ZOIDS学園   作:影狐

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第6話:新ゾイド、買います
その1


 

 

 

 ZAC2179年、『新生月』4日目、

 西方大陸某所、午後8時

 

 

 

『そちらに行ったぞ!! 収束率を変えてビームを叩き込め!!』

『駄目だ!! LCでも撃ち抜けない!?』

『ゴルドス、何をやっている!? 応答しろ!!』

 

 そこは、何かの試験場だった。

 コマンドウルフ数体、ゴルドス2体の部隊―――その仕様から、共和国西方大陸方面部隊の一段と思われるもの達が、何かと戦っていた。

 ゴルドスの主砲105ミリ高速レールガンが発射され、相手の小型ゾイドへ当たる。

 吹き飛ばされ、地面に倒れ込み――――

 そして、フルフルと首を振り、立ち上がる。

『……冗談だろ…!?』

 いくら、旧式化していても、ゴルドスだ。

 小型ゾイドに引けは取らない――――そう思っていた。

 

 

 鈍く光る、銀色の装甲。

 まるで、骨格標本、それを外骨格として纏う、ラプトル型ゾイド。

 ガンスナイパーではない、レブラプターでもない。

 そのゾイドは、今まで誰も見たことがないゾイドだった。

 

 そのゾイドの口に、赤い炎が集まり、放たれる。

『ぐっ…!?!』

 大型に反し、装甲の薄いゴルドスが二つの意味で悲鳴を上げる。

 ポン、ポンとも聞こえるその『火球』は、数発でゴルドスを沈黙させた。

 ―――小型ゾイドの火力とは、思えない威力だ。

『これが…!?』

 炎上する機体。システムフリーズの警告音。

 その周りで、無数の銀色のゾイドたちに蹂躙される味方機。

 その光景で、理解する。

 これが……これこそが……!」

 

『バイオ……ゾイド……!!』

 

 銀色のゾイド―――――『バイオゾイド』の、性能を。

 

          ***

 

 

 

 

 翌日 中央大陸『デルポイ』、へリック共和国首都「へリックシティ」のあるビル

 

 

 

 

 ブン、とその銀色のゾイドの姿が止まり、きゅるきゅるとピントの合った画像に戻される。

 パチッと言う音と共に、壁際にいた一人がこの会議室の照明を付けた。

 薄暗い部屋に明かりがともり、長机をU字型に囲んで座る、軍服、制服、私服、ドレスにスーツ、何とも統一感の無い、しかしどこか『似た者達』の雰囲気を醸し出す面々が現れる。

 

 彼らは、『共和国戦闘機獣産業推進委員会』と俗に呼ばれている集団である。

 

 昨今、惑星Ziにおけるゾイドバトルの普及は、実は国家間の戦争無き間、兵器産業が衰えすぎないため、そして経済におけるゾイド関連の比率から、経済的な衰退を避けるべく、という面から、国家そのものが推進している面がある。

 

 いわば、ゾイド産業、もっと言えば兵器産業が衰え過ぎないため、もっと言えば国が弱くならないために、ゾイドバトルを盛んにしている人々なのだ。

 

 ゾイドバトル連盟に働きかけ、ゾイドバトル市場に旧式化した軍用ゾイドや兵器を流し、なおかつ稀に実験機や実験兵装を、実地に近い形で試験するために流し、その影響ででる負の面を少なく保つよう、最善の方法を行う。

 単純に、ゾイド通しの決闘やその発展の戦いを『スポーツ』『文化』として残していくだけでなく、

 その市場としての価値、国力の安定と発展、兵器産業が衰退し過ぎるのを防ぐという名目で、戦闘機獣ゾイドの研究や開発を共和国関連においてスムーズにしていくために、具体的な計画を練る機関。

 それがここ、左巻きや平和主義者に悪の親玉扱いも受ける『共和国戦闘機獣産業推進委員会』である。

 そして同時に、

 他国や自らの国に属さない企業の最新兵器を徹底研究し、

 対策を練る場所でもある。

 

「……これが、我が共和国軍西方大陸方面第3機甲師団、第2仮想敵(アグレッサー)部隊による、新興ゾイド企業『D‐ガルド・ユニオンカンパニー』による新製品、

 いえ、まったくの新概念のゾイド『バイオゾイド』の主力小型機、

『BZ‐006 バイオラプター』の、性能試験映像です」

 

 壁際に立つ、共和国陸軍兵站部参謀補佐中尉『ジェリコ・カール』は、静かにそう周りに説明をした。

 その顔には、言い知れぬ緊張と、どこか歯がゆさの残る感情を見せていた。

 

「いやはや、驚きましたな~、ねぇ、見ました? 見ましたみなさん!?

