ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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終 章『そして、物語は動き出す -Huddle-』

 織斑一夏は目を覚ました。自分はベットで寝ている、と理解する。

 そして目に映った天井は見たことがないものだった。

 

「一夏。目を覚ましたのか」

 

 一夏がその声に反応して横を見てみるとそこにいたのは織斑千冬だった。彼女は凄く安心したようで、今までにないような微笑みを見せている。

 

「ちふ……織斑先生……」

 

 一夏は呼び慣れた千冬姉と呼びそうになり、慌てて訂正したが、千冬はこの学園でいつも見るような表情はそこになく、昔家で一緒に過ごしていたときにいつも見ていた極上の微笑みで、

 

「今は千冬姉でもいい。私だってお前を名前で呼んでるしな」

「分かった。じゃあ千冬姉、ここはどこだ?」

「ここは保健室だ。一夏はここに来るのは初めてか? まぁ、お前ならISで怪我なんてことは滅多にないだろうしな」

 

 一夏は理解する。自分はあの後、気を失って保健室に運ばれたのだろう、と。

 何故かは分からないが急に力が抜けて気を失ってしまったのだ。

 

 そして彼は重大な事を思い出す。

 凰鈴音(ファン・リンイン)は無事なのかどうなのか、この保健室にはいないようだし、やはりあの出血では学校の保健室じゃあ対処しきれないのだろう。

 

「千冬姉! 鈴は!?」

「彼女は病院の方へ運ばれたよ。腕が折れているようだが、今後のISの操縦に支障はないそうだ。ISの装甲が彼女を守ってくれたな」

「でも、骨折って……。いったいあの黒いISはなんだったんだ?」

 

 千冬は目を閉じ、俯いた。

 

「すまないな、一夏。それはお前には教えられない」

「そうか……。じゃあ春樹は? あいつはどうしたんだ?」

 

 一夏は気になっていた。

 今まで見せなかった強さ。

 そしてあのISを圧倒するIS。

 彼の熾天使(セラフィム)はいったい何なのか。

 

「私はあの後、春樹に事の説明を要求した。だが、何も答えてくれなかったよ。私に事の説明をしていいのか聞いてくるそうだ」

 

 その言葉を聞いて正直不安になる。

 春樹は一体どんなことに首を突っ込んでいるのだろうか、と。危ない事ではないのだろうか、と。

 

 

 

 葵春樹は篠ノ之束と会っていた。

 その場所は窓もなく、エアコン等で温度調整されているような感じだ。どこかの施設のような感じであるが、どこかの地下なのだろうか?

 

 しかし、それがどこにあるのか分からないし、普通の人には分からなかった。

 今、春樹と束は紅いISを目の前にしている。

 

「コイツが紅椿ですか……。うん、良い感じですね」

「でしょ~、春にゃんの希望していた機能とデザインを実現しました! どう? 偉いでしょ?」

「ははは。うん、偉い偉い」

 

 春樹は若干の棒読みで束の頭を撫でた。

 このような二人の掛け合いは、よっぽど真面目なときじゃない限りこれがデフォルトになっている。

 とても軽く、笑顔が飛び交うようなこの会話は、今までのストレスから解放される方法の一つだ。

 

「えへへ、春にゃんに褒めてもらっちゃった~」

「ふふ……。で、コアの方は?」

 

 春樹は微笑んだかと思うと、そして極真面目な表情になり、会話を続けた。

 

「まだなんだよね。中々見つからないんだ」

 

 そして、束も真面目な表情になって言葉を返す。

 

「そうですか。地道に探すしかないですよね、こればっかりは……」

「うん、全部で四六七個のコアから箒ちゃんと同調するものを探すのは、骨が折れる作業だよ~」

「仕方が無いですよ。それでもやらなくちゃいけない。そうでしょう?」

 

 この世に存在するISの動力部分である四六七個のコア。なぜ、四六七個なのか、その理由はこの探し物にあるのかもしれない。

 箒と同調する。

 これはどういうことなのか、今のこの二人の会話だけでは何も見えてこない。

 

「そうだよね~、頑張るよ束さんは!」

「よろしく頼みます」

「うん、で、あの黒いISは……春にゃんが倒したと。どうだった?」

「あのIS……と言っていいのか分からないですけど、あの物自体は超高性能でしたが、AIはまだ試作段階といったところでしょうか。動きが単調でしたし、恐らくはテスト感覚で送り込んだのかと……」

 

 あのIS学園を襲った謎の黒いISは人が乗っていなかったのだ。全て機械仕掛けの自動起立型、AIで動くISらしきだったのだ。

 ISは人が乗らないと動かない、そういうものだったのだ。

 しかし、動かせたということは――。

 

