ZOIDS学園   作:影狐

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その4

 ――――実際問題、ルール上遠くから号令前の駆け込みバトルフィールド入場は認められているし、号令の時に動かないのだって別にマナーであるだけで明確に違反ではない。

 

 だから最高時速で突っ込んできた2体の高速戦ゾイドに反応が遅れた。

 

「ストライクレーザークロー!!」

『足はもらった!!』

 クロムウェルのストライクレーザークローが、ライジャーの装甲板で覆われた脚が、

 大部分のA組のゾイドの、足だけを正確に壊す。

『きゃぁ!?』

『危ないッ!?』

「危ないとかなんだ言ってるようだからこんな目に合うってわからないんですかねー?」

『別にコックピットは狙って無い。ルール以内と言う事だ』

 ターンして衝撃砲を作動。2体のライオンは足並みの崩れた動物の群れの足を撃ちぬき始める。

 C組に配属されただけあって、本当に正確に足だけを撃ちぬいている。

「足の動かない高速戦ゾイドなんて『アルミ豆腐』みたいなものですよ~」

『えげつない言葉だ。面白い!!』

 が、相手の根性だけは、称賛に価したようだった。

『こ、のぉ!!』

『主力だけは…!!』

『みんな、私達の屍を超えて行って…!』

 動けるコマンドウルフが、シールドライガーやらライトニングサイクスやらを守ろうと必死に壁になる。

「バッカじゃないですか? 普通逆でしょう!?」

『なんでシールドライガーを前面に出してEシールドを展開しないのか……』

 が、これは予想以上に好都合。

 そろそろ潮時と判断し、まずは撃ち方を止めて離脱に入る。

「『スカウター隊』、全機離脱!」

『『スカウター2』、承知した!』

 リナの乗るライガーゼロことクロムウェルとヒルダの乗るライジャーが急速離脱を開始。

 急に砲撃を止めたことに戸惑い、後ろでは何やら混乱が起こっている模様だ。

「こちら『スカウター1』。『アーチャー1』、所定位置に『アーチャー隊』は展開完了しましたか!?」

 隙は逃さず、相手には聞こえない周波数帯で無線を飛ばす。もちろん、中古とは言え暗号通信機を使ってだ。抜け目がないと言うか、何処でそんな備品を学校は手に入れたのか……

『こちら『アーチャー1』! 無茶言わないで、私はハンマーロックなのよ!?』

「予想してました! 『ヴォルケーノ隊』は!?」

『こちら『ヴォルケーノ1』、所定の位置についた、撃つ準備はできているよ、お嬢さん?』

「よぉし、うぉっとを!?」

 後ろからパルスレーザーライフルが飛んでくる。

 もっとも、ここまで速いとリナでも外す方が多い、ましてや格闘専門クラスとなれば、これは足止めのために撃っているに過ぎない。

「むむむ、いい感じに相手のヘイトは稼げたみたいですねぇ!?」

 リナは、共和国仕様の分厚い歩兵装備に似たパイロットスーツの胸元に指を入れ、少し熱くなってきたここを冷やす。

 要するに片腕の操作だけで避けている。

『ふむ、少々稼ぎ過ぎだとは思う。なんせ、我らが後方にはもう12以上の敵影が見える』

 言われなくてもレーダーにはうるさい警告音交じりの赤い線が見えていた。

 ついでに言えば前方はもうすぐ校庭の端。

「――――準備万端ですね?

 ヴォルケーノ1、『スカウター3』の誘導に従い、砲撃を開始!

 『パンツァー隊』!?」

『こちら『パンツァー1』、聞こえているでありますよぉ!?』

 よろしい、とリナは悪意ある笑顔を浮かべる。

「砲撃開始から20秒後!

