そして、現在。
『突撃だぁ!? もう一方が突っ込んで、ぐぅぅっ!?』
前衛のダークホーンを押し上げるように、レッドホーンの群れがなだれ込む。
もはや、特殊鉱物ディオハルコンの存在しない惑星Ziでは、この違いなど色ぐらいなものだ。
ダークホーンとレッドホーンのつばぜり合いは、互角。
『クソッ、小型ゾイド群は何を…!?』
そして、それらに交じり、もっと恐ろしいものが迫っている。
レッドホーンに隠れ、イグアンが迫る。
『この距離なら装甲も意味ねぇよなぁ!?』
どぉん、と爆音が上がる。
ほぼ接射ならば、頑強なダークホーンでも小型ゾイドの火器は抜ける。
抜けさえすれば、あとはシステムフリーズだ。
『しゃおらー!! 次だ次!!』
『いやいや、2機しかいないんだけどよぉ!?』
『他のも出ろや!!』
『ではここで私が』
レッドホーンに押されたダークホーン達に、次は惑星Zi最悪の武器が叩き込まれる。
濃硫酸噴射砲。対人火器である。何を言っているのかわからないが。
そしてこれは、別名『ゾイドをダメにする兵器』である。
具体的に言えば、これのせいで電子機器が融けるのである。
『え…?う、あ、さ、酸だー!?!』
無論それ以外もだ。この兵器は対人火器であると同時に、装甲破壊用、電子機器破壊用ときわめて使い勝手のいい兵器なのだ。
環境汚染がー、という輩ももちろん溶かせる。今では中和技術もあるので試合でも使えるのだ。
さて、こんな状況で来るはずの小型ゾイドは、今何をしているのか?
***
『虎の子のミサイルを、使わせるなんて!!』
孤軍奮闘状態のパンツァー隊、アーチャー隊、そしてカリンのいるFF隊の片方も、いまだ粘り続けていた。
『委員長! 気づいているでありますかぁ!?』
『何によ!?
いまだ私たちが無事なこの状況のこと!?』
と、あちこち焦げ跡の付くエレファンダーからのオティーリエの声に、メルヴィンは興奮気味に答える。
相手もなかなかのゾイドとゾイド操縦であり、なぜ粘れているのかが謎だ。
『デスザウラーもトラブルか、まだ来ていないであります!!
合流は…!』
『うぉあぁぁぁぁぁ!?!?!』
『『!?』』
と、近くで味方のハンマーロックが吹き飛び、スパークしながら動きを止める。
『アーチャー4、システムフリーズ!!!』
『カーター殿ぉ!! せめてミサイルはもうちょい撃ってほしかったでありますよ!!』
『もらうからね、武装!! いいわよね!?』
『ルール上ありだから早く!! デブ一人にかまうな!』
『『『『『当然』』』』』
クソッタレ、と断末魔の響くハンマーロックから、ミサイルを消費した別のハンマーロック達が武装をはぎ取る。
ミサイルは、特に帝国製は、
とても貴重で使いまわすものなのだ!
『よし、合流を急ぐであります!!
すでに結構囲まれているでありますし!!』
この作業の間、Eシールドを展開し守っていたフェルディナントの眼前には、複数のブラックライモスやイグアン重装型がいる。
中型、小型でも、この数の弾幕はなかなかにキツイ物がある。
『シャイセッ……! もうジェネレーターが悲鳴あげ始めてきやがる!!』
『今ミサイルを!!』
と、その時、
『待ちたまえ、諸君。
紳士・淑女たるもの、わめいて行動するものではないのだよ?』
そんなキザな言葉と共に、敵の一角が吹き飛ぶ。
『お!? この紳士なお声は…!』
『来たのね!!』
そして、その隙間を縫い、見た目に反した速度と共に、丸い紳士達がやってくる。
『安心したまえ!!
我々が来た!!』
共和国重砲撃小型ゾイド、カノントータスが5機。
ヴォルケーノ隊が、爆炎を上げた敵の間からやってきた。
『着たぁ!!! 780ミリ突撃榴弾砲ぉぉっっ!!
