ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第一章『もし頑張れるのなら -Core-』《六年ぶりだな》

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 結局、織斑一夏と葵春樹はIS学園と入学する事となった。

 あの入学試験会場でのゴタゴタの後、色々と揉め事があったのだが……それも無事解決してIS学園一年一組の教室に二人はいた。

 

 それにしても、流石はIS学園。

 基本ISは女性にしか使えないおかげで周りには女の子しかおらず、一夏と春樹が世にも不思議な存在であることは間違いないだろう。

 その証拠に、周りの女子たちは一夏と春樹をチラチラと見ながら付近の子たちとヒソヒソとお話していた。

 このような事は生まれて初めての事なので、一夏は戸惑いを隠せないでいる。正直、今後の事が心配でお腹が痛くなってきていた。

 友人関係はどうなるのか。もしかしたら、クラスの誰とも仲良くできなくて一人ぼっちになってしまうのではないか、という不安に襲われる。

 一夏にとって、春樹という名のオアシスがいてくれて、どれだけ助かったことか。

 

 すると、ガラガラと音を立てながら教室のドアが開かれる。

 そこから現れたのはショートカットの女性であった。姿格好を見て、彼女が教師であるのは間違いない。幼さを残す顔立ちだが、際立って目に入ってしまうのはその豊満な胸であろう。それが、男の性なのだ。あぁ、なんて悲しいことか。

 

「みなさん、おはようございます。私はこのクラスの副担任となる山田真耶です!」

 

 笑顔で元気一杯に挨拶する山田先生であったが、生徒たちの反応はいまいちで、微かに拍手が聞こえる程度。しかも、その拍手はみんながやっていないことに気が付いてすぐにやめてしまった。

 戸惑う山田先生はとりあえず、黒板に取り付けられているモニタを使って映像を流し、

 

「この学校は全寮制です。放課後でもみんなと一緒ですから、仲良く助け合って、楽しい学園生活にしましょうね。……じゃあ、自己紹介してくれるかな? 出席番号一番、葵春樹君からどうぞ!」

 

 はい、と返事をして立ち上がる春樹は余裕の表情で挨拶をする。

 

「葵春樹です。見ての通り男です。みなさんはご存知だと思いますが、男なのになぜかISを動かすことができてしまいました。もしよかったら、男だからと敬遠せずに気軽に話しかけてください。みなさん、仲良くしましょう。よろしくおねがいします」

 

 春樹は見事に自己紹介を決めた。拍手が起こる。

 先ほどの山田先生の自己紹介よりも遥かに大きく起こっていた事に山田先生は少しショックだったのか、表情が少しだけ暗くなってしまったのを、一夏は見てしまった。

 そして、一夏は山田先生に向けた視線を、窓際の、黒髪でポニーテールの女の子へと移す。

 

 彼女は一夏や春樹との幼馴染である。

 名前は篠ノ之箒(しのののほうき)

 小学校四年生のときに、とある問題を抱えてやむを得ず遠くの小学校へと転校していったのだ。

 その問題とは彼女の姉である篠ノ之束にある。

 なにしろISを開発したのはその篠ノ之束本人で、その危険性も束自身のみならずその親族にまで及ぶ可能性もあるとして、保護を兼ねてどこかへ行ってしまった。

 

 それから六年経った。一夏にとって久しぶりの再会となるが、まだ喋りかけていない。話しかける勇気を持てなかったのだ。ついこの前まであんな事になっていたのだから。

 一夏は思わずずっと彼女を見てしまっていた。すると、箒も一夏の視線に気が付いたのか、一瞬目が合ったかと思うと、彼女はすぐにそっぽを向いてしまった。

 一夏は思わず小さく「あ……」と口に出して言ってしまう。思わずすぐに口を自分の手で塞ぎ、今の自分の失態を悔やんでた。

 

(何やってんだよ俺は……。はぁ、情けねえよ。情けないよなぁ……。あとでしっかりと話してみるか)

 

 などと考えていた一夏は、自分の名前を呼ばれていることに気付かなかった。

 

「織斑君? 織斑一夏君!?」

「あ、はい! なんでしょう!?」

 

 一夏は思わず焦りを隠せずに勢いよく立ちあがって、ちょっと大き目な声で反応する。

 そんな彼に山田先生は微笑みながら、次は織斑一夏君の番だよ、と、やさしく教えてくれた。

 一夏は落ち着きを取り戻して、

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします。え、えっとぉ……」

 

 これ以上何を言うかも定まっていない彼は、どういったことを言えばいいのかも分からずその場でたじろいでしまった。

 

「あの……以上、です」

 

 頭の中が真っ白になってしまった彼は、そのまま自分の自己紹介を終わらせた。

 自分の中では春樹の様にカッコよく自己紹介を決めたかったのだが、それは叶わぬ願いとなってしまった。

 ちょっとしょぼくれてしまった彼は席について俯く。これじゃあ格好つかねえな、と思いながら、他のクラスメイトの自己紹介が終わるのを待った。

 一夏はもう一度チラッと篠ノ之箒を見る。相変わらず外を見続けていて、一夏や春樹の方を見ようとしない。

 そんな彼女を見て、自分の事を覚えていないのかと不安になった。

 一緒に居た頃はあんなにも仲良くしていたというのに……。やはり、六年という歳月は長かった、ということだろうか?

