ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第一章『渡航 -Empty_Fight-』《高度3万5000フィートの戦い》

  2

 

 

 シャルロット・デュノアはフランス行きの飛行機の中にいた。

 シャルルは代表候補生であり、デュノア社社長の娘、ということもあってかファーストクラスに乗っている。

 エコノミーの狭い空間と違って、とても広い空間でゆったりと出来るし、サービスの方もエコノミークラスとは格が違ったが、シャルロットはエコノミークラスというものを体験していなかった。日本に来る時もファーストクラスだったし、エコノミークラスの座席がどれだけ窮屈なものか、ということを理解していなかった。 

 さて、現在の時刻はちょうど一一時。フランスに着くまではまだ一二時間ほどある。

 ゆっくりと飛行機で過ごすシャルロット。しかし、彼女の内心は決してゆったりしたものではなく、不安で満ち溢れていた。

 それもこれも、自身がIS学園でやってきた事が父親の命令とはかけ離れたものであったからだ。一夏と春樹、そのISの調査をして来い、という命令を、自分が女の子だということがバレてからほとんど行っていなかった。

 分かっていることは、一夏と春樹のバックにはあの篠ノ之束がいる、ということだけだった。

 

「お客様、お飲み物はいかがでしょうか?」

 

 キャビンアテンダントの人が、シャルロットにそう尋ねる。

 

「えっと、紅茶を」

 

 キャビンアテンダントの女性は、かしこまりました、という言葉と同時にテキパキと紅茶を紙コップに注いで、シャルロットの座席のカップホルダーに置いた。

 何はともあれ、もうフランス行きの飛行機には乗ってしまっているのだ。これも自分が生きていくために必要な事であり、仕方がないと割り切るしかなかった。

 何とかして父親との面談等を乗り切ってIS学園に戻ることが出来れば、まだ再考の余地はある。

 とにかく頑張ろう、と思うシャルルは座席に設置してあるテレビをヘッドホンで聞きながら、落ち着いてフランスに着くまでの一二時間を過ごす――はずだった。

 飛行機に乗ってから二時間ほど経ったその時だ。

 何やら前方で乗務員の方たちが少し忙しなくなっているのをシャルロットは感じていた。

 しかし、ファーストクラスの他の乗客はまるでこの飛行機の異変に気付いている様子は無かったのだ。

 それもそのはずで、乗務員が出来るだけ乗客に不審感を与えないように、と気を配っていたのだから当然だ。

 にも拘らず、現にシャルロットは気づいてしまっている。

 

(なんか……おかしい……。乗務員さんの様子も変だ……)

 

 シャルロットは耳にしていたヘッドホンを外しながら、

 

(どうしよう……。出来るなら、何ともない事であって欲しいけど……。ちょっと確認してみようかな、あまり目立たないように)

 

 シャルロットはそっとその場を立ち上がって前方の操縦室へと向かうと、その操縦室の手前の空間に、機長とキャビンアテンダントが数人立っていたのだ。

 そこにいたキャビンアテンダントとの方々と機長が、一気にシャルロットの方を見た。

 

「えっと……あの……どうかしたんですか? なんか、落ち着きが無かったようだから心配になったので……」

 

 キャビンアテンダントの方々と機長は一瞬、ヤバい、という顔をしたのをシャルロットは見逃さなかった。

 しかし、キャビンアテンダントと機長の人たちはすぐに営業的スマイルを浮かべ、機長が直々にシャルロットに向って英語でこう言った。

 

「申し訳ございませんお客様。しかしご安心を。お客様が心配になるような事は一切起きていません。今も正常にフライトを続けております。お客様は自分の席にお戻りになって、ゆったりとこのフライトをお楽しみください」

 

 テンプレートの様な対応。これもマニュアル通りなのだろうか。このような丁寧な対応をされてしまっては元の席に戻るしかなくなったシャルロットはそのまま自分の席へと戻っていった。 

 突然現れたお客に驚いてしまったキャビンアテンダントと機長。

 

「どうしましょう機長。この事態を悟った人物が少なからずいるようです」

「ああ、どうするか……。ちくしょう、この時代に飛行機のテロだと!? ふざけるな、これは何かの映画か?」

「機長、どうか落ち着いてください。テロリスト達の目的は、この飛行機に乗っているデュノア社の一人息子を差し出す事だそうです。恐らく、デュノア社に何かしらの圧力をかけたいのでしょう。ここまでするということは、何かしらの脱出方法もあるのかと……」

「あの物騒なインフィニット・ストラトス関連か!? ここ最近、そのインフィニット・ストラトスを使った大きな事件が立て続けに起こっている。これもその一つだっていうのか」

「おそらくは。……どうしましょうか、機長」

「どうするもこうするも、乗客員を危険に晒さないのが俺たちの仕事だろう。そのデュノア社の一人息子の顔写真は無いのか? この飛行機に乗っているのなら、顔を知っておきたい」

