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帰りのホームルームを終え、リナは帰りの道路の交通整理も飛び越え、帰宅する。
「ただいまー♪」
「お帰り! ちょうどよかった、すぐに着替えて手伝ってくれ!」
と、厨房からそんな声が響き、リナの父親、『エリック・アシュワース』がバーテンダー姿で顔だけ出してそう答える。
実はリナの家、一階が『喫茶&バー ライオン亭』になっている。
一応、今のところは父であるエリックとリナの二人だけが、この店の従業員だ。
「―――よしっ!」
と、フリフリした可愛らしいウェイトレス姿になったリナは、お盆を片手に今日も接客を始める。
学校が終わった後の、何時もの光景だ。
「いらっしゃいませー♪」
「あ、ウェイトレスさん、コーヒー」
「残念ながら当店ではそんな腐ったマメの泥水はお出ししておりませーん♪
紅茶か、それ以外でしたらなんでも出せますよー?」
「……あ、はい」
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「ふいー……」
ピークが過ぎれば閑散としたもので、それなりに人はいる物の、大体は雑誌の編集に煮詰まっているか、何か考え事にふけっているかという人だけが残る。
時刻は、7時少々。もう後は、仕事帰りにお酒を飲みに来る人ぐらいしか来ないだろう。
「リナ、学校帰りにお疲れだったな。もういいぞ?」
「はーい、この床磨いたら上がりまーす」
と、モップで床を吹くリナに、エリックがそう声をかけた。
「初日はどうだった?」
「いい感じですねー。楽しい学校生活始まります♪」
「それはよかった。お前も、まともなゾイド乗りの道に行けそうだな?」
「えー、まー……外道だとは他のクラスには思われそうですけどー」
と、言って床を磨き終わり、そそくさとそこを去ろうとする。
「ふむ……どうだ、リナ?」
「何がです?」
「ゾイド乗り、特に最近はウォーリア―も盛んなご時世だ。
あれでも目指したらどうだ?」
と、店内のテレビを、キザったらしく指差す。
『――――今年もやってまいりました。もうすぐエウロペ・カップの季節ですね?
ここ西方大陸では4年に一度、資格・経歴不問、大陸最大規模のゾイド競技大会『エウロペ・カップ』が開かれます。
4年前に優勝に輝いたのが、何と大陸のゾイド養成学校のチームだった事には驚きだった記憶もあるとは思います。
このエウロペ・カップは、かつての大陸紛争からできたガイロス、ヘリック両国間の関係の改善を目的とした祭典でもあり―――――』
「なしなし! そんな面倒くさい!」
「なんでだ、いいんじゃないか? 予選でも通ればいい思い出になるぞ?」
もぉ、と嫌そうな顔をするリナ。
「冗談じゃないですよぉ、お父さ~ん……そりゃいい思い出にはなるけど、大変ですしぃ?
文系の私は成績が落ちるのが嫌なんですよ~」
「どうせオールAだろう?」
ぶー、と言うリナの頬を指で突き、余計にリナを膨らませる。
「もぉ……まー、その内って事にしましょうよ~、その内って」
「その内か。
出たら見に行くからな」
「出るかどうかはわかりませーん」
と、言ってリナは部屋に戻っていった。
***
後は、お風呂に入り、軽く明日の予習をし、『激戦! レッドリバー』を読み進めて、眠りについた。
こうして、長い一日はひとまず終わった。