 あれ、中口径荷電粒子弾ですよ、アレ!!

 いや~、うちより先にやっちゃうか~……!! あー、負けちゃったなー、すっごいな~?」

 

 と、眼鏡越しにそう、どこか不真面目な物言いをするのは、共和国老舗ビーム兵器メーカー『マクサーエナジーウェポンインダストリ』の、第4開発室室長『コウジ・テシロ』。

 どこか、楽しいのか何なのかわからない、そんな感情をもって周りに「でしょ?」と煙たがられても聞きまわる。

 

「今確認しましたが諸元性能は速度と重量以外はガンスナイパーと同等、かつ主兵装の単発火力は向こうが上であると判断します。火力の面ではガンスナイパーが上ですが、速度機動性は向こうが上と判断し、レブラプターに比べれば下ですが格闘性能も高く、なおかつモニター上でもご覧のとおり、防御力が異常です、興味深い」

 

 共和国工廠開発部所属の『マース・アークライト』は、自分の持つ情報端末から一切目を離さずそう言い切る。

 幾分か聞き取りずらいその独特の言い方だが、周りの人間たちはそれを脳内で理解できる程度の人間ばかりなので問題はなかった。

「だとすると、ビームガン装備のレブじゃ話にならねぇわな、おっと失礼。

 ガイロス帝国工廠さんがいなくて正解ですわ、ここ。

 泣くか、採用を検討するか、また変な超兵器作るかのどれかでしょ、この案件?」

「テシロさん、ここでは真面目にしていただきたい」

「真面目に?

 まじめにこっちは言ってますよぉ、だってそうでしょう!?

 こいつを見なさいよ!! この凶悪面!!」

 と、カール中尉に注意されてもなお引かず、その『バイオラプター』というゾイドへ指をさす。

「どこの国にも属さない、行ってしまえばガイロスも、ネオゼネバスも関与しない『第三勢力』ですよ?

 そしてこの完成度ですよ!? ねぇ、みなさん!?

 ここまでされてねぇ、気にならないんですかぁ!?!」

 その、凶悪な面のゾイドを指し、素直な心情を叫ぶ。

 

「―――――まぁまぁ、落ち着きましょう。テシロさんのいう事もごもっともです」

 

 と、そんな紳士的な口調でありながら、どこかおどけた声が響く。

「しかしまぁ、言わせてもらえば、発想が弱者ですな、これは!

 装甲が厚い? 火力がある? 速度もいい?

 3拍子揃えばいいというわけではないのでしょう?」

 そして、すかさず反論したのは、恰幅のいい紳士然とした男、

 共和国銃器及び火砲の老舗中の老舗、『バイクラー&ホギス・ガンスミス社』の専務である、ニコラス・ジェドリン、別名「明るい批評家ニコラス」である。

「ほー、さすが老舗中の老舗、バイクラーのいう事は違いますねぇ?」

「はっはっは! いやいや、創業年数もあって怖いもの知らずなだけですとも。

 若手の企業ほど、慎重になれない老害の意見です」

 しかし、とニコラスは、周りに牽制をするかのような視線を投げていく。

「しかし、装甲が厚ければ、その装甲を無力化してやればいい、とはだれもが思う事でしょう?

