それは、ともかく、
「んだとコラ、このメガネ女ぁ!?」
「何度だって言ってやろうじゃないのよぉ!!」
「だから2人とも落ち着いてでありますよー!」
よく見れば喧嘩している場所がどうもリナの席だったらしいので、とりあえず近づいてみる。
「勝手に人の席に移動するのはやめなさいよ!!」
「てめぇの席じゃねーし良いだろ!?」
「えー、その理屈はおかしくないでしょうかー?」
大体状況は理解した。
「あのー、そこ私の席なんですけどー」
「あ!?」
とりあえずの一言にも、まさしくな返答が返される。
見ればその不良女子生徒、顔に赤いラインが見える。
刺青じゃないとすれば……西方民族系の人間だろうか?
「あ、じゃなくてー、そこ私の席だって言ってるんですよー?」
「しってるわ!!」
「じゃあ、どいてください。簡単な話でしょう?」
てめぇ、と言って予想通りこちらに矛先を向け、さらに懐からバタフライナイフまで取り出す。
(うわ、分かりやすすぎです)
「おらぁ!!」
速いだけであまりにも直線的すぎた。
だからリナには片目をつぶってでも『それを掴んでそらす』ことができた。
「あ!?」
右わきで挟むようにナイフを持った相手の腕を挟み、体ごと捻る。
「ガッ!?」
関節を外したために落ちたナイフをついでに掴み、そのまま腕を『捻り直し』背後に回る。
「い――――――ッ!?」
面白いように痛そうな声をあげる相手を抑え込み、奪ったバタフライナイフを首にあてて笑う。
「はい、制圧♪」
チャキン、と頸動脈に冷たい感触を与えた上で、顔を青ざめたその女子生徒にリナは背後から声をかける。
「とりあえず初めましてー、ここの机の右上のシールの名前の文系女子生徒のリナソレーネ・アシュワースでーす♪
それで、お名前は?」
「あ…何を…」
「お・な・ま・え・は?」
軽く突きたててひぃ、と言わせる。別にサディストじゃないが、いい気味だと思うリナだった。
「く……」
「く?」
「クレーエ……だ…!」
「ふふ、どうもー、クレーエさんですかー、へー変わった名前ですねー?
で?
どいてくれますかクレーエさん?」
青ざめた顔でこちらを見る不良生徒クレーエを見て、たぶん大丈夫だとリナはナイフを首から放す。
ついでにポケットにナイフをたたんでから入れて置いた。
「はーっ……はーっ…!!」
クレーエは何か言いたそうにこちらを見たが、すぐに青ざめた顔のまま自分の席に戻っていく。
その様子を見てリナは、ただ一言だけつぶやいた。
「ふぅ~…
あ~怖かった~。文系ですしぃ、荒事って本当苦手なんですよー」
『いやそれはおかしい!!』
この叫びをクラス全員でしたその時、初めてクラスで一体感が生まれたとかなんとか。
「あのね! いくらなんでもそれはおかしいわよ!?
色々とおかしいわよ、本当!!」
と、リナに先程あの不良生徒と言い合いをしていた、見る限り『校則に引っかからないように髪を一つに束ねて勉強あるいは本の読み過ぎでメガネになった』と思われる女子生徒がそう声置荒げて言う。
ついでに言えば、癖なのか左手を腰に当て右手でリナを指差している。
「えーと、見る限り小学校のころからクラスで委員長をやっていそうなあなたは?」
「え、なんでそれを知って…!?」
見ればわかる、とはだれも言わなかった。
「じゃ、じゃなくて……コホン。
……初めまして、リナソレーネ・アシュワースさん?
私はメルヴィン。メルヴィン・リッツ・フィールグッド。
髪色でわかりにくいけど、一応は海族の出身よ」
髪色はややブラウン、だが目が青く、肌も薄青。確かに海族の特徴だ。
それに考えても見れば、海族は単一にくくられているに入るが、地球系移民と同じく複数の部族からなるので、当然の見た目だろう。
「そうですかー、よろしくお願いしますねー、フィールグットさん。
ところで親しみを込めて『いいんちょ』と呼んでもいいですかー?」
「結局私を委員長としか見ていないのね、あなたぁ!?」
うふふー、と笑いながら「だってそんな今どき珍しいぐらいにお決まりのポーズで突っ込みを入れるだなんて、ねぇ?」と心の中で意地悪く思っていた。口には出さないが。
「はーっ、はーっ……まぁ、そんな事は良いわ、うん。別にいいの。
ただし、いくら相手が不良生徒でもさっきみたいな事はやり過ぎではないのかしら?」
と、一転して神妙な面持ちで彼女は問いかける。
「あー、確かに。
私みたいなか弱い文系少女を大勢の屈強な不良で囲んで報復―、なんてこともありますしねぇ?」
チラッ、とさっきの不良生徒を見る。
「チッ……そこまではしねーよ……クソが…!」
などと言って、リナからそっぽを向くクレーエ。
「それ以外はするんですねー……あー怖い」
「多分それ以外されてもあなたは大丈夫なんじゃないかしら……?」
「やーですねー、私を見てくださいよーほら!
私文系少女ですよー? 見る限りでもただの文系少女。ここまでわかりやすい文系少女はいませんでしょー?」
「ぶ、文系少女が、コマンド・サプレッション・アーツぶちかますでありますか…?」
と、今の今まで黙っていた、さっきまで喧嘩を仲裁しようとしていた人物が口を開いた。
その女子生徒……なぜか、帝国の軍帽にも似た、翼を広げたワシを模した徽章のような物がある帽子をかぶっている。
髪色は黒色、瞳はとび色……地球系移民だろうか?
「むむ?
そこのあなた! まさかコマンドサプレッションアーツをご存じで!?」
「知っておりますとも!
共和国特殊部隊が対人制圧のために考案した格闘術を!
今の対ナイフ装備制圧、自機非武装状態パターン6の動きを見てピンときました!」
この言葉を聞いた時、リナに衝撃が走る。
「そこまで覚えているとは……どこで資料を!?」
「月刊「ミリタリーパワーMAX」第26号の特別付録。『制圧の書』を持って、実践したことがあります! ヴォー!」
「! ま、まさか……私以外に愛読者兼実践者がいるだなんて…!
ところで、私は最後まで実践し、習得するのに4か月かかりましたけど、あなたは?」
「自分は3ヶ月であります! もちろん毎日腕立て、腹筋! 背筋ともに鍛えてもいるであります!」
がしっ、と自然と二人は腕を組んでいた。
「…自分の名前は、オティーリエ・V・カリウスであります…!
地球系ドイツ人移民4世、 趣味は歴史と軍事を調べる事!」
「リナとでも呼んでください、オティーリエさん…!
後で図書室でロイ・ジー・トーマス氏の本探しませんか?」
「喜んで!」
こうして、気が付けば謎の友情が生まれていた。
「……ところで、だな?」
と、ここで今までずっと黙っていたヒルダが、静かに咳払いをしてこうつぶやく。
「もう初めてのホームルームの時間だなのだが、
皆、席に着かなくていいのか?」
キーン、コーン、カーン、コーン
「「「あ」」」
今まで圧倒されていて何も言わず立っていたメルヴィンを含め、全員が間抜けな顔をしていた。
「……やれやれ、コレが現代(いまどき)の学生という訳か……退屈しなさそうだ」
「兄貴ー、オヤジ臭いよー?」
どうでもいいが、この一連の出来事を近くにいたあのどう見てもオヤジの学生と褐色の女子生徒がそう締めくくっていたとかなんとか。