RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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 今回からオリジナル回です。
 多少ご都合主義が入りますがお許しください。


42両目

 無事に東京駅に帰って研修の報告をし、時刻はお昼を少し過ぎた程度の時間であったがその日はそれで解散となった。

 

「臼井、お昼食べて帰ろうぜ」

「すまん。俺はちょっと飯田さんと話があるから」

 

 一緒に帰ろうと誘ってくれたのを断り、飯田さんと2人で公安室に残る。

 皆が警四の部屋を出た後で飯田さんと電話の続きを話す。

 

「で、次回のテロについてだけど……」

「帰り際に調べておきました。

 俺が確認できた数字は44023、55026、12187、22222、10084の5つです。

 それ以外は確認出来ていませんが、恐らくこれで全部です」

「どうして?」

「目立つ.txt(テキスト)ファイル全部見て、関係ありそうな意味不明なものがこれしか出てこなかったからです」

「他のはどういうものだったの?」

「メンバーの名前とかですかね。どこでやるかまでは書いてなかったんですが」

 

 10人くらいの名前が書いてあるファイルで、苗字だけだったがこちらも全部覚えている。

 

「で、俺が安中で見たのは22222で、こいつはタキ2100形というものなんです。

 その他についても、順に44023がタキ44000、55026がタキ55000、12187がタキ2100、10084がタキ10000だというのが分かってます」

「見事なまでに全部タンク車ね」

「そうなんです。で、そこから察するに……」

「次回はタンク車爆破テロってわけね」

 

 55000なんて骨董品もいいところなのにまだ現役なのかと思ったが、アレは大量に積めるし夏の電力事情が厳しい昨今にはもってこいの輸送役かもしれない。

 

☆★☆★☆

 

車両の解説は後書きにて。

 

☆★☆★☆

 

 中身ぶちまけて放火という線も考えられるが、そんなことをするよりは爆破のほうが手っ取り早いし効果も高い。

 

「今日見た貨物の行先は?」

「確か根岸かと」

 

 そう言うと飯田さんは受話器を取り、どこかへ電話を掛けようとする。

 

「そー君。今から根岸行ってくれない?」

「いいんですか? 勝手にやって」

「被害出すよりあとで一緒に怒られた方がいいと思わない?」

 

 そう言って飯田さんは微笑みかける。

 まったく、この人は……。

 

「分かりました。一緒に怒られてあげますよ」

「ありがと」

 

 そうして根岸に電話をかけ始めた飯田さんを背に、俺は帽子をかぶって東海道線のホームに向かった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 数十分後、横浜駅で京浜東北線に乗り換えた俺は根岸駅に着いた。

 駅の人に飯田さんの名前と来た理由を告げると、貨物駅のほうに案内してくれた。

 本来は遠回りして入らなきゃいけないところを、ホームの端から線路に降りて貨物駅に向かう。

 

「指令の方には車両点検で報告しています。まだ遅延はありませんが、なるべく早くお願いします」

「ご協力、ありがとうございます」

 

 駅員さんに連れられ、安中で見た貨物列車の所までやってきた。

 先頭の機関車はEF65に代わっているが、2両目のタンク車からは同じ編成だった。

 

「ええっと、22222は……」

 

 確か5両目に繋がれていたはずだ。

 そう思い出しながら5両目まで歩いていくと、目的の車両を見つけた。

 

「これか」

 

 公安室の装備課から借りた懐中電灯を取り出し、車両をくまなく探す。

 側面、上部、車体の下など、見れる範囲は全て探す。

 たっぷり時間をかけて捜索したが、それらしきものはなかった。

 

「すみません、この中って空ですか?」

「えーっと、今は空ですね。この後新日本石油(日石)の製油所まで運んで石油を積む予定になってます」

「じゃあ、中見ても大丈夫ですか?」

「ええ、どうぞ」

 

 それじゃあ失礼してと、マンホールを開けて中を覗き込む。

 懐中電灯で色んな所を照らしてもやはり、それらしいものは見つからない。

 

