ISを改変して別の物語を作ってみた。   作:加藤あきら

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第四章『その英知は何をもたらすのか -Match-』《手加減はしないわよ!》

  6

 

 数日後、五月一〇日。

 ついにクラス代表対抗戦が行われる日になった。

 

 これは新一年生のクラスから代表者を出し、競う行事であり、更に優勝クラスにはIS学園付近にある洋菓子店のデザート食べ放題券が渡されるため、クラスの女子は代表者である一夏に絶対優勝するように、と言われていた。

 

 一夏はこの日の為に今まで特訓を続けていた。最初は回避行動を突き詰め、さらにそこから反撃できるように、主にセシリアを相手にして頑張ってきた。

 現在、一夏たちはトーナメント表の前に来ている。もちろん対戦相手を確認するためだ。

 

 しかし、まだ対戦相手は分からない状態にある。緊張する中、トーナメント表をじっと見つめる一夏と春樹。

 

 そしてついにトーナメント表に対戦相手の情報が表示された。

 一夏は自分は誰と戦うのか確認すると、なんと一回戦の一番最初であり、一夏の横に書かれていた名前は凰鈴音(ファン・リンイン)その人だった。

 

 いきなり鈴音と戦う事になり、一夏は少し楽しみに感じていた。

 

「初戦から鈴とか。頑張れよ、一夏」

 

 春樹はトーナメント表を見るなりそう言った。

 

「ああ、(リン)か……どんな機体なんだろうな?」

「まあ、それは山田先生に聞いてみるか」

 

 彼らは、その場から立ち去り山田先生の事を探す。とりあえず職員室に向かった彼ら。

 しかし、そこには山田先生がいなかった。恐らくこういった大きな大会だからアリーナのピットにいるのだろう。

 一夏と春樹はアリーナの方へ向かい、職員がいるであろうアリーナのモニタルームの前に立つ。

 

「失礼します」

 

 そう言って一夏と春樹の二人は入室した。 そこには山田先生と千冬がいた。一回戦の最初の試合が一夏の試合の為、既にスタンバイしているのだろう。

 やっぱりここか、という風な顔をする二人。

 

「聞きたいことがあります。凰鈴音の機体ってどんな感じなんですか?」

 

 一夏は山田先生に聞くと、すぐに山田先生が説明してくれた。

 凰鈴音が扱うIS名前は甲龍(シェンロン)という。甲龍の装備、双天牙月(そうてんがげつ)は大型の二本の青龍刀であり、それらを連結させると投擲武器として使用できる。

 

 そして、甲龍最大の特徴である龍砲(りゅうほう)は空間自体に圧力をかけ、砲身を作り、衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲。砲弾だけではなく、砲身すら目に見えないのが特徴。砲身の稼動限界角度はないらしい。

 

 以上が甲龍の装備であり、特に目立ったものはない。しかし言葉は悪いが、こういう地味なものほど実戦向きで扱いやすい。

 聞く以上に注意していないといけない相手である。

 

「なるほど、鈴はそういう機体か……コイツは厄介だな一夏」

「ああ、みたいだな」

 

 今まで一夏は回避を中心に特訓はしてきたものの、見えない砲弾となると少々つらいものがあるし、白式(びゃくしき)は装甲――シールドエネルギーが極端に少ない為、当たる事すら許されない。

 

 だから、この勝負に勝つには最初の龍砲の攻撃をいかに対処し、見極めるかが勝負のカギとなるだろう。

 

「――だから一夏、鈴と相手するときは迂闊に近寄らない方が良さそうだな。上手い具合に龍砲の発射を誘って、それを見極めるしかない。龍砲の発射後が零落白夜のチャンスになるだろうよ」

「みたいだな……上手くやるよ。絶対に勝つ!」

「おう、頑張れよ!」

 

 しかし、一夏の成長速度は異常だった。それは代表候補生であるセシリアをも凌ぐ成長で、彼女の放つ何発ものビーム攻撃を余裕を持って華麗に避けれるようになっていた。

 

 もちろん、セシリアも成長していないわけではない。彼女も流石代表候補生だけあって、一夏との練習で、色々なものに気づき、それを自分のものにしていった。それによって、セシリアはさらに強くなったはずなのである。

 

 なのに、一夏はそれを凌いでいた。

 

 これが天性の才能……というものなのだろうか?