 進撃せよ(パンツァー・フォー)!!」

           ***

 ボフッ、という音と共に、柔らかい土のゾーンから、旧ゼネバス製恐竜型小型ゾイド『イグアン』が顔を出す。

『あっあー、こちら『スカウター3』~♪

 兄貴ー……じゃないや、『ヴォルケーノ1』、聞こえるぅ?』

 その場所は、今リナ達が走っている場所から数キロ離れた場所で、狙撃位置情報取得(スポッティング)には格好の場所だ。

           ***

「こちら『ヴォルケーノ1』、見えているさ」

 そのさらに後方、丁度校庭の対岸。

 そこにいたのは、共和国性亀型重小型砲撃ゾイド『カノントータス』。

 それも、RZナンバーではない、旧型のカノントータスだ。

『んでさー、当てられるぅ? そんな遠いとこだし』

「なぁに、直撃させる必要はない」

 彼、ことリチャード・k・リーマンは、アメリカ系地球移民だった。

 なんでこの学校にいるかわからない程大人びた彼は、実は23歳。

 もっとも、その雰囲気は『おじ様』や『ダンディ』と言った言葉が最も形容詞として似合うだろう。

 それはいい。今彼は、カノントータス背部砲塔の中の射撃管制コックピットにいた。

「あー、ギリー君、ギリー君? 聞こえるかね?」

『うーっす、聞こえるっすよー? なんすか、リチャードさん?』

「いやね、現在地から11時の方向へ少し正面を向けてくれ」

『はーい、了かーい』

 ガシガシと足を動かし、カノントータスが動く。

 と、この場にはカノントータスがもう4匹いるのだが、それもそれに合わせて動く。

「よし、良い風だ。風速は0.1メートル以下、周囲の温度は23度弱……

 これで、角度を…!」

 カノントータスの巨大な砲塔――――780ミリ突撃砲が、動き出す。

『情報送ったよー、狙撃タイミングをカウントするねー?

 カウント、24、23、22、』

 来た、と彼は思う。

 この瞬間だ。この緊張感、まるでかつての共和国の兵士では無いか、と。

『12、11、10、9、』

 来た、と引き金に指をかける準備をする。この引き金は命の重さと同じ位、軽い。

『3、2、1、』

 ファイア、と言う所で引き金を引く。

 ――――爆音と共に、780ミリ榴弾が、空へと放物線を描き、飛んで行った。

            ***

『散開!!』

 リナの号令と共に、急速に2体の高速戦ゾイドは進路を変え、散らばる。

 

『散開した!?』

「何を…ハッ!」

 気付いて、リーダーであるアリシアが立ち止った瞬間には、それが来た。

 初めに来たのは、爆音と爆風。

 とっさにアリシアはライガーゼロ・シュナイダーの最大の武装であり防御兵器、Eシールドを展開していた。

 で、無ければ前方のライトニングサイクスのように、無様に砂に投げ出されながらシステムフリーズを起こす事態になっていたであろう。

「な……!」

 ドン、ドン、と降りそそぐこの砲弾の雨。

 辺りはまるで噴火が起こったかのように、炎と、黒い煙に覆われていく。

「なんですの、これ…!?」

        ***

「いやぁ、戦場の女神に微笑まれる気分は良いですねぇ?」

 少し離れた場所で、リナの駆るクロムウェルは旋回し、その様子を見る。

『火砲は戦場の女神と言うが……本当に女神の持つ神秘なる武器と同義な威力と光景ではないか』

 ヒルダの言葉に、フフン、とリナは上機嫌に笑う。

「恐ろしいのはあれが榴弾、『範囲を持った武器』と言う事なんですよねぇ?

 当たらなければどうという事はないとかいうバカにはもってこいの兵器ですよ~?

