ZOIDS学園   作:影狐

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その9

 

 ズドォン、という音と共に、砂を巻き上げて、ジェノリッターが落ちる。

「ぐッ………!?」

 その体中に火花が散り、右足のマグネッサーシステムから爆発と黒煙が上がる。

(あの瞬間に……!?)

 

 ジェノリッターの荷電粒子砲空中発射は、チャージの短い低威力ながら、ジェノブレイカーほどのブースター出力の無いがために姿勢を崩す結果となった。

 だが、ツバキもゾイドの操縦に自信はある。

 それでも地面に打ち付けられたのは、直前飛んできた光弾が右のバーニアを貫いたからだ。

(あの瞬間を正確に狙ったと……!?)

 驚きだ。

 射撃、砲撃特化クラスとは聞いていたが、そこまでの腕とは………

 

 ――――グルルルルルルルル………!

 

 と、自分の乗るジェノリッターが、低く唸り声をあげる。

 気づけば、傷ついた右足で大地に強く踏み、いまだスパークする関節を痛めつけてでも、立ち上がる。

「どうしましたか? まだ不服ですか?

 もっと戦いたいのですか?

 何の唸りなのかを答えなさい、ジェノリッター」

 グワァァァァ、と一つ唸り声をあげ、いまだ砂煙の上がる位置を見る。

 

 ―――ズシン、と煙をかき分け、

 あちこち焦げ付いたように汚れた、しかしいまだ輝く金色の爪が大地を踏みしめる。

 ぬっ、と右のブレードアンテナの折れた顔が出てくる。

 そのまま、壊れた片肺のアタックブースターをパージしながら、ゆっくりと歩みこちらに近づく。

 

『――――いやぁ~、死ぬかと思いましたよ~……まったく~』

 

 プルプルと、全身の砂でも落とすように体を震わせ、ライガーゼロ・クロムウェルが一つ吠える。

 チッ、と思わず舌打ちする。

 はしたない、と口元を抑えてしまう。

「そのままシステムフリーズしていれば、こちらも無駄な労力を使わずに済んだのですが」

『こっちだってちゃんと狙い通り足の付け根を打ち抜いてれば、一発で道連れにできたのに!』

 フン、と鼻で笑う。

 嘲るのではない。これは安心だ。

 バーニアに当たって、まだ運が良かったという事なのだ。

『ま、過ぎた話はおいておきましょうか。

 それで、その言い方だとまだ戦いを続けるつもりですかぁ?』

「当然」

 と、壊れた右足を踏み出し、答える。

 まだジェノリッターは動ける。

 バーニアの損傷など、愛機は気にも留めていない。

 

        ***

 

「ちぇーっ!

 機動力がお互い落ちゃ、アドヴァンテージなんてなしじゃないですか~?」

 などと口には出すが、実はリナにはまだ余裕がある。

 幸いなことに、犠牲になったのはたかが片肺のアタックブースターにセンサー一基。

 バランスが左寄り程度になったぐらいだ……なんて軽微なんだ!

(まだ動ける。

 相手の足がつぶれたのなら………ようやく勝利ができる…!!)

 にぃ、笑ってしまうリナ。

 ――――とても、これからまともな戦いをしようという顔ではない。

 

 

 知っている人間は、こう称する。

 

 

 

 またリナが何かたくらんでいる。

 

 

 

「ここまで来て、他の人間にかまう余裕はなし。

 付き合っていただきますよ?

 貴女には、ここで果てていただきます」

「どーぞ、どーぞ!!

 その代わり、そっちも地獄の道連れですから~♪

 仲良くいきましょうよ~?」

 さぁ、とお互いが踏み込む。

 

 

 

「「行きますッ!!」」

 

 

 

 ボン、と音を立て、獣と竜が、ぶつかり合う。

 

           ***

 

『ふはははははははははははははははッッ!!!

 どうしたぁ!?! 逃げてばかりではないかぁ!?』

 ずん、ずんと音を立て、進軍するデスザウラー。

 砲弾、光弾、衝撃波、とにかくあらゆる武器を受け止め、装甲が吹っ飛びながらも、周りに率いたゾイド群と共に、足を止めず、ビーム機銃やミサイルを放ち進む。

 

『委員長!! 逃げてばっかじゃねぇか!?

 いい加減オレの『奥の手』使わせろよッ!?!』

『はやらないでクレーエ!!

 今は、とにかくこちらの損害を少なく、相手を削りながら全力で後ろに進むの!!!』

 と、ガトリングや対ゾイド砲、を叩き込むレッドホーンの横で、ハンマーロックに搭載されたミサイルを撃ち、メルヴィンは言い放つ。

 その足は、後ろへ向かい、じりじり下がっていく。

『フォートレス及びアーチャーの皆さま!! 交代であります!!』

 と、前に出てきたエレファンダーから、オティーリエの通信が入る。

 そして、ガンブラスターの砲撃とカノントータスの砲撃が始まり、他のレッドホーンやハンマーロック達が後ろへ下がる。

『チッ……こんなのただの我慢比べじゃねーか!!』

『そうよ!!

