ZOIDS学園   作:影狐

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その8

 

 そして、現在。

 

『突撃だぁ!? もう一方が突っ込んで、ぐぅぅっ!?』

 前衛のダークホーンを押し上げるように、レッドホーンの群れがなだれ込む。

 もはや、特殊鉱物ディオハルコンの存在しない惑星Ziでは、この違いなど色ぐらいなものだ。

 ダークホーンとレッドホーンのつばぜり合いは、互角。

『クソッ、小型ゾイド群は何を…!?』

 そして、それらに交じり、もっと恐ろしいものが迫っている。

 レッドホーンに隠れ、イグアンが迫る。

『この距離なら装甲も意味ねぇよなぁ!?』

 どぉん、と爆音が上がる。

 ほぼ接射ならば、頑強なダークホーンでも小型ゾイドの火器は抜ける。

 抜けさえすれば、あとはシステムフリーズだ。

『しゃおらー!! 次だ次!!』

『いやいや、2機しかいないんだけどよぉ!?』

『他のも出ろや!!』

『ではここで私が』

 レッドホーンに押されたダークホーン達に、次は惑星Zi最悪の武器が叩き込まれる。

 濃硫酸噴射砲。対人火器である。何を言っているのかわからないが。

 そしてこれは、別名『ゾイドをダメにする兵器』である。

 具体的に言えば、これのせいで電子機器が融けるのである。

『え…?う、あ、さ、酸だー!?!』

 無論それ以外もだ。この兵器は対人火器であると同時に、装甲破壊用、電子機器破壊用ときわめて使い勝手のいい兵器なのだ。

 環境汚染がー、という輩ももちろん溶かせる。今では中和技術もあるので試合でも使えるのだ。

 さて、こんな状況で来るはずの小型ゾイドは、今何をしているのか?

 

         ***

 

『虎の子のミサイルを、使わせるなんて!!』

 孤軍奮闘状態のパンツァー隊、アーチャー隊、そしてカリンのいるFF隊の片方も、いまだ粘り続けていた。

『委員長! 気づいているでありますかぁ!?』

『何によ!?

 いまだ私たちが無事なこの状況のこと!?』

 と、あちこち焦げ跡の付くエレファンダーからのオティーリエの声に、メルヴィンは興奮気味に答える。

 相手もなかなかのゾイドとゾイド操縦であり、なぜ粘れているのかが謎だ。

『デスザウラーもトラブルか、まだ来ていないであります!!

 合流は…!』

『うぉあぁぁぁぁぁ!?!?!』

『『!?』』

 と、近くで味方のハンマーロックが吹き飛び、スパークしながら動きを止める。

『アーチャー4、システムフリーズ!!!』

『カーター殿ぉ!! せめてミサイルはもうちょい撃ってほしかったでありますよ!!』

『もらうからね、武装!! いいわよね!?』

『ルール上ありだから早く!! デブ一人にかまうな!』

『『『『『当然』』』』』

 クソッタレ、と断末魔の響くハンマーロックから、ミサイルを消費した別のハンマーロック達が武装をはぎ取る。

 ミサイルは、特に帝国製は、

 とても貴重で使いまわすものなのだ!

『よし、合流を急ぐであります!!

 すでに結構囲まれているでありますし!!』

 この作業の間、Eシールドを展開し守っていたフェルディナントの眼前には、複数のブラックライモスやイグアン重装型がいる。

 中型、小型でも、この数の弾幕はなかなかにキツイ物がある。

『シャイセッ……! もうジェネレーターが悲鳴あげ始めてきやがる!!』

『今ミサイルを!!』

 と、その時、

 

『待ちたまえ、諸君。

 紳士・淑女たるもの、わめいて行動するものではないのだよ?』

 

 そんなキザな言葉と共に、敵の一角が吹き飛ぶ。

『お!? この紳士なお声は…!』

『来たのね!!』

 そして、その隙間を縫い、見た目に反した速度と共に、丸い紳士達がやってくる。

『安心したまえ!!

 我々が来た!!』

 共和国重砲撃小型ゾイド、カノントータスが5機。

 ヴォルケーノ隊が、爆炎を上げた敵の間からやってきた。

『着たぁ!!! 780ミリ突撃榴弾砲ぉぉっっ!!

