ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第一章『友達? -Shopping-』《葵春樹君かな?》

  1

 

 学園に着いた四人は荷物を部屋へ運び終わると早速シャルロットとラウラに会いに行くことになった。実は事前に会うことを約束していたのだ。二人は食堂で待ってくれているはずである。

 一夏は先攻して食堂へと向かっう。

 彼ら彼女ら四人は食堂へと着くとそこにはシャルロットとラウラが既に待っていてくれていて、シャルロットはこっちこっちと手招きをしてくれた。

 

「遅いよみんな、待ちくたびれちゃった」

 

 シャルロットはため息をついて、一夏の方に目をやった。それを見た一夏は「悪いな」と両手を合わせてシャルルに謝ると、みんなは食堂の椅子に座ってテーブルを囲んだ。

 そして、一夏が話を始める。

 

「まぁ、あれだな。シャルルとラウラにはもう伝えてるけど、コイツが凰鈴音(ファン・リンイン)だ。仲良くしてくれ」

「凰鈴音よ。よろしくね、デュノアさんに、ボーデヴィッヒさん!」

「うん。よろしくね、凰さん」

「よろしく頼む。凰鈴音」

 

 同い年の子が自分に対してわざわざ丁寧な言葉で接してくるとなんだか気持ち悪さを感じる彼女。すぐさま鈴音はそのことについて話す。

 

「そんなにかしまらなくていいって。鈴音でいいわよ。あ、一夏や春樹、箒が言ってるみたいに鈴でもいいわよ。とりあえず、敬語はやめてくれれば。だから、二人とも名前で呼びたいんだけど……いいかな?」

「うん、別に構わないよ」

「私も構わん」

 

 鈴音の性格は一夏達に聞いた通りだった。とても人懐こくて、しかも明るくて、誰とでも仲良くできる。そんな子だ。

 

「そういえば、もう少しで臨海学校ね、楽しみだなぁ海」

 

 その言葉にシャルロットはドキッとしてしまった。同じく一夏もその鈴音の発言にはドキッとしてしまった。なぜなら、シャルルと名乗り、男と偽っているが、実は女性である。そのことは一夏と彼女の二人だけの秘密である。もしこれがみんなにばれてしまえば……。

 今度行く臨海学校は専用機持ちの新しいパーツをテストする貴重な場であるが、その一日目は海で自由に遊んで良いことになっている。

 

 シャルロットは男として過ごしているし、そのせいかいろんな女の子から一緒に泳ごうと誘いを受けるだろう。

 しかし、ただ単に断り続けても不審に思われるだろうし、無理やり連れて行かれれば女だという事がばれてしまう。かと言って彼女が肌を晒すわけにはいかない。特製のコルセットで胸を押しつぶして、胸のふくらみを隠しているのだ。コルセットなどみんなに見せるわけにもいかない。

 なら、どうすればいい?

 一夏とシャルロットは二人揃ってそう考えていた。

 

「どうしたんだ、二人とも」

 

 ラウラは二人の不振な態度に疑問を持ったので聞いてみた。

 

「え、な、なんでもねぇよ」

「う、うん。なんでもないよ。臨海学校のことすっかり忘れていただけ。あはは……」

 

 あながち嘘ではない。確かにシャルロットは臨海学校という行事を忘れていた。覚えていたなら事前に対策は練っているはずである。臨海学校に行くまであと五日、それまでに何かいい考えを思いつかなければならない。

 

「う~ん、病院から一夏は様子が変なよねぇ……。あのときはこの二人の話題になったときに動揺していたみたいだし、今回はシャルルと一緒に動揺しているし……。あんた達、何か隠し事でもあるんじゃないのぉ?」

 

 さすが凰鈴音、鋭い。

 核心を突かれてしまい更に動揺しそうになる二人を春樹がフォローに入る。

 

「その辺にしておけ鈴。二人が困ってるじゃないか、あんまり隠し事を詮索するもんじゃないぞ?」

「うん、春樹の言う通りだ。鈴、その辺にしておこうではないか。誰でも話したくない事や知られたくない秘密ぐらいあるだろう」

「分かったわよ、ごめんね二人とも」

 

 春樹と箒に怒られてしまった鈴音は素直に謝った。

 その後も何分か話は続いたが、鈴音の荷物のまとめもあるので一回お開きになった。箒とラウラは鈴音についていきお手伝い。そして男である一夏と春樹とシャルルは適当にやっていろ、という事だった。