 無理やり突っ込んでくる相手には、本気の我慢比べが苦手なのよ!!

 見なさい!! はやる気持ちを持った人間から……!』

 今、こちらの砲撃によって、2体のゾイドが吹き飛んだ。

『うぉ……!?!』

『ほらね!! さすがにリナの指示の通りなのは不気味だけど、

 それでも、この守りに全力を注いだ陣形なら、勝機はある!!』

 さぁ、休憩よ、と無理にクレーエのレッドホーンを後ろに追いやる。

 

           ***

 

「ぐぅぅぅぅぅ、何なのだこの異常なまでの硬さはぁぁぁぁぁぁ………!!」

 エルフリーダは、見てわかる程苛立ちを募らせていた。

 なんだ、この異常なまでの硬さは。

 こちらにもダークホーンはいる。荷電粒子砲がないだけで、自分のデスザウラーも健在だ。

 

 しかし、攻めきれない。

 抵抗? 火力一点集中? いや、自分の語力に該当する物はない。

 だが、感覚で言うならそう、

 

 まるで、デスザウラー3機分の装甲を、素手で殴っているかのような、圧倒的硬さ。

 

「うが――――――――っっ!!!

 もっと突っ込めばいいのだ、どうせ!!!」

 硬いのがどうした!

 蹂躙してやればいい、とにかくそう思い、一層足を速くする。

 

『うわ、またこのデスザウラー突っ込んで来ようとしてる!?』

『超重装甲がだいぶ傷んでるのに、まだ突っ込めるのか!?』

 さすがに、恐怖を覚える。

 愚直すぎて、その愚直な行動に翻弄される自分たちがいて。

『落ち着けぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!

 落ち着きなさい!! とにかく守りを固めなさい!!』

『了解!!!』

 しかし、ここで行動を変えてもだめだ。

 散り散りになった瞬間、各個撃破がオチだ。

 

          ***

 

『ぐわぁッ!?』

『総番、すみません…!!』

「気にするな!! 相手がなんだか硬いだけなのだ!!!」

 しかし、とエルフリーダのデスザウラーは、より早く、相手への距離を縮めようと動く。

「すぐに、この硬さを何とかしてやる!!

 この身、この魂、砕け散るまで突撃だ!!!」

『総番…!!』

『どこまでも、ついていきます!!』

 

           ***

 

 

 

『クッ……弾幕薄いわよ!! まだまだ守りなさい!!』

 

 

 

『突っ込め―――――――――――――ッッ!!!』

 

 

 

 両者、いまだ譲らず。

 

           ***

 

 そして、ここでも譲らない戦いがあった。

『ストライクレーザークロォォォォォォォォォッッ!!!』

『切り裂けドラグーン・シュタァァァァルゥゥゥゥゥゥッッ!!!』

 金色に輝く爪と、白銀に光る剣とがまじりあう。

 拮抗を破ったのは、リナのクロムウェル。

『―――ほいっ、』

『!?』

 ぶつかった瞬間、気が抜けるような感覚で、当てたストライクレーザークローをそらす。

 一瞬の間、瞬間、

『とぉっ!!』

 跳ね上がった右のブレードが、ドラグーン・シュタールの真横からぶち当てられ、ぴきっ、と嫌な音が響く。

 しまった、と思った瞬間、着地と共に駆け出す要領で、後ろ脚のストライクレーザークローが煌く。

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!』

 バキィン、と片方のドラグーン・シュタールが折れる。

『よぉしっっ!!』

 ずざざ、とドリフトする勢いで、ドラグーン・シュタールを折ろうとした衝撃で壊れたブレードをパージする。

 残りは、アタックブースターともども残る左側だけだ。

『ッ、調子に……!!』

 しかし、瞬間相手は足のアンカーが下り、荷電粒子砲発射形態となる。

『乗ってやりますともッ!!』

 瞬間、残ったブースターを起動し、一門だけのパルスレーザー砲を撃ちながら近づくクロムウェル。

『ぐぅぅ……ですが、ここでッ!!』

 しかし、あと少し、の所で、最低発射チャージが終わる。

(当たる…!?)

(当てるっ!!)

