RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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 長いので分割しました。
 冒頭部分が被っているのは仕様です。


23両目

『そこにいる金髪の王子様を渡してもらいましょうか。この子と引き換えに、ね』

 

 

 男の声は、子供をあやすような、そんな声で言った。

 

 

「んなこと出来るわけねぇだろ。こっちも仕事だ」

 

『それは勿論承知しています。ですが、こっちには人質があるんです。それをお忘れなく』

 

 

 くっ!それを引き合いに出されちゃあ、何も言えねえ。

 何もいえない俺に代わり、高山が話し始める。

 

 

「小海さんは無事なんだろうな!」

 

『おや、人が変わりましたねえ。あなたが警備班の班長ですか?』

 

「そうだが……」

 

『先ほどまで話してた彼は分かってると思いますが一応言っておきます。部屋を一つ一つ調べてまわったり、あなた方以外の公安隊を見つけたら、小海さんこれを……、後は分かりますね?』

 

「もう一度聞く。小海さんは無事なんだろうな」

 

『ええ、手は出しませんよ。これからもね。私はそこまで鬼畜じゃないですし。さて、長話も終わりにしましょう。交換の方法は後ほど連絡します。いい返事を待ってますよ』

 

 

 相手から電話は切られた。

 スマホのスピーカーからは、ツー、ツー、と、連続音が聞こえる。

 俺は通話終了のボタンを押して、ポケットにスマホをしまった。

 

 

「さっきの仲間がはるかを誘拐したのね……。射殺しとけばよかった」

 

「落ち着け桜井。銃なんてどこにある」

 

「そうだったわね……」

 

 

 桜井が悔しそうに言う。

 

 

「ハルカの代わりに人質になります!すぐ電話して、ナオト!」

 

 

 ベルニナが高山の腕を掴んで言う。

 が、いくら王子様のお願い事と言えどそれはできない。

 

 

「待って、ベルニナ。小海さんが助けられてもベルニナが捕まったんじゃ意味が無いよ。それに、小海さんが無事に帰ってくる保証もないし」

 

 

 高山はベルニナに言った。

 さて、ベルニナのことは高山に任せるとして、

 

 

「桜井。何か手がかりがないか、部屋ん中探そうぜ?」

 

「そうね。何か見つかるかもしれないし」

 

 

 俺と桜井は小海さんの部屋に入った。

 部屋の中は争った形跡は無い。それは、室内の物の散らかり具合から、誰が見てもすぐに分かるものだった。

 

 

「結構きれいなままね」

 

「ああ、そうだな」

 

「これはドアを開けてすぐに攫われたみたいね」

 

「ああ。車掌を名乗れば大抵の人は開けてくれるだろうしな。で、開けた瞬間を……」

 

 

 それで決定だな。

 小海さんの力じゃ抵抗というほど力が出ないだろうし、押さえつけて“5MeO-DMT”でも嗅がせとけばすぐにおとなしくなる。騒がれること無く連れ去ることも容易だ。

 連れ去られた時間は、おそらく俺達が食堂車に行ってコーヒーを飲んでいた時間。

 二人で小海さんを誘拐、何処かの部屋に押し込んでからベルニナを誘拐しに来た。

 ベルニナの誘拐が成功すれば小海さんは開放すればいいし、失敗すれば人質として使う。

んで、後者になったからさっき電話してきた。ってことか。

 

 俺の考えを聞いていた桜井がうなずく。

 

 

「その考えで合ってると思うわ。後は、犯人の特定と目的ね。今回、RJは絡んでなさそうだし……」

 

「どうして分かるんだ?」

 

 

 ベルニナを岩泉に預けた高山がこっちに来た。

 高山がしたその質問に桜井は答える。

 

 

「犯罪には傾向がある、ってお父さんが言ってたのよ。RJだったらこんな手荒いまねはしないし、それに素人でもない。ただ、焦ってることだけは分かるわ。こんな密室に等しい列車で誘拐なんだもの」

 

「そうだな。岩泉と互角に戦えるぐらいだし」

 

 

 一介の高校生と比べるのもおかしな話だが、力だけは馬鹿のようにある岩泉を相手にしても互角、下手するとそれ以上やりあえる犯人だ。絶対に素人なんかではない。

 

 

「今言える事は全体的に資料不足、ってことね」

 

 

 そう言って桜井は締めくくった。

 

 

「そうだな、ベルニナの誘拐が目的だとしても、犯人の動機や目的が分からないし……」

 

「何言ってんだ高山。動機ならあるだろ」

 

「「え?」」

 

 

 二人は素っ頓狂な声を出してこっちを向いた。

 

 

「お前ら知らないのか?このニュース」

 

 

 そう言ってさっき見つけたニュースを見せる。

 

 

「これを見て分かるように、ベルニナの家族四人がやられた。この人達は王位継承権の1位から4位までの人達だ。で、東京駅でベルニナは何位だと言ってたか?」

 

「「5位……」」

 

「そうだ。だから、ベルニナを亡き者にしてしまえば、」

 

「「「6位の人が王様」」」

 

「そういうこと。だから、犯人は6位以下の誰かが主犯格で、稼動部隊は日本こっちかアテラむこうのプロだろうな」

 

「動機と目的は分かった。でも、今はどうしようも無いじゃないか」

 

 

 高山がそう言った。

 確かに動機と目的が分かったところで俺達はどうしようもない。主犯格が分かっても、それは遠い空の下、アテラ王国に居るのだ。公安隊ごときでどうこうできる問題じゃない。

 

 しばし無言の時間が流れる。聞こえるのはガタンゴトンという、列車が北海道に向かっている音だけ。

 

 そんな中、桜井が何かを思い出したように声を上げた。

 

 

「あ、そうだ高山。これ飯田さんからの預かり物」

 

 

 手に持っているのは銀色の箱で、サイズは210-300-100(mm)くらい。

 首からネックレスのように提げていた鍵を高山に渡す。

 なんだろう?と言いつつも、高山は二つある鍵穴に鍵を突っ込んで開錠。

 中に入っていたものは、

 

 

「ラッキー、持つべきものは、話の分かる班長よねー!」

 

 

 桜井の機嫌で分かると思うが、アルミケースの中に入っていたのは、朝桜井が磨いていた飯田さんの銃だった。

 いくらなんでも先読みしすぎじゃないですかね?飯田さん?

 

 

「痛いわね!何すんのよ!」

 

 

 桜井の叫びを聞き振り返ると、高山がケースのふたを閉めていた。

 銃に手をのばしたときに高山がふたをしたのだろう。見ると、指の先をさすっていた。

 

 

「これは俺が預かっておく」

 

 

 そういわれた桜井の顔は、見るからに不機嫌だった。

 

 

「高山が撃てるの?」

 

「その状況が来たら桜井に任せるけど、今渡すと何するか分かったもんじゃない」

 

「私が何をするって言うの?」

 

「どうせ犯人を射殺しに行くんだろ?」

 

「当たり前じゃない」

 

 

 桜井はさらっと言った。

 列車の中で銃を撃ってみろ。マスゴミからの袋叩き待ったなしだ。いかなる理由があろうとな。

 


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