 なんせ、当てなくても十分に脅威なんですから~♪」

 ドン、ドン、と爆音と黒煙をまき散らし落ちる砲弾は、完全に敵の足止めをなしている。

「そろそろ、ですね?」

『ああ、仕上げだ』

           ***

『何!? なんなのコレ!?』

『え? え、え? ゾイドは、ゾイドはどこにいるの!?』

『わからない……分からない、怖い怖い怖い!!』

「落ち着いて!! これはこちらの統率を乱す罠ですわ!」

 アリシアの言葉も聞かず、勇猛果敢だったA組の戦士たちは、完全にパニックに陥っている。

 ―――唐突に、空から何も降って来なくなる。

「え…?」

 一瞬だった。

 一瞬だが、確実にこの場全員の緊張の糸は切れていた。

 だからこそ、煙をかき分けて巨大な影が出てくることに最後まで気付かなかった。

「なっ!?」

 そこにいたのは、3体のEMZ‐28『ツインホーン』、

 そして、一体の巨大な親玉のようなマンモス型ゾイド。

 紫のカラーリング、巨大すぎる体格。

 背中にはバスタートータスのキャノンを背負っている点で、通常型と違う姿だが、そのゾイドの名前は瞬時にわかった。

「エレファンダー…!?」

 型番:EZ‐038、『対要塞突破・攻城戦用重大型ゾイド』、

 エレファンダー。ガイロス帝国の名機だ。

         ***

「パンツァー1、とぉつげきぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」

 とりあえず、オティーリエは目の前のシールドライガーを弾き飛ばした。

 130トンの重量で、吹き飛ばした。正直パイロットが心配である。

「―――まー、そんな事言ってられないでしょうがなぁ?」

 案外、敵はピンチになると攻撃する性質なようで、近くのもう一体のシールドライガーがシールド全開で突っ込んでくる。

「あまぁいッッ!!」

 が、エレファンダーはそれを『Eシールドで』受け止める。

 エレファンダーは、最高速度もそれなりにある上に攻守のバランスがそろった非常に優秀なゾイドだ。

 もしもこれの開発が後少し早く完成していれば、ガイロス帝国の勝利もあり得たとまで言われている。

 

「このエレファンダーの正面から挑むとは、面白いでありますよッ!!」

 Eシールド同士の干渉により、消えるお互いを阻む壁。

 その隙を逃さず、長大な鼻のストライクアイアンクローを下から抉り込むように相手へ叩き込む。

「ゼロ距離射撃ならぬ、仰角90度射撃ぃ!!」

 本当に90度まで天を仰ぐように向けてある鼻の先端、そこのAZ60ミリハイパーレーザーガンを放ち、システムフリーズを起こさせる。

「フッフッフ、これも戦いなので悪く思わないで欲しいであります!!」

 そして、そのままそのシールドライガーを投げ、硬直していた別のシールドライガーにぶつける。

「ストラーイクッッ!!

 さぁ、次はだれでありますかぁ!?」

 嬉々とした表情で、次々と獅子奮迅の活躍をするエレファンダー。

 ちょうど突貫してきたブレードライガーに、背中の大口径ビーム砲の至近距離射撃で吹き飛ばし、追撃のビームやレーザーやマシンガンの雨あられ、としか表現できないフルバーストで沈黙させる。

「圧倒的ではないか、流石重ゾイドの名機!!」

 その横にいるツインホーンも、地味にこのA組のゾイドたちを全く動かさせないよう戦い、次々システムフリーズを起こさせている。

 

『『フォートレス隊』! 出番でありますよぉ!!』

 

        ***

「こんなことが、きゃあ!?」

 それで終わると思いきや、今度は別の方向からビームや砲撃の嵐がやってくる。

 後ろからの奇襲に、ライガーゼロシュナイダーのEシールドを張る暇もなかった。

『何―――ッ!?』

『あそこ!!』

 そこには、彼女にとっても忌々しい影。

 ―――レッドホーン、それも重装備が3体。

 そして、よく見れば可愛らしい小さなトリケラトプス型ゾイド『EMZ‐16 ゲルダー』が、3連ビーム砲や2連電磁砲を放ちながらこちらにやってくる。

『よぉ、遅くなって悪いな!