「やっぱりAIか……私が作ったコアとは全く違うものを使っているのかもね」

「その通り、あれは今存在するコアの情報とまったく一致しないものでした。恐らくは連中が独自に作ったものでしょうね」

「心配だね。あいつらにとってIS学園というパイロット育成学校というものは、万が一のときのために潰しておきたいしね。変に強い奴が出てきても厄介なだけだし」

「まぁ、滅多に現れないでしょう。普通の人には因子がないんですから」

「そうだけど、万が一って事もあるでしょ?」

「それは、そうですね。でも大丈夫。あそこには俺と一夏、そして箒がいます。これから三年間はIS学園は無事ですよ」

「あはは、心強いね」

 

 そして時計を見る春樹、時計は昼の一二時半を過ぎていた。ちょうどお昼時、おなかもすいてきたので、束と一緒に食べに行こうと思った。

 

「そうだ、一緒にお昼ごはんでもどうです?」

「え、春にゃんとご飯!? はいはいは~い! 行きます! 絶対に行きます! どんなお店だってOK! よし食べに行こう! 春にゃん行くよ~!」

 

(俺が誘ったっていうのに指導権は束さんに握られているみたいだな……)

 

 すると、束は春樹と腕にぎゅっと抱きつく。しかも、自分の自慢の豊満な胸を押し付けてアピールしているようだった。

 

「ほら、行こうよ~」

「はいはい、分かりましたよ~」

 

 春樹はとくに嫌がるわけでも、恥かしがるわけでもなく、その場から歩き出した。

 もしかしたら、まんざらでもないのかもしれない。

 

 

 

 今、保健室には一夏と箒の二人である。もしこの状況を春樹が見たら、箒にニヤニヤしながら、今だ、押し倒せ。みたいな事を言われかねないだろう。

 そして一夏は保健室で箒が持ってきてくれた昼食を食べている。

 箒はいつも一夏が注文する日替わりランチを頼んでいた。今日は鯖の味噌煮定食だった。

 

「一夏、その……大丈夫だったか?」

 

 箒は一夏を見て心配そうな顔をしていた。しかし、保健室で寝ている割には包帯とか、治療したわけではないので、特に痛むところはなかった。

 それならば、鈴音の方が一夏の数十倍、数百倍も危険な状態になっていたのだ。正直、自分の事より箒には鈴音のことを心配して欲しかった。

 

「俺は特に怪我とかしていないし、大丈夫だよ。この俺を心配するくらいなら鈴のことを心配してやってくれよ」

「ああ、そうだな……」

 

 モニタ越しだったが鈴音の左腕に赤いものが写っていた。アレはあの時思った通り鈴音の血だった。しかも骨折までしていると聞く。

 

「それにしても、襲ってきたあれはいったい何だったのだろうか?」

 

 その時、箒の身体が僅かにビクッと反応していた。

 行方不明にして、ISの開発者、そして自分の姉である束が何かしら関与しているのかもしれないと、そう思ってしまったからだ。

 

「なんか、春樹は何か隠しているみたいだった。それ以上は分からない」

 

 箒は落胆の顔をする。もう、何が起こっているのかまったくもって分からない。

 

「黒いISと春樹が……関係あるというのか!?」

「いや、それはまだ分かんないけど……。ま、いずれ何か話してくれるだろうよ」

 

 一夏は定食を食べながら話す。

 すると、箒は気になった事を質問した。

 

「なぜ、そう思うのだ?」

「なんとなくだよ。でもなぜか確信はある」

「そうか……」

 

 一旦会話は止まってしまい、一夏は定食を食べている。

 箒も、自分の定食を食べているが、何を話したらいいのかまるで思いつかない。どうにかしてこのシーンとした状況を何とかしたかった。

 

「い、一夏」

「なんだ、箒?」

「あの……だな……今度一緒に出かけないか?」

 

 箒は焦りながら、随分と早口でそう言った。

 

「ああ、いいぜ。どこに行く?」

「えっと……鈴音のお見舞いだったり、色々だな」

「そうか、そりゃいいな。よし、明日は休みだし、明日にでも行くか?」

「ああ、分かった!」

 

 箒は本当に嬉しそうに笑顔で言った。そして鈴音のことも正直気になっている。お見舞いに行って、調子を聞くのもいいだろう。そう思った。

 

 

 

 春樹と束はとある喫茶店へと来ていた。

 昼時だというのに自分たちの他にはお客はいない。元々、このお店はお客の出入りがとても少ない穴場スポットで、春樹と束はよくここを利用させてもらっている。

 ちなみにここのオムライスがとてもおいしい。もっと色んな人に知ってもらいたいが、だけどもあんまり知られたくないという矛盾した気持ちを抱いてしまう。

 それほど、春樹と束はここのランチメニューを溺愛している。

 