余裕の火力とはまさにこのこと!!』
『あまり褒めないでくれたまえよ?
立派なカメだなんて、ねぇ!!』
ズドン、ズドン、とこの場でも桁違いな大音響が響き、敵の周りや敵の避けた先の後ろにクレーターが出来上がる。
『カノントータス。
それは、この惑星Ziにおいて、陸戦火力の王。
足が遅い。不格好。格闘ができない。
そんなデメリットなど、この威力!! それですべて帳消しにできる!!
くぅ~……ヒャッハー!!! 共和国は最ッッ高だぜぇぇぇ!!!』
しかぁし、と、その砲撃の合間に、一際強く走り出し、手ごろなブラックライモスを弾き飛ばす。
『このガイロス帝国重ゾイド!! 負けていられないであります!!』
言うねぇ、という後ろからの通信に、テンションの上がった笑い声で返す。
『ほらほら、ガンブラスター!! 共和国ゾイドだろぉ!? 弾幕どうしたぁ!!』
『別方向に撃ってるって!! 砂丘が邪魔でよぉ!!』
『地形変えてやればいいんでありますよ!!!
砲撃だ!! ここからは攻勢の時間だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
リナ殿は嫌いでしょうがパットンのやり方だぁぁぁぁぁぁ!!!』
『地球ネタ、惑星Zi人、わからねぇ!! 分かったか移民!!!』
徐々に、苦しい言葉よりも、軽口が飛び交うようになる。
余裕が、出てきた瞬間だ。
***
「聞こえますか、全軍!!
総番、エルさん!! エルフリーダ!! 他の者は!?」
ジェノリッターの中で、通信機に叫ぶツバキ。
しかし、周波数帯を調節しても、叩いても、反応はない。
これほど近くにいながら、ノイズしか聞こえてこない。
「クッ……かくなる上は…!」
『―――信号弾なんて、考えてませんよねぇ?』
はっ、と突然通信機から響いた声に驚く。
『言っときますけど、逃げても追いかけますし、信号弾は撃ち落とすつもりですよぉ~?
できないはず! とか………言うつもりですかぁ?』
おそらく、目の前のライガーゼロ。
そう理解したころには、目の前の相手をにらみつけていた。
「……チャフだけじゃない……電子的妨害装置で、こちらの通信のみを……!
大型ゾイド、ましてライガーゼロの電力なら、このレベルならば…!」
『解説ご苦労様でぇ~すっ!
いや~、敵にもちゃぁんと、頭の良い方がいてくれて、まぁ~うれしいですよ~?
直感で突撃するようなバカばっかりじゃあ、興ざめじゃないですかぁ~、いろいろ準備したのに!』
極めて、不快な言動。
人を子バカにするための声、言葉、間、そう言った不快を煮詰めた言葉が、笑いが通信機から流れる。
―――――ここまでは、まぁ予想はできる。
「なぜ、気づいたのですか?
この機体、確かに目立ちますとはいえ……我らの参謀の乗るものだ、と」
と、ツバキは、簡潔に尋ねる。
『んん~? 知りたいですか―――』
「もちろんッ!!」
そして、相手・の返答を待たずにジェノリッターを突撃させ、ドラグーン・シュタールの刃を放つ。
薄いイェーガータイプの装甲、当たれば、真っ二つ。
キィン!!
――――そして、バチバチという音を立て、そのライガーゼロから伸びた金色のブレードが、ドラグーン・シュタールを受け止める。
「!?
ほう………小物の言動に似合わぬ腕です…!」
『小物で結構。
これでも、自分から全体を見て動いている奴と、命令に従うしかない忠実な兵士君達の違い位ッ!』
わかるッ!!
と叫ぶとともに、お互いが反発するよう後ろに飛び、着地する。
***
「ふい~……いやいや~、でも名将とエースが同じっていうのも考え物ですよね~?
