ZOIDS学園   作:影狐

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その3

 

 

「緊急参謀会議でーす」

 リナの言葉に、数人の生徒が集まる。

 

 時刻は、昼休み後半。

 昼食の時間に、リナはある生徒たちを呼び出していた。

 

 C組参謀会議。

 委員長であり、最終的な判断を下すC組の最高司令官であるメルヴィンを補佐するために、副委員長であるリナを筆頭に、戦略・戦術に長けた各部隊の副官ポジションを集め開く会議である。

 リナソレーネ・アシュワースの戦術眼、戦略のスキルは強力だが、巨大な能力を持った個人に依存するのは、集団として危うい面を持つ。

 ここには、少なくともそう判断でき、なおかつリナも認めるだけの能力を持った『参謀』が集まった会議なのだ。

「さーてね、他校からの果たし状がウチの指名付きと言う異常事態なわけだぜ。

 どうも午後は仕事でいないあのアイドルさんの番組の影響じゃないかね、とも思ってるけど、

 あたしたちは何すりゃいいんだい?」

 パンツァー隊副官、重装強行突撃ゾイド『ガンブラスター』を駆る鳥族女生徒レイン・フォールナーが、何時もの調子で軽く、そして的確に今の状況をまとめる。

「何する、と言われてもまずは相手のデータ収集並びに勝つための戦術を取るべきだと思います」

 フォートレス隊副官、氷のような美女と言った顔立ちの、日本系地球移民と神族のハーフであるユキカゼ・コールドが、何時ものごとくタカ派に発言を返していた。

「いやいや、果たし状うけても、決闘に答える義理は無いと思うんだけどさ?」

「レイン、あなた、随分と弱気なんですね」

「お前、一応はこうやって誰か否定的にならなきゃいけないだろ、突入バカはすぐに死ぬんだぜ? 突撃担当が言うんだ、間違いはないと思って聞いてくれよ」

 パンツァー隊の使命は『突破と制圧』であるために、スカウター隊の次に突入することが多い。

 ゆえに、オティーリエの副官のポジションについているレインは、言動の割に慎重派だった。

 ゾイドの愛着と、仲間への思いもあるゆえに。

「まぁ、でもね、私は受けるつもりなのよ、悪いけど」

 しかし、当の最高司令官ことメルヴィンは、そう言ってレインの意見を却下する。

「受けるなら受けるでユキカゼっちの意見通りに進めてくれよな、委員長」

「まぁ、それでも情報は五里霧中ですが」

 と、レインとユキカゼの言葉に、メルヴィンはユキカゼに説明を促すような目配せをする。

 他の皆もおなじく、情報参謀でもあるユキカゼを見る。

「……では、一応今のところ私が知りうる限りの情報をば。

 ただし、まだ調べて5分ほどですが」

 と、言って彼女は、私物のタブレットパソコンを見やすいようにこちらに向け、立体映像モードに切り替える。

「今回、我々になぜか宣戦布告してきた学校名は『帝立シュバルツ高等育成学校』、チーム『シュバルツェス・シュトルム』。

 ネーミングセンスに関しては、私も似たような物なのでここでは言及しません」

 帝立シュバルツ高等育成学校のホームページを全員に見せ、その後別タブでひらかれた黒い暴風をアート風に書いたエンブレムを全員に見せる。

「どんな学校なんですか、ユキカゼさん」

「はい。

 元は、ガイロス帝国の至宝と名高い『カール・リヒテン・シュバルツ名誉元帥』が自身の要望の元、ガイロス皇帝ルドルフ・ツェッペリン陛下に頼み込み作ったゾイド乗り養成所が元の学校です」

 ひゅー、と参謀会議の外、聞いているだけの人間たちから口笛がなる。

「それほどなら、有名な学校なんじゃないんですか?」

「いえ。確かに名門ではありますが、西方大陸内ではさほど知名度はありません。

 どちらかと言えば、ガイロス帝国内部で有名と聞いております。

 ええと、パンツァー隊隊長、オティーリエさんは知っていますか?」

「知っているでありますよー。ガイロスの方じゃもう、ここなんかくらべものにならない名門中の名門でありますよ。

 まぁ、自分はそう言うネームの強みが嫌なんでありますがー」

 肩をすくめてそう言うオティーリエは、肩をすくめてそう答える。

「ええ、まぁ大体そんな所です」

「で、そのシュバルツェスなんちゃらとやらは、どんな相手なの?」

「それがいまだに情報がつかめません。

 情報も公開されている分だけでは十分とは言えず、」

「んなもん簡単だろうがよぉ? 見に行きゃいいじゃねーか、ったく」

 と、机に突っ伏している男子生徒―――くせ毛が特徴の褐色の男、本人いわく出自不明の男子生徒リング・リンクス、FF隊参謀がそんな気怠そうな声を上げる。

「リンクス、あんた一応参謀がだれててどうするのよ」

「だってよぉ委員長、情報もねぇ、話は簡単、周りはいい女だけどアク強すぎでもうやる気おきねぇんだよぉ、寝かせてくれよぉ…!

 つーか、もう面倒だし学校乗り込もうぜ? 練習見せてもらおうぜぇ?

