ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第二章『IS部隊 -Army-』《今のはなんだ!》

  5

 

 春樹がドイツ軍を訪れて二日目、今日はシュヴァルツェア・ハーゼ部隊の教導のため、織斑千冬がこちらに出向く事になっている。

 一夏が誘拐された際に独自の情報網で一夏の位置データを割り出してくれたドイツ軍への礼として彼女はやって来た。

 IS配備特殊部隊、シュヴァルツェア・ハーゼの隊長、エルネスティーネ・アルノルトが織斑千冬を出向く。

 

「この度は私の部隊の教官を請け負ってくれてありがとうございます、織斑千冬さん。春樹君は今、基礎訓練中ですよ、覗いてみますか?」

「ああ、そうだな。見てみよう」

 

 千冬とエルネスティーネは訓練場まで歩き出した。

 エルネスティーネは横にいる元ブリュンヒルデ――とはいってもドイツが千冬と戦いもしないで手に入れた称号など実質意味がなく、“元”というのは間違っている。多くの人間が今でも織斑千冬がブリュンヒルデだと言うだろう――を見ると、やはりオーラというのだろうか、もう雰囲気から軍人顔負けのしっかりとした感じがする気がした。落ち着きがあり、どんな条件下でも戸惑う事がない。そんな人なのだろう、と。

 

 しかし、千冬は正直なところこれからの教導は不安な事でいっぱいだった。なにせ人にものを教える事など初めてなのだ。人間誰だって初めてやる事は不安だろう。それは千冬も例外ではなかった。

 

 そうこうしてるうちに訓練場のグラウンドまで来たが、そこには春樹が独壇場で走っている光景があり、それに千冬は驚かされた。彼は今まで訓練を続けてきた隊員たちをランニングで抜いているんだから。

 

「すみません、あれは春樹が周回遅れってことではないですよね?」

「はい。あれは周回遅れなんかじゃなく、本当にトップに立っているんです。彼の身体能力には驚かされました。これまでに何か運動でも?」

「いえ、やっていた事と言えば剣道ぐらいですよ」

「剣道ですか、じゃああれは春樹君の実力なんでしょうかね?」

「わかりません、でも春樹は何か強い意志と覚悟がありました。それが彼をあそこまで動かしているのかと」

「精神論ですか、でも、あながち間違いではないかもですね」

 

 するとエルネスティーネは隊員たちに千冬が来た事を教える為に声をかけた。

 

「ハーゼ部隊集合!」

 

 エルネスティーネのこの号令で隊員たちは訓練をいったん止め、一斉に彼女の前に並んでいく。もちろん春樹もそこに混ざっている。

 

「こちらの方が今日から半年の間、ISの教官をしてくださる織斑千冬臨時軍曹だ」

 

 織斑千冬は臨時ではあるが、ドイツ軍に配属する。と言う事になるので階級が与えられる。その階級は軍曹、一応エルネスティーネは大佐なので彼女の方が階級は高いのだが、まるで自分が下の階級のように接していた。やはり、かのブリュンヒルデということで恐れ多いのだろうか?

 

「私が今回貴様達を教える事になる織斑千冬臨時軍曹だ。貴様達を使えるようにするのが私の仕事。だから、厳しい訓練になるが覚悟しておけよ?」

『は!!』

 

 隊員の全ての人が織斑千冬に対して敬礼をする。そして、千冬も慣れない敬礼をして返したが、なぜか千冬はその敬礼が非常に決まっていた。

 春樹はついにここに来た千冬に胸を躍らせていた。この人が来たのならば、ISの訓練が非常に面白くなりそうだし、みんながISの操縦が上手くなるだろう。

 彼はなにかとISの訓練を見てるのが好きになっていた。自分は男だから操縦できないが、見てるだけでもなんか楽しかった。

 春樹は体力だけは自信があった。先ほどのランニングだけは自分の目標があることもあり、何があっても負けたくなかった。結果は見事トップを死守し、ランニングを終えた。

 

 しかし、この後は近接戦闘の訓練である。春樹は流石に経験がないので不安要素が沢山ある。精々春樹が今までやって来た剣道の動きを応用してやるしかない。そう思った春樹はラウラを相手にする。友達というか同い年という事もあって何かとやりやすい相手だからだ。

 

