ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第二章『IS部隊 -Army-』《どうしてこうなった》

  1

 

 春樹はエルネスティーネと共に、ドイツ軍特殊IS部隊であるシュヴァルツェア・ハーゼの練習訓練場に向かっていた。

 

「春樹君、少し緊張しているのかな?」

「はい、ただ初めてなものですから。早くこの環境に慣れたいものです」

「そうかい、さあ、そろそろ私たちの練習場だ」

 

 目の前に広がったのは黒いISが宙を舞っていたり、砲撃したり、ナイフで格闘戦の訓練をしているところだった。

 春樹はただ、この光景にすごいと思った。今まで千冬を操っているISを時々見ていたが、こんなにも近くで見るのは初めてだったから。

 そこは流石ISの部隊ということもあってか周りは女性だらけだった。男性はISの整備兵ぐらいで、こことは違う場所でISを整備してくれているらしい。

 そこにいた隊員たちはエルネスティーネの号令により集められる。一斉に、尚且つ迅速に。しかも、しっかりとした隊列になっている。流石は軍人、教育させられているだけはあった。

 

「貴様らに一つ報告だ。今回、かの織斑千冬に教官をしていただく事になった。織斑千冬は明日こちらに出向き、教導してくださる。そして、その織斑千冬の弟である葵春樹には、この半年、この隊と共に基礎訓練を行う事になる。仲良くしてやってくれ」

『は!!』

 

 その場にいた隊員たちが一斉に敬礼で返事をした。それは一寸狂わず同時に発せられている。

 

「では春樹、自己紹介を頼むぞ」

「はい。分かりました」

 

 春樹は一歩前に出て、

 

「葵春樹です。心身ともに鍛える為、皆さんと共に訓練をしたいと思っています。ちなみに自分の姓が織斑ではないのは、正確には千冬姉ちゃんの弟ではないからです。自分は織斑の家に引き取られたようなものですから、そこのところを理解したうえ、接してくれればと思います。では改めてよろしくお願いします」

 

 春樹は礼をし、今度は一歩後ろに下がった。そして、エルネスティーネは命令を下す。

 

「では各自、自分の仕事に戻れ。そして、ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

「は。なんでしょう、エルネスティーネ大佐」

 

 駆け寄ってきたその少女は銀髪で、そして右目に眼帯をしていた。それに少々身体は小柄で春樹はちょっと可愛いな、という印象を持った。

 

「ラウラ、基地の案内をコイツにしてやれ。ちなみにお前と同い年だからな」

「は。了解しました」

 

 ラウラは淡々とそう言って敬礼をした。エルネスティーネはその場から立ち去る。

 そして春樹は目の前のラウラという少女は同い年という事を知って驚いた。自分と同い年で感情を排除したようなその感じ。小柄で可愛いと思ったとしても、自分よりは年上だと、そう思っていたからだ。

 

「えっと、ラウラ……だっけ?」

「そうだが、なんだ?」

「そっか、ラウラ。これからよろしく頼むよ」

 

 と言って春樹は握手をしようと右手を差し出す。しかしラウラは行動を起こしてくれない。

 

「握手だよ、握手」

 

 春樹はそう言うが、やはり無視される。春樹は少し怒って無理やり手を握った。

 

「ほら、握手! よし、これで俺たちは仲間だな」

「え、あ、ああ……」

 

 ラウラは少し驚いてしまった。男性が自分の手を握ってきたのだ。そういう経験は今までなかったせいか、とてつもなく驚いてしまっていた。挙句の果てに焦りを隠しきれないでいる。

 それを見ていた他の隊員たちは。

 

――やるね、彼。

――あのドイツの冷氷をいとも簡単にあんな表情にさせるとは……。

――これはこれは、なにか大きな進展があるかもね~。

――おおー!!

 

 といった感じに盛り上がっていた。

 

「では、基地を案内するぞ」

「分かった」

 

 そして春樹とラウラは基地内を歩き出す。

 

 

  2

 

 

 食堂やISの格納庫及び整備場であるハンガー。そして、このIS隊員が寝る場所である部屋。それは一つの大部屋であり、そこでシュヴァルツェア・ハーゼの隊員たちは寄り添って寝るのだという。

 春樹はさっきの整備班の男もこの部屋で寝泊りしているのかと聞くと、ラウラはそれを肯定。整備員の少ない男とも一緒にそこの部屋で寝るし、着替えも誰がいようが構わずやると聞いた春樹は驚いた。だが、ラウラから戦争の前線に出たらお風呂でさえ男女ともに入るから、これくらいの羞恥心はどうってことはないと補足をされた春樹は、言われてみれば仕方の無い事だな、と納得した。

 そして、一通り基地内の案内を終えた春樹。

 

