RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~ 作:元町湊
ここでお知らせを一つ。
今回は書き方を少し変えています。
具体的には、簡単な解説を本編の途中に入れていることです。
もちろん、後書きにも解説は書きます。
本編中のはあくまでもその場でそう思っていただけたらいい、という程度です。
それではどうぞ。
京浜東北線のホームに向かって、俺達は走り出した。
そこまではよかった。だが、問題が発生してしまった。
それは、俺達がいろんな意味でデコボコなグループだということ。
今回に限って言えば、運動神経抜群の岩泉、中くらいの俺と高山、そしてダメダメな小海さん。
俺、高山、岩泉は公安隊の制服なので、顔パスならぬ制服パス。小海さんは学校の制服なので、手帳を見せる関係上少し遅れてしまう。
しかしそれでも岩泉、俺と高山、小海さん、と差は開いていき、岩泉は見えなくなるくらい前に、小海さんは歩いているのか?というぐらい、後ろにいた。
八重洲北口改札から入って、しばらくその状態のままで通路を走り、俺と高山は京浜東北線の大宮方面、山手線の内回りが発着する東京駅3・4番線ホームに着いた。
4番線には山手線の電車が加速をしていた。
3番線には京浜東北線の大宮行きが、今ドアを開けたところでお客様が大勢降りてきた。
そこで、高山の持っている、小海さんの携帯に着信があった。
案の定喧嘩気味になっていて、その間にも発車時刻は刻々と迫ってきて、発車ベルが鳴り始める。
そのベルもほんの数秒で終わり、無念にもドアは閉まってしまった。
桜井とひったくり犯を乗せた青い側面の車両は、どんどん加速していく。
「臼井、岩泉がここにきてないらしいぞ」
「まじかそれ……」
電話を切った高山から衝撃の事実が伝えられた。
あんなに早く走っていた岩泉が?
と、考えていると、隣のホームから俺達を呼ぶ声がしたような気がした。
振り向いてみると、
「高山―!臼井―!桜井がいないぞー!」
「岩泉!そっちは大船方面だ!」
高山は岩泉にこっちに来るよう指示した。
そういえば、岩泉は鉄道の知識は全くなかったな。それじゃあ、「京浜東北線の大宮方面」って聞いただけじゃ分からんよな。
そう、岩泉は鉄道の知識があまりない。研修中も、
岩泉「EF66ってだけで、よく電気機関車って分かるな~……」
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※EF66:国鉄が貨物列車の速度向上を念頭において開発した電気機関車。
寝台特急の牽引もしていた。
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などと、悩んでいた。
高山が指示を出すと、岩泉は手でOKのサインを出し、階段を駆け下りていった。
と、同時に小海さんが到着した。
「高山、追いかけるなら早くしたほうがいい」
「ああ、そうだな……」
「だ、犯人はどこだ?」
一瞬で向こうのホームからこっちへ来た岩泉は、息一つ乱さずに聞いた。
「あ、あおいは?」
落ち着いた小海さんもそう言う。
「桜井と犯人は、さっきの電車に乗って行っちゃった」
高山がそう言うと、二人は驚いて、
「あおい、大丈夫かなぁ……」
「桜井の奴!一人で車内乱闘か!」
小海さんは桜井の心配を、岩泉は自分もできたであろう車内での乱闘を心配していた。
いや、車内はまずいでしょ、車内は。
そんな岩泉にツッコミを入れながらも、高山は飯田さんに連絡をする。
「飯田さん、すいません!犯人を取り逃がしました! ……… はい、誰も怪我はしてません」
どうせまたゆるい感じで飯田さんは話しているんだろう。あの人はいつもそうだからな。
「それが、桜井が一人で犯人を追って、行っちゃたんです。 ……… えっ!俺ですか?」
高山は何を問われたのか。少し考えると、
「俺、桜井を助けに行きたいと思っています!」
そう言った。
しばらく無言になったあと、高山は「えっ!」とまた驚き、
「ありがとうございます飯田さん。俺、犯人を追います!」
と最後に言って、電話を切った。
電話を切って、俺達に向かって高山は言った。
「よし、桜井を助けに行こう!」
その言葉を聞いて、小海さんが言った。
「じゃあ、次の電車で行きますか?」
「いや、それじゃあ遅いよ」
そう言って、俺は天井から下がっている電光掲示板を指差していった。
「次の電車はあと5分後、前の電車が出てから大体3分だから、大宮に着くときには8分も差が開く。それだと犯人は逃げちゃうし、桜井の性格上乱闘するだろう」