 シャルロットと一夏は自分の部屋へと戻るととりあえず五日後に迫る臨海学校の対策を考えなければならない。

 

「どうしよう一夏! 僕このままじゃ……」

「まぁ、落ち着け。考えるんだ。要するに女性の身体の特徴的な部分をみんなに分からないようにすれば良いんだろ」

「う~ん、僕のこの胸は特製のコルセットで隠してるからね、そのコルセットが見えないようにできればいいんだけど……」

「なんか、服の様な水着ってないのかね?」

「調べてみようよ」

 

 一夏は部屋に備え付けてあるパソコンの電源を入れ、検索サイトを早速開き、男性用の水着をチェック。自分が買うものも考えつつ、シャルルの身体を隠せる且つ似合いそうなものを探していく。

 色々と検索ワードを考えながら色んなサイトへと飛び回り、そして一つの回答を見つけたのだ。

 

 その名もトップス水着。

 上半身に着る水着であるが、シャルロットのこの状況にはこれ以上ないぐらいの適した水着であった。この水着は日焼けも軽減したり水から上がった後の冷え感も抑えてくれる。これなら彼女のコルセットを隠しながら水着になる事ができる。

 しかもこれまたオシャレなものもあるので着ていても何の違和感もないはずだ。

 

「これなら何とかなるんじゃないか?」

「そうだね、でもここら辺に売ってるのかなぁ?」

「明日にでもショッピングモールの方へ行ってみるか?」

「え、一夏と一緒に?」

「ああ、明日は日曜日だし。俺も水着買っときたいからな」

「じゃあ、明日ね……」

「おう。……そろそろ夕食の時間だな。食堂にでも行くか」

「うん!」

 

 シャルロットはとても嬉しそうに返事をした。いつも男のフリをしている彼女だが、そもそも女の子である。気になる男の子と一緒にお出かけともなれば、テンションが上がってしまうのも仕方が無いだろう。なんだかんだでまだ一五歳の女子高生なのだから。

 

 

  2

 

 

 一方、春樹はラウラと一緒に夕食を取ろうとしていた。二人は手に夕食を持ちながら空いてる席を探していた。

 

「とりあえずラウラ、鈴の手伝いお疲れな~」

「ああ、鈴は、アイツは明るい奴だな」

「そうだろ? アイツは小学校から明るくて元気な奴だったからな」

「そうなのか。なら楽しい日々を小学生のときに送っていたのだろうな……」

 

 ラウラは少し寂しそうな顔をしていた。彼女は生まれが特殊で戦う為だけに生まれる事になった遺伝子強化素体である。彼女は友達というものを知らないまま生きてきたのだ、春樹と知り合う前までは……。

 春樹は自分の小学生の頃、ラウラがどんな生活を送っていたのか、はっきり言って想像できない。だが、この今のラウラの表情を見るなりあまりいい思い出がなかったのは確かであった。

 

 では、どうすればいい?

 

 答えは簡単だ。これから友達――春樹や一夏、箒にセシリアに鈴にシャルルと共に良い思い出を残せばいい。このIS学園の三年間、この貴重な学校という時間を思う存分に楽しんで、思い出を作っていけば良いのだ。

 

「ラウラ、とりあえず座ろうか。お、あそこ空いてるみたいだな」

「ああ、そうだな」

 

 二人は空いているテーブル席にお互いに向かい合う形で腰掛けて、そして春樹が、

 

「もう少しで臨海学校だけど、ラウラは水着とか持ってるのか?」

「水着だと? 学校指定のものしかないが……」

「そうなのか、もしあれだったら明日一緒に買いに行かないか?」

「一緒に……?」

「ああ、町の方に出て買い物行こうか」

「あ、ああ。そうだな、行こう!」

 

 ラウラは物凄く嬉しそうな表情をしながら春樹の事を見つめた。それに春樹もラウラのその表情につい微笑んでしまう。すると近くからとある女性の声が聞こえてきた。

 

「あ、あの……今の話――」

 

 その声の主はセシリア・オルコットであった。どうやら今の話を聞いていたらしい。彼女は一緒の席で食事してもいいかと聞き、了解を取った後に春樹の隣に座る。

 

「で、なんだっけ、セシリア」

 

 春樹は話の事を聞くと、

 

「あ……。先ほどボーデヴィッヒさんと水着を買いに行くと言ってましたよね? もしよかったら、わたくしもご一緒させて頂いてもよろしくて?」

 