「まあ、こんな感じだな。質問は?」

「ないぞ、ありがとうラウラ」

「だから気安く名前で呼ぶなと言ってるだろう」

「でも、これから基礎訓練だけだけど一緒に訓練するんだ。仲間という意識を持たないと駄目だろ、違うか?」

 

 ラウラは少し春樹の目を見てから、

 

「ふん、分かった。私のことはラウラと呼んで構わない。だから、お前の事も……名前で呼ばせてもらうぞ」

「うん、了解。改めて言う。葵春樹だ」

「あ、ああ……。は、春樹」

 

 ラウラは少し恥かしそうに春樹の名前を呼んだ。少し顔を赤く染めているようにも見えた。春樹はそれを見て男の名前を呼ぶのは慣れていないのかな、と思った。

 

「そうだ春樹、これからISの訓練が始まる。お前も見に来るか?」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

 二人はISの訓練場へと歩き出す。

 

「なあ、ラウラってISの操縦どうなんだ?」

「私か? そうだな……あまり上手い方じゃない」

「そうか……。でも大丈夫だ。明日には千冬姉ちゃんも来るし、たちまちラウラも一流のIS乗りになれるだろうよ」

「そうか? 私も、上手くなれるだろうか?」

「多分な。織斑千冬を舐めたらだめだよ。あの人は凄いんだからな」

「そうか、期待しよう」

「ああ」

 

 そんな会話をしていたらISの訓練場へついた。春樹は遠くから練習の光景を見つめる。

 

 インフィニット・ストラトス。通称『IS』。

 

 それは女性しか使えないというパワードスーツ。春樹の幼馴染の篠ノ之箒の姉である束が四年前に開発、発表した最強の兵器だ。このISは同じく四年前に起こった白騎士事件がきっかけで一部、限定的ではあるが軍事的にも利用されている。基本は競技として使用されているが、ISを使った凶悪な事件に関しては軍のIS部隊が動き、ISの使用が特別に認められる。ISはISでしか倒せないからだ。

 

 もちろん、基本的に軍事的にISを使用することはアラスカ条約――正式名称IS運用協定――にて禁止されている。

 隊員のみんなはISを装備して射撃武器を装備している。標準的な装備としての実弾装備のライフルだ。狙撃訓練だろうか。

 

 エルネスティーネの合図で目標を撃っていく、的は立体映像で写されたISである。それを的確に撃ち抜いていく隊員たち。特にエルネスティーネは階級が大佐でこの隊の隊長だけあって非常に上手かった。

 

 そして問題だったのは、ラウラ・ボーデヴィッヒ。彼女だった。

 先ほど春樹に言っていた通り、あまり上手くはなかった。的には中々当たらず、十発撃って二発当たるかどうか、ラウラはISの操縦が非常に下手だった。

 春樹はそれを見て、こう判断した。

 

(ラウラはライフルを撃ったときの反動を吸収しきれていない。だから銃口が安定しないで弾がよく分からないところへ飛んでいくんだ。だから、もっと脇を絞めて重心を低くもたないと。なんで隊のみんなはそこを指摘しない?)

 

 春樹は苛立っていた。なぜ他の隊員がそこを指摘しないのか、と。

 しかし、春樹は知らなかったのだ。この事に気がついているのは春樹だけだと。

 要するにエルネスティーネは人を指導する力が少々足りないのだ。そして、他の隊員も。もしかしたら、自分たちが普通に出来る事を、なぜラウラが出来ないのかが分からないのかもしれない。だから的確な指示が出来ていないのだ。

 

(あとでラウラに教えてやるか……)

 

 そう思った春樹はそのままずっとISの訓練をじっと見つめていた。

 

 

  3

 

 

 ISの狙撃訓練後は格闘訓練や模擬戦と続けてやっていたが、やはりラウラ・ボーデヴィッヒの成績は著しくなかった。恐らく彼女はIS適正がそこまで高くはないのだろう。

 そして、今は夕食時、春樹はラウラと一緒に夕食を取っていた。なぜかは知らないが、春樹は周りからの妙な視線が気になっている。なにかと注目されているようだった。 

 何でだろうか、春樹が男だからだろうか? いや、そんなわけはない。整備班の人だって男だ。ではなぜ? 春樹は色々と気になっていたが――今はラウラに訓練の事を教えるのが先決だ。

 

「なあラウラ」

「なんだ? 春樹」

「さっきの訓練の事なんだが……」

 

 すると、ラウラは少し怒ったような顔をして、

 