 

 キャビンアテンダントの一人が、乗客員名簿を持ってくると、ファーストクラスの欄を機長に見せる。名前、シャルル・デュノア。年齢一五歳。性別は男となっている。

 

「ご覧の通り、先ほどの乗客員の様です」

「男だと……? 待て、確かインフィニット・ストラトスというのは女性しか使うことが出来ないのではなかったのか!?」

 

 機長は驚きながらも、この事態に気づいているのが、テロリストの要求した人物であることに内心安心していた。これなら、なんとかパニックだけは回避できると。

 キャビンアテンダントの一人はちょっと困ったような顔をして、

 

「はい……、実はですね、今年の四月にISを使える男が二人現れ、それに次いでデュノア社の方もISを使える男を見つけた、という話が出たんです」

「なるほど……。それほどまでにレアな人材を人質に取れば……ということか」

「テロリストはインフィニット・ストラトスを所持している危険性もあります。ここは……」

 

 機長は頷いて帽子を外しながらこう言った。

 

「さっきのシャルル・デュノア様をこっちに連れてこい。他の客には不審がられないようにな」

 

 キャビンアテンダントの一人が頷き、小さなメモ用紙にシャルロット宛てのメッセージを書くと、飲み物のセットが置いてあるカートを乗客の方へと押し出した。

 キャビンアテンダントは、一人一人丁寧にいつもと変わらない様に飲み物を配布していく。

 そして、シャルロットの席に行き、

 

「お客様、お飲み物のおかわりはいかがですか?」

 

 と尋ねた。何も知らないシャルロットはおねがいします、と言って紙コップに紅茶が注がれていく。キャビンアテンダントがスッとポケットに手を突っ込んで、さっき書いた折り曲げられたメモ用紙を取り出す。それを紙コップと一緒にシャルロットに渡した。

 シャルロットはなんだろう、という表情を取る。そしてキャビンアテンダントは奥へと姿を消した。

 シャルロットは紅茶を一口飲んで、そのメモ用紙を広げた。

 そこには、こちらに来るようにという内容が書いてあった。

 

(なんだろう……。さっきのあの乗務員さんと機長さんの顔……只事でないような表情をしていた……。何か良くない事でも起きているのかな……?)

 

 シャルロットは不安になりながらもその席を立ち上がり、操縦室の方へと歩き出す。

 他のお客さんには絶対に変なことが起きている、と言うことをシャルロットも悟られないように細心の注意を払いながら操縦室の前までやってきた。

 シャルロットは先ほどと同じように英語での対応をした。

 

「あの……すみません。シャルル・デュノアですけども、何かご用でしょうか?」

 

 すると、機長がシャルロットの方に寄り、そして大事な話があるから、操縦室に入ることを要求した。

 操縦室に入ったシャルロット。初めて見る生の操縦室に少し感動を覚えた。

 シャルロットは機長の指示で少し広々とした操縦室のキャビンアテンダント用の椅子に腰を掛けて、お話を聞くことに。

 

「では、君がシャルル・デュノア君だね?」

「はい、そうですが……」

 

 シャルロットは世間一般的には男であり、シャルル・デュノアという名前で知られている。

 これもデュノア社の社長であり、シャルロットの義理の父親、セドリック・デュノアがISを使うことが出来る男、という風に宣伝を行った結果である。

 

「君をここに呼び出したのは他でもない。とにかく、驚かず、大声をあげないようにお願いしたい。まず、先ほど私が言った言葉を訂正することになってしまうのですが、現在この飛行機は危険な状態になってしまっている。……テロリストです」

 

 今の話を聞いたシャルロットは声をあげるとか、驚くとか、そんな反応を通り越して言葉を失ってしまった。たった今、機長が言った言葉をもう一度確認したくなる。今の言葉が聞き間違いではないのかどうか。

 

「すみません、今、テロリストって言いました?」

「はい。そうです。先ほど、そのテロリストからの要求がありました。この飛行機に乗っているシャルル・デュノアの身柄を引き渡せ、とね」

 

 まさかとは思ったが、やはりそうだった。考えたくもない事が事実であった。

 では、自分に何が出来るか、それを考える。かの一夏や春樹ならこの状況をどう切り抜けるにはどういった行動を取るのだろうかと考える。

 今の自分にはISが手元にない。飛行機に乗る際に、別に預けてしまったのだ。この飛行機を降りて、空港で荷物を別に受け取るまで帰ってこない。だから、ISでの力尽くでの解決は不可能である。

 ここは詳しい話を機長に聞くのが、賢いやり方だろうとシャルロットは考えた。

 

「詳しい話を聞かせてください」

 

 機長は頷いて、

 