 簡単じゃねぇか、どうせ情報なんざ2割知れば御の字なんだぜぇ?」

 けだるそうに机でグリグリ頭を動かして、そんな風に正論をつぶやく。

「そうですよねぇ、まずは見た方がいいと私も思いますよぉ?」

「じゃあ、俺言いだしっぺだし副委員長にさんせー、っつーか見に行くなら俺は留守番にしてくれー、眠い」

 リナの賛成を得た途端に、そう無理やり話を終わらせようとするリング。

「あわわわ、そ、それだけはダメですわっ!!」

 と、さらに続けて、メルヴィンを挟んでリナの対岸に座る女生徒、これまたA組のアリシアのようなお嬢様風な、それでいて真逆のふわふわした感じの女生徒―――アーチャー隊参謀、ドイツ系地球移民のイングヒルト・ラムシュタインがそう慌てて声を上げる。

「どうしたんですか、会計さん?」

「会計ー、あわててどうしたんだよぉ?」

 ちなみに、イングヒルトはクラスの会計委員だった。

「そ、そのですわっ、あの、その学校までの旅費が、どんなに安いルートでも今計算したらクラスの月予算の約半分でして……」

 と、言いながら彼女は続ける。

「数は一人でもいいわ?」

「一人でもそのぐらいかかるんですのっ!」

 その、と言って急いでそろばんを取り出し、途中で手から落ちそうになるところを「あわわわ」と言って持ち直し、そろばんをはじく。

「単純に長距離バスで一人送っただけでも6789ガロス、途中水分補給なしの場合、約時間は6時間として………

 空は問題外、まず高すぎますの……地上でライガー系を走らせた場合でも仕様レッゲル金額は7000円越えで問題外……

 そもそも、我々はクラスのゾイド近代化費に今月度の半分12万ガロスと来月度の分すべて使う予定で、この時点で6789ガロス×2を出費した場合、単純に一人当たりの配分金が減ることで近代化や新ゾイド導入の予算が足らず、配備予定のカノンフォートが予定数の半分、メルヴィンさんの提案した『3機のアイアンコング導入』の予定が2機に削られた挙句にミサイル兵装は1機分の物しか買えず、仮にこちらに予算を回したとしても今度はパンツァー隊配備予定のエレファンダーASが揃えられない上に、カノントータス近代化セットをあきらめざるを得ませんの………」

 ここまで聞いた上で、全員がハァ、と声をそろえてため息をつく。

「間もなく『お買いもの』が解禁になると言うのに、その出費は痛いですねぇ……コツコツためて、クラスの住み心地を犠牲にして、我々の一生の宝物を買う努力をしてきたのに……」

「うぅ、わたくし、もうもやし生活のさらに下を行かなければいけませんの……!」

 さらにちなみにだが、イングヒルトは没落貴族だった。

 だから会計をさせる事にリナはした。

 

 そもそも、予算は大切なのだ。

 お金があれば、お金で買えないもの以外は大体ほぼすべてどうにでもなるのだから。

 金策は度の世でも重要な要素なのである。

 

「だぁ~、心気くっせぇぜぇ~!!!

 ……いや、会計を責めてるわけじゃないんだけどよぉ、学生はお金が無い事がつらいよなぁ……」

「あたし、バイトの面接2回落ちたぜ……」

「リナさん、一応今のところかなりポケットマネーをこちらに工面していただいているので、あなたには足を向けて寝られません」

「そりゃ、ゾイドバトルで勝ちたいですしね~。変な携帯ゲームに課金するよりは有効だと思ってますし」

「場外からすまないでありますー。自分ももっと出せればいいのでありますがー」

「私もすまんな。こちらはこちらで女磨きにも金がかかる物でな」

 はぁ、と皆がため息をつく。

「……あの、ネットには彼らの戦いは公開されていないんですか?」

 と、静かに手を上げる人物がいた。

 ヴォルケーノ隊参謀、カノントータス4号機車長である、女子よりも背が低く童顔な美少年なクリス・ストリガーが、そういつも通り幼さ残る声で意見を出す。

「クリス、あなたの意見ももっともです、ですが……今も探しているのですが、相手も情報を徹底的に隠しているのか、全く引っかかりません」

「ふむ、厄介ですね、それは………直接も見れず、関節でも不可能となると……

 ヴォルケーノ隊参謀として、プランBを思案するべきだと進言します」

「プランB? あぁ?ねぇよ、んなもん」

「テンプレはやめましょうねー、リンクス君?

 そうですね、これ以上幽霊を探す話はやめて、プランB……

 いえ、プランD『見えない軍隊に用意する』を選択することを進言します」

「あれ、副委員長、あたしの記憶だと、それピンチなんじゃねぇの?」

 まぁまぁ、とリナはレインを抑える。

「でも副委員長、それまでこちらのゾイドは、あちらのゾイドよりも弱い事は確実ですのに……」

「でも、勝率はあります。

 100%に近い99.99%ではないだけで、おそらく8割は出せるはずです」

 さて、とリナは続ける。

「では、今回は負ける可能性が20%と言う大ピンチな状況です。

 みなさんで、それでも勝てる、あるいは全滅覚悟の引き分けには持ち込める作戦を立てましょう」

 その時、リナの顔は珍しく真剣だった。

 いままで、どの相手にも笑っていたリナが、真剣な顔つきだった。

「これ、ひょっとしてヤバいんじゃね…?」

 リンクスの言葉は、しかし真実に一番近かった。

 


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