その1
「いつかの汚名を雪ぐ時!! 勝負ですわ!」
「あ、丁度良かった♪ 的役お願いしまーす♪」
「むきー!!!」
という訳で、今日もA組とC組の模擬選である。
***
『何をしているのジークドーベル隊!! 囲みなさい!!』
『了解!』
A組は、C組でもたまに負けるほど強くなった。
『ハウンドソルジャー隊は右に回って!! ライトニングサイクス・シャドーフォックス混成部隊は回り込んで相手を囲む!!
ライガー体全機、わたくしに続けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
目に見えて、戦術的な動きが出来るようになってきた。
そもそも、高速格闘戦機主体のA組は、機動力においてC組に負けるはずがない。
分散と集合を迅速に行えるだけでも、その戦闘力は全く違う。
まして、格闘兵装は『一撃必殺』が基本。射程こそ酷いものだが、それはそれでその使い道さえ間違わなければ、確実に相手と戦える。
『見えました、どんくさいレッドホーン3機と新顔、ディメトロドン2機!! このまま倒せます、囲みましょう!』
『……いえ、全機、追撃止め!
おかしいですわ、なんで搖動役があのライガーじゃない!?』
そして、C組の卑怯極まりない実戦的な攻撃の前に、A組のリーダーである彼女、アリシアの勘も鋭くなった。
だが、忘れてはいけない。
C組も、今も成長している。
***
『気付かれたぜ、クレーエ!!』
元ゲルダー乗りであり、電子戦機改造型砲撃ゾイド『ディメトロドンL』に乗る男子生徒、バルトが声を上げる。
『十分だ、全員円陣組め! 砲撃開始まで時間がない!!』
クレーエのレッドホーンを先頭に、2機のレッドホーン、2機のディメトロドンLが方向転換し、全ての火器を起動させる。
『急げよぉ!? 絶対に相手の機動力を奪え!!
足潰せ、足潰せ!!』
すべての火器が立ち上がり、ディメトロドンの電子戦支援を受け、正確な仮想未来位置が出る。
『オープンファイヤだぁ!!!』
そして、移動要塞の異名のあるレッドホーンと、重電子戦ゾイド改造の砲戦ゾイドによる砲撃が始まる。
***
C組のクラスのチーム分けは、かなり細分化されている。
今初めてA組に砲火を交えたのが、クレーエ率いる『フォートレス隊』。
おもに重ゾイドによる防衛ライン構築、他の隊の防御を目的にしたチームであり、意外かもしれないが敵との電子戦を担うチームである。
通常の目的は、主火力部隊の防衛がもっぱらだが、それだけをするわけではないのがC組の強みなのである。
***
『えー、こちらスカウター3。
フォートレス3、および4の誘導電波受信中~。
アーチャー隊、出番でっせー?』
『了解したわ!』
グラウンドに掘った簡易塹壕から、ハンマーロックが顔をのぞかせる。
ハンマーロック、これは一見格闘戦機に見える。
だが、その実これは頑丈な足を持ち、うまく衝撃を逃がせる『ミサイル発射機』であると言う事をご存じだろうか?
そもそも、ハンマーロックの原型たるアイアンコングが、『近接戦では誰にも勝てないゴジュラスを遠距離から屠る物』だった事を知っている人間が何人いるだろうか?
『全機、ミサイルを照準。誘導方式はセミ誘導、残りの誘導周波数はフォートレス3、4の誘導電波に合わせて!』
アーチャー隊は、主火力部隊の一角である。
ミサイル、ロケット兵器の火力を持って、敵に大損害を与える物である。
『レーダーを照射! 同時に紫外線レーザーポインターで狙いをつけて!』
ガション、とハンマーロック背部、高威力大型地対地ミサイル『ウェザビーマーク4』が動く。
『照準完了。しかし勘のいい組だ、いくらか逃げ出し始めています!』
『構わず、塊の部分へ打ち込んで!
