ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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行間二《ドゥーガルド・フィリップス》

 セシリア・オルコットは少し遅めの昼食を取っていた。イギリスの現在時刻は一四時三〇分で、日本との時差は八時間だ。

 

(チェルシーがいま調べてくれている日本で起きている事件。あれに一夏さんや箒さんが関与しているとすれば……おそらく……)

 

 セシリアがチェルシーに日本で起きている事件についての調査を頼んでから約一時間が経過しようとしている。当然、それほどの短時間では何の情報すら入ってこない。だから、セシリアも独自に調査を進める気でいる。

 それと同時にセシリアにはもう一つ仕事がある。

 彼女も代表候補生として専用機を授けられている身分であり、ブルー・ティアーズの開発元である会社へとこれから向かう予定である。

 彼女が所持しているISの特徴的な装備がBT兵器――つまり、ビームビット及びミサイルビットからなる長距離遠隔砲撃システム、それが「ブルー・ティアーズ」という名称であり、それを搭載したIS第一号がセシリアに授けられたISをそのシステム名をそのまま取ってブルー・ティアーズなのである。

 これを開発したのはイギリスの『LOE社』である。正式名称は『Locus_of_Evolution社』、日本語に訳すと「進化の軌跡」である。

 食事を終えたセシリアはそこへと向かう。食事をしていたお店もそこの会社の近くなので歩いても五分かからずに着いた。

 彼女は受付の女性に自分がセシリア・オルコットであることを伝えると、すぐに案内してくれた。そもそも彼女はここに、この時間に『LOE社』に訪問する手筈であったのだから当然である。

 これから行うのは『LOE社』の社長であるドゥーガルド・フィリップスとの面談だ。

 彼女はこの会社の社長室に向うためにエレベーターに乗り、最上階を目指していた。段々と気圧の関係で耳がキーンとなるのを感じながら彼女は登っていく。

 そして社長室の前へとついた彼女はドアをノックし、中へと入っていく。

 

「こんにちは、ドゥーガルドさん。お久しぶりですわね」

 

 セシリアは中へ入るのとほぼ同時に挨拶をする。

 そこにはテーブルにお菓子を置いている男の人の姿があった。

 

「おお、セシリア! 思ったより早いじゃないか。本当に久しぶりだな。まだ紅茶の準備ができていないじゃないか、あはははは」

 

 なんともその男はハイテンションで陽気な笑い声をあげていた。

 その男こそ『LOE社』社長であり、その名をドゥーガルド・フィリップスという。

 

「おほほほ、相変わらずですわね。その明るい性格といい、声といい」

「これが私なのだから仕方があるまい? ただ、女性の御方には頭があがらないがね、あはははは!」

 

 そう笑いながらポットにお湯を注いで紅茶を入れる準備を進めるドゥーガルド。

 セシリアはクスッと笑い、社長室にあるソファへと腰をかける。

 なぜ、こんなにも軽い感じで接することができるのかというと、この二人はセシリアが代表候補生となり、ブルー・ティアーズの開発を始めたときからの仲であるからだ。

 ドゥーガルドもISの更なる進化の為にセシリアとのコミュニケーションをより多くとってきたし、セシリアの要望もできるだけ叶いてきたのだ。まさにブルー・ティアーズは大雑把に言ってしまえばこの二人で作ってきたようなものだった。ただし、これは大雑把に言っただけであり、本来はもっと多くの人たちの手によって出来上がったのは言うまでもない。

 

「で、どうだったかね? 日本のIS学園は?」

「はい、そうですわね。やはり、噂のISを動かせるという男性――」

「そうそう! それそれそれ!! どういった人物だったかね?」

 

 ドゥーガルドは紅茶を入れるのを途中で止めて、セシリアの向かいのソファへと腰かけた。

 

「そうですわね。ISを動かせる理由については未だ謎ですわ。ですが、そのふ……三人の人柄はとても良く、人間としてしっかりしていましたので、すぐにお友達になることが出来ましたわ。今では親友と言えるほどまで仲良くなりました」

「そうか、よかったじゃないか。……いや、あまり良かったとは言えないな……」

 

 ドゥーガルドが急にしんみりとしだしたのは、葵春樹のことだろう。彼が行方不明になったのは世界的に有名な話になっている。それもそうで、彼らは世界を騒がせたISを動かすことが出来る男は重要な研究材料だったのだ。だからIS学園という施設に身を預け、どれだけのことが出来るのか、ISという道具をすべての男が動かせるようになるのだろうかと、世界中の男の希望だったのだ。その一人が行方不明になってしまったとなると、それはとても悲しい出来事だろう。

 

「はい、そうですわね。実は……ですね。その、わたくし、今、行方不明になっている葵春樹さんを探していますの。少々危ない橋を渡っていますけど……」

「…………」

「彼は、わたくしの大切な仲間の一人をなんです。大切な仲間の一人を自分の下へ取り戻したい。そして、またみんなで楽しい学園生活を送りたい。それだけなんです」

 

 熱く、そう語ったセシリア。すると、ドゥーガルドは口角を上げて笑い出した。

 

「あははははは!! セシリア、君はいつからそんな人になったんだい? IS学園に入ってから君に何があったんだ? まぁいい。で、私に何かして欲しいのかな?」

「ブルー・ティアーズの強化をお願いしたいのです」

「ブルー・ティアーズの強化……? そんなこと、セシリアに言われなくてもやるつもりだよ。その為の帰国じゃないか。で、具体的な案はあるのかな?」

「はい。それはこちらにまとめております」

 

 セシリアが取り出したUSBメモリ。その中に入っているブルー・ティアーズの強化案とは一体どのようなものなのか。

 ドゥーガルドはノートパソコンを取り出し、電源を入れる。そして、セシリアが持ってきたUSBメモリを挿し、その中の文章ファイルと画像ファイル。それを確認していくドゥーガルドは段々と顔をニヤつかせていく。

 

「ふはははは。これはすごい。こんなものをわたしたちに作れと……? 言ってくれるねぇセシリア。我が社のエンジニアたちを殺す気かね? いいだろう、これを作り上げようじゃないか。で、いつまでに作って欲しいのかな?」

 

 セシリアは静かにこう言った。一週間以内、と。

 

「一週間以内!? 本気で殺す気かい? まぁ、本当に死ぬ気で頑張ればできるだろうね。何も一からISを作るわけじゃない。現状のブルー・ティアーズをベースに、ISの性能アップと武装自体に改良を加えれば良いからね」

「できるのでしょうか……?」

「それを可能にするのが私たちの仕事だよ。私たちが開発したBT兵器を実用化できるようにするステップアップの一段階のようなものだ。これが出来なければ、私たちはBT兵器を一生実用化レベルまで開発することが出来ないだろう」

「では……!!」

「いいだろう。この強化を一週間以内だな? まかせておいてくれ」

 

 セシリアの計画がまた一歩前進した瞬間だった。

 日本で起きている事件、ブルー・ティアーズの強化、そして、次の計画とは……?

 彼女のやろうとしていることはいったい何なのか。そして、真実にたどり着き、葵春樹を見つけることが出来るのか。

 セシリア・オルコットの戦いはこれからも続くのであった。


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