RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~ 作:元町湊
お久しぶりです。
この先の展開に悩んで投稿が遅れました。
それではどうぞ。
DF51のエンジンが唸りをあげて列車はゆっくりと加速する。
はずだった。
「おら、降りろ!」
どこから現れたのか、男の声が聞こえた思うと、前の機関車から運転士さんが落とされてしまった。
その直後。
ドカン!ガガガガガガガガガガガ!
DF51が突然大きな音を立てた。
たぶん、いきなりフルノッチに入れたのだろう。
犯人は列車を早く加速させたかったのだろうが、機関車でそれは御法度だ。しかも、パワーの出せるDF51ならなおさらだ。
機関車はパワーが出せる分、その出し方に特徴がある。犯人はそれを知らないのだろう。
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(ちょっと長い解説)
重い貨物・客車を牽く機関車にとって、
いきなりフルノッチに入れることは、現代の電気機関車は大丈夫なのだが、旧型の電気機関車(EF66以前)はそうはいかなかった。
というのも、EF66以前はノッチ段数で抵抗のつなぎ方を変え、それによって電動機に流れる電流を制御、運転していた。
最初は、“引き出す力はあるが速度は出せない”(抵抗器の)つなぎ方、そして徐々に、“引き出す力は弱いが速度は出せる”つなぎ方に変えていく。そんな方法だった。
ちなみに、いきなりフルノッチに入れると、電動機に大電流が流れ、それを機械が“異常電流”と判断、急停車させていた。引っぱる以前の問題だ。
現在(EF66以降)は自動進段式といって、いきなりフルに入れても大丈夫なようにはなっている。
ディーゼル機関車の場合、自動進段なんてハイカラなシステム積んでる訳がない。昭和時代のDF51ならなおさら。
なので、いきなりフルに入れたひには、ただただ空転するだけだ。
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相変わらずDF51は遅い加速を続ける。目測での速度は、大体25km/hくらいだ。
フルに入れっぱなしなのだろう。犯人の焦る顔が目に浮かぶ。
「桜井、犯人は外にいるか?」
俺は屋根の上からデッキ部分に立っている桜井に聞いた。
「半身運転席に突っ込んでるわよ」
「高山、特攻していいか?」
「いや、それはやめてくれ。何されるかわからないからな」
ぶう。せっかくのチャンスなのに。
半身運転席に突っ込んだ犯人は、中に居る仲間に指示を出している……、んだと思う。
いや、エンジン音がひどいし、犯人から見えないようにしなきゃいけないしで、犯人の様子がいまいち分からんのよ。
ま、どうせ交渉は決裂するだろうし、それまでおとなしく待ってようかね。
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パァン、パァン、パァン!
いつも警四で使っている銃とは比べ物にならないほど軽い銃声が辺りに何回も響く。
予想通り、交渉決裂のようだ。だとしたら、俺達が隠れている必要はない。
「岩泉、行くぞ。俺は誘拐犯をやる、岩泉は運転席の奴をやってくれ」
「合点承t……っ!」
スライドを引き、タイミングを合わせて乗り移ろうとした瞬間、岩泉がフライングで動き出した。
その理由はすぐに分かった。
「きゃぁぁ!!岩泉くん!!」
ドサッ、という何かが倒れる音と、小海さんの悲鳴が聞こえた。
一旦状況整理をしよう。……いや、そんな暇は無い。
俺が屋根に飛び乗ったところを相手が見、その手に持っている小海さんに向けていた銃を俺に向ける。
その間に俺は相手の銃に照準を合わせ、撃鉄を下げ、引き金を引いて弾を射出する。
相手よりも先に弾が出て、その弾は相手の手に当たり、そいつは銃を落とした。
銃を落としてしまった犯人だったが、内ポケットに手を突っ込むと、そこから二丁目の銃を取り出した。そして反撃。