 眼前に迫るライガーゼロ・クロムウェルと、発射態勢を負えるジェノリッター。

 瞬間、ライガーゼロのブレードが、横に展開される。

 だが、その基部を貫くように、荷電粒子砲が放たれた。

 クロムウェルの左側の神に等しい空力カウルが融け、しかし、本体に届く前に装甲をすべてパージし回避し、

 瞬間、ジェノリッターの損傷した右足に、点火したままだったアタックブースターが直撃する。

「ぐっ!?」

 右足に、ミサイル同然の速度で叩き込まれた物体の衝撃はすさまじく、バーニアだけではない、確実に各坐するほどの衝撃だった。

 ばきゃぁん、と音を立て、崩れ落ちるジェノリッター。

 システムフリーズではないだけ、むしろ幸運なのだろうか?

 これでは、荷電粒子砲は撃てず、格闘戦も満足にできない。

『……うわぁ、ぎ、ギリギリ……!!』

 通信機から、相手の本音が少し聞こえた。

 相手もひどいものだ……左側の空力カウルのような装甲は、すべて消えている。

『……だが…!!』

『ま、五体満足、ってとこ、ですよねぇ~?』

 にひひ、と笑いながら、相手は近づく。

『クッ……まだ、まだ…!』

 残ったドラグーン・シュタールを構え、しかし、動かない足には力は入れられない。

『ふぅ……やめなさいって……さすがにこれ以上ゾイドをいたぶるのは本当は趣味じゃないんですから。

 機械の体、治せるとはいえ………そのジェノ君を無理はさせないでくださいよ』

『残念ながら、その言葉をうのみにはできない!!』

 ドラグーン・シュタールの切っ先を向け、ジェノリッターと共にリナを睨む。

『…………はいはい、騎士道騎士道。

 ………あきれる程、まっすぐな感じで…………』

 と、その瞬間、

 ライガーゼロが、一際呑気に伸びたかと思えば、腹ばいになってだらけたように手足を伸ばす。

『……!?』

 それは、戦闘意欲をなくしたような。

 いや、完全に戦闘意欲のない状態だ。

『コンバットシステムを、切った!?』

 その目の前で、コックピットが開き、一人の少女が出てくる。

 

「―――おーい!!

 そのまっすぐすぎなー! あきれるほどの騎士道に免じてー!!

 紅茶でもどうですか――――っ!!」

 

           ***

 

 渡されたカップには、柑橘のような独特の香りが漂う。

 程よい独特な香りはアールグレイ。

 コロン、と音を立てた氷で冷やされた、アイスティー。

「……なんで、こんなことを?」

 一口、香りと共に紅茶をいただき、改めて尋ねる。

「こちらの戦術目標は達成済みですし、

 何より、敵とはいえ学生同士、他校の参謀には興味ありますとも」

 相手も、この香りを逃がさないよう相当努力したアイスティーを飲みながら、そうあっけんからんと答える。

「リナソレーネさんと言いましたね?

 卑怯者で変わった人間……なのに、紅茶はなかなかに美味しいです」

「英国人は、お菓子と紅茶で失敗はしません。

 ほとんど惑星Ziの人間と同化しても、紅茶にかける力だけは抜きませんよ?」

 なるほど、とうなずく。

 日系とはいえ、地球移民。

 流れる血の性は、理解ができる。

「……どちらが勝つと思います?」

 そして、ふと、そんな質問を、ツバキは投げかけてしまっていた。

「……そーですねー………分かりませんね、結構真面目に」

 相手は、当然そちらと答えると思いきや……なんと、自分と同じ答えを出した。

 

 

『こちらパンツァー3、もう駄目だー!!』

『総番、本当にすみません、うわぁ!?』

 

 

 通信機は、復旧していた。

 

 

『駄目よ! まだ耐えるの!!』

『突っ込め!! 片腕ぐらいなんだ!!』

 

 

 ノイズ交じりに聞こえる戦況は、どちらも苦しい物だった。

「………そちらの硬さに、こちらの突破力が追い付いていないようです。

 なんてキチガイじみた防御戦術だ」

「私自身、防御型な思想な物でして~。

 でも、それにかまわず突っ込むそちらは……正しいけど、バカじゃないですか?」

「ええまぁ」

 ふふふふ、とお互い笑ってしまう。

「……改善点は見つけられた。十分です」

「こちらも………敗北しても、まだ得られるものがあるだけマシ、でしょうね」

「まぁ、負けませんが」

「こちらこそ」

 もう一杯、香りの強いアールグレイをいただく。

 砂漠の太陽の下、それはとてもおいしく感じられた。

 

 

 

 

 

「「いい戦いだった。結果は散々ですが」」

 

 

 

 二人は、その戦いをそう言い表した。

 ―――気が付けば、放火は止んでいた。

 

 

 

『バトル、オールオーバー!!

 バトル、オールオーバー!!!

 ウィナー……!』

 

 

 

 ジャッジマンの、判定が響く。

 

 


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