 そんな一夏にはお構いなしに次々と自己紹介は続く。やがて、それは篠ノ之箒の番へと回ってきて、

 

「篠ノ之箒です。私は幼少期から剣道を嗜んでいます。さて、今日から私たちは三年という月日を共にします。その三年間、仲良く過ごしましょう。よろしくお願いします」

 

 キリッとした彼女の自己紹介はとてもカッコよく、その振る舞いと醸し出すオーラは思わずクラスの女子をも虜にした。正に、彼女は日本を象徴するような大和撫子を想像させる存在だった。

 すべての生徒の自己紹介を終えたそのタイミングで、

 

「すみません山田先生。遅くなりました」

 

 クラスにもう一人の教師が現れた。

 その教師の顔を確認するなり、一夏の顔は驚きの表情へと変わっていく。

 なぜなら、そこに居た人物は――

 

「みなさん、遅れてすまない。私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。私の仕事はこの一年で君たちにISの基礎を身に着けさせること……。そして、一流のIS操縦者になれるよう、進むべき道へ導いてやることだ。よろしく頼む」

 

 そう、織斑千冬とは織斑一夏の実の姉であり、また葵春樹の義理の姉のような存在。

 一夏は言葉を失ってしまった。

 二年前、とある事件がきっかけでドイツ軍のIS部隊の教官をすることになったと思ったら、それから連絡を一切取れなくなった。

 それから二年もの間、一切会うことはなかった自分の姉。

 なぜ連絡もなしにIS学園の教師をやっているのか疑問に思いながら、この空白の二年間何をやっていたのかとても気になってしまう。

 突然の出来事に頭を抱えて自分の世界に入ってしまった一夏のことを気にもせず、クラスでは大騒ぎになっていた。

 それもそうだろう。第一回IS世界大会モンド・グロッソ――ISを使い、戦闘、レース、射撃、エアロバティックの四種類の競技で争う――の優勝者が彼女で、日本を象徴する存在となった人物だ。

 それに、IS第一号機のテストパイロットにして、日本を救った英雄でもある。

 

 そんな人物が目の前にいるのだ。騒ぎにならない方がおかしい。

 騒ぎに騒ぎまくっている女子生徒たちを千冬の一喝で鎮める。

 

「うるさいぞお前ら! さて、さっそくだが、まずISについての説明がある。席についてしっかりと聞くように!」

 

 この説明については副担任の山田先生から話される。

 

「さて、最初はみなさんがこれから扱うことになるISについてお話します。みなさんも知っている通り、ISの正式名称はインフィニット・ストラトス。日本で開発された、マルチ・フォームドスーツです。元々は宇宙開発が目的で開発されましたが、あまりにも高性能なスーツだということで、兵器として使用することになりかけました」

 

 軍事利用される事となったキッカケの事件を『白騎士事件』と言う。

 それが織斑千冬が操ったIS『白騎士』という名を取ってそう呼ばれている。

 

「ですが、それはあまりにも危険だということで、例外を除いて軍事利用を禁止することになりました。これがアラスカ条約というものです」

 

 たった今、山田先生が語った通り、ISの元々の利用方法は宇宙開発のためだった。したがって、ISを使って宇宙に行くことは容易である。

 そして、軍事利用について山田先生は“例外を除いて”と言った。

 この例外とは、ISによる犯罪行為を取り締まるためである。ISは軍事に利用されるような代物なのだ。それを鎮圧するためにはISを使用するのが最も手っ取り早く、効率的なのだ。だからこそ、その場合に限り、軍事でのISの使用が許可されている。

 

「まぁ、基本的な概要はこんな感じでしょうか? もうそろそろ時間ですね。もっと本格的なことは次の授業からやりましょう。それでは起立!」

 

 山田先生の言葉にクラスメイト全員は席を立ち、礼の言葉で一同は「ありがとうございました」と言って礼をする。

 二人の先生はクラスから出て行こうとした。

 それを見た一夏は急いで千冬の下へと駆け寄り、手を掴む。

 

「待ってくれ千冬姉! どうして――」

「学校では織斑先生と呼べ」

 

 あえて冷たく、冷徹に言葉を返した。

 クラスメイトの注目が一気に一夏の下へと向かう。

 

「すみません……。でも、織斑先生は説明する義務があるはずです!」

「……すまないな。お前にそれを教えるわけにはいかないんだ。いずれ、このことはキチンと話す」

 

 とだけ言い残して千冬は山田先生と共に行ってしまった。

 すると、後ろから誰かに手首を掴まれた。

 一夏は驚いて後ろを振り向くと、綺麗な黒髪をポニーテールにした女の子――篠ノ之箒がそこにいた。

 

「ちょっといいか一夏。話がある」

 

 そう言って箒は一夏の腕を引っ張ってどこかへと連れて行った。

 そしてその光景を、春樹はただただ黙って見ていた。

 少し悲しげな表情をしながら物思いに耽っていると、クラスの女子生徒から声がかけられる。

 

「ねえねえ、葵君」

「ん、何かな? あと、俺の事は名前で呼んでもらっても構わないよ。みんなと早く仲良くなりたいしね」

 

 春樹は先ほどとは打って変わって明るい表情へと変わる。

 彼も彼なりに早くクラスに馴染みたいと思っているからであろうか?