頭を潰せば、全体の動きが止まる。
これは致命的ですよ~♪ねぇ?」
ライガーゼロを握る手に、汗をにじませながらも、余裕たっぷりに言うリナ。
いや実際、今の一瞬で分かった。
(あ、この人、マジで強い…!)
『そちらは、案外頭のいい人材、人望もある人材に恵まれているようで。
ゾイドはバラバラでちぐはぐ、魔改造しかいないようですが』
嫌味まで一級品、と冷や汗交じりに思いつつ、慎重に歩を進める。
間合いが……相手のゾイドとの戦いには重要なのだ。
「ゾイドで判断するようじゃ二流ですよ~?
こっちは、デスザウラーを1機、確実にシステムフリーズさせてるんですからね!!」
まぐれですけどね、などとは死んでも言わない。
言葉は常に余裕に。相手に底を見せないように。
『驚きましたよ。ゲリラにやられた正規軍の気分です』
「あら、知ってますかぁ~?
かの中央大陸の覇者、ヘリック共和国は、ゲリラにおいても超一流!!
真正面から戦うだけの、そっちのガイロスだかゼネバス帝国とはわけが違うんですよぉ?」
怒らせろ、少しでも冷静さを削れ。
もっと言葉を考えろ。自分の頭は、はっきりと動かせ。
『怖いものです。
これは、ちゃんと叩き潰してあげないと』
相手が一歩踏み込む。
威圧感が、桁違いだ。
「安心してください。
ぶっ潰そうとしたその足に深く噛みついてあげますから♪」
勝てる確率は少ないなら………
徹底的に嫌がらせを、するのみ。
「では」
「勝負と、」
「「行きますかッッ!!!」」
瞬間、二つの機体が大きく跳ね、爪が、剣が、激しく火花を散らす。
***
『えぇぇい!!! これしきの傷がなんだ!!
デスザウラーはまだ立っている!!』
『装甲はボロですが、荷電粒子砲は無事です!!
まだ戦えます!!!』
ずぅん、とボロボロのデスザウラーが2体、己が戦場を目指し歩く。
『来たぁぁぁ!!』
『デスザウラーが2体!!
やったぜ、超重装甲の再生が追い付いていないッ!!』
その姿を見たC組の面々は、迎撃態勢を取る。
『装甲の隙間を狙うであります!!』
『私が、前に出る』
『ココロはまだ荷電粒子砲撃てます!!』
そして、温存していたゴジュラスが、満身創痍だがまだ動くバーサークフューラーが前に出る。
『おおっと!! 黄金砲は必要だろ!?』
『……』
ガンブラスターも、まだいる。
『ほう、そろい踏みか!!』
『ならば、あいさつ代わりだ!!』
まだ使える荷電粒子砲を持つデスザウラーの背後、荷電粒子吸入ファンがうなりを上げる。
『来るでありますよぉ―――――――ッッ!!』
『了解!!』
アンカーを下し、尾をまっすぐ伸ばし、放熱板を開く。
バスタークローはもう使えないが、口の中はまだ健在だ。
『撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!』
そして、戦場も一気にその温度を上げる。
***
『うぉぉぉぉぉぉぁああぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!』
魔剣の龍の咆哮と共に、その刃が眼前に迫る。
『おっとぉッ!?!』
しかし、紙一重でよけたクロムウェルは、砂地にあとを残す程の勢いで反転し、背後のアタックブースターからビームを放つ。
『クッ…!!』
しかし、ジョノリッターのドラグーン・シュタールは攻防一体。
電磁シールドにビームは偏光し、拡散し、ダメージは通らない。
だが問題は、ジェノリッターの足を一瞬止めた事。
『隙ありッ!!』
瞬間、胸の衝撃砲を放ちながら間合いを詰める。
『なんのっ!!』
ドラグーン・シュタールの間合いを殺すほど近くに来たライガーゼロへ、頭部のブレードで迎撃する。
『!? っ、このぉッ!』
瞬間、金属音と共に、ライガーゼロの口で刃が受け止められる。
『白刃取り…!?』
『パワーは、』
そのまま胴体を潜り込ませるようぶつけ、
『クロムウェルが上なんですよぉぉッッ!!!』
角を軸に、体を全力で捻り、投げ飛ばす。
(たたきつけられる…!?!)