 貫通ができぬなら、浸透させればいい。

 わが社は、昔から実体弾兵器ならば何でも作ってきました。・

 AP(貫通弾)、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)、HE(榴弾)、HEAT(成形炸薬)、HESH(粘着榴弾)、なんでもござれです。

 ふむ……バイオゾイドの装甲は、なんと言いましたかな?」

「バイオ装甲。

 流体金属を何らかの方法で固定化及びゾイド細胞と癒着し、おそらくは徹甲弾が侵入した瞬間に弾芯を折り無力化、ビームに対し屈折率変化による偏向で無効化していると、映像からは推測できます」

 マースのセリフに、やはり、と言うニコラス。

「あのゴルドスは弾種を間違えたのですよ、簡単に言えば。

 わが社のHESHならば、装甲を無視して内部フレームを破壊できる。

 ホプキソン効果、と地球の理論では言われてましたかな?」

「それは……」

「そいつはちょいと見解が早いんじゃないかい、ニコラスよぉ?」

 しかし、そのニコラスの意見を否定するものが現れる。

 いまいち、場違いなカウボーイハットに、何とも地球の西部開拓時代な服装の、筋骨隆々とした男が、机に脚をかけた姿でそう声を上げた。

「ジェームズ・エルパ社長、と言いますと?」

 す、とカウボーイハットの下から、鋭い眼光を見せる。

 彼の名は、ジェームズ・エルパJr.

 共和国、ミサイル開発会社最王手グループ「エルパ」の総裁だった。

「俺のとこもよぉ、爆発物には詳しいからな。

 さっきの画像を判断するのに、あれじゃHESHでも3発同じ場所に着弾しなきゃいけねぇってわかるぜ?

 ゴルドスの主砲はそんなにやわじゃあねぇ。

 お前さんのさっきの物言い、撃ってるのがロングレンジバスターキャノンで言っちゃいねぇか?」

「ジェームズさん、ロングレンジで直射向きのHESHは意味がないですよ、ご冗談を」

「言っとくがな、105ミリレールガンの衝撃でまだ動けるフレームなんざ聞いたことがねぇぞ、小型ゾイドでならなおさらだ!」

 けっ、と言い放つジェームズに、ニコラスはただ困ったような表情で対応する。

「だが、その考えは悪かねぇな。

 早速だが、弾頭はHESHって言う案でミサイル開発プランを組むぜ」

「おやおや、他人の考えのまねごとですか。

 批判した割には手のひら返しが速い」

「じゃねぇと、お互い、また『帝国工廠』の2番煎じになっちまうだろう?」

 と、その名前に、この場の誰もが眉を顰める。

 

 帝国工廠。

 名前の付かないこの場合、ここにはいない『ゼネバス帝国工廠』を現す。

 その実体は、中小企業と職人達の工房の集まりであり、かつてゼネバス皇帝以下の元、長らく共和国に対抗するゾイドを作ってきた老舗ブランドだ。

 今では、3つの国を股にかける「優良ゾイドのブランド」として、広く認知され、

 今でも、この共和国企業、鉱床にとっての、最大の『商売敵』だ。

 

「―――あの、一ついいでしょうか?」

 と、そこで、別の企業の人間が手を上げる。

 見ると、若いパリッとしたスーツ姿の男性が、眼鏡の位置を直し、周りに視線を向けていた。

「おぉ、パノーパーのとこの若造か!

 何か意見とは珍しいな?」

「ええ、まぁ。

 我々はあくまで、電子的、システム的サポートがメインですから」

 FCSからゾイド操作システムまで、ありとあらゆる電子機器をソフトとハード両方取り扱う王手『パノーパーシステム』の社員、エーリヒ・フランツは、そう静かに的確な言葉を吐く。

