――――ズドォン……!!
その音は、ゴジュラスの右手の吹き飛ぶ音。
『ぐっ……やはり、デスザウラーは……強い、か………!』
ドシィン、と音を立て、C組最重量のゾイドが落ちる。
『ふ……当たり前だ……デスザウラーは、最強の………』
そのゴジュラスを倒したゾイドは、死を呼ぶ魔竜デスザウラー。
だが、その姿は…………あまりにも、痛々しい物だった。
前面にあった装甲は、見る影もないほどにえぐれ、フレームにも損傷が見える。
頭など、機銃は折れ、装甲はすべてが剥がされている。
さしずめそれは、そびえたつ屍。
事実、コアが無事なだけで、コンバットシステムは完全に機能を停止している。
もう、この戦場で動くことも、鳴くこともない、死を呼ぶ魔竜。
しかし、その足元には、敵、味方、それらの入り乱れた屍とでもいうべきゾイドたちが散らばっていた。
激戦だったのだ。
守った。突撃した。陣を構築し、入り乱れ、撃ち合い、殴り合い………
そうしてできた、ゾイドたちの墓場。
残されたものは、沈黙。
砂漠の太陽の元、無数の戦闘機獣が何一つ言わず、ただただ倒れ込む。
もはや、両陣営に生き残りなどいない。
誰もかれもが、疲れ、倒れきっている。
この戦いに、勝者はいない。
―――ボコッ!
土が盛り上がり、ひょっこりと顔を出す、蛇の頭。
プテラスと共通のコックピットを四方に向け、もう、敵も味方もいないことを確認する。
『……ふいー、こりゃ戦場は地獄だったんだろうねぇ~?
大人しく土の中にいて正解だー!』
ステルスバイパー。
スカウター3、セドゥーサの乗るゾイドだ。
偵察に徹していたからなのか、いやずっと土の中にいたからなのだろうか、
そう………
バイパーが一機、生き残った。
『バトル、オールオーバー!!
バトル、オールオーバー!!!
ウィナー……!
ミューズ学園、C組!!!』
バンッ!! ―――いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!
途端、C組の機体すべてのハッチが内側から蹴破られるように解放され、大きな歓声が沸き上がる。
「んなッ!?
ふざけるな貴様ら――――――――――ッッ!!!
そんな勝利ッ、意味があるのか!?!」
たまらず、浮かぶ廃墟同然のデスザウラーのコックピットから、怒り心頭の様子のエルフリーダが出てきた。
「あなたの言う事にも一理あるわね!! 確かに、納得はできない面もあるわ。
けど!!! 勘違いしないでほしいわッッ!!」
ダンッ、とハンマーロックが『イテッ!?』とでも言わんばかりにうめく勢いで足を縁にかけ、腕を組んだメルヴィンが得意げな顔を見せる。
「このルールは殲滅戦ッ!!
追加で陣地をとるのもあるとはいえ、結局『先に全機システムフリーズした方が負け』よッ!!
一機でも、生き残り、他全てを道ずれにすれば、
ちゃぁぁんと、こちらの勝ちなのよ!!!」
よっ、委員長! という声を皮切りに、その身もふたもない事実を肯定するヤジが飛ぶ。
「んなぁ!?!
ぐぅぅぅぅぅ………ルール上正しいだけに反論できないではないかぁぁぁぁぁ…!?!?!」
対し、エルフリーダは、こぶしを握り締め、何処にどう発散させるべきかわからない怒りに震えていく。
「貴様らぁ!? それで恥ずかしくないのかぁ!!」
とうとう、シュバルツェス・シュトルムの生徒が、ヘルメットや帽子を投げて憤りの言葉を投げつけ始めた。
「ここにはいない参謀の言葉を借りれば!!」
対し、C組のメンツは、笑って胸を張る。
『勝てば官軍、負ければ賊軍!!
虚しかろうが、何だろうが、勝利しなけりゃすべてが無意味!!
勝てばよかろうなのだぁ――――――――――っっ!!』
この卑怯者どもめー! 鬼ー、ケダモノー!やんのかコラー!スッゾコラー!
始まるは、ゾイドを置いてけぼりの大乱闘。ただの子供の喧嘩である。
『はーっはっは!! 元気があってよろしい!!
しかぁし、もうすでに決定はついている!!