 セシリアは若干上ずった感じな声でそう言った。とても恥かしそうな感じで春樹に聞いてくる。春樹は特に問題はないし、もしかしたらこういう事に疎いラウラにアドバイスをしてくれるかもしれないと思い、一緒に行ってもいいかな? と思った。もとより断る理由もないのだが……。

 

「大丈夫だよ」

「本当ですの!?」

「ああ、じゃあ明日な。明日の一〇時に出発だ。いいか、二人とも」

「ええ、分かりました」

 

 セシリアは本当に嬉しそうに春樹を見つめて笑ってくれたが、ラウラはぶっきらぼうに「分かった」と答えただけだった。拗ねている様に見えたが、春樹の事はしっかりと見つめていた。

 しかし、春樹はそんな事も気付かずに食事に戻ると、そこに現れたのは一夏とシャルルの二人だった。

 ラウラは二人が来たのに気付き、二人を見るとラウラはなんだか嬉しそうな表情をしているシャルルに気がついた。

 

「なんか嬉しそうだが、なにかあったのかデュノア?」

「え!? あ……なんでもないよ!」

「そうか……」

 

 あからさまに焦りを見せたシャルロットにラウラは不振に思いながら彼女を見続けた。

 一夏は春樹の隣に座り、シャルロットは一夏の前に座る。

 すると一夏はシャルロットに向かって、コソコソと小さな声で話しかけた。

 

「おいシャルル、何か女の子ぽくなってたぞ、気をつけろ」

「うん、ごめん……」

 

 シャルルも小さなかすれた声で一夏に謝った。その光景をすぐ近くで見ていた春樹は「どうしたんだ」と問うと、「なんでもない」とたぶらかされてしまった。

 しかし春樹の表情はとても何かを知っているような感じで一夏の方を見ていた。

 

(な、なんだよ春樹……。まさか、シャルルの秘密を知ってるんじゃあ……)

 

 一夏は春樹の方を見るが、何事もなかったかのように夕食を口に運んでいたので一夏は春樹の事をしばらく気にかけながら自分も食事を始めた。

 

「そういえばセシリア、お前なんか凄く嬉しそうだけど何かあったのか ?」

「え? あ、それはですね――」

 

 そうセシリアが言いかけたとき、またみんながよく知る二人が現れた。

 篠ノ之箒と凰鈴音である。

 

「なんだ、みんな一緒に食事を取っていたのか」

「なによみんな。言ってくれればいいのに」

 

 鈴音は不機嫌そうに言葉を吐いて、そしてまた二人も夕食を持ってテーブルを囲むように座る。箒は一夏の隣に、そして鈴音はシャルルの隣に座った。

 

「ま、みんなでこうやってご飯食べれるなら、いっか」

 

 鈴音はやはりとても優しい子だ。鈴音はいま箒から相談を受けている。もちろん一夏についてである。以前は春樹に頼っていたが、やっぱり箒が転校してしまった後に入れ替わるかのようになったが、その時から鈴音は一夏の事はよく知っているのだ。

 一応、彼女も中学校二年生で転校してしまい一夏と春樹とは離れ離れにはなってしまったが、小学校から中学校まで長く付き合っていた仲だ、大抵の事はお互いに結構分かってしまう。

 

 しかも鈴音は女の子だから、そこからの視点の方が箒にとっても良い事だろう。やっぱり男からだけの言葉より、女性からの言葉も聞いたほうが断然良い。春樹もこのことには賛成してくれた。鈴音なら心配は要らないと、自分なんかより役に立ってくれると言ってくれた。

 しかし、鈴音には好きな人はいないのだろうか、そう思う箒。

 

 自分には色々と協力してくれる鈴音だし、自分の親友だ。彼女とはお見舞いを繰り返しているうちに自然と仲良くなっていったが、一方的に相談に乗ってくれるだけで、彼女からの色恋沙汰の話はしたことがなかった。

 鈴音も年頃の女の子だ。恋の一つや二つあってもおかしくはない。彼女は今シャルルの隣に座っている。確かに彼は紳士的でとても良い人であるが、見たところ彼に対しては特別な感情を抱いてはいないと思われる。実際の所、鈴音について箒には知る由もない。

 

 特に変なアクションも起こさず、楽しそうにみんなと話して食事を取っている。彼女は恋愛より友情をとる人なのだろうか、箒の脳内にはそんな思考が流れる。

 

「ん、どうしたの箒?」

 

 鈴音は夕食に手もつけず、何か考え事をしているような顔をしている箒に声をかけたが、箒はなんでもない、と答えて食事を取り始める。

 

