RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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30両目

 昨晩遅くまで起きていたせいか、桜井に続き俺までいつの間にか寝てしまっていた。

 寝ていたことに気付いたのは、安中榛名に着く直前になって高山に起こされてからだった。

 

 

「すまんな」

 

「いいって」

 

 

 荷棚から荷物を下ろし、出入り口に向かう。

 さすが秘境駅だけあって、俺達以外にこの号車から出る人は居ないようだ。

 

 

『まもなく安中榛名、安中榛名、お出口は左側です……』

 

 

 はくたか507号は9時丁度に安中榛名に到着した。

 ここから研修所までは近く、徒歩で移動らしい。

 

 

「しっかし、ここら辺は何にもないのな」

 

「開発する前にバブルがはじけ飛んじまったからな」

 

 

 道すがら岩泉がそんな事を言った。

 辺りを見回せば、家どころかコンビニ一軒すら見当たらない。

 あるのはだだっ広い住宅建設予定地と駅、それから駐在所と思しき交番だけだ。

 

 

「これじゃあ、どこにも遊びに行けないし、研修をするにはもってこいの場所だな」

 

「いいじゃない。私達はどうせ高度研修を受けに来たんだから」

 

 

 そこで桜井はあっ、っと1拍置いてから、

 

 

「でも高山は公安隊に行かないんならここで帰ってもいいんじゃない? それでも國鉄にはきっと入れるわよ」

 

「無視して帰ったらそれこそ入れてもらえないと思うけどな」

 

「なによ臼井。高山の肩を持つわけ?」

 

 

 思わず口に出てしまった言葉に桜井が反応した。

 振り向いてこちらを睨んでいる。

 

 

「今の発言をどう理解したらそんな解釈になるんだか……。少なくとも今は高山の味方でも、桜井の味方でも無いよ」

 

「……ふーん。どうだか」

 

 

 桜井は俺を疑っているような目をしたまま向こうを向いて、そのまま大股で歩き出した。

 桜井が少し進んだところで岩泉が、

 

 

「素直に謝ったほうが良いんじゃあねぇの?」

 

 

 と言ったが、高山は、

 

 

「うるせーな、そんな事で片付く問題じゃねえだろ!」

 

 

 と、イライラした様子で岩泉に強く言い返していた。

 言い返された岩泉は、やれやれといった様子で桜井を追うようにして歩き出し、残った俺含む3人もバラバラに歩き出した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 研修所に着いて事務所に顔を出すと、第201教室という所で待っているよう指示を受けた。

 教室に入ると、簡素な椅子と机のセットが10くらいありきれいに並んでいた。

 俺達はそこにバラバラに座り、授業が始まるのを待っていた。

 

 暫くすると教室に作業服に革ジャンという、作業現場で見かけそうな人が入ってきた。

 

 

「待たせたな。俺は成田哲也だ。担当は朝礼と終礼、それから全員で行う学科だ。

 ここでの主な研修は、それぞれの個性に応じた技術を磨くもんだから、それぞれやることが違う。担当者についてはそんときに自己紹介でもしてもらえ」

 

「はい」「「「「……」」」」

 

 

 返事をしたのは俺だけだった

 それを見た教官はため息をつくと、

 

 

「手前らは半人前だが公安隊員なんだからよぉ、ここでは最初に受けたくっそ簡単な研修みたいな事はしねぇ。だから一々声出せだの挨拶しろだの言わねぇけどよぉ……聞こえてんなら返事くらいしたらどうだ?……そこのえーっと、臼井はしたみたいだけどよぉ」

 

 

 と教官が呆れながら言うと、俺も含めて他の人も返事した。

 しかし、

 

 

「「はい」」「……はい」「おう」「……ったく……」

 

 

 ほぼ全員バラバラに、だが。

 それを見た教官は呆れる以前に驚いたようで、

 

 

「お前ら本当に例の警四か?」

 

 

 と、一番前に座る俺に小声で聞いてきた。

 

 

「それが東京中央鉄道公安室第四警戒班という意味での警四でしたら、その警四であってます」

 

