RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~ 作:元町湊
事件性が考慮された、とのことで一緒に来た警察に3人で事情聴取を受けた後、警官さんの計らいにより軽井沢駅まで乗せてもらえることになった。
これは飯田さんに報告したりしたかったので丁度よかった。雨もまだ強いしね。
データの保護は間に合わなかったが、まあ、ある程度情報を掴んだので許して欲しいものだ。
「2人ともありがとうね。来てくれなかったら危なかったよ……」
「そりゃあよかったぜ」
「私はただ音を出しただけだし……」
「それでも助かったよ……ところで、高山達は?」
「2人も来るって言ってたんだけどね、なんか桜井さんからメールが来たみたいでそっちに」
昨日のあれか……。
「ま、仲直りするならいいんじゃない?」
「仲直り……?高山君達何かあったの?」
「ああ、こっちに来る前にちょっとね。……聞きたい?」
「んー……いいや、遠慮しておく」
パトカーの後部座席でそんな話をしていると、すぐに軽井沢の駅前に着いた。
降りる際にお礼を言うと、研修頑張ってねと言ってくれた。
最後にもう一度ありがとうございますといって、パトカーから降りる。
「さて、札沼さんはどうする?」
「何を?」
「この後色々と報告しなきゃいけないことがあって寄らなきゃいけないところがあるんだけど……」
「ちょっと位なら私待ってるよ?」
そう言うので、札沼さんを連れて飯田さんへの報告のために駅にある公安室へ向かう。
◇◆◇◆◇
「……というわけですみません。PCは取り逃がしました」
『いいわよー。元々頼んだのは彼の保護だけだし。むしろ、よくデータ確保できたわね』
「
『それでも十分手がかりにはなりそうなんでしょ? それで十分だわ。じゃあ、残りの研修もがんばってねー?』
「もちろんそのつもりですよ」
『それならいいわ。……あ、あと、搬送先分かったら連絡してね?』
「分かりました」
『うん、じゃあねー』
そこで電話は切られた。
受話器を置いて、室内に視線を戻す。
「飯田さんなんだって?」
「残りの研修もがんばれってさ」
中にいるのは警四の4人と札沼さん、それから偶然長野に視察に訪れているらしい南部本部長だった。
先ほど降り始めた雨は勢いを増し、どこか行こうにも行けないほどの大雨までになっていた。
そこで高山達には駅まで戻ってきてもらうことにしたのだ。
俺は報告のために分室にお邪魔して、ここにいた人に事情を話した。
ついでに電話を借りて飯田さんに報告していた。
高山達は後から来たが、本部長の厚意でここに居させてもらえることになったのだ。
「ところで、軽井沢の救急のほうから電話がありませんでしたか?」
「救急?……僕は何も聞いてないなぁ……。たぶん和歌山君……っていう隊員が居るんだけど、その人なら知ってるかもしれない。……なにかあったのかい?」
「ええ。先ほどの仕事の関係でこちらに電話をしてもらうよう頼んだんですが……」
丁度そのとき、俺の脇にあった電話がなった。
「はい、こちら公安隊の軽井沢分室」
『こちら軽井沢消防です。先ほどの救急でそちらに電話するよう言われたのですが……』
「はい、合ってますよ」
『では、先ほどの患者さんは軽井沢総合病院に搬送しましたので。まだ目覚めてはいませんが、医師の診断によると命に別状は無いとのことです』
「はい、了解しました」
『それでは失礼します』
「はい、ありがとうございます」
そう言って電話を一旦切って、今度は飯田さんにかけなおす。
「搬送先の病院が分かりました。軽井沢総合病院だそうです」
『了解ー。後の処理はこっちでやっておくから』
「はい、お願いします」
今度は受話器を置いて通話を終了する。
これで一通りは終わった。
「にしても桜井も来たのか」
「何よ。私が居ちゃあダメなわけ?」
「いんや?ただ、高山と仲直りしたのかなぁって」
「したわよ……。その、……悪かったわね……」
「2人が仲直りしたんならそれでいいよ」
俺は何の実害も受けてないし。
「それにしても、君たちが警四か。色々なところで君たちの活躍を聞くものだから、一度どんな子たちなのか会いたいと思っていたんだよ」
悪い話しか流れてなさそうなんですがそれは。
「君たちは将来、どこの部署を希望しているんだい?」
「私は車掌に」
「私は鉄道公安隊を希望します」
俺と桜井は即答した。
「俺は新幹線の運転手に……そして将来はリニアを運転したいです」
「私は事務職……かなぁ」
「私はアテンダントになろうかと……」
「俺はそんな先のこと考えてねぇぜ」
「意外だな。お前は公安隊に進むと思ってたが」
「まあ、そん時になったら考えるさ」
高山はもちろん、小海さんも札沼さんももう決まっているようだった。
しっかし岩泉は行き当たりばったりだなぁ……。
「まあ、人生何があるか分からないものだし、その時になって考えるっていうのも選択の1つだと僕は思うよ」
「そういうものなんですかねぇ……?」
俺の考えを読んだかのように本部長はその言葉を発した。
「僕の話をすると、最初は運転士で北海道のほうでキハを転がしていたんだけど、ある日上司に公安隊へ行かないかって言われてなんとなく入ったんだ。
で、入ってから何件か事件を解決してね。なんというか公安隊が自分を必要としてくれたってそんな感じがして、気付けば運転課に戻らずにずっと公安隊に居続けていたんだ。
君たちは若い。僕なんかよりもずっと若くて、時間もある。だから、今から一つの選択肢に拘るんじゃなくて、いろんなものを見て、学んで、それで前だけを見て走り続けなさい。そうすれば進みたい道は自ずと見えてくるだろう。
後ろを振り返って見るなんて老後にでもやればいい、って僕は思うな」
そう締めくくって本部長はカップに淹れたコーヒーを啜った。