「私も、ゾイドの戦闘や戦術には詳しくありませんが、先ほどの映像を見て気づいたことが一つあります」

 と、手持ちのゾイドギア大の携帯端末を操作し、先ほど映像が移されたスクリーンに別の映像が映し出される。

「……大々的にハッキングとは、パノーパーはやることがやっぱ違うわー」

「その方が楽ですし、共和国のシステムはまだまだ帝国よりも、セキュリティがガバガバでして」

「……貴重な意見ありがとうございます」

 そう言った、カール中尉の顔には、酷く落ち込んだ色が映っていた。

「まぁ、ともかく、

 現時点でまず、このゾイドの、一般公開情報、及び、視覚からの推測をまとめる、と」

 フォン、とバイオラプターの3D解析データが現れ、各部の詳細な項目が映し出される。

「バイオ装甲の性能は、マースさんの言葉通りです。

 そして、これを見る限りは、この装甲、普通の装甲の通り、

 全身を覆っているわけじゃないんですよ。

 関節部、背部、腹部、覆えない場所と覆うべき場所がはっきりしてます」

 いつ解析したのか、予測される装甲の薄い場所を洗い出したデータが次々と現れる。

「もちろん、そこは重々承知でしょうが、注目したいのは、ここ、」

 と、バイオラプターの3D映像が、口を開ける。

「先ほど、口内部武器のお話を聞いて調べてみました。

 映像で着弾記録はありませんが、攻撃の瞬間、口を閉じる映像が数点あります」

 その映像とは別のウィンドウが開き、バイオラプターへの砲撃の着弾シーンが流れる。

「ほう………口が弱点だと?」

「なるほど、口内が弱いのはよくある話ですねぇ。

 だが、これは露骨です。実に、いい」

「あーあーあー、そうだよ、そうそう!!

 これだよ、そっかー……デスもジェノもお口を撃てと言うわけだし!」

「しかし、小型目標の口を狙うのは至難の業では?」

「この口の大きさ、機体サイズを考えるに、同クラスゾイドでは確実に有効な戦術です。

 何より、ウチのFCS搭載ならば100%当てられます」

 と、自信、というよりも事実を言うように言葉を吐く。

「ガンスナイパーもカノントータスも、FCSは全部わが社製です。

 今度、ゴルドスの近代化改修セットにも、対バイオゾイド用照準補正システムを積みます。

 ゴルヘックスは言わずもがなです」

 その言動には、やると言ったらやる、と伝わるだけの力強さもあった。

「おぉ…!

 ……どうやら、ハードよりも先にソフトの面でも対策が速く立てられそうですな!」

 ニコラスの大仰な言葉に、しかし顔を向けられたカール中尉もうなずく。

「バイオゾイドは、今のところ、まだゾイドバトル市場テストの前段階です。

 しかし、1年以内には、実際の戦場でも運用されるでしょう。

 こちらとしては、その前の段階で対策がほしいのです」

「我々の兵器がそう言った場所で売れすぎるのも、国際的な問題でしょうが、

 まぁ我々死を食い物にする商人としてはそれでいいのですが、おっと失礼?

 つまりは、やはりこういった新興ゾイドに対し『抑圧』や『排斥』より、

 『普及』させ『対策を売る』方が利益でしょうからな?

 現に、必ずなければいけない需要でしょう? 共和国の政治家様たちには?」

「軍人と商売人だけのこの場では何とも言えませんが、そうだと自分の共和国議会の友人はいいそうですね」

 カール中尉の言葉に、ニコラスはいつもの笑みを浮かべる。

 その笑みの意味は、この場の『共和国市民』にとっては意味の分かる物だった。

「共和国工廠に身を置く者として思う事なのですが、これだけの質のゾイドが普及するにもコストの面で不安ですが皆さんはどう思いますか?」

「逆ですよ、高コスト高性能だから、買い手が必ずいる。

 言い換えれば、数はそろえられない人的資源に引き換え、練度と何らかの資源由来の国庫の豊かさを持つ中小国が好みそうな機体です。

 帝国工廠ブランドの方も、今自分たちのいる需要を脅かされててんてこ舞いですよ」

「ざまぁみやがれ! 低出力高信頼ビームの需要はマクサーがもらうぜ!」

「ミサイルの粒のデカさじゃ負けるが数じゃ負けねぇよ!」

「みなさん大変ですね~、需要がかぶってしまうと!」

 ははは、と乾いた笑みと、一瞬の鋭い視線が飛ぶ。

 コホン、と乱闘騒ぎの前に、カール中尉は咳払いで話を戻す。

「それと、今週の末と急な話ですが、『D‐ガルド・ユニオンカンパニー』直結のゾイド乗り育成学校である、『私立ディガルド学院』において、全面的にバイオゾイドが導入されるとのことです」

「早いな、おい!?」

「ふむ、しかし狙ったのでしょうなこれは。

 新生月の中旬と言えば、全ゾイド市場における「新製品発表、第一弾の市場流通」の季節。

 いわば、新製品のお披露目にはもってこいの季節です」

「チッ……一週間じゃ既存製品のそれ向け用途を提示するしかねぇか!