 一夏は自分のISのチェックをしている。

 試合まで後三〇分。

 

 なんだかんだでクラス代表になったが、代表になり、ここまで頑張ってきたからには優勝したいし、クラスのみんなに食べ放題券をあげて喜んでもらいたいと、一夏はそう思った。

 やはり彼はどこまでも優しい。そんな風に他人を思いやることを普通にやろうとする。

 

 それが一夏の良い所である。箒が彼に惚れたのはそこにあるのかもしれない。

 彼女は剣道をやっていたからか力が強く、そのことから“男女(おとこおんな)”と呼ばれ、小学生の頃いじめを受けていたことがあった。それを自らやめさせたのは一夏であった。正直、男の春樹から見てもあの行動はカッコいいと思ったのだ。

 そして助けられた箒もこれをカッコいいと思わないはずも無く、結果一夏に惚れたのだ。

 

 現状では地味にアピールを続けている箒。ISのチェックをしている今でも箒は一夏の隣で話し相手になっている。

 一夏がこの程度で箒を気になる女性とする事は難しいだろう。特にお互いに色んなことを知ってしまっている幼馴染は。

 

 しかし、まだ希望はある。もしこれが小学生のころから今まで一緒、ということになれば確実に彼女彼氏という関係になる事は難しかっただろう。

 なぜなら、“今まで一緒に仲良くやってきた篠ノ之箒”という認識にしかならないのだ。今まで楽しく仲良くやってきたことが当然で、そういう関係になるなんて考えられないからだ。

 

 だが、彼女は一回離れ離れになったということが逆に恋愛の発展に貢献しているといっても過言ではなかった。

 しかも六年ぶりという長い期間であることが、一夏を振り向かせるには十分なアドバンテージになりうる。

 

 春樹は遠くで二人を見ていた。

 その雰囲気についニヤニヤしてしまっている。彼にとってこの二人の幸せは、間接的にではあるが、自分の幸せになりうるのだ。

 なぜならそれは、一夏と箒は昔からの親友で、大切な『仲間』でもあるから。

 

 理由はそれだけだ。

 

 とても簡単な理由。

 だが、それで十分だろう。

 

「お前は、何ニヤニヤしてるんだ?」

 

 すると千冬が春樹に向かって話しかけてきた。

 

「いや、あの二人を見てるとつい。あはは……」

「そうか、確かに仲良くしているあの二人は微笑ましいな」

「俺はあの二人を応援してるんですよ。くっついたらいいな~って」

「そうか……。それそろ時間だ。葵、織斑に声をかけてやってくれ」

「分かりました」

 

 春樹は一夏の方へ近づいて、そろそろ試合の時間だとい事を伝えた。

 しかし、春樹は気になっていた。さっきの千冬の雰囲気である。なんだか残念そうというか哀愁漂うというか……。

 

(相変わらず千冬姉ちゃんは一夏に依存してるよなぁ)

 

 春樹はそう思っていた。

 千冬は昔からそうだ、一夏のことが大好きなんだろう。それは当然恋愛対象として、ということではない。家族として、弟として一夏の事が大好きなのだ。

 それを世間ではブラコンというのだろうか……。

 

 

  7

 

 

 ついに試合のときがやって来た。今、ピットには一夏が白式(びゃくしき)を身に纏い、試合のコールを待っている。

 春樹や箒、セシリアは千冬、山田先生とモニタルームでモニタを見つめて一夏の事を見守っている。今まで共に特訓してきた仲だ。是非勝って欲しい。

 

 そして、ついに第一回戦の開始を宣言された。

 一夏と鈴音は共にピットからアリーナの方へ飛び出す。

 

「一夏、手加減はしないわよ!」

「こっちこそ、お前には負けないからな」

 

 目の前にはホログラムで一夏と鈴音の名前が投射されていた。

 そして、試合開始のカウントダウンが行われる。

 

 一〇から九、段々と数字が小さくなっていき――ついにその数字は〇となった。

 

 その瞬間、試合開始の音が大きく鳴り、両者一斉に動き出す。

 

 最初は両者共々様子見の動き、そして最初に動き出したのは鈴音だった。彼女は双天牙月(そうてんがげつ)を一夏に叩きつけるように攻撃した。その重い攻撃はまともに喰らったら致命傷を負ってしまうだろう。

 しかし一夏はスピードがあまりないその攻撃を軽くかわす。

 

 そう、鈴音の甲龍シェンロンの弱点はスピードだ。超高速型の白式が高速移動を利用しだすと、鈴音は非常につらくなる。

 一夏は決して動きが止まる事はない。止まってしまえばたちまち龍砲の餌食になってしまう。

 しかし、無闇に鈴音に攻撃をしようとしても龍砲(りゅうほう)の餌食になってしまう。

 

