RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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お久しぶりです。


45両目

 羽田空港から約20分後、鶴見つばさ橋やベイブリッジも通り過ぎ、特に渋滞に巻き込まれること無く目的の横浜公園ICに着いた。

 今の時刻は10時半だ。

 

「ここから遠いの?」

「いや、結構近くだよ」

 

 ICを降りて暫く下道を走る。すると、崖に沿って立てられたマンションが見えてきた。

 

「アレだよ」

「あれ!? 何であんなところに建てたの?」

「ここら辺って結構こういう地形が多くてね。そんな地形でもマンション建てられるように研究してたんだよ」

「ああ、だから技術開発用なのね」

「で、一定の研究が終わったから役目を終えた建物をそのまま譲り受けたんだよ」

 

 いい加減市川の家に置ける場所が少なくなってきたところにこの話が舞い込んできて、使った分の光熱費は俺ら持ちという条件で譲り受けたのだ。

 場所が場所なためさすがに大型の工作機械は置けなかったが、それ以外の専門書だとか内職で必要なものとかは全部こっちに移し、市川の家に色々置けるようになったのだ。

 

「……結構大きいんだな」

 

 近くまで行くと高山がそう漏らした。

 

「言うて長さは150mくらいしかないけどな」

「いや、それ結構あるほうだと思うぞ……」

 

 そうなのか、とだけ返事して建物の入り口に車を止める。

 

「ちょっと停めてから待っててくれ」

 

 そう言って全員を降ろし、駐車場に向かう。

 近くのスペースに停めて皆を待たせている場所に戻る。

 

「セキュリティー解除してくるからもう少し待っててくれ」

 

 管理人室の扉を開ければ、中にはこの建物のセキュリティに関する機器が置いてある。

 その機器を一元的に管理しているPCを立ち上げ、入室のために必要な部分だけ解除していく、

 

「これでおっけいね」

「じゃあ、行こうか」

 

 PCを待機状態にし、管理人室を出て鍵を閉める。

 

「お待たせ。じゃあ、行こうか」

 

 エントランスにある機械に鍵をかざすと、ようこそと言わんばかりに自動ドアが開き皆を迎えた。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

「今から行く部屋以外は入らないようにね。セキュリティーが働いちゃうから」

「ああ、分かった」

 

 皆がうなずいたのを確認する。

 

「じゃあ、岩泉と桜井は千歳に付いていって」

「? なんでよ」

「たぶんそっちのほうが面白いから。……千歳、よろしく」

「武器庫のことだよね」

「そうそう」

 

 武器という単語を聞いて途端に興奮する岩泉と桜井。

 

「さすがに実物は無いけどな。じゃあ、そっちは頼むよ」

「おっけい」

 

 千歳たちと別れ、俺達は別の部屋に向かう。

 

「じゃあ、まずはこの部屋ね」

 

 そう言って目の前の部屋のプレートを確認しドアを開ける。

 中に入ると玄関、廊下と続き、その奥に部屋がある。

 

「この部屋はたぶん高山と札沼さんは興味あるんじゃないかな」

 

 扉を開けて部屋に入ると、中には巨大なNゲージのジオラマが広がっていた。

 手前には市街地にある巨大ターミナル駅やそれに併設された車両基地、奥のほうには山奥の単線ローカル線や田園風景のジオラマが、端のほうには海沿いの線路も敷かれている。

 制御盤のスイッチを入れ、説明を始める。

 

「で、でけぇ……」

「大きさとしては約12畳で、2、3年掛けて作ったんだよ」

「これ……奥のほうで脱線したらどうするの?」

「所々顔を出せるように作ってあってね……」

 

 ジオラマの下に潜り込み、適当な穴を見つける。

 "山1"と書かれたボードを取り外し、上のジオラマを押し上げるようにして取り外す。

 

「こんな感じ。トンネルの中は入り口付近だけ覆ってあって、山の中はむき出しになってるの」

「へぇ……」

 

 ジオラマを元に戻し、皆のところに戻る。

 

「高山と札沼さんはNゲージ持ってる?」

「一応あるけど……」

「私もあるよ」

「じゃあ、操作方法は大丈夫だね」

 

