RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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35両目

 飯田さんに言われた通りの場所に着くと、誰も居なかった。

 ガセだったかな?とかなんとか思ったが、時計を見ると現在14時の10分前。少々早く着いてしまったようなので、せっかくだから中を覗いていく事にした。

 中は普通の教会より飾り気が無く、いたってシンプルなものだった。

 教会の壁は木材のようで、ど真ん中にレッドカーペットが敷かれ、その両脇に十数列のベンチが、その先には祭壇があった。

 また、天井から何個かの電灯が釣り下がっており、それが室内を明るく照らしていた。

 教会といえば、天井が高く、壁は白いものとばかり思っていたから、これは意外だった。が、個人的にはこんな感じのほうが好きだ。

 ベンチに座ったり祭壇を見たり色々していると、約束の時間になった。

 すぐ後ろの出入り口から外に出ると、頬に冷たい何かが当たった。

 

 

「雨か……」

 

 

 上を見上げれば、そこはあたり一面暗雲で覆われていた。

 そういえば天気予報では大雨が降るかもって言われてたな、なんて事を思い出しながらバッグの中から折り畳み傘を取り出す。

 カバーを外してそれは仕舞い、傘を開いたところで時計を見ると14時を回ったところだった。

 人が居ないかあたりを見渡そうとしたところ、すぐ右後ろでドサッと何かが倒れるような音がした。

 

 

「ん?」

 

 

 振り返って音のしたそほうを見ると、タブレットを抱えて教会の外壁にもたれて座っている人を見つけた。

 直感でこの人が抜け出してきた人なのだと分かった。

 

 

「連絡を受けて参りました。

 東京中央鉄道公安隊の臼井宗吾と申します。

 しゃべらないで結構です。そのまま安静にしていてください」

 

 

 手帳を見せながらその人に話しかける。

 服装はボロボロで、骨折しているのか右足の膝がおかしな方向に曲がっているのが見て取れた。

 すぐに携帯を取り出して救急車を呼ぶ。

 こちらの所属や氏名、要救助者の状態などを報告すると、すぐに隊員を向かわせますと言って電話は切れた。

 スマホをポケットに戻し今回の依頼者のほうを見ると、その人は項垂れていた頭を上げて顔をこちらに向けた。

 

 

「助かったよ。……これを」

 

 

 そう言ってその人が差し出したのは、手に抱えていたタブレット端末だ。

 差し出されたそれを俺が受け取ると安心したように微笑み、ぽつぽつと話し始めた。

 

 

「俺はなぁ……手術に立ち会ってやりたかったんだ……」

 

「手術……ですか?」

 

「ああ、十も下の妹で、今は小学生なんだ……こいつが可愛くてなぁ……」

 

「そうですか。……大きな手術なんですか?」

 

「ああ、肝臓の手術でな……妹は生まれつき肝臓がだめだったんだ……」

 

「肝臓が……」

 

「生まれたときに、手術したんだけど、再発したみたいでなぁ……今は前橋の病院に入院してるんだ……」

 

「そうなんですか」

 

「長い間ドナーは見つかんないし、金は無いしでなぁ……」

 

「大変でしたね」

 

「ああ、大変だったさ……。でも金は集めたし、ドナーも見つかった……。こんな状態じゃあ手術に立ち会ってやれないだろうが……、それでも、優菜が助かるならそれで……、いいか……」

 

 

 そう言い残すと、男は崩れ落ちるように倒れた。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 身体を揺すってみるが、反応は無い。

 呼吸は正常だし、首に手を当ててみると脈はあるようだから、ただ単に気絶しているだけだろうと判断し、着ていた上着を掛けた。

 

 あとは救急車を待つだけだな。

 その間に、と、俺は渡されたタブレットの電源を入れる。

 十数秒の後、デスクトップの画面が表示され、そこにいくつかのテキストファイルがあった。

 その中の1つをダブルタップしてファイルを開く。

 中にはいくつかの数字が並んでいた。が、それだけだった。

 

 

「なんじゃこりゃ」

 

 

 そこには、44023、55026、12187、22222、10084という5つの数字が並んでいただけだった。

 共通点もなく、てんでバラバラなこの数字たちに何か意味が無いか探していたが、数分弄くりまわしてもこれといった情報は見つからなかった。

 

 

「データ吸い取ったほうが早いか……」

 

 

 まだ奥にも何かあるかもしれない。そう思ってバッグからUSBケーブルを取り出そうとしたそのとき、入り口のほうから車の入ってくる音が聞こえた。

 サイレンは聞こえなかったから、救急車ではない。

 俺は咄嗟にUSBを戻して乗り付けてきた車の方を見ると、ドアが開いて中から人が出てきた。

 その数合わせて3人。黒いスーツを着た女とグレーのスーツを着た男、それからフライトジャケットを着た男だった。

 俺はバッグにつっこんでいた手を取り出す。

 

 

「あの女は……」

 

 

 女は確か東京駅の一件のときに居た女のはずだ。名前は確か手宮と言ったか。

 そいつもこっちに気付いたようで、こっちに向かって歩いてきた。

 

 

「あら?あなたは……?」

 

「人に名前を聞くときは自分から名乗れって言われませんでした?」

 

「じゃあいいわ。私、あなたの名前に興味は無いから」

 