「分かりました。テロリストは今日の日本時間で午後一時頃、テロリストからの電子メッセージが送られてきました。内容は先程も話した通りです。テロリストの人数は不明で、恐らく現在も一般の客を装って席についているでしょう。要求を呑む場合は、テロリスト側に一度メッセージを送り、貨物室にシャルル・デュノアの身柄を持ってこい、という話になっています。タイムリミットはあと一時間。それまでに何とかしなければ、この飛行機ごと木端微塵にするという話です」

 

 木端微塵にする。ということは、テロリストは当然ながら、それほどまでのことが出来る兵器を持っている、ということになる。爆弾か、それとも……ISなのか、それはまだわからない。

 だが、この世界で一番強い兵器でもある、と呼ばれているISを所持していないと、これほどまで余裕を持ったことが出来ないだろう。恐らく、テロリストはISを所持していると、シャルロットは考える。

 だが、それでは疑問が残ってしまう。ISを所持している……ということは、つまり企業や軍隊のそれ専門の部隊などであるということ。そうでないとISを所持できないはずだ。テロリストが手に入る訳がない。

 さらに、この自分を人質にすることで何のメリットが生まれるのか、恐らくは身代金の要求。または他企業の圧力か。

 企業ならこんな大胆なことが出来るはずがない。いや、だからこそ大騒ぎにならないようにこのテロを行っているのか。

 残り一時間でいったいどんなことが出来るのだろうか、何か良い案は無いのか、考える。

 自分のISは現在別途の輸送機で運ばれている最中だ。当然の如く、世界最強の兵器と言われているものを飛行機内に持ち込むことなど言語道断。ハサミ程度の刃物でさえ持ち込めないのに、そんな物を持ち込むなどまずありえないのだ。

 

「奴らがISを持っているのなら、もうどうしようもありません。僕のISは別の輸送機で運ばれていますから、こっちにはISと対等にやりあえる戦力もない。いや、こんな場所で戦闘なんてできませんよ」

「ですから、このことの解決方法としてどうするか、という話なんです。まさか貴方を差し出すなんてことはできませんし」

「とにかく、その貨物室の状況を見てきましょう。敵は今そこにいるのか、いたとしたら何人なのか、それを見定める必要があります」

「ですがよろしいのですか? 貴方をそんな場所へ……」

「大丈夫です。それが出来るのは僕ぐらいしかいないでしょうから。それに見てくるだけです。心配ありません」

 

 機長が渋々その案を承諾した後、シャルロットは機長に貨物室へと行くことが出来るルートを教えてもらった。機長の大きい図体がずかずかと客席を歩き、テロリストの前に現れるわけにはいかないからだ。だから、最悪の状況を考えてここからはシャルロット一人の仕事となる。

 シャルロットはファーストクラスの真下にある貨物室に行く為、操縦室の手前の専用の通路を通っていく。そこはとても狭く、人一人がギリギリ通れるものであった。シャルロットはゆっくりとその通路を通っていき、貨物室へと侵入すると、物凄い寒さがシャルロットを襲った。それもそのはずで温度調節機能がない貨物室の温度は零度前後まで下がる。とくに防寒していない彼女はその寒さを我慢しながらテロリストの顔だけでも見ようとした。

 そこには数人のテロリストが待ち受けていたのだ。普通にしてはやけに大きい貨物室であり、人が立てるほどの高さを持っている。

 そこには人影が三人。しっかりと防寒対策はしていて、分厚いコートなどを羽織っている。一人は金髪の女性、一人はロングヘアーの女性、もう一人は……物陰に隠れていて良く見えない。だが、三人いるということは確定した。

 そのまま気付かれないように上へと戻るシャルロット。

 

「見てきました。テロリストは三人でそのうち二人が女性であることを確認しました。残りの一人は良く見えず、性別は不明です。このことからISを持っている線が濃厚かと思います」

 

 機長は思わず舌打ちをしてしまった。そして手を顎に添えて考えるポーズを取る。

 既にテロリストは貨物室に居り、さらに女性でISを所持している可能性が出てきた。大人数で押しかけたところでIS相手では太刀打ちできない。一体どこから潜り込んだのだろうか。ISを持ったまま乗り込めるはずがない。おそらく直接貨物室に乗り込んだのだろう。

 

「どうするか……。相手はISの所持の可能性、そして相手は三人。もしかしたら更にいる可能性まで……」

 

 シャルロット達は考える。

 この絶望的な状況をひっくり返す、何か良い作戦は無いものかと……。

 

 

  3

 

 

 テロリストの一人、ふわりとしたロングヘアーが特徴のオータムと呼ばれる女性は、貨物室の床に座りながらある考え事をしていた。

 

(シャルル・デュノア、いや、シャルロット・デュノア……だな。残り二〇分。さて、いつ来るのか)

 そんなことを考えていた傍らには、二〇代前後で、グラマラスな体格。そして、金髪をなびかせるスコール・ミューゼルがいた。

 