「じゃあ、お相手よろしくなラウラ」

「ああ、いくぞ春樹」

 

 二人はゴム製の模擬ナイフを片手に刺しあいを始めた。

 間合いを読み、一突き。そしてもう一突き、と春樹はリズム良く攻撃をするがラウラは軽々避ける。流石に素人の攻撃に対して涼しい顔をするラウラ。それに屈することなく攻撃を続ける春樹。

 すると、遊びが終わったかのようにラウラの鋭い攻撃が飛んでくる。春樹は間一髪でその攻撃を避けるが更に次の攻撃が飛んでくる。相手の攻撃を許さないラウラの攻撃。攻撃は最大の防御と言うがこの事だろう。

 春樹は剣道で鍛えた動体視力を生かして避けるだけで反撃の糸口が見えない。

 

「どうした? こんなものなのか、春樹!」

 

 ラウラが立ち止まってそう言うと……。

 春樹は落ち着くことにした。春樹は目を瞑る。

 

 心眼。

 

 春樹はこのスキルをもっていた。心の目で相手の動きを悟り、そして攻撃する。これは感覚のみに頼った現実的ではない戦法。しかし、春樹は剣道においてこの心眼の能力をもっていた。これには千冬と一夏、そして箒も驚いていた。なにかの悟りを得た、そういうことらしい。ちなみに一夏はもっと凄いスキルを持っていた。彼は時折動いているものがスローに見えるらしい。いつもではなく、そういうことになるときはなにか頭の中がクリアらしいが……。

 

 ラウラは春樹がいきなり目を閉じたので驚いていた。なにか気持ち悪いほど落ち着いた感じ。でも決して諦めた様子がない。何がなんだか分からないラウラはとりあえず模擬ナイフで突くが、春樹が目を瞑ったままその攻撃を避けた。そしてそのままラウラにむかって鋭い一撃を入れたが、ラウラはそれを避けて春樹にタックルする。

 春樹はその一撃に賭けていた。しかし避けられた。これにより大きく隙ができてしまった春樹はラウラのタックルを(もろ)に受けてしまう。

 

「ぐはっ!」

 

 腹に入ったのか、春樹はみっともない声をあげてしまう。そのまま豪快にぶっ飛んだ。

 

「なんなんだ、それは!」

 

 ラウラは今でも驚いていた。目を瞑っていた春樹がそのまま自分の攻撃を避けたあとそのまま的確な鋭い攻撃をしてきたのだ。あれは正直危なかった、と思うラウラ。

 そんなことよりも春樹が目を瞑ったままあれだけの芸当をしだしたのが問題である。

 

「春樹、今のはなんだ!」

「や、やめてぇぇぇぇ! お願いだから! 痛てえんだよ! ゆ、揺さぶるなぁ!!」

 

 ラウラは腹に手を当てて痛みが和らぐのを待っていた春樹を容赦なく揺さぶる。

 数十秒後、春樹は二人の間の何とも言えない空気を打ち破るべく、むくっっと立ち上がり、先ほどの心眼の説明を始めた。

 

「ふぅ……。今のは心眼って言って、心の目で相手の動きを見るといったものだな」

「なんだと? そんなことが可能なのか?」

 

 ラウラは激しく春樹の身体を揺さぶる。

 

「まあ、落ち着けよ! 一部のそういった能力をもってる人なら可能みたいだな」

「うむ。で、心の目、とはなんだ?」

「あれ、分かってなかったのか。えっと、なんて言うかな……。要するに感覚だよ。相手の殺気を感じ取り、その感覚で相手の攻撃を避けたり、攻撃したりするんだ」

「うーむ、よくわからん」

「まぁ、結構オカルト的なところがあるから深く考えないほうがいいぞ?」

「あまり納得できないが、分かった、と言っておこう」

 

 すると、千冬が大きな声で部隊全員に命令を出す。

 

「よし、格闘訓練はここで終了だ。十分間の休憩の後ISの訓練に移る。それまでに訓練場に集合せよ!」

 

 部隊の皆は「了解」というと、さっさとそこからいなくなる。各々は水分補給をしたり、汗を拭ったりとして、ISの訓練場へと向かっていった。

 

 

  6

 

 