「そうだ。それに、犯人は“さいたまハイパーアリーナ”に向かっているらしいから、國鉄管内を出て、捕まえられなくなっちゃう」
さてどうするか。………あ、そうだ。
「じゃあ、新幹線は?」
俺は高山にそう提案する。
「そ、そうだ!新幹線だ!それなら早く着けるかも……」
しかし、生憎時刻表は持っていない。持っていたならすぐに調べられるのに……。
仕方ないので、自分の携帯を取り出し、時刻表アプリを起動させようとする。
そこで、小海さんが、
「……大宮駅でよかったら、あおいに追いつけますよ」
と言った。
俺と高山は顔を見合わせた。
小海さんは続ける。
「東京駅13時20分発の“なすの599号”に乗れば、大宮に13時45分に着いて、あおいの乗った電車より5分早く着くことができます」
小海さんは何の言い淀みもなくスラスラと言った。
高山が小海さんに聞いた。
「もしかして、時刻表全部覚えてるの?」
「は、はい……。も、もしかして間違ってました!?」
そういえば、小海さんは座学に関しては、女子の中で一番だったな。だから記憶力がいいのかも知れない。
「高山、今は急ごう。新幹線も間に合わなくなる」
小海さんが言った時間まではあと10分しかない。
それに間に合うためには、走るしかなかった。
「よしみんな、新幹線ホームまで走るぞ!あ、岩泉!お前は前を走るな!」
「え、なんでだよ」
「さっきホーム間違えただろうが!」
「そうだったな、悪ぃ」
俺と高山、岩泉は同じくらいのスピードで走っていた。だが、小海さんはやはり足が遅かった。
それに、駅構内はお土産を買う人、乗り換える人でごった返していた。小海さんはその人たちをよけながら走っているため、ますます遅い。
すると、それを見た岩泉は、小海さんのいる場所までダッシュし、まるでラグビーボールを抱え込むかのように小海さんを脇に抱えた。
そしてそのまま俺達のほうに戻ってきた。
「さ、急ごうぜ。時間ないんだろ?」
「そうだな。急ぐぞ」
先頭にいる高山が、大きな声で「すいませーーん!公安隊が通りまーーす!」と言いながら道を開け、そのあとに小海さんを抱えた岩泉、最後に俺、という順番で東京駅のコンコースを駆けていく。
コンコースにいる人は、「何事だ?」と思いながらも、道を開けてくれる。
その姿は奇妙なものだっただろう。公安隊三人と、それに連れられた女子高校生、しかもラグビーのように抱え込まれているのだ。なんとも思わないのはおかしい。
「高山君!23番線ね!」
「了解!」
俺達は階段を上がり、東北・秋田・山形・長野・上越新幹線の改札を抜ける。
ここでも制服パスで、小海さんは「この人も公安隊です」といって、通してもらった。
改札を抜け、ホームに上がる階段の前まで来ると、
「ここは歩きます」
と、岩泉に気を使って言ったが、
「遠慮すんなって」
と言って、小海さんを抱えたまま、階段を一気に上がった。
やっぱりすごいな。さすが運動の成績がトップなだけある。
俺と高山もそれに続いて階段を上がった。
23番線には既に新幹線が止まっていて、発車ベルが鳴り始めていた。
俺達は急いでそれに乗る。
急いでいたためよく見なかったが、側面の色使いからして、この車両は200系なのは分かった。まあ、どっちかは分からないが。
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※200系:国鉄が東北新幹線用に開発した車両。これには二種類あり、先頭が0系のような車両と100系のような車両がある。
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俺達が乗り込むと、まるでそれを待っていてくれたかのようにドアは閉まり、新幹線はゆっくりと東京駅を加速しながら離れ、上野、大宮へと向かう。
※解説
國鉄200系:国鉄、及びJR東日本が製造、保有した新幹線車両。
主に東北新幹線で走っていて、今では保存車両を除く全車両が廃車となっている。
話中でも書いたように、200系には二種類の顔があり、0系タイプのやつ、100系タイプのやつの二種類がある。
EF66:国鉄が東海道・山陽本線系統の貨物の速達化を図って開発した電気機関車。
貨車のほうも高速で走れるようにしたため、それに合わせる形で開発された。
貨車だけでなく、2009年3月14日のダイヤ改正までは寝台特急の“富士・はやぶさ”の客車を牽いていた。
さて、今回の方式はどうだったでしょうか?
文句が来ないうちはこれでやっていきたいと思います。
次回の投稿日は相変わらず未定です。
それではまた次回。