「どうしました、オータム? そんなところに座って。いつ奴が来るかわからないのに」

「いや、大した事でもない。シャルロット・デュノアはちゃんと来るのか、ちょっと気になっていたんだよ。仮にも、奴はあの葵春樹の傍にいたんだ。何か仕掛けてくる可能性だって否めない」

「ですが、奴にはISがありません。どう考えたって、奴がISを持つ私たちを撃退するなんてことはありえない」

 

 スコールがそう言った瞬間、オータムは急に冷たい声で、

 

「なめるなよ、奴らを。あの葵春樹が代表候補生を引っ張り出してアイツらの……、『アベンジャー』が用意した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の撃墜作戦を行わせた。そして、それを見事成功させたんだ。それ程までの実力者なんだよ、今回のシャルロット・デュノアを含む日本のIS学園の代表候補生は」

 

 スコールは付け加えるように、

 

「そして……、その代表候補生達を育て上げたのが葵春樹だと?」

「おそらくな。詳しくは分からないが、葵春樹はIS学園に侵入し、代表候補生達を育て上げたと思われる。そうじゃなければ、今回の臨海学校で起きた事件を解決させるなんてことはまずありえないのだから」

 

 その『アベンジャー』と呼ばれる組織が用意した、あの銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は軍事用ISである。つまり、所詮競技用に用意されたISを扱う代表候補生達の実力では、そのアドバンテージの差を埋めることはできない、ということだ。

 だというのに、その代表候補生達は見事、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を撃退したという情報を知ったオータム達は大きく動き出したのである。

 

「本当にそうかな……」

 

 ここでやっともう一人の口が開いた。

 

「どういう意味だ、エム?」

 

 オータムはそこにいたエムという女性に言葉の意味を問うた。

 

「そのままの意味だ。それが本当にその代表候補生達だけで銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を撃退したと思っている?」

 

 オータムとスコールは黙り込む。自分が思い違いをしていたのかもしれない、と思ってしまったからだ。

 エムはクールな表情で言葉を続ける。

 

「何故『束派』の存在を忘れている? 葵春樹がその作戦に参加していないからと言って、代表候補生だけで福音の撃墜作戦を行ったと何故断言できる? もし、現場に『束派』の戦力がもっといたとしたら……どうする?」

 

 オータムとスコールはこの話を聞いて、自分たちの考えが浅墓だということを思い知った。

 確かに代表候補生達は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の撃退作戦に参加した。だが、事実この作戦に一番大きく貢献したのは織斑一夏と篠ノ之箒である。

 代表候補生達は一夏のサポートに過ぎず、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を最終的に追い詰め、機能停止まで持って行ったのは一夏と箒に他ならなかった。

 だが、軍事用ISと戦って生き残った、という事実は変わりない。一夏と箒が銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を倒すに至るまでには、代表候補生達の協力無しでは叶わなかったのだ。サポートだとしても、それほどまでの実力を持っているのは正解なのだが、代表候補生だけで倒したわけではなかった。

 そこには『束派』が用意した白式と紅椿があった。それが無ければ、あの作戦は成功しなかったであろう。

 オータム達は少々勘違いしていたのだ。

 彼女達は実際に現場でその戦闘を見たわけではない。

 そこには『束派』の織斑一夏と篠ノ之箒がいた。一番の戦力はその二人だということを、オータム達は気づいていなかったのだ。

 

「だったら、代表候補生らは……そこまで強くないとでも言うのか?」

 

 オータムはエムに対して、呆れ顔をしながら、

 

「ふん……誰が代表候補生が弱いと言った? 私はただ、『束派』の存在を忘れていないのか、と言っただけだ。『束派』はイギリス、中国、ドイツ、フランスの代表候補生をもその戦力にしているようなものなんだよ。アイツの組織の規模を見間違えるなと言っているんだ。それに……、『束派』が福音と戦ったという情報には、何かしらの裏がありそうだしな」

 

 オータムはその言葉を聞いて、これからどういった行動を取っていけばいいのか、それを考えていた。

 そもそもの彼女たちの目的は、世界の強力なISを奪うこと。それを根源に置き、今回のシャルロット・デュノアの専用機、ラファール・リヴァイヴ・カスタムの強奪を成功させる。

 そして、エムの言っていた裏……何らかの自分たちが知らない情報についても検討しなくてはならない。

 

(この仕事が終わり次第、それについて調べる必要がありそうだな……)

 

 オータム達の仕事とはISを強奪すること。それによって世界的な兵器の独占を目的としている。つまり、オータム達の組織は、数に制限があるISを自分たちの物にすることによって、オータム達の組織は世界の脅威となり、文字通り世界征服と同じようなことをやってのけようとしているのだ。

 それが……。

 

「さて、そろそろ約束の時間になる。さあ、仕事だ。私たち『亡国機業(ファントム・タスク)』のな……」

 

 オータムはそう言うと、スコールとエムは自分のISを取り出す。いつでも装備できるように。

 タイムリミットまで残り十五分。

 彼女たち、『亡国機業(ファントム・タスク)』の仕事が始まる。

 

