昼休み、学校の解放されたベランダ
「まったく、あなた達も卑怯極まりないですわね、本当!!」
「いやいや、それほどでもないですよ~♪」
「褒めてません!!」
いつも通り、そこではリナとアリシアが言い合いをしながら昼食をとっていた。
「いや、でも一騎打ち挑むとか、どの時代の帝国兵ですかそれ?
私が共和国兵士なら情け無用、ファイヤー!! で周囲の部隊ごと更地にしますよ?」
「あなた、一体どこまで外道なんですの…?」
「いやだなぁ、外道だなんて♪ 私が外道だったら、かつての共和国の首脳陣だなんて悪魔、いや大魔王の集団ですよ~♪」
「あなた、本当ゾイドバトルをなんだと思っているんですの…?」
その質問に、ウフフ、と言ってリナはこう答える。
「ゾイドバトルの醍醐味は、
こっちの損害を0にして相手に手も足も出ないように殲滅することですよ♪」
「……あ、あなたって人は……」
ガクリ、とアリシアは項垂れる。
「私はこんな人間に戦術や戦略を学んでいるんですのね………」
「いやいや、それはそれでいいんじゃないですか?
『謀略を学びたいのなら、詐欺師に学べ。
戦略を学びたいのなら、ケチであくどい商売人に学べ。
戦術を学びたいのなら、逃げ足の速い犯罪者に学べ。
結局、戦闘と言う最低の行為を学ぶには、最低な人間こそふさわしい。
戦いに美学を求めるような戦闘凶(バカ)に学ぶことが悪いとは言わないが、正直私はお勧めしない。
ああ、でも彼らに学ぶときは、それなりにこちらから利益を上げなきゃダメだよ?
だって、悪者は市民をむしり取る物じゃないか』
って、かつてヘリック大統領が言っていた、って委員長が話していましたし」
「それって、わたくし以下のゾイドウォーリアー志望を全否定すると言う事かしら…?」
なんだか涙が出てくるアリシアだった。
困ったことに、こうやって学んでいるアリシアが強くなっているのが事実なだけに。
「まぁまぁ、私はこうして自分達の踏み台、
ゲフンゲフン!! 練習相手がいるだけでもいいのに、こうやって紅茶の味が分かってくれる人がいて助かっていますし」
「今踏み台って言いましたわね? 今確実に踏み台って言いましたわよね?」
まぁま、とリナは持ってきた超保温性水筒(セラミック製)の抽出口を開く。
「すんすん……あら、この香り、ヌワリエリヤですの?」
今日のリナの紅茶は、ヌワラエリヤ茶葉のストレートティーである。
中央大陸亜熱帯部分に位置するズィーセイロン半島中央部産の茶葉で、さわやかな香りにしっかりとした味が特徴の、ストレートティー向きの茶葉である。
「はい。ちょうどいい茶葉が手に入ったので……淹れるのに苦労しましたよ~、本当」
と、言いながら、ゆっくりと持ってきたティーカップ(中央大陸有名磁器メーカー製)を取り出すリナ。
「ええ、中々香りを残したままに入れるのが難しいですものね~……幸い、ニューリバプールのお水は軟水だから、紅茶には適していますから安心ですわ」
目の前でそそがれる紅茶を見ながらも、そうアリシアは感想を漏らす。
「おまけに、ニューリバプールは『西方大陸美味しい水道水100選』の上位一ケタ台を常にキープしていますしね~。浄水器から組んだ物ですけど、一応3分の煮沸をしておいたんですよ?」
「まぁ、分かっていますわね?
私の周りだと、あろうことかアイスティーに煮沸していない水道水を使うんですの」
「うわ、マジですか? いくらなんでもないですよそれ~」
はい、と言ってリナは紅茶を差し出す。
「ありがとうございますわ……ああ、いい香り……♪」
「ありがとうございます♪
でも、ポッドで少しおいていた物ですし、劣化が激しいかもしれないです」
しかしそう言いつつ、特性ポッドの中の紅茶は、まだ湯気を立てている。
「……すす~……ふぅ……そんな事を言いつつも、美味しさだけはわたくしが知っている中でも一番なのですわね?」
「ふふっ、私のクラスじゃ、誰もそのことをわかってくれないんですよ」
二人は、静かに笑いながらも、香り立つ最高の紅茶を味わう。
ふと校庭を見ると、自主的にやっているのか、B組とF組らしき人間数人が、模擬選をしていた。
なんで組が特定できたのかと言うと、片側が『BZ‐018 ディスペロウ』『BZ‐019 エヴォフライヤー』のブロックス2機と、『RZ‐070 凱龍輝』という、ブロックス‐チェンジング・アーマー・システム(B‐CAS)を持つゾイドだからである。
そしてもう片方が、共和国性飛行ゾイド『RZ‐029 ストームソーダー』1機と『RZ‐010 プテラス』2機だった。ちなみに片方はガチガチのボマー武装であり、もう片方は背部にワイルドウィーゼルユニットを装備している。
凱龍輝がディスペロウと合体(Ziユニゾン)をした瞬間を狙い、プテラス、ストームソーダー混成の3機航空ゾイドが空襲を仕掛ける。
だが、放たれた爆弾を、急降下したエヴォフライヤーが飛行形態から地上形態へ移行し、背部のアサルトライフルで爆弾を迎撃。
合体した凱龍輝デストロイの一斉掃射を、3機が弧を描くように回避し、宙返りする要領でストームソーダーがブレードで攻撃を行う。
が、凱龍輝デストロイの砲塔が切断される瞬間、あえて合体を解いてそれを回避する荒業が展開され、宙返りするように凱龍輝が飛燕を分離させエヴォフライヤーと共に空へと上がる。
「平和ですねー」
「ええ、本当に」
二人は、お互いに紅茶を口に含む。
「おっと、忘れていましたわ。スコーンをどうぞ、手作りですのでそこまで味は保障できませんが」
「あ、ありがとうございます♪」
と、アリシアのだしたスコーンをもらい、リナは笑顔で受け取り、はむ、と口に含む。
「あ、美味しいですよこれ!」
「ふふふ、ありがとうございます」
二人は、笑い合って優雅な昼休みを過ごしていた。
「おーい、副委員長!! 大変だ! マジで大変なことになったよ!!」
と、その時、
バタン、と屋上のドアを開けて、C組スカウター3、あるいはクソ蛇女、ことセドゥーサが駈け込んで来た。
「どうしたんですかぁ、セドゥーサさん?
今、遥かな魂の故郷、地球の英国の風景を思い浮かべながら優雅にお茶していたのに」
「いやいや、これを聞いたら、お茶なんかしてる場合じゃねぇ!! ってなるよ!!」
と、いつになく慌てて、セドゥーサはこう言い放つ。
「C組ご指名で、練習試合の申し出だよ!!
果たし状だよ、他校からさ!!」