RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~ 作:元町湊
「ところで私達は今どこへ向かっているんですか? 臼井君の家は確か市川でしたよね?」
「そういえばそうだな。集合場所改札内でよかったんじゃないか?」
「あれ? 小海さんにそっちの家話したっけ……。まあいいや。そっちは生活用の家だから。招待したい
「要は……別荘ってことか?」
「そんなトコ。まあ、着いてからのお楽しみってことで」
鉄道好き女子の2人、札沼さんと千歳はすぐに仲良くなり、後ろのほうで仲良く話している。
いつもの警四の面子、その後ろに女子2人という塊で八重洲地下街を歩く。
そうして西駐車場へと下る階段の近くまでやってきた。
「駐車場……?」
「ああ、ここからは車だ」
「誰かに運転してもらってるの?」
「いいや、自分で運転してるよ」
そう言って階段を下り始める。
「なに、免許持ってんの?」
「ああ。じゃなかったら無免で捕まってるわ」
階段を下りきり、車の前へと案内する。
「何この車」
「いいでしょ。1967年式のVW-T1、ワーゲンバス」
軽く説明をして、車体側面にあるスライドドアを引く。
今回は大人数での乗車なので、後ろにも座れるように1席だけ背もたれを倒した。
「んー、誰がどこに座る?俺が運転席なのは確定として」
「俺はどこでもいいや」
「……よし、じゃあ高山君、一緒に座ろう?」
「じゃあ決まったら後ろから座ってってね。……千歳は? 助手席?」
「ううん。まりちゃんと話したいから後ろに座るよ」
「じゃあ、札沼さんと千歳は2列目で。桜井と岩泉は?」
「わ、私はここでいいわよ……」
と言って、3列目の中央に座っている高山の隣に座った。
「岩泉は?」
「よ、よかったら隣に座らない……?」
「おう、じゃあそうさせてもらうぜ」
岩泉は札沼さんに誘われて2列目の扉に一番近いところに座ることになった。
「ちょっと待ってて。……よいしょっ……と。うん、いいよ」
背もたれを立て直し、そこに岩泉を座らせた。
「全員ちゃんとシートベルト締めてね。じゃないと捕まっちゃうから」
そう言うと、全員がベルトを締める音が聞こえた。
振り向いて見て、全員が締めているのを確認する。
「なあ、臼井」
「なんだ?」
諸々の調整を終え、シートベルトを締めながら岩泉の問いかけに答える。
「天井低くねぇか?」
「元々の仕様だ。我慢してくれ」
エンジンをかけてETCカード挿入、パーキングブレーキを解除する。
「じゃあ、出発するぞ」
そう言ってクラッチを繋いでNから1速に投入、車を走らせる。
駐車場直結の八重洲入口から入り、汐留JCTでC1内回りへと乗り継ぎ、浜崎橋・芝浦JCTで11号の台場線方面へと向かう。
レインボーブリッジの通過はさすがに分かったらしく、ルームミラーで後ろをちら見すると皆窓の外を見ていた。
台場線の終点、有明JCTでは今度は湾岸線の横浜行方面へと車を進める。
「ねえ、ホントにどこ行くつもりなの?」
「んー、内緒って言いたいけど、さすがにつまんないか。
場所としては横浜の石川町……というより中華街のほうが分かるかな?そっちのほうに向かってる。
ただ、目的地はそこよりちょっと離れてるかな」
「そんなとこに何があるのよ」
「とある伝で技術開発用に建てられたマンションが手に入ってね、そこを俺と千歳の遊び場にしたんだ。案内したいのはそこだよ」
「普通の高校生はそんな伝ないわよ。ホントに何者なの?」
「……臼井グループって企業、聞いたこと無い?」
そう言うと、
「……やっぱり」
と、小海さんが呟いたのが聞こえた。
「國鉄も取引先にあるからね。さすがに小海さんは知ってるか」
「戦後GHQに解体された財閥の1つで、以前から合併・吸収を繰り返して最近になって戦前のレベルまで力を取り戻したグループ……ですよね」
「グループのトップは俺のおじいちゃん、No.2はうちの父さん。そういうことだよ」
「じゃあ、千歳ちゃんは……?」
「千歳は幼馴染だよ。うちの親と千歳の親が昔っから仲良くて家も近くて、今でも一緒に仕事をしてる関係なんだ」
前に社長と社長補佐みたいな関係で仕事をしていると聞いたことがある。
「あとは……」
「何作ってる会社なの?」
何話そうか悩んでいると、札沼さんがそう聞いてきた。
「いろんなことやってるよ。
電車とかの
あとは流通もやってたかな。基本的にほとんどのインフラ事業に手を出してるよ」
ただ、表に出ないような仕事ばかりなので一般の人に知名度は低いが。
「臼井はそこを継げとかって親から言われないの?」
「言われてるけど、今はやりたいことをしたいようにしなさいとも言われてるよ」
もちろん、常識やマナーを守ったうえで、という前提条件は付くが。
「いいわねぇ……」
「何がだ?」
「うちの親なんで警察官になりなさいの一点張りだからね」
「それは大変だ」
「でしょう!?」
後部座席から身を乗り出して同意を求める桜井。
「桜井、危ないぞ」
「そ、そうね……」
その言葉で桜井はおとなしく席に戻った。
ところで、と今度は高山が何かを聞きたいようだった。
「さっき國鉄と小海さんが関係あるようなこと言ってたけど、あれってどういう?」
「え、だって……」
と言いかけたところでバックミラーに小海さんが一生懸命ジェスチャーで言うな、とやっているのが見えた。
「あー……一般に名前は知られてなくても、ちょっと國鉄について調べれば名前出てくるし、そこらへん小海さんは記憶力いいから。分かったんじゃないかなーって」
そう、適当に言っておく。
本当は小海総裁の孫だし、記憶力がいいならどこかしらでうちの名前を聞いたことがあるはず、という意味で言ったのだ。
だが本人はどうやらそのことについては知られたくないらしく、必死にジェスチャーを送っていた。
まあ、実際にうちは國鉄の色んな事業に手を貸してるし、本当に少し調べれば名前は出てくるのだから、嘘はついていない。
高山はその説明で納得したらしく、小海さんも小さく安堵の息を漏らしていた。
「空港中央か……」
ここまで渋滞も無く順調に来れている。今日の首都高は渋滞が無くていいな。
この先も無ければいいんだけど、と考えながら湾岸線をひたすら横浜方面へ進む。
43両目を書き直しました。理由はそのうちわかります。