「これから仕掛けるのかな……?」

 

 その呟きはタンク車の中にこだまする。

 もしかしたら今日までに回収して別の所に設置したのかもしれない。

 いずれにせよ、今日できるのはこれくらいしかない。

 

「終わりました。ありがとうございます」

 

 マンホールを閉め、下に降りる。

 

「特に異常はなかったんですか?」

「ええ、大丈夫でした」

 

 そう報告すると、駅員さんはポッケに入っていた無線機を取り出して、何か話しかけていた。

 

「こちら桜木です。根岸駅、応答願います」

『はい、こちら根岸駅』

「車検終了、異常はないそうです」

『根岸駅、了解しました』

 

 報告が済むと無線機は元のポッケに戻されていた。

 

「じゃあ、戻りましょうか」

「ええ、ご協力、ありがとうございました」

 

 駅へ戻るついでに俺も飯田さんへ報告する。

 

「もしもし」

『どうだった?』

「モノは見つかりませんでした。まだ仕掛けてないか、別の場所に移されたかですが……」

『そうねぇ……。2週間あれば移し変えられるだろうし、そこで見つからないとなれば様子見するしかないわねぇ……』

「ところで飯田さん。上の方々の説得は大丈夫でしたか?」

『ええ、一応報告してタキ22222の捜索許可だけは何とか取り付けたわ』

「他のやつはどうでした?」

『保留だって。ざぁんねん』

 

 今のところ俺の言った数字は証拠能力が低い。

 今回見つかれば信憑性が上がったかもしれないが、見つからないとなれば……。

 

「……許可は下りそうにないですね」

『そうねぇ……。一発ドカンとやってくれれば話は早いんだけど……』

「それは本末転倒では?」

『そうなっちゃうわね。……ま、なんでもいいわ。早く帰ってきちゃいなさい』

「そうします」

『じゃあ、また東京駅でね~』

 

 そう言って電話が切れる。

 

「東京の方からこっちまで大変ですね」

「まあ、研修を受けてる身ですし、言われたらやるしかないですよ」

「確か警戒班だとOJTでしたね。学生なのにそんな考えができるなんて立派ですよ」

 

 単純に学生なだけではないが、そう言うことにしておこう。

 そんな適当に話をしながら歩いて、ホームまで戻ってきた。

 

「じゃあ、私はこれで」

「あ、はい。ありがとうございました」

 

 敬礼して桜木さんを見送る。

 姿が見えなくなったのを見て、ちょうど来た京浜東北線の北行に乗り込んだ。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 東京駅に戻ると飯田さんが待っていた。

 

「ただいまですー」

「おかえりー。残念だったね」

「そりゃあお互い様でしょう。とりあえず今回の件は保留ということで」

「えー、残りも探そう?」

「どうやって探すってんですか」

「貨物部門から伝票取り寄せて探す」

「手作業で?」

「手作業で」

「……」

「……」

「却下」

「えぇー……」

 

 当たり前でしょう。何日かかると思ってるんだ。

 それに、本格的に取り寄せると上の人たちの耳にも届いてしまう。内緒でやるのにも限界がある。

 

「もうちょっと様子見ながら証拠集めましょ。いいものが出てくればれば上も耳を貸してくれるでしょう」

「そうするしかないわねぇ……」

「じゃあ、そういうことで今日は帰りますね」

「分かった。お疲れ様。私も帰ろっかなぁ」

 

 時刻はすでに17時を回っている。

 

「帰るならついでに家で夕飯食べますか?」

「……お言葉に甘えさせてもらおうかな」

「じゃあ、早く帰りましょう」

 

 その後、更衣室で着替えて公安室を出る。

 総武快速に乗り、久々のわが家のある市川を目指す。

 

「今日帰るって連絡してあるので、多分千歳が用意して待ってるはずですよ」

「ちーちゃんが? それは楽しみだなぁ」

 