カウント3で撃つ! 3、2、1、』
ファイア、という号令で、地上に咲く花火が発射される。
***
『来ましたわ! ライガー部隊、円陣になりEシールドを展開!!』
共和国の流れをくむライガーには、大体の場合『Eシールド』が存在する。
元はエネルギー兵器しか防げなかったが、気が付けば物理攻撃を防ぐことが可能と判明したこれは、半端なエネルギー武器よりもエネルギーを使う反面、半端な装甲では出せない強度を出す。
これにより、アリシア達A組はこの砲撃を防ぐことを決定した。
***
『今です!!』
それがリナの罠だとも知らずに。
***
『上!』
『!?』
その時、上から何かがふってきた。
いや、一瞬でそれが何か理解できた。
パージされた、使い捨てロケットブースター。
そしてその影を隠すほど巨大な―――――ティラノサウルスの姿。
『ゴジュラス!?!?!』
ドシィン、という音と共に着地するゴジュラスに、彼女たちは見とれてしまった。
それとは別に、シールドすれすれを乗り越えて着地する5機のゾイドに気付くのに遅れる。
『な、バーサーク、きゃあ!?!』
一瞬で、バーサークフューラーのバスタークローに弾き飛ばされる一体のブレードライガー。
『こっちはゴドス…じゃない!?』
そして、その脇の同じくブレードライガーが、帝国製小型ゾイドの名機『イグアン』の蹴りに足をつぶされる。
『あ、足を…きゃあ!?』
流れるようにそのイグアンに腕の4連グレネードランチャーを叩き込まれ、一瞬にしてブレードライガーがコンバットシステムフリーズを起こし、沈黙する。
『おのれ、よくもぉ!?』
『バカ、シールドを張って!!』
一人、近くにいたシールドライガーが反転した隙に、シールドの外で待っていたゴドスが、ゴドス最大の武器『蹴り』を後ろ足に叩き込む。
『がぁっ、あぐぅっ!!』
さらに流れるように、右わきにある長砲身120ミリ砲を叩き込み、衝撃でシステムフリーズを起こす。
『くそぉ―――――――――っ!!』
その場は混沌の戦場と化した。
怒りに冷静さを失った獅子が、また最初の戦いの再来のように、恐竜たちに駆られ始める。
冷静な物たちも、もしこの場で逃げ出すのが罠なのでは……と動けない。
実際に外では、よく見ればカノントータスをはじめとした砲戦ゾイドがこちらを照準しているし、今にも来れ、そして相手から見えにくい場所でエレファンダーをはじめとする機甲部隊が突入の準備をしている。
『らちが明かない! まずは攻撃あるのみですわ!!
全機、ゴジュラスに集中して!!』
ここで、本日もっとも頭のいい判断が下される。
ゴジュラスを囲むように、A組の残存する高速戦ゾイドが、走ったまま、うまく間隔を開けて包囲機動を取り始める。
『気を付けて! ゴドス、イグアンの足は移動力がある上に、それそのものが強力な武器ですわ!
常に間合いに気を付けて、つかず離れず、動かさず!!』
そう、まずは近づかずに動く。
動かなければ、良い的だ。動けばこちらの機動力の高さも生かせる。
動けば、いかに射撃技術の高いC組でも、当てるのは至難の業だ。
『きゃあ!?』
『ユリア!?
くっ……ごめんなさい、今だけは許して!』
一人、それでも機動力で追従できるバーサークフューラーに掴まるシャドーフォックスを見て、つらい決断をする。
まだだ。まだ幸い、全滅ではない。数も少ないわけではない。
『この借りは返します!
まずは、ゴジュラスを狩る!!』
先程から両腕のビームガン、リニアレーザーガンを放ち、こちらの足を止めようと弾幕を張るゴジュラス。
間合いを見る。格闘戦では、アリシアのライガーゼロシュナイダーが負けるはずはない。
『間合いと、』
有名な言葉だ。ゾイドウォーリアーを目指す人間なら、必ず聞く格言。
『気合っ!!』
レーザーブレードを開く。
跳躍して狙うは、システムフリーズ。
『はぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
肩とゾイドコア上部に位置する胸部。
だが、その狙いは外れ、より速く振り向いたゴジュラスの尾がブレードをとらえる。
『切り裂く!!』
斬、と尾を切り裂き、地面へと舞い降りる。
『一度目がダメでも、二度目がぁぁっ!!!』
すぐにターンし、再び相手へ向き直る。
その時、ゴジュラスの背を踏み台にして、こちらに白い影が舞い降りる。
『え?』
ライガーゼロのストライクレーザークローを真正面から受け吹き飛んだ。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』
いや、まだシステムフリーズはないし、踏み込みが甘いために致命傷にならない。
転がり、衝撃を相殺して起き上がれば――――――
『きゃぁっ!!』
と、言う所で、ショックカノンを装甲の隙間にぶつけられる。
『クッ――――――――卑怯ですわよ、一騎打ちに横槍とは!?』
いや、それをあのライガーゼロ―――――――クロムウェルのパイロットに言っても、無駄な事だろう。
『はぁ? いつ一騎打ちなんて認めたんですかぁ?』
ぷーくすくす、と笑うリナの言葉は、全くその通りだった。
『~~~~~っ、もぉ、悔しいですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!』
そして、時間をおかずに、今日はC組の勝利に終わった。
***