「……っべ!」
急いで相手の射線上から退く。さすがにエアガンごときで本物の銃弾をどうこうできない。
というわけで、DF51の屋根から飛び降り、デッキの上に乗る。
デッキに乗ったところで、皆と合流した。
「そっちはどうだ?」
「だめね。交渉決裂」
「どうすっか……」
後では気絶していた岩泉が突如立ち上がり、小海さんが驚き、高山が理由を聞いている。
まあ、防弾チョッキを着ていたからな。それにどうやら、脱出用ハンマーに当たり難を逃れたらしい。そのハンマーは粉々になってしまったが。
相手の銃の弾は尽きることを知らない。こうしている間にも次々に弾が撃ち込まれ、中には機関車の心臓とも言える機関部に入り込み、暴れまわって機関を壊す奴もあった。脇に開いている穴からは黒煙が数本上がっているのが見える。
「んで?どうすんのよ、これ」
「そうだな……。相手に一瞬でもスキが出来ればな」
高山が言う。
そうすれば、
あとはそのスキをどうやって作るかだが……。
「高山、弾よこしなさいよ」
「は?」
「だから、予備の弾よこしなさいよ」
「んなもんあるわけ無いだろ!」
「高山が犯人射殺しないで援護射撃しろって言ったから撃ったんでしょ!?」
「日本は誰でも射殺して良いわけじゃねえ!」
高山と桜井がいつものように喧嘩を始める。
しばらく言い争いながら、目線で火花を散らした後、高山がため息をついた。
「はあ、分かったよ。無事に生きて帰れたら、飯田さんに『一日5発じゃ足りませんでした』って報告書上げてやるよ……」
「本当!?約束だからね!?」
「お、おう。ただし、生きて帰れたら、の話だけどな」
桜井は喜んでいたが、そうだ。この状況をまずはどうにかしなきゃいけない。
相変わらず、相手からの一方的な鉛玉の雨は上がることを知らない。
そんな中、物陰に隠れて作戦会議をする。
「敵まで約30m、私が全速力で走って6秒、その間にあの弾倉なら一本撃ち終えるわ」
「小海さん、犯人の人数とか分かる?」
高山が小海さんに聞く。
すこし考えてから、
「サングラスをかけた男が運転台に座りながら指示を出していて、もう1人は丸刈りのあいつ。……あそこにはそれだけですね」
「あそこには?」
「はい。少なくともあと1人、声はしませんでしたが、私を攫った犯人が別に居るはずなんです」
そうなると、ここには2人、実行犯は3人か……。
脇で桜井が状況整理をしていた。
「そうなると、誰かが囮になる必要があるわね。そこまでいかなくても、何か相手の弾幕をやませられるもの、そうでなくても陽動できれば……」
「そうだな……」
何かあったかな。
そう考えていると、高山が声を上げた。
「そうだ、あれだ!」
そうして、高山は自分の過去の発言を後悔することになる。
「どうしたのよ。何か浮かんだの?」
「ああ、信号炎管だ」
その高山の声に、岩泉と桜井は声を揃えて聞き返した。
「「信号炎管?」」
おい。授業でやったろうがよ。
「信号炎管とは、“鉄道に関する技術上の基準を定める省令”の第117条で定められている列車防護設備の一つで、列車において非常事態が発生した場合に、赤色発煙によって接近する列車に停止信号を現示する物、って教本には書いてありました」
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信号炎管について補足:地下鉄の信号炎管は全く煙を出さない。また、鉄道用の信号炎管と自動車にある発炎筒は、似ているようで違う。自動車にあるのは“自動車用緊急保安炎管”という。信号炎管よりも出る煙の量が少ない。
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さすが小海さん。相変わらずの記憶力だ。
そんな小海さんに高山は聞く。
「小海さん。だったら、
「運転席の天井から出てる、下に赤いレバーのついた円筒状のものがあるだろ?それがそうだ」
小海さんが思い出している間に、俺は即答する。