青春まっさかりな喧嘩は、遺恨が残らない程度で、ほどほどに止めておきたまえ!!!』
ジャッジマンがそう全通信機とスピーカーに流すものの、大体血気盛んな組がもう、笑いながら殴るような状態である。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッッ!!!
シュバルツェス・シュトルム総員ッッ!!!
これ以上、みっともない真似はやめろォォォォォォォォッッ!!」
ぴしゃり、とエルフリーダの怒号が響く。
『ハッ!! 失礼いたしましたッ!!』
途端、シュバルツェス・シュトルム側全員の姿勢が改まり、胸の前に片手を添える(。・ω・)ゞの形となる。
「……ほら、C組の全員も引きなさい!!
勝って浮かれるのはここまでよ!!」
ちぇー、とでもいう顔も多いが、追加できたメルヴィンの言葉に、しぶしぶC組の面々も下がる。
そして、二人の指揮官は、改めて向き直る。
その視線は、二人ともまっすぐ射抜くようなものだ。
「ふむ。負けは負けだ!!
諸君に舐めさせられた辛酸の思い、当分は忘れはしまい。
次も、当然受けてはくれるだろう?」
エルフリーダは、そう言葉を紡ぎ、小さき相手に対し高みから言い放つ。
次―――その言葉に、実は胸が少し高鳴っていた。
「こちらもね、本当は戦略的大敗なのよ。
3割の損害で全滅、この時点で勝ったとは思えなくなったわ。
次もやってくれるのね? うれしい限りよ」
対し、下から相手を見据え、いつでも撃てるとでも言いたいような余裕の表情―――実際はかなり冷や汗を流している―――で答えるメルヴィン。
「メルヴィンと言ったな!?
その名前、ミューズ学園C組の名は心に刻んだ!!
また会いまみえようぞ」
「こちらこそ。
次は、完全で完璧な勝利を目指すわ」
フッ、とお互いが笑う。
目標(是が非でも倒したい『敵』)が、目の前に現れたから、
お互いを、好敵手と認めたからだ。
『よろしい!
これにて、ゾイドバトルを閉幕とする!!
次のバトルも!! 楽しみにしてくれっ!!』
それでは、とジャッジマンの乗る大気圏突入ポッドが閉まる。
再び、ロケットエンジンが起動し、ジャッジマンは空へと帰っていった。
本当に、終わりだ。
***
さて、ここで一つ。
バトルにおいて各坐したり、足が壊れたりしたゾイドはどうなるのかを説明しよう。
ゾイドバトル原則第3条第2項
「バトルにおいて行動不能になた、あるいはシステムフリーズしたゾイドは、専用の整備改修班の手によって応急修理の後、各チームの母艦やピットに戻り、速やかに本格修理を受けること」
補足
「その専門班は、ゾイドバトル連盟に加盟している専門チームでなくとも、資格と申請さえあれば各チームの所属であっても構わない」
『オーライ! オーライ! そこ、止まって!!』
ミューズ学園D組は、別名「縁の下の力持ち」「学校のアイドル」。
ゾイドを含めた整備、整地や建設、輸送を専門に習う組の面々は、他の組のバトルの際はこうして地味に活躍をしている。
『アッコー! ワークトータスのワイヤーもっと上!!』
『あいよー!』
カノントータスの、ある意味本来の姿である、クレーン作業用ゾイド「ワークトータス」につりさげられた補強用パーツ。
それの位置を修正し、腕につけられた溶接用の特殊機器で溶接するは、『五感と頭脳を兼ね備えた特殊工作メカ』の名を持つ歩兵用24ゾイド「ゴーレム」。
『バリ子ー、溶接用の機器限界でしょ? 代わり持ってきた!』
『あんがと!』
同じく24ゾイド『ショットウォーカー』が、クモらしい足を動かし、機銃の代わりにつけて持ってきた特殊機器をゴーレムに渡す。
『ここを……ちょい、ちょい……と!!』
その場所の基盤の修復を終え、ゴーレムは離れる。
『はい、ジェノ君一機応急修理完了ー!』
と、その言葉と共に、ジェノリッターは立ち上がり、一つ吠える。
『いや~、大した回復力だな~君! さすがは天下のジェノ系列!』
ガン、と小突いたジェノリッターが、一瞬「壊すぞ?」という視線を送る。
『バリ子ー!