 

  4

 

 

 シャルロット・デュノアはテロリストの要求を飲むかどうか、未だ迷っていた。さらに時間は刻一刻と迫っている。

 残り時間は一〇分。

 それに伴い、機長とシャルロットは焦りを見せ始めていた。段々と、この二人の判断力が鈍っていく。それは自分自身でも理解していた。

 度々話し合って、休憩、また更に話し合って、休憩。そんな事を繰り返しているのだが、話は一向に前に進まなかった。

 キャビンアテンダントの一人は張りつめていてもどうしようもないと判断したのか、この二人に冷たい飲み物をあげた。クールダウンして、冷静な行動を取って欲しいというキャビンアテンダントからのメッセージだ。

 ここでシャルロットは決断をした。それは、最終手段ともいえるものであった。

 

「もう時間がありません。貨物室に行くしかなさそうですね。乗客を助けるためにも」

「しかし、それでは貴方の身が……。代表候補生なのでしょう?」

「いいえ……大丈夫ですよ。みなさんの命を守る為です」

 

 テロリストの要求は自分自身の拘束だ。つまり、デュノア社に対し何かの取引材料にしようとしているのだろう。

 貨物室に下りれば、そのテロリスト三人が待ち構えているはずだ。そこで身柄を拘束される。するとテロリストが撮る行動はデュノア社への脅しだろう。

 一夏や春樹の情報をマトモに集めることもできず、人質に取られる。そんな事実を作ってしまったら、父親との縁は切れてしまうだろう。そうなってしまえは、シャルロットには頼りにするところがなくなってしまう。たかが一六歳の少女では一人で生きていくことは難しい。やはり、彼女は親を頼りにする他なかったのだ。

 

「残り……五分……。ちくしょうっ! 機長として情けない……」

 

 機長は申し訳なさそうに、だが、機長としての尊厳を保ちながら、言葉を続けた。

 

「こうなってしまった私どもを決して許さないで下さい。元々、私たちは乗客を守らなければならない立場……。まさか、人質を差し出す羽目になるとは……。面目ない……」

 

 機長はとても悔しそうに言った。

 だが、シャルロットは気にしていなかった。何故なら、ある意味チャンスなのかもしれないと思ったからだ。

 一夏たちがやっていること、そして、葵春樹という行方知らずになってしまったかけがえのない仲間の情報を上手くいけば聞き出せるかもしれない。

 しかし、それは後付けの理由でしかなく、本心としてはこんな自分が身を挺すことで、この飛行機に乗っている人たちが助かるのなら、喜んでこの身を捧げよう。ということなのだ。

 そんな希望を持ちつつ、シャルロットは機長に一言挨拶を交わすと、機長から渡された防寒着を羽織って貨物室へと降りた。

 シャルロットは貨物室へと着くと、目の前には三人の女性が居た。

 そこには信じられない人物がそこにいた。テロリストの三人の内の一人で、少し幼さが残るような容姿をしているものの、それはあの織斑千冬にそっくりであった。

 

(なんなの……この人たち……。それにあの子は……織斑先生……?)

 

 シャルロットは疑問に思っているところを、三人の内ふわりとしたロングヘアーの女性が軽快な声でこう言った。

 

「あら、ちゃんとやってきたのね。シャルロット・デュノアちゃん♪」

 

 シャルロットは驚愕した。何故、自分の本名を知っているのか、そして、名前のちゃん付け、つまり、目の前の女性はシャルロットを女性だと知っている?

 

「なんで……僕の事を?」

 

 ロングヘアーの女性は不気味な笑い声を挙げると、段々と声色を変えていった。徐々にドスの利いた声へと変化していく。

 

「おいおい、あんな無茶ともいえる誤魔化しが通用するとでも思ってんのかよ、かのデュノア社長はよォ……。あはははは、笑わせるねェ……。バッカじぇねえの。世間の馬鹿な奴らはお前の事を男だと思っているようだけどなァ。そんなもん隠し切れるわけねえだろ!」

 

 シャルロットは押し黙った。チャンスを見つけるために。

 奴らにISを装備させたらこちらの負けである。ISを身に着けていない今がISを奪い返すチャンスなのだが、あの三人の内誰が、何所に隠しているのかがわからない。そもそも、彼女たちはシャルロットのISを隠しているのか……それすらもわかっていない状況である。

 ここは少々話をして揺さぶりをかけてみる。

 

「ところで、僕を取り押さえてどうする気? デュノア社にでも脅しをかけるの?」

「お、察しがいいねェ。そうだ、そうだよ。お前を人質に取ってお前の父親の会社と取引をするのが私らの目的なんだよ。だからさァ……大人しく私たちに付いてきてくれない?」

 

 シャルロットはこのまま大人しく付いていく気は無かった。聞き出せるだけの事は聞き出す。

 

「じゃあ、僕のラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡも既に君たちの手の中?」

「いーや、それは私たちの仕事じゃない。お前は黙って私たちに付いていくしかないの」

 

 それもそうだ。この三人に与えられた仕事はシャルロット・デュノアの身柄の拘束だ。それだけを考えて今は行動している。こうなれば、一対三のこの状況――しかもISを所持している――ではどうやっても勝ち目がない。

 

(どうする……? このまま終わるの? いや、何か、反撃の糸口を探すんだ!)