「マスター、ここのオムライスはやっぱりおいしいね」

「そうかい。いつもありがとうね。できればここを宣伝して欲しいんだけどなぁ」

 

 マスターは心の底から願っていることなのだろうが、春樹と束はここを独り占めしたい気持ちがあるのか、あんまり人には教えようとしない。

 本当にマスターの事を想うならもっと色んな人に教えて話題にするべきなのだろうが……。

 

「ま、そのうち呼びますよ。それまでは俺たちの独り占め状態を楽しみます」

「そんなに気に入ってもらえて嬉しいんだか、そんな気持ちを抱かせてしまって悲しいんだか分からんな……。ま、ゆっくりしていってくれ」

 

 そう言うと、マスターは厨房の方へと入っていった。

 食事をするところには春樹と束の二人だけになった。店内には心地のいいクラシックが流れている。

 

「そうだ。今度、ドイツのラウラ・ボーデヴィッヒがIS学園に来るそうだよ」

 

 束のその言葉に驚く春樹。

 

「え、ラウラが……。運命の巡り合わせって恐ろしいですね」

「そうだね。まさかあのラウラが……」

「ですね。何かあったときは自分が対処しても?」

「うん、構わないよ。そのために春にゃんはいるんだからね」

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 彼女は春樹が中学校一年生のとき、自分の身体を鍛える為、ドイツ軍の教官になることになった織斑千冬についていき、ドイツの軍に体験入隊をしたことがあった。

 

 体験といっても、それは他の軍人となんら変わりないことをさせられていたのだ。

 そのときに出会ったのが“ラウラ・ボーデヴィッヒ”であった。彼女とは「仲間」という意識が高い。軍で共に汗をかきながら自身を鍛えていたのだ。

 

 同じ部隊にいると、自分が足を引っ張ると、それは部隊全員のせいだとして連帯責任をくらってしまう。だからこそ、自分の部隊の人間には迷惑をかけたくない。そういう気持ちが同じ部隊の人間を仲間という意識が大きくなっていったのだ。

 

「ま、なんにせよ、俺の友人が来るんだ。歓迎してやらないとな」

 

 春樹と束の二人は昼食を続けた。

 

 

 

 春樹、束は今何をしているのか。

 

 一夏と箒はどう関係してくるのか。

 

 そして、謎のISはどこから来たものなのか。

 

 それは、いずれ分かる事になるだろう。

 

 そして一夏と箒も、春樹と同じ責務を負うことになる。




 ここまで読んで頂きありがとうございました。
 今回はEpisoe1のリメイクでした。今回、なぜリメイクしようとしたのか。その理由としては、内容の変更を一番した第一章と第二章を変えたかったからです。
 この二次創作を書き始めたとき、全体の見通しなんてものはなくて、思い付きで書いたものでした。だから、伏線とか全くなしで書いてしまっていたのです。
 全体の見通しを書き始めたのは第三章、鳳鈴音が登場するところからで、ここからようやく原作と違うところが多々見られるようになっています。第一章と第二章は原作からの台詞の引用が膨大にあったので、ちょくちょく修正は行っていたんですけど、この際書き直してしまおうかな、と思ったのがEpisode6を書き終えてからでした。
 結局のところ、第一章と第二章のリテイクがやりたかっただけです。一応、Episode2~6までに描いてきたことを考慮して全体的に修正を入れています。

 さて、物語について語りましょう。
 物語の冒頭にあたるだけあって、解説書みたいになっているのは気にしたら負けです。これが私の限界です。もっとうまい書き方があるんだろうけど、その技術は残念ながらないですね……。精進します。
 原作と同じようなシナリオを使いながらも、物語の雰囲気がガラリと変わるような感じに書きました。シリアスなISを書きいものですから。
 今回分かったこと。それは……

・葵春樹という男は一夏、箒とは幼馴染である。
・一夏と春樹のISはIS学園の会長、更識楯無の父の会社からのものである。
・一夏は時折、周りがスローモーションに見えることがある。
・謎の人型兵器がIS学園を襲撃。それは無人兵器であり、それがISかどうかは不明である。
・葵春樹は篠ノ之束とつながりがある。
・喫茶のマスターのオムライスは美味しい。

 ざっと挙げるとこの六点ですね。
 まだ物語の冒頭なので分からない事だらけだと思いますが、どうか勘弁頂きたい。
 よく分からない場合は次のエピソードに進んでもらえばいいと思います。
 では、次のエピソードをお楽しみください。

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