 余裕の火力とはまさにこのこと!!』

『あまり褒めないでくれたまえよ?

 立派なカメだなんて、ねぇ!!』

 ズドン、ズドン、とこの場でも桁違いな大音響が響き、敵の周りや敵の避けた先の後ろにクレーターが出来上がる。

『カノントータス。

 それは、この惑星Ziにおいて、陸戦火力の王。

 足が遅い。不格好。格闘ができない。

 そんなデメリットなど、この威力!! それですべて帳消しにできる!!

 くぅ~……ヒャッハー!!! 共和国は最ッッ高だぜぇぇぇ!!!』

 しかぁし、と、その砲撃の合間に、一際強く走り出し、手ごろなブラックライモスを弾き飛ばす。

『このガイロス帝国重ゾイド!! 負けていられないであります!!』

 言うねぇ、という後ろからの通信に、テンションの上がった笑い声で返す。

『ほらほら、ガンブラスター!! 共和国ゾイドだろぉ!? 弾幕どうしたぁ!!』

『別方向に撃ってるって!! 砂丘が邪魔でよぉ!!』

『地形変えてやればいいんでありますよ!!!

 砲撃だ!! ここからは攻勢の時間だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 リナ殿は嫌いでしょうがパットンのやり方だぁぁぁぁぁぁ!!!』

『地球ネタ、惑星Zi人、わからねぇ!! 分かったか移民!!!』

 徐々に、苦しい言葉よりも、軽口が飛び交うようになる。

 余裕が、出てきた瞬間だ。

 

         ***

 

「聞こえますか、全軍!!

 総番、エルさん!! エルフリーダ!! 他の者は!?」

 ジェノリッターの中で、通信機に叫ぶツバキ。

 しかし、周波数帯を調節しても、叩いても、反応はない。

 これほど近くにいながら、ノイズしか聞こえてこない。

「クッ……かくなる上は…!」

『―――信号弾なんて、考えてませんよねぇ?』

 はっ、と突然通信機から響いた声に驚く。

『言っときますけど、逃げても追いかけますし、信号弾は撃ち落とすつもりですよぉ~?

 できないはず! とか………言うつもりですかぁ?』

 おそらく、目の前のライガーゼロ。

 そう理解したころには、目の前の相手をにらみつけていた。

「……チャフだけじゃない……電子的妨害装置で、こちらの通信のみを……!

 大型ゾイド、ましてライガーゼロの電力なら、このレベルならば…!」

『解説ご苦労様でぇ~すっ!

 いや~、敵にもちゃぁんと、頭の良い方がいてくれて、まぁ~うれしいですよ~?

 直感で突撃するようなバカばっかりじゃあ、興ざめじゃないですかぁ~、いろいろ準備したのに!』

 極めて、不快な言動。

 人を子バカにするための声、言葉、間、そう言った不快を煮詰めた言葉が、笑いが通信機から流れる。

 ―――――ここまでは、まぁ予想はできる。

「なぜ、気づいたのですか?

 この機体、確かに目立ちますとはいえ……我らの参謀の乗るものだ、と」

 と、ツバキは、簡潔に尋ねる。

『んん~? 知りたいですか―――』

「もちろんッ!!」

 そして、相手・の返答を待たずにジェノリッターを突撃させ、ドラグーン・シュタールの刃を放つ。

 薄いイェーガータイプの装甲、当たれば、真っ二つ。

 キィン!!

 ――――そして、バチバチという音を立て、そのライガーゼロから伸びた金色のブレードが、ドラグーン・シュタールを受け止める。

「!?

 ほう………小物の言動に似合わぬ腕です…!」

『小物で結構。

 これでも、自分から全体を見て動いている奴と、命令に従うしかない忠実な兵士君達の違い位ッ!』

 わかるッ!!

 と叫ぶとともに、お互いが反発するよう後ろに飛び、着地する。

 

          ***

 

「ふい~……いやいや~、でも名将とエースが同じっていうのも考え物ですよね~?