「なにかあったら私が相談に乗ってあげるからね」

「うん。ありがとう鈴」

 

 男二人に女五人。この七人はその後も笑いが絶えない夕食が続いた。

 その光景は正に青春という言葉がピッタリで、高校を卒業して大学やら就職した人がもしこの光景を見たなら、もう一度高校生活に戻りたいな、と思うような……そんな微笑ましい光景だった。

 

 

  3

 

 

 次の日の七月二日、日曜日。シャルロットと一夏はショッピングモールへと来ていた。

 IS学園は外出する際も制服の着用が義務付けられているので、二人ともIS学園の制服である。

 シャルロットはちょっぴり緊張気味。それもそのはずで、シャルロットも男と偽ってはいるものの、女の子であるという事に違いはないからだ。

 彼女はとある家庭の事情があり、男としてIS学園に編入してきた。その事情とは織斑一夏と葵春樹のデータを取ってくる事であり、接近しやすくする為に男に扮していたのだが、偶然シャルルの裸を見てしまい、一夏には女性である事がばれてしまっている。だから、彼と二人だけのときは女の子らしいところをちょっとは見せている。

 

 しかし、仕草などはしっかりと仕込まれているのか男そのものだが、一夏にバレてからはどことなく女の子らしいところがチラホラと見えてしまっている。その度に一夏に注意されているシャルル。

 今日、シャルロットは一夏と一緒にお買い物に来ているわけだが、誰が見ているのかもわからないので、とりあえず“男の子”であるシャルルでいなくてはならない。

 しかし、男の子とデートなんて事を経験した事がないシャルロットは緊張してしまって、動きがぎこちなくなってしまっている。

 

「シャルル、どうしたんだよ。緊張でもしてるのか?」

「え……な、なんでもないよ。さ、水着買いに行こうよ!」

 

 シャルルは誤魔化すように先行して歩く。

 ふと一夏が立ち止まり、

 

「シャルル、悪いけど先に行っててくれるか? 俺、他に買っておきたいものがあるんだよ」

「え……。うん、分かった。早く追いついてよ!」

「おう!」

 

 シャルロットは先に水着売り場の方へと歩いていった。一夏は彼女が見えなくなるまでそこに立ち止まり、そして、逆方向へと歩き出した。

 なぜ、一夏はこんな事をするのか。それは臨海学校二日目の七月七日は篠ノ之箒の誕生日なのだ。

 だから、一夏は彼女に送るプレゼントを買うためにこのショッピングモールへと来た。はっきり言うと、一夏にとって水着はおまけのようなものである。

 色んな店を見て回り、箒には何をプレゼントすればいいのか悩む一夏。

 

(う~ん、どんなプレゼントがいいんだろうか……。そうだ、新しいリボンなんかどうかな?)

 

 一夏は箒の事を思い出し、彼女のポニーテールを思い出す。彼女はリボンで髪をまとめている。だから、新しいものをプレゼントするのもいいかな、と思ったのだ。せっかく再会できたし、再会してから最初の誕生日なのだから。

 

(そういえば、あのリボン――)

 

 かすかに覚えている小さい頃の思い出。箒がリボンを変えたりしていなければ、いま彼女が使っているリボン一夏がプレゼントしたものだったはず。だが、記憶が少し曖昧だ。はっきりと思い出せない。

 

(あのとき…………。あ、駄目だ、思い出せない。まぁいいや、今は箒へのプレゼントを買うことだけを考えればいいんだ)

 

 一夏はそう思って、そういった女性向けのものが揃っているお店を探して、中に入る。やはり女性向けだけあって可愛らしいものが沢山ある。すると、女性店員が一夏に話しかけてきた。

 

「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」

 

 その女性はとても若くで十代から二十台前半だろうか、エプロンを身に着けている。

 

「あ、すみません。髪を留めるリボンってありますか?」

「はい、ございますよ」

 

 若いがとても礼儀正しい女性店員。やはり、日本人のお客に対する接待というのはとてもしっかりしているのが分かる。外国の人がこの礼儀正しさに驚き、感心しているとは……外国の店員さんはどんな接待をしているのだろうか?