 コントローラーの説明はそれくらいにして、特殊な操作の説明をする。

 

「ポイントとかの制御はこれで一括してやってるんだ。進路ごとにランプが付いていて、このランプが光っている線路は通電してるって印」

「赤と緑のランプがあるみたいだけど……」

「赤は通電中でも車両がいる場所で、緑は通電中で車両がいない場所を示すようにしてるんだ」

「へぇ……凄いね」

 

 そう説明すると制御盤のつまみをパチパチ弄って動作を確かめる高山と札沼さん。

 

「なんかアレだな。博物館のジオラマみたいだ」

「それを参考に作ったからな」

「これは自動運転とかできないのか?」

「出来るけど、そこにあるPCでルーティン組んで実行するだけだから、つまらんぞ」

「そうなのか」

「まあ、運転するのに飽きたらやり方教えるけど」

「じゃあ、そうさせてもらうよ」

「分かった。他に聞きたいことある?」

 

 そう聞くと札沼さんが制御盤の一部を指して、

 

「この線は何の線なの? 車両が停まってるみたいだけど……」

「ジオラマの裏っ側見てみ?」

「?」

 

 3人が裏側を見るとそこには、

 

「「「何これ……」」」

 

 そこにはジオラマ内の車両基地の3倍はあるだろう広さの車庫が広がっている。

 

「1回1回車両ケースから出して並べるのが面倒になってね、見えないところに全車両入るくらいの車庫を作ったんだ」

「これが……全部?」

「いや、まだクローゼットの中と製作中のがいくつかあるから、それも入れられるように増設工事中だよ。

 これ以上伸ばせないから今度は縦に伸ばすんだ」

 

 大崎車両所のように2階層にするつもりだ。今は準備工事として支柱や既存の車庫の線形改良などをしている。

 

「なんか気になる車両ある? そこに無ければ探すけど」

 

 そう聞くと3人は少し悩み、高山は100系の8000番台、札沼さんは夢空間・北斗星編成、小海さんは0系をそれぞれ選んだ。

 

「新幹線は曲率の関係でそこの高架線しか走らせられないんだけど、外回りと内回り、どっちがいい?」

「私はどっちでもいいですよ」

「……じゃあ、外回りで」

「了解」

 

 出庫の操作は手動でやるときにはDDC等を使う複雑な操作をしなきゃいけなく面倒で、だからPCで自動出庫してもらう。

 手早く列車と進路を設定し、まず高山の100系、次に小海さんの0系を出してコントローラーで運転できる位置までもっていき、今度は札沼さんに聞く。

 

「札沼さんはどこがいい?」

「じゃあ……ここかな」

 

 そう言って複々線の外側線を指差す。

 

「わかった」

 

 夢空間を車庫から出し、駅へ停める。

 

「じゃあ、好き勝手運転していいよ。ポイントとかも弄りたいように弄っていいから」

 

 一応接触などの事故は起こらないように分岐器の制御システムは組んであるし、万が一エラーが起きても通電カットして止まるようにしてある。無茶な操作をしない限りは大丈夫だろう。

 

「じゃあ、俺もなにか出そうかな……」

 

 札沼さんが夢空間北斗星だし……。

 

「よし、決めた」

 

 そう言って札沼さんの走る線路の隣にある列車を持ってきた。

 

「なに? それ」

「大陸横断バージョンのオリエント急行をD51とEF58に牽かせてるの」

「へぇ~」

 

 これは1988年にフジテレビと國鉄の合同企画で行われたものだ。

 フランスのパリから東京駅までの約16500kmをオリエント急行が走ったというもので、世界最長距離列車としてギネス認定までされたものだ。

 国内では実際にD51とEF58が一部区間を牽引したが、大陸の列車をそのまま持ってきたというわけでは無いのでこれは架空編成ということになってしまっている。

 駅まで運転したあと、PCで自動運転の設定をし、俺は別の事をしようとある画面を覗き込む。

 その画面には前回整備してからの走行距離、何日間走らせてないか等の車両の情報が出ていて、いくつかの車両には整備推奨のマークや走行推奨のマークがついている。

 