 頭を潰せば、全体の動きが止まる。

 これは致命的ですよ~♪ねぇ?」

 ライガーゼロを握る手に、汗をにじませながらも、余裕たっぷりに言うリナ。

 いや実際、今の一瞬で分かった。

 

 

(あ、この人、マジで強い…!)

 

 

『そちらは、案外頭のいい人材、人望もある人材に恵まれているようで。

 ゾイドはバラバラでちぐはぐ、魔改造しかいないようですが』

 嫌味まで一級品、と冷や汗交じりに思いつつ、慎重に歩を進める。

 間合いが……相手のゾイドとの戦いには重要なのだ。

「ゾイドで判断するようじゃ二流ですよ~?

 こっちは、デスザウラーを1機、確実にシステムフリーズさせてるんですからね!!」

 まぐれですけどね、などとは死んでも言わない。

 言葉は常に余裕に。相手に底を見せないように。

『驚きましたよ。ゲリラにやられた正規軍の気分です』

「あら、知ってますかぁ~?

 かの中央大陸の覇者、ヘリック共和国は、ゲリラにおいても超一流!!

 真正面から戦うだけの、そっちのガイロスだかゼネバス帝国とはわけが違うんですよぉ?」

 怒らせろ、少しでも冷静さを削れ。

 もっと言葉を考えろ。自分の頭は、はっきりと動かせ。

『怖いものです。

 これは、ちゃんと叩き潰してあげないと』

 相手が一歩踏み込む。

 威圧感が、桁違いだ。

「安心してください。

 ぶっ潰そうとしたその足に深く噛みついてあげますから♪」

 勝てる確率は少ないなら………

 

 徹底的に嫌がらせを、するのみ。

 

 

 

「では」

 

 

 

「勝負と、」

 

 

 

「「行きますかッッ!!!」」

 

 

 

 瞬間、二つの機体が大きく跳ね、爪が、剣が、激しく火花を散らす。

 

          ***

 

『えぇぇい!!! これしきの傷がなんだ!!

 デスザウラーはまだ立っている!!』

『装甲はボロですが、荷電粒子砲は無事です!!

 まだ戦えます!!!』

 ずぅん、とボロボロのデスザウラーが2体、己が戦場を目指し歩く。

 

 

 

『来たぁぁぁ!!』

『デスザウラーが2体!!

 やったぜ、超重装甲の再生が追い付いていないッ!!』

 その姿を見たC組の面々は、迎撃態勢を取る。

『装甲の隙間を狙うであります!!』

『私が、前に出る』

『ココロはまだ荷電粒子砲撃てます!!』

 そして、温存していたゴジュラスが、満身創痍だがまだ動くバーサークフューラーが前に出る。

『おおっと!! 黄金砲は必要だろ!?』

『……』

 ガンブラスターも、まだいる。

 

『ほう、そろい踏みか!!』

『ならば、あいさつ代わりだ!!』

 まだ使える荷電粒子砲を持つデスザウラーの背後、荷電粒子吸入ファンがうなりを上げる。

 

 

 

『来るでありますよぉ―――――――ッッ!!』

『了解!!』

 アンカーを下し、尾をまっすぐ伸ばし、放熱板を開く。

 バスタークローはもう使えないが、口の中はまだ健在だ。

『撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!』

 そして、戦場も一気にその温度を上げる。

 

       ***

 

『うぉぉぉぉぉぉぁああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』

 魔剣の龍の咆哮と共に、その刃が眼前に迫る。

『おっとぉッ!?!』

 しかし、紙一重でよけたクロムウェルは、砂地にあとを残す程の勢いで反転し、背後のアタックブースターからビームを放つ。

『クッ…!!』

 しかし、ジョノリッターのドラグーン・シュタールは攻防一体。

 電磁シールドにビームは偏光し、拡散し、ダメージは通らない。

 だが問題は、ジェノリッターの足を一瞬止めた事。

『隙ありッ!!』

 瞬間、胸の衝撃砲を放ちながら間合いを詰める。

『なんのっ!!』

 ドラグーン・シュタールの間合いを殺すほど近くに来たライガーゼロへ、頭部のブレードで迎撃する。

『!? っ、このぉッ!』

 瞬間、金属音と共に、ライガーゼロの口で刃が受け止められる。

『白刃取り…!?』

『パワーは、』

 そのまま胴体を潜り込ませるようぶつけ、

 

 

『クロムウェルが上なんですよぉぉッッ!!!』

 

 

 角を軸に、体を全力で捻り、投げ飛ばす。

 

(たたきつけられる…!?!)