 一夏はリボンのカラーとデザインを良く見て箒が似合うと思うものをじっくりと考えている。

 篠ノ之箒はあの専用機、紅椿のあの赤がとても似合っていたので、やはり赤が似合うかな? と思った。

 だが、赤と言ってもその赤色のリボンだけでまた何種類かあるのだ。またそこで悩んでしまう。

 すると店員さんが、

 

「女の子へのプレゼントですか?」

「あ、はい。幼馴染への誕生日プレゼントです」

「そうなんですか。その女の子には赤が似合うのかな?」

「そうですね。でも、赤のリボンでも何種類かあって何が良いのか……」

 

 すると店員さんは微笑んで、

 

「ではこちらなんかどうです? 最近の流行なんですよ、こういったシンプルかつ可愛らしいデザインのものが」

 

 そう言って店員さんが手に取ってのは、ちょっと細めの赤色のリボンだ。特に凝った模様が入っているわけでもなく、だけどこれを箒がつけたら……と考えると、とてもいい感じに思えた一夏はそれを買うことを決意。

 

「じゃあ、それ買います」

「毎度ありがとうございます。では、プレゼント用の包装にしておきますね」

「はい、ありがとうございます」

 

 一夏はそのお会計を済ませて赤いリボンが入っている紙袋を受け取った。そして、その店から出るなりシャルロットが待っている水着売り場へと向かおうとすると、とある人物に出会う。その男は、一夏の見知らぬ男性。だが、その男は一夏の事を知ってるかのような目で一夏を見てくる。

 少し細身で、顔はイケメンと言ってもいいんだろうか……。髪は日本人のような黒い色で、見た目からしたらとてもいい人っぽい雰囲気がある。

 その男は一夏に近づいて、

 

「もしかして……葵春樹君かな?」

「え?」

「ああ、いや。人違いならいいんだ。そのIS学園の制服で男子って言ったら片方の手の指で数えれるしかいないから……そうじゃないかな、と思ってね」

「春樹と知り合いなんですか?」

「まぁ、知り合いって言うか……ある意味同じだね」

 

 その男は意味ありげに言った。という事は一夏の中で仮説ができる。この男は葵春樹となんらかの繋がりがあり、そして知り合いのようなものである。つまり、篠ノ之束の組織に何らかの関係があるということ。

 だが、この男を仲間と決め付けるのも早い。敵の可能性も考えなくてはならない。束さんや春樹が戦っている暗部の人物という事もありえるのだから。

 

「そうなんですか、でも今日は春樹とは一緒じゃないんで……」

「そうなんだ。参ったな……まぁいいや、ごめんね、引き止めちゃって」

「いいえ、それじゃあ……」

 

 一夏は逃げるようにそこから立ち去り、男から距離を取る。

 

(なんだ、アイツ……春樹に教えないといけないな)

 

 一夏は水着売り場へと向かった。

 

 

  4

 

 

 一夏はメンズの水着売り場へと来ると、そこには春樹がいた。一夏は先ほどの男の事を早速伝えようと思ったが、ここで話さずIS学園に戻ったときに話した方が安全だと思い、先ほどのことはここでは話さないことにした。

 

「お、一夏か。お前もここに来てたのか」

「ああ。春樹は一人か?」

「いいや、ラウラとセシリアとで来たんだ。いまは二人仲良く水着を選んでいるだろうよ。お前こそ一人か?」

「いいや、シャルルと来たんだ」

「そうか、アイツならさっきあっちで見かけたぞ」

 

 春樹が日々さす方向、それは昨日シャルルと二人で色々と調べたトップス水着のコーナーであった。

 

「そうか、じゃあ合流してくるよ」

「ああ、じゃあな」

 

 一夏はトップス水着のコーナーへと歩いていった。そしてさっさと水着を買った春樹はセシリアとラウラを待つだけだ。

 とりあえず状況を確認しようかな、と女性用水着売り場へと行ってみると、ラウラがセシリアに翻弄されていた。ラウラに似合あう水着は何なのかとあれこれ色んな水着を合わせていた。

 

「お~い、まだなのか?」

 

 春樹は二人に向かって言うと、セシリアは素早く春樹の方を見るなり駆け寄ってきて春樹に詰め寄る。

 

「春樹さん! ラウラさんの水着はどんなのが似合うと思います?」

「って言われても……。そうだラウラ、部隊のみんなに聞いてみたらどうだ?」

「え、ハーゼ部隊のみんなにか?」

「ああ。なんだかんだでお前は部隊長だからな。みんな、お前の事はしっかりと考えてくれるだろうぜ」

「そうだな」

「おう。じゃあ、俺はあっちで一休みしてるからな」

 

 そう言って春樹は休憩所の方を指差し、そしてそこに向かった。ラウラは携帯電話を取り出して電話をかける。

 電話をかけた先はラウラが隊長を務めているIS部隊、シュヴァルツェア・ハーゼの副隊長クラリッサ・ハルフォーフ大尉の携帯電話である。

 