終わったらさっさとこっちのパージしたCASの回収手伝ってよぉ!!』
と、周りのゴーレムや虫型ゾイドの『バラッツ』達が、リナのまき散らしたCASを回収している中、一体が作業を終えたゴーレムを呼んだ。
『えぇぇぇぇ!?! それもやるのぉぉぉぉ!?!?』
『当たり前でしょ!! あたしら裏方、縁の下のパワーファイター!
あるいは、幕裏のファンタスティック・テクニックなのよ!』
『言いたい意味は分かるけどさぁ~………はぁ、ジェノ君フル整備の方が燃える~……』
『帝国ゾイド整備なんて、それでこそ地獄でしょうに』
『あっちは楽しい地獄なの~! ややこしくってクソみたいで、でも伝統工芸品なところがいとおしいのー!!』
『共和国のブロック工法多用の方がマシだって! 部品流用物凄く楽だし』
『はぁ!? ったく、わかってないなぁ~!?』
そんなことないよー、と言いつつ、そのゴーレムがCASの散らばる場所へと向かっていく。
そんなゴーレムをひとしきり見たジェノリッターは、己の主と、その横にいる敵だった人間に視線を移す。
***
「……これまでにない酷い勝利おめでとうございます。
虚しいですまない、ここまでの結果で恥ずかしいとは思わないのですか?」
「恥ずかしいですよ、だって敵の『殲滅』に対して、こっちまで『壊滅』ですから」
腹ばいにグルルと鳴くライガーゼロ、ことクロムウェルの影、砂漠にできた日陰で、二人は紅茶を飲んでいた。
優雅なティータイムだ。
「その口ぶりだと、『全滅』で済ませる気でしたようですね?」
「自信過剰もいい加減にした方がいいですよ~?
無論の事、こちらはほぼ無傷で相手を殲滅。
そーれーが、第一目標です♪」
「どっちが自信過剰ですか」
「確かに」
と、リナは静かにクロムウェルの顔を見る。
「まだまだ、こちらは戦力も戦術も、未熟ですねぇ……
今回は、代償が大きいとはいえ、いい勉強にはなりました」
その横顔が、いつもの余裕たっぷりな笑みではなく、真剣な引き締まりを形作る。
「……言っておきますが、そのセリフは私の物です」
そのリナを追うように、ツバキが言葉を放つ。
「この編成、この物量、それで負けた。
代償が大きい。それでも、改善点はすべて見えた」
「……」
聞きながら、リナも口の端を曲げる。
「……次、いつやりたいですか?」
「……ほう? 心が折れるほど謙虚ではないですか」
クルリ、とリナはツバキと向き直る。
「次は負けない」
「覚えていなさい」
「「ぶっ潰してやる!! 完膚なきまでに!!」」
ふっ、と飲み終わったカップをリナに投げる。
キャッチしたリナも、笑みをこぼす。
「次はきちんと偵察しなければ、こちらはいけないみたいですけどね。
事前情報なしでデスザウラー3機は、正直キツイでしたよ」
「どうぞ? 情報は漏らさないよう気を付けていますし。
こちらは戦法を変えるつもりはありません。
もっと早く、そちらの防御を抜く。私共の総番もそれしかできないですし」
「それが厄介なんですけどねー。嗅覚のいいバカは怖い」
「扱い注意ですが」
ふふ、と笑う。
なんだか、妙に馬の合う相手だと。
「じゃ、そろそろ行きましょうか」
「ええ。今日の反省会は長そうですし」
「同じく」
「ではまた、次に戦うときにでも。えっと……?」
「ツバキ・クロガネです。ツバキで結構
そういえばあなたは?」
「リナソレーネ・アシュワース。地球移民同士、名前でいいですよ?」
「覚えておきましょうか、リナ」
「こちらこそ♪」
そうして、二人は別れた。
そして、バトルが完全に終わった。
***
一方、観戦席代わりの一角で
「以上の観戦で分かったと思うが、陣形には今でも意味がある。ここがわからず突撃するとただ死ぬだけだが、先ほど敵の行った戦闘を硬く強力なゾイドに、そこからピラミッドないし弾丸のような形で構成する『弾丸陣』は、単純だが攻撃向きであり、お前らが完璧に陣形を覚えればたとえ格闘特化のクラスでも――――」
((((((((ば、バトルが終わったのに、授業が終わらない…!!))))))))
密かに、もう一つの戦いが繰り広げられていたのは、授業を受けた物しか知らない。