「ほぉー、こんなチームワークで噂どおりの事をするのか」

 

「今はこんなんですが」

 

「そうかい。……今回はどんな奴がくるか楽しみにしてたんだがなぁ。

 まあ、何があったかは知らんが、それはお前らの問題だ。

 俺は言われた通りに高度研修をして、その結果を上に報告するだけだ。その結果が良かろうと悪かろうとな」

 

 

 そう言うと、教官は手帳を開いてスケジュールを俺達に言い渡した。

 

 

「今後の予定だが……。岩泉は格闘戦の理論や実践、臼井と小海は列車制御や運転に関する講習、桜井は射撃訓練と銃器に関する講義、高山はチームリーダーに関する講義、だそうだ」

 

 

 それから休日や館内の設備に関する説明を受けた後に、今日は1日目ということで初めの講習の復習をやった。

 復習と言っても過去の行動を怒られているようなもので、みだりに銃を撃ってはいけない、勝手に列車を運転してはいけない、犯人のものを私物化しない、駅構内で犯人を取り押さえるときは騒ぎにならないよう気をつける、等々。

 さすがに運転台を分解する公安隊員がいるとは予測できなかったのか、それに関する事は何も言われなかった。まあ、王子様の警護や緊急避難という観点からも、あの場では運転台を分解するしか手は無かったのだが。

 

 そんな説教、もとい講習を夕方までみっちり受けた後、夕飯を食べ、風呂に入り、自由時間が来た。

 自由時間が始まると、皆早々に自分の部屋に戻っていった。

 仕方が無いので俺も部屋に戻ると、充電していたスマホに着信があった。

 

 

「もしもし?」

 

『はぁーい、そー君。そっちはどう?』

 

「田舎なのに空気は最悪ですよ」

 

『じゃあ、空気清浄機でも貸してもらえば?』

 

「意味分かってるくせに」

 

『もちろん。……ところで皆は今どうしてるの?』

 

「自由時間始まった途端、自室に篭っちゃいましたよ」

 

『あらま』

 

「どうしたらいいんでしょうね……」

 

 

 はぁ、とため息を吐くと、

 

 

『まあ、こればっかりは時間が経つのを待つしかなさそうね』

 

「そうですか?」

 

『他人から無理に仲直りを強要されたところで、それは所詮その場限りよ。

 誰々に説得されたからって名目で仲直りするだけで、根本的な解決にはならないわ」

 

「理解はしたが納得はしていないって感じですか……面倒ですね」

 

『くれぐれも本人達の前で面倒って言っちゃだめよ?』

 

「そのぐらい分かってますって」

 

『ならいいわ。じゃ、頑張ってね』

 

「はーい」

 

 

 電話が切れた。

 時間に任せるしかない、かぁ。

 確かにそうなんだけど、なるべく早く何とかしたいんだよなぁ。

 でもどうしたらいいか分かんないし……。

 

 なんて考えながら目覚ましをセットし、ベッドに横たわった。

 

 白い天井をぼんやりと見つめ、解答の無い問題に頭を悩ませているといつの間にか寝てしまった。

 




 綱島で適当に写真を撮って、いざ帰ろうと和光市行きの急行に乗ったところ、武蔵小杉で嫁車であるY500系と離合し、若干落ち込んだ今日の撮影。しかも目的であったヒカリエ号も撮れず終いという……。

 まあ、そんな事はおいといて。

 カシオペアなくなっちゃいましたね。
 ラストランに滅多にいかない私も赤羽で見届けたのですが、罵声とかなくてよかったです。大宮はどうだったのかな?
 客車はカシオペアクルーズで走るらしいですが、一般旅客の乗れるカシオペア、並びに客車寝台列車はその長い歴史に幕を下ろしました。
 皆さん、どうかブルートレインという存在が、機関車牽引の客車寝台列車が、日本全国を駆け巡っていたという事を忘れないでください。お願いします。


 誤字脱字がありましたら、ご報告よろしくお願いします。
 それではまた次回。

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