「それは何より。こちらもテロ集団に名前覚えられたくありませんからね」

 

「あら、私達がどこの人間かは分かるのね」

 

「一応は」

 

 

 正直RJの連中が来るのは想定内ではあったから問題ではない。こんなに早く来た事を除けば。

 岩泉を連れて来るべきだったか……と後悔してももう遅い。

 

 

「それで、RJが何の用ですか」

 

「別にあなたに用があるわけじゃあないわ。用があるのはそっちの男とPCだけ」

 

「奇遇ですね。私もこの人とPCに用があるんです」

 

 

 相手も譲れない、こちらも譲れない、そんな状況で睨みあいが続く。

 そんな状況が暫く続いた後、ふと、

 

 

「はぁ~……」

 

 

と、手宮は諦めたようにため息を吐いた。

 

 

「あ、諦めてもらえました?」

 

「ええ、面倒くさくなってしまったわ」

 

 

 そう言うと手宮はスーツの内側についているのであろうポケットからオートマの銃を1丁取り出した。

 

 

「本当は使うつもりはなかったんだけど……さあ、早く渡して頂戴」

 

 

 そう言って手宮は俺のほうへと銃を向けた。

 

 

「まずはその持ってるPCからね」

 

「その銃、偽物って事は……」

 

「ないわね」

 

 

 そう手宮が言った直後、銃声が響く。

 なるほど、どうやら本当に本物のようだ。

 

 

「早くしてくれる?こっちも暇じゃないんだけど」

 

「……分かりました。ですが、どういう風に渡せばいいんですか?そこはまだ聞いてませんよ」

 

「そうだったかしら?それはごめんなさいね。

 こっちに向かって投げて頂戴。変な真似はしないでね?」

 

「分かりましたよ……っと」

 

 

 PCをフリスビーの要領で相手側に投げたが、手宮はそれを受け取るようなまねはせず、PCは音を立てて地面に落ちた。

 遠めに見ても一部のパーツが飛ぶのが見えたし、手宮が男に踏み潰すよう指示したのか、男に踏まれてPCは粉々になってしまった。

 

 

「じゃあ、次はその男ね」

 

「なんですか?この人も投げなきゃいけないんですか?」

 

「そうしてくれると手っ取り早いんだけどね。でも後ろの2人連れてきた意味がなくなっちゃう」

 

 

 そう言うと、手宮は後ろにいた男達に指示を出したらしく、2人はこちらに向かって歩いてきた。

 

 クソ、救急はまだなのか?

 

 横目で時計をちらりと見ると、通報してから十分に時間は経過していた。

 だが来ないならもう少しだけ時間が欲しい。どうすれば……。

 

 

「あなたはその場でじっとしてくれればいいから。そうすれば……」

 

 

 と手宮が言いかけたとき、何処からか聞こえてきた銃声と共に、手宮達が乗って来ていた車のガラスが割れた。

 

 

「何事!?」

 

 

 そう手宮が驚いている間にも発砲音は続き、助手席側の窓ガラスが割れ、サイドミラーが吹き飛んでしまった。

 この調子で俺まで撃たれたらたまったもんじゃない。どこか隠れる場所はないか……。

 そう考えていると、手宮と、手宮が連れてきた男の話し合う声が聞こえた。

 

 

「手宮さん、これは!?」

 

「銃撃!?」

 

「たぶん……、もういいわ。情報は処分したからそいつが公安隊に引き渡されたところで詳細は分からない。 それに計画の詳細は知らないはずよ。……もういいわ、撤収よ!」

 

 

 手宮がそう言うと、男2人は踵を返し、片方の男がPCの残骸を拾いながら車へと戻っていった。

 RJの連中はそのまま車に乗り込み、ものすごい勢いでUターン、教会の外へと出て行った。

 

 なんとかなった……のか?

 

 周囲を警戒しつつ、RJから脱走してきた人に近づく。未だ気を失っている様で、目覚める気配がない。

 これからどうしようかと考えていると、銃声があった方の叢からガサガサと音がし、俺はそっちを警戒する。

 

 

「おーい、大丈夫だったか?」

 

 

 しかし警戒は無用だったようで、そこから現れたのはポンチョを着、ご丁寧に顔に迷彩塗装を装った岩泉と、傘を持った札沼さんが立っていた。

 

 

「ああ、2人ともありがとう。助かったよ……」

 

 

 岩泉の手にはスリングショット、札沼さんの手には音が鳴るおもちゃの鉄砲がそれぞれ握られていた。

 ああ、そういうことかと一瞬で理解し、張り詰めていた緊張を解く。

 

 

「にしてもよく此処が分かったね」

 

「だって電話してるときに聞こえてたし」

 

「あ、そうか……」

 

 

 そう話しているうちに、遠くから救急車のサイレンが聞こえた。

 

 

「やっときたか……」

 

 

 やっと終わった、と俺は安堵の声を漏らしていた。




 お知らせです。
 廃車回送シリーズですが、チラ裏に別作品として投稿することにしました。
 見たい方は作者のページから飛べるので、どうぞご覧ください。

 ではまた次回。

 誤字脱字・疑問点などがありましたら遠慮なくご報告ください。

12/26 18:46
一部文章が矛盾していたのを訂正。

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