 ISの訓練に移る。ここからはようやく織斑千冬の出番だ。

 春樹は傍らで練習の風景を見ている。

 そしてラウラが昨日の春樹のアドバイスを活かすときが来たのだ。狙撃、格闘、この二つのアドバイスを受けた彼女は昨日までの落ちこぼれではない。少しでも成長してればいいのだが……。

 織斑千冬が隊員の前に立つ。なんだか妙に決まっていた。隊員の皆も千冬のオーラには何かを感じるようである。

 

「では、いつも通りにやってみろ。そこから私は教導を入れる。ではエルネスティーネ大佐、お願いいたします」

「了解しました、織斑教官。では狙撃訓練から始める。各自、ライフルを装備し、狙撃訓練を始めろ」

『は!!』

 

 隊員たちは次々とライフルを装備してIS用射撃訓練場まで移動する。

 そして準備を終わらせた者から撃っていく。そこから織斑千冬が問題点を挙げて指導する。という流れだ。

 他の隊員たちは千冬の指導により、確実によくなっている。千冬の装備は零落白夜を使った剣術しかないが、流石はブリュンヒルデ、射撃のこともちゃんと指導している。やはり、織斑千冬を舐めてはいけなかった。

 

 そして、ラウラの番が周ってきた。ラウラはライフルを構えて昨日の春樹のアドバイスを思い出す。

 ライフルを持つとき脇を絞めて、重心を低くもつ。たったこれだけである。これだけでどれだけ違うのか、ラウラはドキドキしていた。そして、目標を目掛けて撃つ。しかし外れる。そしてもう一発。今度は当たった。

 ラウラは嬉しかった。初めてこんなにもすぐに当てることができたのだ。 

 そして続けてもう一発撃つ。

 そして、一〇発を撃ち終え、結果は十発中六発命。昨日より三倍以上、命中率は50%を超えたのだ。

 ラウラは嬉しかった。自分がこんなにも当てる事ができるなど、考えもしなかった。しかし、現実に起こったのだ。たかが六発、されど六発。他の隊員の平均が一〇発中八発ヒットの中、ラウラは遅れを取っているが、すばらしい成長であることは変わりなかった。

 

 ラウラは近くで見ているだろう春樹を探した。春樹は遠くの方で見守ってくれていた。ラウラは慣れない笑顔を春樹に見せた。

 他の隊員は驚いていた。ラウラがいきなり六発も的に当てた事、そしてラウラが笑顔を見せた事だ。いままでこのようなことはなかったのだ。“ドイツの冷氷”と言われたラウラがこんなにもやわらかくなって笑顔を見せている。

 だが、それはとてもいいことである。他の隊員がラウラがこんな風になってくれて嬉しかった。

 

 そして織斑千冬も驚いていた。聞いた話によるとラウラ・ボーデヴィッヒという人物はIS適合が低く、ISの成績はあんまり芳しくなかった、という話であったが、この狙撃訓練では聞いていた話とは違う成果が挙がっていた。

 

「すみません、エルネスティーネ大佐」

「なんでしょう? 織斑教官」

「ラウラ・ボーデヴィッヒの事なのですが……」

「ああ、実はですね、昨日――」

 

 エルネスティーネは昨日の夕食時にあった事を話した。

 葵春樹がラウラ・ボーデヴィッヒの問題点を挙げ、さらにアドバイスまでした。そして先ほどの訓練がその成果であることを。

 

「春樹が……」

 

 千冬は更に驚いていた。春樹がそんなことをしたのかと、確かに剣道では心眼を使いはじめるわ、それでもってちゃんと使いこなすわで色々と凄かったが、まさかISの事まで口出しをして、さらに問題点を直すとなると、流石に驚くしかなかった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「はい、教官」

「お前ももうちょっと落ち着いて撃ってみろ、ISの自動照準ロックシステムがあるんだから、的一つ一つを的確に狙う。そのためには標準を的に合わせたときにワンテンポ遅らせて撃て。別に早撃ちではないのだから、的確に的を狙うんだ」

「了解しました。ありがとうございます、教官」

 

 ラウラは敬礼して訓練に戻った。

 そして千冬は春樹の方を見た。ぼけーと訓練の光景を見ている彼がラウラを成長させたという事実に自分の立場が危ういような気がした千冬であったが、そんなものは気のせいだ、幻想だと思って彼女は訓練の指導に戻っていった。


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