『間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!』
砂の大地と接触する瞬間、ジェノリッターのマグネッサーシステムが展開し、空中で勢いを止め、姿勢を制御する。
『空でよけて見なさいなッ!!』
その瞬間を狙い、全砲門をジェノリッターへ放つクロムウェル。
『お望みどおりにッ!!!』
しかし、瞬間バーニアが激しく炎を吐き出し、マグネッサーシステムの光が強く輝いたかと思った瞬間、横に消える。
『んなっ…!?』
『ジェノブレイカーの真の原型機は、』
瞬間、姿勢をこちらに向けたその姿が、ザウラー系列機の象徴たる、荷電粒子砲発射態勢へ変化する。
『このジェノリッターだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!』
わずかなチャージ時間を許した一撃が、リナに、ライガーゼロ・クロムウェルに放たれる。
***
――――グォォォォォォォォォォォォォォォ…………ン……………
ズドォン、と音を立て、煙を噴き上げあちこち焼け焦げ漏電する、それはそれは傷だらけのデスザウラーが崩れ落ちる。
『やった……!! に、2機目……!!』
しかし、喜んだオティーリエの隣で、ドシンと崩れ落ちるような音が響く。
バーサークフューラーが……カリンの乗るココロが倒れ、うめきながら震えていた。
『カリン殿ッ!?』
『ごめんなさい……ココロ、まだシステムフリーズしてないけど……!』
『もういいであります!! カリン殿、ココロにシステムフリーズするよう命じてください!!
無理強いをさせた。あとは、我々が……!』
と、オティーリエの言葉に、一瞬ためらいの声が通信機から聞こえる。
『……うん、ありがとう。
ココロ、もういいんだよ……今日は、もうここまで……ここまでで……!』
と、一瞬その言葉に反応するよう口を開け、
やがて、フン、と鼻息でも出すかのように、どしんとその頭を地面に落とした。
『……システム、フリーズです……』
その言葉と共に、フェルディナンドの中から、静かに感謝をささげる。
『……委員長殿!! どうやらここからが我々の正念場のようであります!!』
『知ってるわよ、何せ…!』
そして、すぐ横にいたハンマーロックが、敵を指さす。
『まだだぁ……まだ私が立っている…!!』
そこには、装甲は穴と焼け焦げだらけ。
さしずめ傷だらけのデスザウラー、とでもいうべきものがいた。
『……ふははははっ……ここまで、追い詰められたのは初めてだ…!!』
だが、その足は力強く大地を踏みしめ、その眼光は、死を呼ぶ魔竜の名にふさわしい鋭さを保っている。
『総番!! まだ生き残りは数多くおります!!』
その足元には、あるいは満身創痍なダークホーン、そして、いまだ数多くのイグアンやブラックライモスがいる。
『相手もこちらも苦しいのなら!!!』
『我らシュバルツ高等学校、シュバルツェス・シュトルムは引かず!!』
『その先に活路を見抜くのみです!!』
『指示を!! ここまで来て、引くとは言いますまいな!?』
にやり、と口の端を曲げる。
『私には、引くとか負けるとかいう言葉が体に合わないからな。
―――――全軍突撃だ。
突撃だ!! それ以外はするな!!!』
デスザウラーが吠える。
そして、そのほかのゾイドたちも。
『ここが正念場よね!!!
もう、ここまで来たら総当たりよ!!!』
『異論無し!!
ただし!! 頭使って戦わないと、みな死ぬでありますからね!!』
了解、とC組の機体すべてのメンツが答える。
数は上。だが、相手は荷電粒子砲がないだけ、ボロボロなだけ。
ただそれだけの弱体化しかしていない、デスザウラーだ。
『『『『行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!』』』』
試合は、最後の段階へと入った。