『間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!』

 砂の大地と接触する瞬間、ジェノリッターのマグネッサーシステムが展開し、空中で勢いを止め、姿勢を制御する。

『空でよけて見なさいなッ!!』

 その瞬間を狙い、全砲門をジェノリッターへ放つクロムウェル。

『お望みどおりにッ!!!』

 しかし、瞬間バーニアが激しく炎を吐き出し、マグネッサーシステムの光が強く輝いたかと思った瞬間、横に消える。

『んなっ…!?』

 

『ジェノブレイカーの真の原型機は、』

 瞬間、姿勢をこちらに向けたその姿が、ザウラー系列機の象徴たる、荷電粒子砲発射態勢へ変化する。

 

 

『このジェノリッターだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!』

 

 

 わずかなチャージ時間を許した一撃が、リナに、ライガーゼロ・クロムウェルに放たれる。

 

          ***

 

 ――――グォォォォォォォォォォォォォォォ…………ン……………

 ズドォン、と音を立て、煙を噴き上げあちこち焼け焦げ漏電する、それはそれは傷だらけのデスザウラーが崩れ落ちる。

『やった……!! に、2機目……!!』

 しかし、喜んだオティーリエの隣で、ドシンと崩れ落ちるような音が響く。

 バーサークフューラーが……カリンの乗るココロが倒れ、うめきながら震えていた。

『カリン殿ッ!?』

『ごめんなさい……ココロ、まだシステムフリーズしてないけど……!』

『もういいであります!! カリン殿、ココロにシステムフリーズするよう命じてください!!

 無理強いをさせた。あとは、我々が……!』

 と、オティーリエの言葉に、一瞬ためらいの声が通信機から聞こえる。

『……うん、ありがとう。

 ココロ、もういいんだよ……今日は、もうここまで……ここまでで……!』

 と、一瞬その言葉に反応するよう口を開け、

 やがて、フン、と鼻息でも出すかのように、どしんとその頭を地面に落とした。

『……システム、フリーズです……』

 その言葉と共に、フェルディナンドの中から、静かに感謝をささげる。

『……委員長殿!! どうやらここからが我々の正念場のようであります!!』

『知ってるわよ、何せ…!』

 そして、すぐ横にいたハンマーロックが、敵を指さす。

 

 

 

『まだだぁ……まだ私が立っている…!!』

 そこには、装甲は穴と焼け焦げだらけ。

 さしずめ傷だらけのデスザウラー、とでもいうべきものがいた。

『……ふははははっ……ここまで、追い詰められたのは初めてだ…!!』

 だが、その足は力強く大地を踏みしめ、その眼光は、死を呼ぶ魔竜の名にふさわしい鋭さを保っている。

『総番!! まだ生き残りは数多くおります!!』

 その足元には、あるいは満身創痍なダークホーン、そして、いまだ数多くのイグアンやブラックライモスがいる。

『相手もこちらも苦しいのなら!!!』

『我らシュバルツ高等学校、シュバルツェス・シュトルムは引かず!!』

『その先に活路を見抜くのみです!!』

『指示を!! ここまで来て、引くとは言いますまいな!?』

 にやり、と口の端を曲げる。

『私には、引くとか負けるとかいう言葉が体に合わないからな。

 ―――――全軍突撃だ。

 突撃だ!! それ以外はするな!!!』

 デスザウラーが吠える。

 そして、そのほかのゾイドたちも。

 

 

 

『ここが正念場よね!!!

 もう、ここまで来たら総当たりよ!!!』

『異論無し!!

 ただし!! 頭使って戦わないと、みな死ぬでありますからね!!』

 了解、とC組の機体すべてのメンツが答える。

 数は上。だが、相手は荷電粒子砲がないだけ、ボロボロなだけ。

 ただそれだけの弱体化しかしていない、デスザウラーだ。

 

 

 

 

『『『『行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!』』』』

 

 

 

 

 試合は、最後の段階へと入った。


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