 

 シャルロットは彼女ら三人の動きを見ながら、何かしらの反撃の糸口を探していた。このまま終わる訳にはいかないからだ。

 だが、はだから見ればたかが一六歳の少女が、今テロリストの前に居て、身柄を拘束されそうになっている。そんな彼女が抵抗したところでISを持っているであろう女性三人を相手にすることは流石に無謀であった。

 確かに、彼女は銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の撃墜作戦に参加した。だが、それはISがあったからの話。ISが無ければただの一六歳の少女でしかない。

 この世界に蔓延る男卑女尊の歪んだ認識。インフィニット・ストラトスが女性にしか使えないという事実が世界に広まってからというもの、徐々に男の立場が弱くなっていった。

 それは都市部によくある現状であり、あたかも女性は男性よりもはるかに強いという認識が根深く張り巡らされている為だ。

 だが、現実はどうであろう。

 この現状、シャルロット・デュノアは国家代表の候補生だ。ISの操縦は間違いなく上手いはずであるが……その彼女からISを取り上げたこの状況では、何もできなくなってしまっている。

 つまり、いくらインフィニット・ストラトスを扱える女性だからといって、それがイコール女性全体の強さではない。その方程式は成立しないのだ。

 それをシャルロットは強く痛感していた。いくらインフィニット・ストラトスを使えるからといって、いくら代表候補生だからといって、ISがなければただの女の子でしかない。一般人よりは鍛えているから、身体能力は一般人より良いかもしれないが、やはりそれど止まりだ。

 

「さあて、こちらにいらっしゃい」

 

 もう一人の金髪の女性は色気のある声でシャルロットに近づいていく。

 テロリスト達だって、身体能力が低いわけがない。むしろその逆だ。身体能力はシャルロット以上だろう。それが三人いるのだ。シャルロット一人が抵抗をしても何の意味もない。

 そう思ったシャルロットは、力ずくで押し切る以外の抵抗方法を模索していた。

 だが、見つからない。

 相手はこの道のプロだということだろう。ド素人のシャルロットにはどうしようもない事であった。

 シャルロットは目を閉じ、

 

(もう何でもいい。誰でもいい。この状況をひっくり返すチャンスさえ作ってもらえれば何でもいい。だから……)

 

 その瞬間、シャルロットの目の前に、何かが横切るのを感じた。

 何かが来た。

 それを感じ取って目を開けようとするが、それよりも先にロングヘアーの女性の言葉が貨物室に響き渡った。

 

「お前はァ……」

 

 シャルロットは目を開ける。そこには見知らぬ水色のISがあった。いや、これはいったいなんだろうか。随分とスリムで薄い装甲だ。これはISなのかと疑問に思ってしまう。

 しかし起こった。漫画や小説のような……そんな逆転劇が起こったのだ。

 シャルロットの目の前にいるISらしきものを装備している者は、なにやら仮面をしていた。

 それがどんな機能を持つものなのか分からないが、まず第一の目的として顔を隠すためにあるのだろう。あとは何かしらのサポートする機能があるに違いない。

 

「その特徴的なISは……。お前は『束派』だな……」

 

 ここでテロリストの一人で、織斑千冬に似ている少し幼さが残る少女が口を開いた。

 

「ここで話すことは何もないよ。ただ、ここでフランスの代表候補生さんを守って、あんたらを撤退させるのが私の任務だからね。じゃあ代表候補生さん、上で待っててね」

 

 

 水色のISを身に纏った女性は素早く貨物室のドアへと移動し、ドアを開けた。

 するとどうなるか、吸い込まれるようにしてテロリストたちは外へと投げ出されていく。

 シャルロットはとっさに上へとあがる梯子につかまり、外へ投げ出されぬように上へと登ったが、それからの事は分からない。

 機長が急いでシャルロットの下へと駆け寄り、大丈夫かと声をかけられた。そしてこう言ったのだ。

 

「おそらくこれで大丈夫だ。先ほど助けに入った人物は言わば警察みたいなもんだそうだ」

 

 警察みたいなもの……。それはいったい何なのかわからなかった。軍人にしては口調が軽かったし、声は機械のような感じがした。おそらくあの仮面には変声機能があったのだろう。

 そこまでして自分の身元を隠そうとするということは、何かしらの事情があるということだ。

 シャルロットは先ほどの会話を思い出した。

 

『束派だな……』

 