 そんな話をしながら、市川に着き改札を出て家に向かう。

 

「たっだいまー」

「おじゃましますー」

「おかえりー!」

 

 リビングで待っていたらしい千歳が玄関まで走ってきて、タックルしてきた。

 

「千歳……苦しい」

「久しぶりなんだからいいじゃんー」

「まあまあ、お熱いことで」

 

 他人事のように言いやがって……。

 

「だって他人事ですしぃ~?」

 

 飯田さんはそう言いながら靴を脱いでリビングの方へ向かった。

 

「ちょ、なんでわかったんですか?」

「そー君の考えることなんて分かりやすいのよ~」

 

 なんて鼻歌を歌いながらリビングのほうへ歩いている。

 

「……夕飯食べようか」

「うん!」

 

 頭をやさしく撫でてると嬉しそうに目を細め、更に寄ってきた。

 仕方ないのでこのまま歩くことにする。

 

「今日の夕飯は?」

「色んなもの作ったから、見た方が早いよ!」

「食べきれるかな……」

 

 まあ、飯田さんがいるしなんとかなるか。

 その後、せっかくだから瞳も……と飯田さんが言い、姉さんも含めて4人での夕飯が始まった。




 今回はやる車両が多いので後書きで解説します。
 基本的に國鉄とJR貨物の貨車に大差はありません(例外あり)。少し長生きしてるなーってくらいです。
 ちなみに解説中の「燃31」とは、化成品分類番号において、燃焼性物質であり危険度度合2(中)の引火性液体を示す記号です(簡単に言えばガソリン以外の石油類のこと)。
 前口上が長くなりましたが、それではどうぞ。

タキ2100形(1951-2001)
車番:2100-2499、12100-12197、22100-22247、22300-22332(編入車)、32100-32102
40t積の燃31専用タンク車で現在では形式消滅。決して某赤い彗星のフラッグシップではない。
一部車両は燃32(ガソリン)専用車から専用種別変更改造の上で編入した車両である。
現在の一般的な荷役方式と違い、タンク車上部から石油を出し入れする。

(オ)タキ55000形(1960-1990)
車番:55000-55038
50t積の燃31専用タンク車。現在では形式消滅。
高度経済成長により増大した需要に対応する為に貨車1両あたりの荷重を増やすことが求められ、その結果50t積という大容量を実現した車両。
台車はTR78(初期車ではTR98)という3軸ボギー台車で、長い車体と合わせてこの車両の特徴的なものとなる。
全長が16m超のため特殊標記符号(※)「オ」が付けられる。

※特殊標記符号:貨物輸送基準規定により定められている、貨車の構造や性能を示す為の記号。
「オ」は標記トン数(荷重)が36tの無蓋車、および全長16m以上のタンク車、および全長が12m以上のホッパ車を示す。

このあたりから荷役方式が変わり、タンク体(液体を入れる場所)上部のマンホールから入れて下部の吐出管から出される、上入れ下出し方式となる。

タキ10000形(1963-2001)
車番:10000ー10084
35t積の燃31専用タンク車。現在では形式消滅。
中でもタキ10084は外部加熱方式の試作車で、これは内部にあった加熱管を外側に配置した試作車であった。

※タンク車には積荷を降ろす際に石油の流動性を確保する為、タンク内部に高圧蒸気を通す管(加熱管)が装備されている。

タキ44000形(1967-1982)
現在でも普通に使われている43t積の燃31専用タンク車。
全車が日本オイルターミナル(基本的に青色の車両)か日本石油輸送(基本的に黒色)の所属であるが、需要の変化で所属がころころ変わる転勤族。
仕様の違いにより4種類ほどグループがある。
100番台(44100-44223):基本番台(44000-44023)から台車を変えたもの。
寒地仕様車(44500-44506):北海道向けの装備をもつ車両。
保安対策車(44507-44521):脱線・転覆時の被害拡大を防ぐ構造を持つ車両。

 例外というのはコキのことです。後々登場しますのでお楽しみに。

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