んでしまいそうになっている。心配しない方がおかしいだろう。

 

「わからない。結構危険な状態だろう。なぁ、シャルロット、一夏が意識を取り戻したらお前からも何か一夏に言ってくれないだろうか?」

「僕が一夏に?」

「ああ。今回の任務は元々シャルロット、お前を救出するものだった。だから一夏は命を懸けてまでお前を救ったんだ。だから、一夏の頑張りは無駄じゃなかったってことを一夏に伝えて欲しい。頼めるか?」

「……うん。拒否する訳ないじゃない。だっ……いや、こんな事を言うのはよそうか」

「すまないな、シャルロット」

「全然。こちらこそ、だよ」

 

 その時、一夏は意識を取り戻した。そして、あの感触がよみがえってくるのだ。あの人を刺した時の感触が。

 

「あ、あ……あああああああああああああああああ!! 嫌だ、もう嫌だ!! なんで、なんでだよぉ……。何でこんなぁ!!」

「一夏!!」

 

 シャルロットは一夏に駆け寄った。頭を抱える一夏の手をそっと触れて話してあげて、自分の身で一夏を包み込んであげた。

 

「一夏、ダメだよ。そんなに悩んじゃ。一夏は僕を救ってくれた。命を懸けてここまで来てくれた。なのに一夏は僕にお礼の一言も言わせてくれないの? 聞いてくれないの?」

「シャル……ロット……?」

「うん。僕はここにいるよ。だから安心して。箒さんも、会長さんも、ここにいる。だから、安心していいんだよ。辛いかもしれないけど、一先ず落ち着こうよ。悩みがあったら僕が聞いてあげるから。一夏が僕にそうしたように」

「あ、ああ……。あり、がとう、な、シャルロット」

 

 でも、完全に一夏の中からトラウマが消えたわけじゃない。いつトラウマを思い出して発狂するかも分からない状態であるのは間違いないのだ。

 彼は、初めて、自分のその手で人を殺めた。

 しかも、勢いに身を任せるという、一番やってはいけない事でそれをやってしまった。

 

「一夏、とりあえず日本に帰ろうか。国際IS委員会の人たちが帰りのジェット機を用意してくれた。まったく、委員会の人たちはどれだけジェット機持ってるんだってね」

 

 楯無はジョーク交じりで一夏に話しかけるが、そこに笑みは無く、ただ単に「はい」と答えるだけだった。

 

「……そうだ。セドリックさん。シャルロットちゃんとは和解したんですか?」

「ああ……そうだな。すべて話したよ」

「うん。お父さんの気持ちはがようやく分かった。もう一度言うよ、ありがとうお父さん」

 

 シャルロットはセドリックに感謝の言葉を贈る。恥ずかしそうにするセドリックであったが、ここで問題点が一つ。

 

「妻のアリスのことだが、このまま戻ったらまた嫌な目でみられるだろう。だから、日本にまた行くかシャルロット?」

「え……それってつまり?」

「もう一度日本に戻らないか、ってことだ。もっとも、それを決めるのはお前だけどな」

 

 シャルロットは考えた。このまま父親のそばで働いても、母親からまた嫌味な事を言われて、下手したら暴力を受けてしまうだろう。

 それから逃げるため、と言えば嘘になるかもしれないが、今、彼女の中には一夏のことで頭がいっぱいだったのだ。

 今にも壊れてしまいそうな一夏に対して自分は一体何が出来るのか。今まで一夏がしてくれたようなことを自分は返すことが出来るのだろうか、ということで頭がいっぱいだった。

 だから、ここで迷う必要は無かった。

 

「お父さん。すまないけど、日本に行かせて欲しい。自分に出来ることが日本で出来そうだから。いや、やらなくちゃいけないから」

「そうか……」

 

 そんな、シャルロットが今後どうするかについて考えていても、一夏はどことなく上の空だった。

 一度シャルロットと別れを告げ、とりあえずこれから一夏、箒、それに楯無の三人は日本へと帰国する為にジェット機へと乗り込んでいく。どうやら、現場から直接日本へと帰国するようだ。

 一夏たちは、このフランスの地ともお別れをしなくてはいけないが、彼はひたすら空を眺めて上の空になってしまっていた。

 

 

 

 

 

 一夏たちは遂に任務を完了して日本へと帰国することになっている。

 ひとまずの任務が終了してちょっと安心している束と千冬だが、安心しきれない部分もあった。その理由は一夏の精神状態と春樹がやろうとしていることであった。

 

「任務は無事完了したけど、なんだかね。一夏も精神的におかしくなっちゃてたし、箒ちゃんも敵の精神攻撃でおかしくなりかけた……結構まずいんじゃないかな?」

「ああ、まずいかもな。けど、あのことは絶対に話せない。話したらあの子たちは絶対に壊れる。確実にな」

「それに、春樹たちもそうだよ。話を聞く分にはエラーを消し去るって言ってたけど、それってきっと『因子』のことだよね。つまりそこから繋がるのは……」

「あの……悪魔の実験か?」

「恐らくそういうことになるね。一夏が変な能力を身につけたタイミングと一致するし」

「だがそもそも、春樹たちは何が狙いなんだ? エラーを消し去ることって言っているが、あの春樹の言葉、絶対に他に何かやっているはずだ」

「きっとそれは……『奇跡の産物』の研究結果から、それを応用した実験結果までを記録した『霧島レポート』を探しているんだと思う」

「霧島レポート……何だそれは?」

「実は私にも分からないんだ。読んだこともないし、噂レベルでしか聞いたことがない代物。その内容は、ISのコアから『因子の力』についてまで、それらのすべての研究結果を書き記した物だって聞いている。つまり、アイツのレポートさ」