 というテロリストの言葉。それは……まさかとは思うが、“束”と言う言葉を聞くと一人の人物しか思い浮かばない。ISに深く関わっており、こういった暗部的な行動をしている人物。

 そう、篠ノ之束のことだ。

 シャルロットは何が何だかわからなかった。

 一夏と箒、そして春樹がその篠ノ之束と何らかの繋がりがあるのは確かなのだ。

 あの銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の撃墜作戦においての一夏と春樹。あの二人とあと一人、篠ノ之箒にはなんらかの秘密があるはずなのだ。

 そして、先ほどの水色の奇妙なISを身に纏った人物……。

 

(あのISは……まさか……)

 

 シャルロットの中であのISと一致した。スリムで装甲が薄いISは……春樹の熾天使(セラフィム)と一緒だと。

 

(まさか、春樹は……)

 

 シャルロットの予測は次々へと確信へと変わっていく。

 

 

  5

 

 

 水色のISの正体はもちろん更識楯無である。

 彼女は、というか『束派』はこのテロが起こる事を事前に知っていたのだ。

 その情報が事前に自分たちの下へと入っていた。楯無はシャルロット・デュノアが搭乗するする便に乗り込み、このテロリスト、『亡国機業(ファントム・タスク)』が動き出すのを待っていたのだ。彼女らの前にシャルロットが現れ、少し油断しているその瞬間を。

 オータム達は飛行機から外へと投げ出された。素早く楯無は貨物室のドアを閉め、これ以上の貨物室の荷物が飛び出すのを、『亡国機業(ファントム・タスク)』が飛行機に戻るのを防ぐために。

 落ちた荷物は『束派』の専門の班が回収を行う。貨物室で何かが起こった事を悟られないために回収した荷物はその専門の班が空港に届けに行く。

 そして戦闘班の一人である更識楯無が文字通り戦闘が必要になった場合、それを行う。

 オータム、スコール、エムはそれぞれ自分のISを装着する。

 オータムのISは背中に八本の足があり、エムのISはあのセシリアと同じくビット装備があり、バイザーをかぶっていた。そしてスコールのISは特に目立った装備こそないが、禍々しい雰囲気を醸し出していた。

 

「さて、『亡国機業(ファントム・タスク)』のみなさん。こっからいなくなって欲しいのだけれど……頼めるかな?」

「そんな要求呑めるわけねェだろうがよ!! こっちだって仕事でやってんだ。三対一のこの状況じゃァ、こっちの方が有利に決まってんだ。お前の方こそこっからいなくなってもらう」

 

 オータム、スコール、エムの三人は楯無を囲むようにして動き出す。

 確かに三対一のこの状況では、明らかに楯無の方が不利に見える。だが、それは操縦のテクニックで人数の差を埋めていた。

 さらにこの装甲の薄いISは操縦者が安全にISを動かすための装甲部分を取り外したものであり、このISは完全に戦闘の事だけを考えて作られたものである。したがって、戦闘に限りこのISは通常のISの性能を凌駕している。

 『亡国機業(ファントム・タスク)』の三人は一斉に楯無に対し発砲を行った。

 オータムの背中の八本の足から実弾を放ち、スコールはレーザーライフルで攻撃、エムは大型レーザーライフルからの射撃を行った。

 だがしかし、三方向からの攻撃にも怯まずに楯無は攻撃を回避してまずは移動し、槍の武器である蒼流旋(そうりゅうせん)を片手にスコールに突撃した。

 そのスピードはとても速く、スコールでも反応するのに一苦労だった。

 スコールはそのISの特徴的な装備である金色の繭を展開して楯無の攻撃を防御、さらにオータムはそのISの捕獲用装備、エネルギー・ワイヤーで楯無の事を拘束しようとしたのだが、その願いも叶わず、楯無はそのスピードを武器にそれを回避する。

 

「ちぃ、ちょこまかとウゼェ奴だなァ……!!」

 

 オータムは楯無のスピードを見て思わずそんな言葉を発言してしまった。

 そんな言葉を発しているのも束の間、槍に内蔵してあるガトリング砲をオータムに向けて発射したのである。

 無数の弾がオータムを襲うのだが、それはスコールの金色の繭で防がれる。どうやらスコールは他二人に対してサポートする立場のようだった。

 

「すまないな、スコール」

「いいえ、お礼には及びません、オータムさん」

 

 オータムとスコールがそんな軽い会話をしている最中、エムはレーザー・ガトリングとビットによるレーザー攻撃を楯無に放っていた。弾幕のように放つレーザー。しかし、楯無は慌てる様子など全くなく、冷静にその弾幕を回避していた。

 

「ちぃ、速い、速すぎる……。流石は篠ノ之束がチューンした機体と言ったところか」

 