 いっちょ勝負と行こうぜ、タカピー女ぁ!!』

 特に先頭にいるレッドホーン、フォートを駆るクレーエの重砲撃はすさまじい。

 こんな量を正確にこちらに向けてくるクレーエの射撃の技量は、案外普段の彼女からは想像できない。

「くぅ…! ならば!!」

 そこで、彼女がとった行動は、捨て身。

 シュナイダーがシュナイダーたる全身のブレード、頭部のブレード5本、両脇の7本、そのすべてを、今向かってくるレッドホーンたちに向ける。

「行きなさい、シュナイダー! 私の操縦通り正確に動きなさいッッ!!」

 駆け出す獅子。イオンブースターとEシールドに火がともる。

「残っている人間は、全て私についてきなさい!!」

 言葉通り、まだ残っていたブレードライガーやその他大型のゾイドが、彼女と同じように進み始める。

『げぇ、まさか!?』

「ふん、戦慄しなさい、下衆共。

 セブンブレードアタック!!」

 全エネルギーを持って行う、ライガーゼロシュナイダー最強の突撃技『セブンブレードアタック』。

 それが、今発動した。

「私に続けぇぇぇぇぇぇ!!!」

 他の機体も、特にブレードライガーやシールドライガーなどは同じくEシールドを前面に張った捨て身の突撃をし始める。

         ***

「おいおいおいおいおいおいおい!?!?!」

 うまく避けなかったら、切り裂かれた右の対空ビーム砲のように全身切り裂かれていただろう。

(コイツ、なりふり構わず『コックピットにあてる気で』突っ込んできやがった…ッ!)

 と、言っている間に、大部分の数のゾイドがレッドホーンやゲルダーを突破していく。

「こちらフォトーレス1、突破された!!!」

『こちらスカウター1、見てれば分かりますよー?』

「畜生、嫌に冷静だな! こちとら結構お高めの武装壊されたぜ!!」

『まーいいじゃないですかー、だってー、』

 いや何がいいのかわからない。

 

 ここでこうやって突破した場合もリナから聞かされていたが、その場合の対処の方法があまりにA組にはかわいそうだったから。

 

『ここを抜けて、自分から地獄の窯に入っちゃったんですよ?』

 

 リナの声は、背筋が凍りつくほど冷酷な響きを持っていた。

          ***

「はーっ、はーっ…!」

 ライガーゼロのエネルギーも残り少ない。

 いい加減、自分の息も切れてきた。

 アリシアの視界には、同じように疲弊しきったクラスメイト達の乗るゾイドがいる。

「くぅ……なんで、こんなことに…!」

 本当は、もっと華麗で、もっと鮮やかに、自分たちが勝つはずだった。

 なのに結果はどうだ?

 卑劣な手段を全てつかったような方法で、無様に地を這っている。

「くぅ…!」

 数ももう、やっと2ケタ程度。相手には何一つ損害はない。

 なぜだ?

 なぜ自分たちは負けている?

「私の腕が悪いのですわ……ゾイドの性能が同じである以上……!」

 が、その考えも、前から来た攻撃にさえぎられる。

『きゃあ!?』

 ドン、と言う音と共に、隣にいたブレードライガーが吹き飛ばされる。

「前から………え?」

 そして、本当に絶望した。

 

 ソレは、ゴドス達に取り囲まれてやってきた。

 ソレは、歩くごとに地を震わせていた。

 ソレは、巨大だった。ライガーゼロ程度ではくらべものにならない程に。

 ソレは、長大だった。長く太い尾を揺らしてこちらに向かってきた。

 ソレは、共和国の象徴。

 ソレは、ライガー程度ではかなわない、本物のエース専用機。

 ソレの名は――――――

 

 ―――――グォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!

 

「……ゴジュラス…??」

 

           ***

 ほどなく、決着がついた。

 もっとも、リナや一部の人間には、結果はこの時点でわかっていた。

 

 所詮ライガーごときに、ましてや瀕死の状態で、

 共和国の象徴たるゴジュラスにかなうはずがなかった。

 

 


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