「霧島……アイツって、まさか、そのままなのか?」

「そう、アイツだよ。霧島直哉。現在行方不明の、私たちにとっての最大の敵である彼の書いたレポートを春樹たちは探しているのかもしれない」




 最後の方は駆け足過ぎて何が何だか分からないと思いますが、素人の二次創作だと思って許してくださいお願いします。
 さて、今回のお話のテーマは「父親」「思想」「殺人」の三つです。
 まず最初の「父親」ですが、これは勿論、原作でも描写不十分で矛盾を多く作ってきたシャルロット・デュノアさんの設定の穴を埋める為に出したテーマと言っても過言ではないでしょう。
 一番強く出した部分は『どんな行動を取っていようと、最終的には親は子供の幸せの為に何でもやるんだぞ』というものでした。本当に子供を愛している親というものは「目に入れても痛くない」ということわざもあるように、子供がかわいくてしょうがないはずです。
 だからこそのセドリックと妻のアリスの対比を出したんです。アリスはシャルロットを自分の子供と思っていないからあんな感じなのに対し、自分の子供だと思っているセドリックはリスクを冒してまで娘の幸せの為にやれる事をやったのです。
 あと、シャルロットがシャルル、男として日本のIS学園にやってき理由を色んな説を持ってきて何とか作ったんですが、ムリのあるこじつけであることには変わりないでしょう。

 次に「思想」ですが、これは今回は四つの組織が絡み合っていました。
 まずは『束派』。彼女らはISを悪用するのは許せない、というものです。
 次に『亡国機業』ですが、世界中のISを奪い、世界征服まがいのことをするという、少年漫画のような悪役的位置にいます。
 そして『サイエンス』ですが、彼らはISによって作られた女尊男卑の世界観に異論を持つ者たちです。だからこその「全ては……平等なる世界の為に!!」 というセリフなんです。
 最後は『春樹、ブルーノ、キャシー』。彼らの組織名は一応作ってあるのですが、今回ではまだ未公開。
 とりあえず、彼らの思想はまるで謎のままに終わりました。分かったのは二つ。「エラーをなくすこと」「霧島レポートを探すこと」ですが、これが彼らの思想にどう繋がっていくのかがポイントとなります。
 ちなみに、『亡国機業』の中でもピックアップされたオータムですが、彼女は彼女なりに思想を持っていた。それがズタボロにされて大きな枠の中に入れさせられて、自分の思想でもないのにそれを押し付けられる。その思想に疑問を持っていたとしても。
 だから、セドリックのあの質問にオータムは戸惑ったんでしょうね。

 最後に「殺人」ですね。
 これは分かりやすいほどに前面に押し出していました。正確には「人を殺すとは?」ということで、それを初めて経験する一夏と箒はそれぞれ違うけど、根本的には同じ悩みを持つことになるんです。
 それに、誰かに殺されそうになる。という死への恐怖も主人公たちに味わってもらいました。そうすることで、一夏に「死」ということを考えさせ、そして人を自らの手で殺めたことによってさらに「死」という事について頭を悩ませます。
 これの決着は次回のEpisode6で片づけます。はい。


  【キーワード】
『更識クリエイティブ』
 更識楯無の父、更識信鳴が代表取締を務める複合企業。
 この会社の地下には束派のアジトがある。

『コンバット・モード』
 ISが戦闘のために特化した姿の総称。
 身に着ける装甲をギリギリまで薄くし、余計なものをそぎ落としたことによって表面の面積を小さくした。
 また、バイザーによって操縦者の顔を隠している。

『亡国機業』
 原作から登場している組織。
 組織の三人にはそれぞれ何かしらの過去を持っているようだが、はたしてそれは……?

『束派』
 暗部世界においての篠ノ之束率いる組織の呼称のこと。
 現在のメンバーとして更識楯無、織斑一夏、篠ノ之箒のISパイロットがいる。
 バックに国際IS委員会が着いている。

『ゴーレム』
 IS学園を襲った人型兵器の名称。
 謎の男ら三人が関与しているようだが、その男については不明。
 ISに対抗できる兵器?

『葵春樹、ブルーノ、キャシー』
 一夏たちの前に現れた三人。その中には葵春樹の姿もあった。
 彼らが言っていた「エラー」とは?
 ブルーノとキャシーは一夏と箒をを抹殺したいらしいが、春樹はそれに反対している模様。

『霧島レポート』
 束曰く、ISのコアから『因子の力』についてまで、『奇跡の産物』の研究結果から、それを応用した実験結果までを記録したものらしい。だが、それはあくまで噂に過ぎない。
 第二部の重要なファクターとなっていますの要注目!


 はい、ここまで読んでいただきありがとうございました。この物語はEpisode6へと続きます。

 次のお話は短編です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。