 その異常な反応速度とIS自体の速度に翻弄されるエム。

 更に楯無は接近しながらガトリングでエムを攻撃するが、その隙を突くようにオータムとスコールは楯無にレーザーで砲撃する。がしかし、それはアクア・クリスタルによって作られた水のヴェールによって防がれる。

 楯無の移動しながらも正確な攻撃はエムにヒット。シールドエネルギーを奪っていく。

 

「ほらほら、そんな鈍い動きをしていたから当たるんだ!!」

 

 楯無は余裕の声、そして相手を煽る言葉をあげる。そして、蒼流旋の一突きがエムに入り、そしてガトリングガンの弾丸をお見舞いしてやった。

 

「なっ……。ふざけるなぁぁぁ!!」

 

 戦線を一時離脱するエム。だがそのすぐ後方にはオータムとスコールの姿があった。

 

「エムばっかりに気を取られてんじゃねえよォ!!」

 

 オータムの背中に装備されている八本の足が伸びていき、様々の方向から先端の鋭い爪で楯無本体……ではなく、水のヴェールを発生させるアクア・クリスタルを突き刺した。

 

「なっ!?」

 

 楯無は思わず声が漏れた。唯一の防御手段が失われてしまったのだ。後はISが元々持っているシールドエネルギーにしか防御に関しては頼ることが出来なくなった。

 

「お前の防御手段さえ無くしてしまえば――こっちのもんだァ!!」

 

 更にオータムの背中の足が楯無を襲う。が、このままやられる楯無ではなかった。

 たかがアクア・クリスタルという防御手段が破壊されただけで動揺し続ける彼女ではなかった。すぐに冷静な判断を下して、オータムの攻撃範囲外へと脱出。

 すぐに次の攻撃に移る用意を始める。

 四連装ガトリングガンでバックしながら弾丸を発射していく楯無。

 

(あのバイザーのISは落とした……あとは!!)

 

 残り二機を落とせば、あとはシャルロットを無事にデュノア社に届けるだけである。

 だが――

 

「撤退しましょう。エムがああなってしまっては何をするかわかりません」

 

 と、スコールは突然そんな事を言い出した。

 

「ちぃ!! 行くぞ、スコール」

 

 オータムもそれに渋々同意し、そこから立ち去ってしまったのだ。

 

(エムがああなってしまったら……? どういうこと?)

 

 いったい何がどうなっているのか、それは現状では楯無には分かるはずがなかったのだ。情報があまりにも少なすぎる。

 分かっているのは、彼女たちは『亡国機業(ファントム・タスク)』のメンバーの一員だという事と、その組織の目的が世界中のISだという事ぐらいである。それ以外に何が起こっているのか、それは現在調査中だ。

 サポート班が飛び散ってしまった荷物の回収が終わったことを確かめると、彼女たちはフランス、パリのシャルル・ド・ゴール国際空港へと向かった。荷物を届けるというのともう一つ。

 楯無にはもう一つ重要な任務が残っている。

 

 

  6

 

 

 フランスに到着するまでの一〇時間、何のアクシデントもなくフランスへと無事に着いた。

 おそらくはあの水色のISがテロリストの撃退に成功したのだろう。

 それからフランスの空港に着いたシャルロットは自分の荷物を無事に受けとった。

 あのとき、水色のISが貨物室のドアを開いたおかげで中の荷物のいくつかは外へと投げ出されていたのだが、しっかりとそのフォローが出来ているのかは分からない。

 だが、自分の荷物が無事に帰ってきてはいるし、しっかりとラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが自分の手元に戻ってきたということは、あの水色のISの人はしっかりとあのテロリストを行動不能にし、捕まえることに成功したのだろうと推測する。

 こうやって身の安全を改めて自覚することによって気付くことがある。あのような相手に生身で挑むだなんて、あのときは追い詰められていて判断がおかしかったのをいま冷静になって初めて気付く。

 しかししっかりと専用機が手元に帰ってきて本当に良かった。

 代表候補生等だけに渡されるISの専用機。それは莫大なコストをかけて開発しているものであるのだが、それを奪われたなんて事は冗談では済まされない事なのである。それほどまでのものが今しっかりと手元にある。

 これから彼女がしなくてはいけないのは警察による事情聴取などだ。あのテロの中にいた重要参考人である彼女はそれを受ける必要がある。

 シャルロットは警察とともにしかるべき場所へと向った。

 だがそれが終わって父の下へと行くのがとても怖くなった。本当にこのまま日本に戻りたいくらいなのだが、それでは何の解決にもならないし、デメリットばかりを生成する原因となる。

 ここは堂々と父親に今回のテロについても話さなくてはいけない。いや、この事情聴取にあの父親も来るだろう。シャルロットの保護者として。そうなったら、冷静に、何を言うべきなのかをしっかりと考え、そして父親に報告するしかなかった。

 

(こればっかりは仕方がない……しっかりと事実を伝えないと……)

 

 シャルロットはパトカーに乗り、そのまま警察の厄介になることになった。


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