RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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こん○○は。
お久しぶりです。
やることが多くて時間がなくて気付けばこんなに間が空いてしまいました。

「言い訳はいいわけよ」

千歳さん。サムイですよ。

「あなたの住んでるところ、今日38.7℃もあったらしいじゃない。涼しくなったでしょ?」

アッ、ハイ。アリガトウゴザイマス。

「何よ、その棒読み」

まあ、そんなことは置いといて、本編をどうぞ。




32両目

 信濃さんに付いて行くと、峠のシェルパの前に連れてこられた。

 

 

「これ……本物ですか?」

 

「本物だぞ」

 

「これをどうするんですか?」

 

「運転するんだよ。お前が」

 

 

 信濃さんに連れてこられたのは、峠のシェルパの前だ。

 だが、ここは機関区の中ではなく、隣に併設されている碓氷鉄道文化村という施設だ。

 ここでは過去に碓氷峠を攻略した機関車や、それに助けられていた電車、気動車が静態保存されている。

 で、今目の前にあるのは低い駆動音を立てているEF63だ。

 

 

「今度この施設でこいつらの運転体験を新しくやるんでな、事故ったこいつを復活させたんだ。

 その試運転をお前に任せるって話だ」

 

「…………」

 

 

 これは正解どころか大正解だ。

 高山、すまんな。

 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「じゃあ、早速だが運転台に入れ」

 

「はい!」

 

 

 運転前の点検は既に終わっているらしく、信濃さんは俺に運転台に入るよう指示した。

 

 

「ブレーキ管類が正常なのは確認してあるから、後は走らせるだけだ。

 運転方法は分かるな?」

 

「はい」

 

 

 今は重連になっているらしいが、後ろに貨車はついてないので単弁だけで操作する。

 空気の入る音が聞こえ、BP圧の指針が上がっていき、490kPaになったところでBC圧が急激に下がる。

 他の計器も大丈夫そうなので、ノッチを一段、また一段と入れて機関車を加速させる。

 

 

「あそこに棒があるだろう?そこでノッチを切ってくれ」

 

「はい」

 

 

 信濃さんが指差す先には、白い棒が立っていた。

 

 

「その先にはブレーキの開始標識があって、さらにその先に停車目標もあるから、まあ、気楽にやってくれ」

 

「はい」

 

 

 白い棒を通り過ぎ、ノッチを切って少し進むと“B”と書かれた標識が見えた。

 ブレーキ弁を扱い、BC圧を上げる。

 無事に停車位置手前に停まり、今度は最初にあった位置に戻す為にエンド交換を行う。

 ブレーキハンドル抜き取って、逆転レバーも抜き取り、ATSの方向切替機は後位置にして反対側の運転台に向かう。

 今回は重連で動かしているらしく、反対側の運転台に行くのに前面の貫通扉を使って移動した。

 そして反対側の運転台で方向切替器などの設定を終え、元の運転台に戻る。

 復路も標識があり、難なく停車位置に停めることが出来た。

 

 

「どうだったよ?」

 

「良いですね。良い以外の言葉が出てきません」

 

「そうかそうか。……実際にはあそこの建物で講習を受けてから免許交付、そして運転って流れにしようと思ってるんだがな、まあ今日は試運転だ。

 これが始まったら是非また来てくれ」

 

「はい、そうさせていただきます」

 

 

 信濃さんと話しながら歩いていくと、最初待たされていた場所に着いた。

 そこでは高山含むシミュレーター組が待たされていて、なにやらまた喧嘩しているようだった。

 こりゃあ本当に時間が解決してくれるのか?なんて思っていると、教官が研修所に戻るぞ、と言ったので、俺は信濃さんにお礼を言ってから駐車場に向かった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 研修所に戻ると、丁度終業のチャイムが鳴ったところだった。

 終了のHRがあるので俺達は1度教室に集められた。

 

 

「……と、ここまでが連絡事項だが、最後に一つ、問答をやろう」

 

 

 そう言うと教官は桜井のほうを見た。

 

 

「桜井。鉄道公安隊員として最も必要な事はなんだ」

 

「自分の技量を磨き、どんな状況でも勝てる力を持つことです」

 

 

 桜井は即答だった。

 それに対して教官は少し考える素振りを見せ、それから後ろを向いて黒板消しで黒板に書かれたものを消しながら話し続ける。

 

 

「そうか……。じゃあ、仮に桜井の能力を100として、岩泉は80、臼井は70、高山は60、小海は50として、その状況で何やってもお前が勝つんだな?」

 

「当然です」

 

 

 桜井は自信満々に答える。

 

 

「でももし相手が2人がかりなら、お前は岩泉と臼井のコンビはおろか、高山と小海のコンビにも負けてしまうぞ?」

 

「それは机上の空論です。私は2人を相手にしても負けません!」

 

 