「走行が20本の整備が5本か……溜まってるなぁ」

 

 それを見て、走行推奨の車両については全て自動運転で適当な線路を走るように設定、整備推奨は2~3本だけやることにし、上から3本を整備線に来るよう設定をする。何の機械にしてもそうだけど、使いすぎても壊れるし、使わな過ぎてもまた壊れるのだ。だからこういう風に定期的に走らせてまったく走らない車両が出ないようにしている。

 設定を確認し、実行を押すと奥の車両基地から色んな車両が動き出し、おもしろいくらい出てきた。

 

「うおっ!すげぇ……!」

 

 20数本の列車が車庫線から続々出てきては行先ごとにポイントを渡り、連なって走る光景は壮大の一言に尽き、高山と札沼さんはもちろんの事、模型に興味ないであろう小海さんまでその光景に目を奪われていた。

 やがて全ての列車が出終わり、整備線にも目的の車両が到着していた。

 

「そこは何も無いみたいだけど、何をする場所なの?」

「主に車両の整備だね。分解して掃除したりするように作ったんだ」

 

 整備線は留置する用の線路を5本。それに加えて試験走行に使う線路を1本敷いてある。

 今回要整備で選ばれた車両は来た順に、日本海を牽引しているEF81-81、北陸を牽引しているEF64-1030、昔の展望車付きのつばめを牽いたD51-2だ。

 

「よくもまあ、機関車ばかり集まったなぁ……」

 

 とりあえず面倒な蒸気機関車から片付けよう。

 並走させたり写真を撮ったり、楽しそうに遊ぶ3人を横目に見ながら俺は車両の整備を始めた。




解説
・オリエント急行
 1988年にパリからロシア(当時はソ連)・中国を経由して日本までやってきた。
 普段はヨーロッパを走り回っている。
 現実でも話中の解説通り、フジテレビの開局記念でJRとコラボという形で実現した。
 後にも先にも日本の鉄道史において外国からの国際列車というのはこれだけだろう。
 ちなみに、軌間はヨーロッパと中国が標準軌、ロシアは広軌、日本は狭軌なので、それぞれの国を通過するときは台車を履き替えていた。ロシア国内では客車が長時間停車してる脇を台車を乗せた貨物が通過していったそう。その他設備面で言えば機関車との連結は控車を用意することで解決、ブレーキについては圧力、システム(自動空気ブレーキ)が奇跡的に各国共通だったため、配管の位置合わせをするだけで済んだという。

・日本海
 大阪から北陸経由で青森まで走っていた寝台特急。
 基本的にEF81+24系客車の編成で組成されていた。
 北陸新幹線開業に伴う並行在来線問題に加えてJR西日本が基本的に三セクへの直通廃止の方針だったため、2013年に廃止された。

・北陸
 上野から金沢までを結んでいた寝台特急。
 上野から長岡まではEF64、長岡から金沢まではEF81が牽引を担当していた。
 冬季には長岡に到着したEF64がそのままヘッドマークを付けたまま上越線のカッター(つらら取り)運用についていた。雪をかき分け、パンタグラフから火花を散らしながら、薄暗い空間を駆けていく姿はなかなか格好が良い。
 こちらは利用者低迷により2010年に廃止。

・つばめ
 みんなご存知、天下無敵の東海道を我が物顔で爆走していた日本のチート特急。
 東京と大阪を客車時代は最速7時間で、電車化されてからは6時間半で走破していた。時には広島まで運転されていたこともある。
 現在は九州新幹線の各停タイプの列車名に付けられるが、客車時代のつばめには国鉄も相当ご執心だったようで、太平洋戦争前はあの手この手で時間短縮を図っていた。
 例えば、御殿場や関ヶ原越えの補機を付ける時間すら惜しくなり沼津や大垣で連結時間を京急も真っ青の30秒に設定してみたり、乗務員交代すら走行中に行っていたらしい。
 ちなみに最後尾に付けられる展望車のマイテ49形客車は珍しいことに3軸台車だったりする。

 誤字脱字その他ありましたらお気軽にどうぞ。
 それではまた次回に。

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