「なんだ? がっかりしたのか? それとも笑おうとでも言うのか?」

「いや、そんなことじゃない。お前にアドバイスをしようと思ってな」

「アドバイスだと? ISも操縦したことも無いお前が?」

「まぁ、聞くだけ聞いてみろよ。まずは狙撃訓練からだ。お前は撃ったときの反動の吸収ができていないんだ。だから銃口が安定しなくて弾が変な方向に飛んでいく。だからもっと重心を低くもって、そして脇を絞めて撃ってみな? いくらかマトモになると思うぞ?」

 

 それは周りの隊員から聞いても的確な答えだった。言われてみれば確かにラウラはそこをうまく出来ていなかった。今まで何で気付いてやれなかったんだろうかと思うほどだ。

 そして、エルネスティーネも食事を取っていたところに春樹のその発言だ。注目しないわけにはいかない。流石は織斑千冬の弟、姉のISの操縦を見てきたからこその判断なのだろう。自分もまだまだだな、とエルネスティーネは思っていた。

 

「そう……なのか? 分かった。明日から試してみるよ」

「ああ、試してみな。それからな――」

 

 春樹は近距離戦闘のアドバイスも始めた。これは春樹が幼少期から剣道をしてきたその知識と経験を活かしてのアドバイスだった。だから、より深いところまで掘って近距離戦闘について話してやった。ラウラはそのことを真剣に聞いている。

 このときラウラには何かが芽生えた。それは何なのか、ラウラにはわからなかった。

 

 

  4

 

 

 夕食後、隊員たちが寝る大部屋に来ている。ここでは春樹もここに入り寝ることになる。明日から本格的に基礎訓練を始める。覚悟を決めて寝ようとすると隊員のとある女性が話しかけてきた。

 

「ねえねえ春樹君」

「何でしょうか?」

「ラウラちゃんに何したの?」

「は?」

「だから、ラウラちゃんに何したの? あの子が他人に心開くなんて……あんな表情するなんて……。あなた何したの?」

 

 気がづけば沢山の人が春樹の周りに集まってきた。春樹はその質問の意味がよくわからなかったので聞き返した。

 

「えっと……心開くって……どういうことですか?」

 

 その女性隊員はラウラ・ボーデヴィッヒの事を話した。全ては話せなくとも、なんとなくわかるようには話してくれた。

 ラウラ・ボーデヴィッヒは生まれ方が特殊であり、そのせいでISの適合値が低くなってしまったらしい。そして、彼女は軍人となるべくして育ってきた、だからこそ冷酷に、軍人として生きている。だから冷静かつ冷徹な性格の持ち主で、表情の変化に乏しい。他者を寄せ付けない威圧感を放ち、その人間性は部隊内で“ドイツの冷氷”と呼ばれるほどに凄まじかったという。

 

 そのことを聞いた春樹は驚いた。確かに、初めて話したときはそんな印象を持ったが、握手をした後は別にそんな事を感じることは無かった。むしろ話しやすい子だという印象が大きかった。そのことを話すと……。

 

「う~ん、これは」

 

 そう言って隊員の女性達は目を合わせて一斉に頷いた。すると彼女達の目の色は変わっていた。そこにタイミングよくラウラが部屋に入ってきた。

 

「ん? どうしたんだ、春樹の周りに集まって」

 

 その時だった。隊員の女性達はラウラに向かって、

 

「ラウラちゃん頑張りなさい、私応援しているから」

「え?」

「寝るときは春樹君の隣を確保しなさい。私が協力してあげる」

「は?」

「ラウラ、おじさん達一同応援しているぞ」

 

 整備班のおっちゃんたちまでラウラに向かってそんな事を言い出した。

 

(どうしてこうなった)

 

 春樹はそんなことを思っていた。

 さて、そろそろ就寝時間。寝る準備を始める一同。しかも、みんな同時に洗面所に向かい外へと出て行く。なんというチームワークだろうか。

 そして気がつけば春樹はラウラと二人きりになってしまっていた。

 

「いったいなんだというんだみんな揃って」

「えっと、ラウラ……」

「なんだ春樹?」

 

 と、ここでようやく現状に気がついたラウラ。男女が同じ部屋で二人きり、このシュチュレーションといえば、と思うが、ラウラと春樹は会ってまだ一日しか経っていない。そんな関係になる事は決してない。何を期待しているのだろうか、あの隊員達は、と思う春樹だった。

 

 そして、何もないまま隊員たちが帰ってきた。なんだか「はぁ……」というため息が何回も聞こえてきたが、春樹は気にしない事にした。

 みんなが寝始める中、自分も寝ることにした春樹。明日からは他の隊員たちと同じ訓練をするのだ。寝不足なんてことになったら洒落にならない。

 春樹は開いているベッドに入って寝ることにした。すると誰かの声が聞こえた。「ありがとう」と。その声は聞いたことがある。恐らくラウラの声である。春樹が声のした方向を見るが、そこには誰もいなかった。


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