 一月あればなぁ……」

「情報部の不手際です、申し訳ありません」

「……既存品で、何処までやれるか……新規開発は間に合わねぇだろうし……」

 うーむ、とほぼ全員が、重苦しくつぶやく。

 ……バイオゾイドの正式な対策は、ソフトの面ではまだできる。

 いわゆる、弱点はどこか、どういう攻撃ならば有効なのか、だ。

 だが、ソフトだけでは、不十分だ。

 いわゆる、議題に上がるバイオ装甲を無理やり抜く方法も必要なのだ。

 ニコラス―――バイクラー&ホギス・ガンスミス社の案だけでは不安、と誰もが、言った本人も多少は思っていた。

 ふと、テシロはこの場を見渡し、「あれ?」とつぶやく。

 

「あれ?

 そういえば、「DDワーカーズ社」の連中がいないなぁ……?」

 あ、と全員が、そのことに気付く。

「そういえば、」

「彼ら、とうとう外されたんでしたかな?」

「ありえません。ありえそうですが」

「ありえそうだけどな」

「でもいないのは不自然です」

 口々にそろえて言う全員の視線に、カール中尉はなぜか冷や汗を流す。

「……実は、事前資料を渡して、来るように言ったのですが―――」

 と、その言葉まで言った瞬間、

 

「遅れました―――――――――――――ッッ!!」

 

 バァン、とドアが壊れる程の勢いで開き、誰かが入ってくる。

 皆、ある種の予定調和に対するうんざりした表情、そして何より「来てしまったのか……」という絶望の表情で、ドアを見る。

 そこに立たずむは、若いキャリアウーマン風の女性だった。

 長い髪を後ろでまとめ、快活そうな笑みを浮かべそこにいた。

「いや~、ごめんなさいみねなさん~、ちょっと連絡受けてすぐにとも思ったんですけど~、ちょっと色々と~」

「遅れた理由にしてはあやふやですね、ガートルードさん」

 カール中尉の一言ンい、あはは…と目を泳がせて笑う女性―――ガートルード。

 

 彼女は、共和国高速機ゾイド及び電磁砲開発の最王手企業『DDワークス』に所属する女性だった。

 DDワークス。

 その歴史は、コマンドウルフ開発まで遡る。

 共和国がかつて、サーベルタイガー対策に追われ、シールドライガー及びコマンドウルフの開発の時、集められた技術者達が設立し、以降帝国工廠も真っ青な技術で持って、高速機系列にはほとんどかかわっている老舗なのではある。

 だが、

 共和国の軍部、主に兵站部や周りの企業からは、影でこう揶揄される。

 

 曰く、『共和国のパンドラの箱』と。

 

「……で、なんで遅れたんですかね?」

 そう切り出したテシロ自身、「んなこと聞くな。やめろ、言っちゃいけない」とは思っていた。

 大体、DDワークスが遅れると何かが起こる。

 いい時は、ライガーゼロ・パンツァーユニットの完成。

 悪い時は……………ケーニッヒウルフができた場合。

 この企業、良いにしろ、何にしろ、

 遅れた場合は、なにか起こる。

 そして、大体が共和国を悩ませる結果になる。

「いや実は、」

 全員身構えた。

 

 

 

「例のバイオゾイドの装甲、サンプルがないんで苦労しましたが、

 抜ける可能性のある武器を、既存のプロジェクトの流用で作りました!」

 

 

 

 そして、予想通りの予想外に、全員が頭を抱えた。

 その様子に、当の本人たる彼女はただ首をかしげただけだった。

           ***

 それは、中央大陸の一角で行われた、後に「バイオゾイドショック」と呼ばれる2週間の、始まりの狼煙だった。

 

 そして話は、2日後の西方大陸北、ロブ平野のニューリバプールに戻る。

 

 

 

 


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