 さっきその尺度で測って当然って答えたのは誰でしたっけねぇ、なんて言ったら話がややこしくなりそうなので自重しておく。

 でもまあ、ぶっちゃけ知識で争わせたら小海さんか俺が勝つだろう。これは断言できる。

 

 

「そういうことじゃないんだ桜井。例え相手が60くらいの平均的な者でも、2人揃えば100という優秀なお前を越してしまうんだよ」

 

「し、しかし!」

 

 

 反論しようとする桜井に、教官は掌を見せて静める。

 

 

「まあ、待て。話は最後まで聞け。……俺達は常に相手を選ぶ事は出来ない。その状況が発生すれば、例え不利な状況でも戦わなくてはならない。

 そのときに必要なものはなんだ?桜井」

 

「100を150にする強力な武器です!」

 

 

 その答えは教官にとって意外なものだったらしく、プッと吹き出して笑った。

 

 

「はっはっは、初めて聞いたな。そんな解答は。……今年の警四は面白いなぁ」

 

 

 黒板を消し終わった教官は黒板消しを置き、こちらを振り向いて教壇にバン!と手を突いた。

 

 

「その答えをお前達は知っているはずだ。まあ、尤も、今は忘れちまっているようだがな

 さ、今週の授業はこれで終わりだ。全員明日はきっちり休めよ!」

 

 

 そう言って教官は教室を去る。

 俺達は急いで起立し、敬礼して教官を見送った。

 教官が向こうに歩いていくのが見えると、桜井は続いて出て行った。

 

 今は忘れてるもの、ねぇ。

 ま、取り戻すかどうかはあの2人次第だ。俺がどうこう言えることでもないし。

 

 さて、と、席から立ち上がって施設の中にある図書館に向かう。

 ここにはいろんな本が置いてあり、EF63や165などの横軽を走る車両の性能諸元表や、新線・旧線の線形・信号の建植位置が載っている本があったりと、普通の図書館には置いてないような興味のそそられる本が沢山あったので、2日目以降最終コマが終わった後にここにお邪魔している。

 明日は休みらしいので1日中ずっとここに居るつもりだ。




 そういえば原作13巻が発売されましたね。
 表紙のオリエント急行を見てテンションが上がりました。
 欧米の列車って素敵ですよね。オリエントエクスプレスもそうですが、個人的に好きなのはIR4とかETR500、ICE(特にTとTD)です。いつか乗ってみたいものです。

 誤字脱字がありましたら、ご報告お願いします。

 それではまた次回。

 以下おまけ。

前回予告したEF62についてです。
長いので気になる方だけどうぞ。

EF62:横軽用に開発された機関車。
   EF63とは違い、本線を走行することを前提として作られた。
   そのため、基本的な性能については他の電気機関車と大差はないが、特徴的な装備としては、C'アンテナや3軸台車などが挙げられる。
   C'アンテナというのは、車両同士の無線通信を可能にするもので、これはEF63にも装備されている。
   3軸台車はこの頃の、というか近年も含めて異例な構造で、台車の軽量化のためにこのような形になったが、曲線部で軌道への負担が大きくなるなどの問題があり、これ以降は2軸台車が再び使われ始めている。
   信越本線に客車列車が少なくなると、専ら貨物列車を牽引していたが、碓氷峠を超える貨物は効率が悪く、新潟方面の貨物は上越線に、長野方面の貨物は中央本線が担当することになり、1984年のダイヤ改正で碓氷峠を超える貨物は姿を消し、それと同時にEF62は余剰になった。
   その余剰となった車両達は、当時東海道で活躍中だったEF58を置き換えるためにC'アンテナを取り外して東海道・山陽の貨物輸送に転身したが、元々山岳路線において牽引力を重視した設計であったため、定格速度が約38km/hと低く、EF58(定格速度:68km/h)が牽いていた高速貨物の牽引には不向きであり、また、1000km越えの長距離運用も想定外であったことから故障が頻発。2年ほどで東海道・山陽からも姿を消した。
   中には篠ノ井線に転属した車両もいるが、EF64の登場で余剰となり廃車、1987年の分割民営化までにすべてが廃車処分(一部は国鉄清算事業団に所属)となった。
   ちなみに、清算事業団所属になった車両のうち、25号機は瀬戸大橋の走行試験に於いて死重に使われている。


 余談だが、日本の初期のF級電気機関車は3軸が主流ではあったが、重量増加や構造の複雑化などの問題が多かった。
 それが戦後になり、機関車用の2軸台車がEH10で実用化され、次いでDF50が2軸台車を3組用いたF級機関車として製造されたこと、その構造での曲線通過時の性能が十分に満足するものであったことから、以降のF級機は2軸台車3組で製造されるようになった。
 しかしあえてEF62が3軸台車で製造されたのは、横軽は何より軽量化が重要であること、トータルの重量では2軸台車よりも3軸台車のほうが軽量であることから、こちらが採用された。

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