位置は大体分かる。どの車両も似たようなものだし、それに学校にディーゼル機関車の運転台があるからな。
もっとも、最近の電車(217、231、233、331など)はボタン一つで非常時の操作が出来るらしいが。
「そうか。じゃあ桜井。お前のその銃で……」
「一発も残ってないわよ」
「一発ぐらい残しとけよ! 仕方ない。臼井、お前の……」
「打ち抜けるわけ無いだろ」
「え、そうなの?」
「当たり前だ。さすがに金属質の、しかも片面5mm以上ある
高山は頭を抱える。
「桜井ぃ~、一発ぐらい残しとけよぉ~」
「あ、あそこで躊躇ってたら、はるかも高山も撃ち殺されてたわよ!」
「そうだけどさぁ~。 はあ、
高山がそう言うと、桜井はニヤッと笑いながら言った。
「ほら。『後一発あれば……』って状況になったでしょ?」
「んな!?」
「どうする?手を挙げて降参する?」
桜井は勝ち誇ったかのように高山を見、高山は悔しそうに桜井を見る。
そんな高山だったが、何かを思い出したように、自分のYシャツの胸ポケットの中に手を突っ込んだ。
そこから取り出したのは、一発の弾丸。高山はそれを、
「これを使え!」
「これって朝のやつ?」
桜井は指で弾をつまんで弄くりながら聞いた。
「そうだ。朝、装備科に返し忘れた奴だけど……、でも、一発しかないぞ?」
「そんなの絶対無理だよ!皆が死んじゃったら僕は、……僕は!」
今にも泣きそうな、いや、現在進行形で泣いているベルニナ。
その声で場が一瞬静まり返ったが、
「殿下、私達はお客様を守る鉄道公安隊です。だから、どんなことがあっても殿下を守ってみせます」
桜井が恐ろしく真面目な声、顔で言った。
それを聞いてもベルニナはやはり不安なようで、
「一発しかないんだよ!?」
「そうだよ。一発だけで大丈夫か?」
高山もそんなことを聞いていた。……というか高山。それは……。
「大丈夫よ。問題無いわ」
……あーあ。死亡フラグいただきました。
知ってか知らずか、桜井の放った言葉は、ネットで死亡フラグとして有名なやりとりだった。多少改変されてるとはいえ、知ってる人からすれば、かなり不安だ。
「それに、」
と、桜井は続ける。
「一発もあれば十分よ!」
自信満々な笑顔を見せた桜井は、指で弄っていた弾をシリンダーに装填し、ガシャンと元に戻す。
それを見て、全体を見て高山は言った。
「作戦を説明する。桜井は信号炎管の狙撃、小海さんはベルニナの護衛、岩泉と臼井は急進で運転席の奪還だ。今回は敵を倒す為だったら、何をやっても良いぞ」
「ほ、本当か!?」
岩泉が嬉しそうに高山に聞き返す。まあ、そうだろうな。だって、
「公務執行妨害、
「了解した、班長代理!」
「臼井も何使っても良いぞ」
「はいよー」
俺は弾倉を入れ替え、8mmBB弾に入れ替える。
「さてと」
突撃準備が完了したことを高山が周りをみて確認する。
俺と岩泉は進行方向向かって右側から、桜井は左側から突撃。
高山と小海さんは連結面でベルニナの護衛だ。
相手は本物の銃だが、まあ、何とかなるだろう。
前を見れば、次の
「いいか!?いくぞ、警四!!」
一人は泣きそうな、二人は必死な、三人は唇の端を上げた顔でその言葉にうなずく。
高山がうなずいたのは、改めて気合を入れる意味でもあったのだろう。
高山が機関部の屋根から少しだけ顔を出して相手の様子を探る。
「今だ、桜井!!」
「言われなくても!」
桜井が立ち上がり、銃を構える。
それと同時に岩泉が走り始める。その後に続いて俺も。
相手は最初、桜井に狙いをつけていたが、走り迫る岩泉のほうが怖かったのだろう。狙いを岩泉に変えた。
その瞬間。
ダァーーン!
桜井が銃の引き金を引き、轟音と共に弾が射出された。
最近時間の感覚がおかしくなって困ってます。
もうすぐ夏休みが終わってしまうのに、一体どうしようか。
そんなことはさておき、第二章も終盤です。
臼井くんは、果たしてどんな結果にしてくれるのでしょうかね?
次回は相変わらず未定です。
誤字脱字などがありましたらご報告下さいます ようお願いします。
それでは。