 

「えっと、じゃあ、春樹君。あのさ、織斑君と篠ノ之さんって、どういう関係なのか知ってるかな?」

「ああ。アイツら幼馴染だよ。小学生からのな。ま、途中で箒が引っ越すことになっちまったけど、あの二人、六年経ってもしっかりと互いを覚えてやがる。ふふふ……」

「へぇ~。春樹君ってあの二人のことをよく知ってるみたいだけど……」

「そうだよ。俺もアイツらとは幼馴染だ」

 

 

  2

 

 

 篠ノ之箒と織斑一夏は学校の屋上へと来ていた。

 人気がなく、二人きりで話すにはもってこいの場所だ。

 まぁ、屋上のドア付近には女子生徒がたんまりと居るのだが、二人はそれを知る由はなかった。

 

「六年ぶりだな一夏。私のことをちらちら見ていたから、どうしたのかと思ったが」

 

 思いっきりバレてしまっていた事を知った一夏は顔が赤くする。

 久しぶりの再会で、気持ちが舞い上がっていただなんて恥ずかしくて口が裂けても言えない。

 

「いや、えっと、まぁ、なんだな。久しぶりの顔だったからつい……」

「そうか。六年経ってもしっかりと私の事を覚えていてくれたのか。嬉しいぞ」

「は、ははは……あたりまえだろ」

 

 箒が見せるはにかんだ笑顔がとても可愛くて、それでもって美しくて、一夏は恥ずかしさのあまり声が小さくなる。

 

「それはそうと、一夏と千冬さんの間に何があった?」

 

 何事もなかったかのように別の話題にされてしまった事に一夏はますます恥ずかしくなるが、千冬の話しを振られて急に我に返った。

 

「それが分からないんだ。モンド・グロッソのあの時から連絡が取れなくて、そしてこの場所で久しぶりの再会。で、あの態度さ。もう訳が分かんねえよ……」

 

 箒は寂しそうな表情をする。どうやら、自分の姉と重ねているらしい。

 彼女も、自分の姉とはずっとすれ違っていて長い間話しすらしていないのだ。

 

「でも、千冬さんも事情をいつか話してくれると言っていた。だから、そのタイミングが来るまで待ってあげたらどうだろうか。こうやって再会して、話ができるというのはそれだけで嬉しいことだからな。一夏は嬉しくないのか?」

 

 一夏は首を振って否定する。

 

「そりゃあ、こうやって会えたのは嬉しいさ」

「なら、あまり深刻に考えない方がいいんじゃないか?」

「……そうだよな。箒の言う通りだ。千冬姉はいつかキチンと話してくれるって言ってた。だから、待ってあげないとな」

 

 箒は一夏の笑顔になった顔を見て、笑顔で頷いてあげた。

 きっと自分の事のように嬉しいのだろう。彼女も、自分の姉と早く和解したいのだ。

 

「それにしても、お前は変わってないよな。すぐ箒だって分かったよ」

「そうか? 六年も経っているののだから色々と変わっているだろう」

「そりゃ、そのリボンは俺からのプレゼントだからな。今でも大事に使ってくれていてありがとうな箒」

 

 一夏の目線が、髪を束ねるのに使っている白いリボンに向かう。

 これは彼女が引っ越す前に行った箒の一〇歳の誕生日のときに一夏がプレゼントしてあげた物。それを六年経った今でも使ってくれていたという事実に、胸が熱くなる。

 

「あ、これは、一夏が最後にプレゼントしてくれたものだからな。大事にしないわけないだろう」

「そっか、嬉しいよ箒」

 

 彼女は恥ずかしくなって俯く。

 もうこれ以上の話題がなくなってしまったのか、はたまた会話できなくなるほどお互いが恥ずかしくなってしまったのかは定かではないが、静寂が訪れる。

 涼しさを感じる気温の中に混じって春の温かい風を感じながら、心地よい時が流れてゆく。一夏も箒も、会話などしなくてもいいのだ。

 ここに二人が共にいる、という事だけで十分すぎるほどに心が落ち着くような、それでいて楽しい時間を過ごす。

 が、一〇分間という短い休み時間も、もうそろそろ終わってしまう。

 

「よし、そろそろ教室に戻るか。な、箒?」

「うん。そうだな一夏」

 

 二人は共に、歩みを進めた。

 次は春樹を含めて三人で色々と話そう。

 昔みたいに、楽しい時間をもう一度。


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