『もしもし、どうかしましたか、隊長』

「あ~、実はだな。今度臨海学校に行くのだが、そのときの水着を買うかとになってな。そこでどんな水着を買えばいいのか分からん。そこでハルフォーフ大尉からアドバイスを貰いたい」

『なるほど……。では隊長が今所持している水着は?』

「学校指定のスクール水着一着だけだが……」

『なんですって!?』

 

 クラリッサはつい叫んでしまい、ラウラはあまりのうるささに携帯電話を耳から遠ざける。

 

「な、なんだ……ハルフォーフ大尉」

『し、失礼しました。ですが、それでは一部のマニアしか受け付けません。隊長はあの葵春樹という男性を意識しているのでしょう?」

「な、何を言う!?」

『失礼いたしました。とりあえず、隊長はこの部隊のイメージカラーである黒の水着を選んでください。黒が似合うお方というのは美しい女性である証拠。隊長にはそれだけの美しさがあります』

「う、美しい……?」

『そしてもう一つ……。選ぶ水着はセパレート型女性用水着、つまりビキニにしてください。やはり無難かつ男性には効果的!』

「な、なるほど……黒のビキニだな……了解した」

『は! 御武運を』

 

 そして電話を切るとそこにはセシリアはもういなかった、どこかへ行ったのかと思うとセシリアは凄いスピードでラウラの前に再び現れる。彼女の手には黒いビキニが何種類か持っており、「さ、早く試着しましょう」と言わんばかりの目で見てくる。

 

「わ、分かった……。試着してみるか……」

 

 ラウラはそう言って、セシリアと共に試着室へと向かう。

 

 

  5

 

 

 一夏とシャルル、春樹の三人は水着を買い終わり、後はセシリアとラウラに合流するだけだった。

 せっかくだから一緒にIS学園の戻ろうということになり、いまはその二人を探しているところだ。

 女性用水着のコーナーへ三人が行ってみると、そこには見慣れた女性が二人。一人は黒髪にすらっとした体格をしており、とても美しい女性。そしてもう一人は少し身長は低く幼さが残る体格だが、胸だけは豊満である。

 実のところ、その人物は織斑千冬と山田真耶である。先生方も臨海学校のときに着る水着を買いに来たのだろう。

 

「あれ、織斑君に葵君にデュノア君!」

 

 山田先生はいち早く三人に気付き、声をかけてくれた。三人は先生の方へと近づき、

 

「三人も水着を買いに来たんですか?」

「ええ、でもオルコットさんとボーデヴィッヒさんも一緒に来たので、そろそろ買い終わったかなと思ってこっちに来た次第です」

 

 山田先生の問いにシャルルが答えた。すると、千冬が一夏と春樹に向かって、

 

「一夏、春樹、お前らはどっちの水着がいいと思う?」

 

 彼女が提示してきた水着はどちらもビキニではあるが、色が違う。黒と白、どちらの方が良いのか……。二人は間髪いれずに答えた。

 

「「黒だな」」

 

 あまりの即答にも動揺することなく千冬も「そうか」と言ってその水着を持ってさっさとレジの方へと持っていった。

 すると、セシリアとラウラがこっちにやって来た。

 

「一夏さんとデュノアさんも来てたのですか」

「ああ、まぁな。いま先生たちと会ったところだ」

 

 すると会計を済ました千冬が戻ってきた。

 

「オルコットとボーデヴィッヒか。そうだ、みんなは昼はまだ食べてないか?」

「まだですけど」

 

 春樹が答え、

 

「俺らもまだだな」

 

 一夏が答える。

 すると千冬は微笑んで、

 

「なら、一緒に食べに行かないか? 私が奢ってやる」

「良いんですか?」

 

 シャルルはそう言うと、千冬は、

 

「ま、せっかくだからな……山田先生もいいでしょう?」

「はい、もちろん。みなさん一緒に食べましょう」

 

 すると、みんなは顔を見合わせて、「はい」と一斉に答えた。

 一夏はこのときすっかり忘れそうになっていた先ほどの謎の男についての事を思い出す。だが、せっかく春樹が近くに居るのに話す事を拒んでしまう。なんかここで話すのは危険な気がするからだ。とりあえず、IS学園に戻ったら春樹に話そうと一夏は思った。

 そして、一夏と春樹とセシリアとラウラとデュノアの五人は織斑先生と山田先生についていき、おいしいお昼ご飯を頂いたのだった。


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