 試合は防戦一方の膠着状態。一夏はずっと動き回り、鈴音の双天牙月の攻撃をかわし続けている。

 痺れを切らした鈴音はついに龍砲を使い出す。

 

 しかし、動き回る一夏に当たる事はなかった。

 その瞬間、一夏が動き出す。一直線に鈴音に向かう一夏、彼が手に握っている長刀、雪片弐型は実体験からエネルギーの刃になる。

 零落白夜。

 一夏はそれを起動させ、鈴音に切りかかろうとするが、それは中止せざるをおえなかった。

 

 鈴音が『龍砲』を発射したのだ。

 

「なっ……!?」

 

 一夏は龍砲の銃口が光っているのに気がつき、緊急回避を行った。無理やり身体を右に動かし、間一髪で龍砲の攻撃をかわす。

 

「ふん、連射は出来ないと思ったの? でも私の龍砲は二門あるのよ?」

 

 そう、鈴音の龍砲は背中の左右に一門ずつ、合計で二門あるのだ。右で一発撃ち、そして左で続けて撃てば二連射できるのだ。

 それに気がつかなかった一夏は自分で自分を責めていた。

 

(くそっ!! なんでそれに気がつかなかった!? 連射は不可能と踏んでいたが、これだと上手くやればずっと龍砲を撃ち続けられる……)

 

 もし、片方の龍砲を撃ったときに、次の発射までのタイムラグがほとんどなければ右の龍砲を撃ち、そして左を撃つ。そして今度は右の龍砲を……とできるかもしれないのだ。

 

(こればっかりは、試してみないと分からないな……)

 

 一夏は覚悟を決めて鈴音に突っ込む。

 勿論、鈴音はそんな直線的な接近は許すはずもなく、龍砲を撃ち込む。しかしそれはかわされる。次に先ほど撃たなかったほうの龍砲で一夏を追撃、しかしそれもかわされる。

 

(なんで……砲弾は見えないはずなのに、なんでそんなに悠々とかわせるの!?)

 

 鈴音は一夏が軽々と龍砲の攻撃をかわしていることに驚いていた。あまりにも余裕な表情でかわしているものだから、鈴音が驚くのも無理はない。

 しかし、現実は違った。一夏もいっぱいいっぱいだった。見えない砲弾・砲身というのをかわすのは精神をすり減らしていく。

 

 龍砲は発射する際、龍砲自体が僅かに発光する。それを見た一夏は砲弾を撃ち出すタイミングを感覚だが見計らってその瞬間にかわしているだけだった。

 

 いつ被弾してもおかしくはない。

 そんな状態が続いていた。

 

(やっぱり、発射した後のタイムラグはほとんどない……)

 

 それはつまり連射が可能だということが分かったのだ。

 

(そうなれば、瞬間加速イグニッション・ブーストしかないか……)

 

 そう思った一夏は作戦を変更。死角を突くような動きに変わる。

 鈴音も一夏の動きが変わったのは分かっていたが、作戦までは分からなかった。

 一夏は、龍砲を動き回ってかわす。そして上手い具合に鈴音の死角になるような位置に来る。

 一夏を見失った鈴音は、センサーを頼りに一夏をもう一回視界に入れる為、後ろに目をやろうとしたとき、一夏は一瞬で最高速度になり、鈴音に斬りかかる。

 

「しまっ――」

 

 その瞬間だった。

 鈴音の後ろにエネルギー弾が飛んできた。

 しかもアリーナ全体を覆っているエネルギーバリアをも壊すほどの攻撃力。一夏は急遽、零落白夜の起動をやめて鈴音を庇う姿勢に入る。

 

「鈴!!」

 

 一夏は叫んで鈴音の事を抱えた。そのときの白式は最高速度をマークいったい何が起こったか分からないまま鈴音のことを助けた。

 さっきの奴は地面にぶつかったのか大爆発がおき、そこにはクレーターが出来ていた。

 

 そして、そこから現れたのは全身黒く、腕が地面まであった。全身がISの装甲で包まれたのフルアーマーのISだった。

 

「なんだよ、これ……」

 

 一夏はつぶやく。

 

『試合中止! 織斑! (ファン)! 直ちに退避しろ!』

 

 一夏と鈴音のISには千冬が放ったその言葉が響いていた。


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