RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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 こん○○は。
 最近暑くなってきましたね。電車の冷房が気持ちいいです。
 


14両目

「士幌さん!手宮さん!残念ですがもう逃げられません!手を上げて投降してください!」

 

 

 ま、犯人を説得するあたり、高山らしい。

 

 高山の言うとおり、士幌たちはもう逃げられない。特強の人たちに囲まれているんだ。逃げ場所はない。

 だが、士幌はそんな状況でもまだ余裕そうだった。

 

 

「まだ終わりじゃないよ、高山君。我々がしているような仕事は、常に最悪の事態も予測しておかないといけないものでね」

 

 

 そう言うと、ポケットの中から小さなボタンを取り出し、俺達に見せるように持った。

 

 

「この東京駅には、キャリーバッグの他にも、もう一つ爆弾が仕掛けてあって、これがそのスイッチだ。私がなんの用意もなしに、ここに来たと思わないでもらいたいな」

 

「そんなブラフ(脅し)で逃がさないわよ!」

 

 

 桜井が銃を構えながら言う。

 

 

「あおい君……だったかな。そう思うんなら試してみるといい。もし本当だったら、君の軽率な行動で東京駅が吹っ飛び、少なくとも数百人の犠牲者が出るだろう」

 

 

 数百人ってどんな規模だ?全く想像がつかん。

 

 そんな士幌に対し桜井は、

 

 

「じゃあ、射殺すればいいんでしょ!」

 

 

 そう言って、胸に向けていた銃を頭へと向けなおす。

 

 そういうことじゃない。向かってる方向が真逆だ。上げるんじゃなくて下げるんだよ。

 

 

「人は心臓を撃ち抜いても、最期にボタンを押すぐらいの力は残ってしまう。だけど、脳を撃ち抜いちゃえばその力すら出せないはず」

 

 

 いや、プロの人なら撃つ瞬間を見切ってボタンを押せるだろう。それに、隣には手宮も居る。そういったことを考えると、桜井が例え脳天を撃ち抜いたとしても東京駅は爆破されてしまうだろう。

 

 その言葉を聞いた士幌は、

 

 

「あおい君も面白いことを言うね。ますます君たちは國鉄にはもったいないと思ってしまうよ。 ……さて、私を撃ち抜く話だったが、そんな発砲許可を出せる人間がここに居るのかい? まさか君の勝手で撃つ訳じゃなかろう」

 

 

 自分が撃たれようとしているのに随分な余裕だ。

 その言葉を聞いた桜井は飯田さんに許可を求める。

 

 

「飯田さん!発砲許可を!」

 

「…………」

 

 

 しかし飯田さんは何も答えない。

 

ピィィィィィィィ!

 

 と、電気機関車の警笛が聞こえた。

 入ってきたのはEF68率いる、寝台特急の“はやぶさ”だ。

 “はやぶさ”は、その長大な編成を10番線にすべり込ませている。

 

 

「すまない、時間だ……あおい君」

 

「またね~、高山君!」

 

 

 皆が“はやぶさ”に気を取られた瞬間、士幌は手に持っていたスイッチを押した。

 しかし爆発は起きず、士幌の持っていたトランクから白い煙が出ただけだった。

 

 

「じゃあな、次に会えるのを楽しみにしているよ」

 

「ちっ!士幌!手宮!」

 

 

 桜井はシルエットしか見えない二人に向かって銃を向けた。

 だが、それを飯田さんが無理やり下ろす。

 

 

「飯田さん!早くしないとあの二人が……!」

 

「だ~め」

 

 

 飯田さんは手を捻るようにして桜井から銃を取った。

 その行動に桜井は不服そうだった。

 

 

「どうして撃たせてくれなかったんですか!あの状況なら確実に……!」

 

 

 煙の中の人を確実に撃てる自信って、どっから出てくんのよ。

 

 

「桜井さん、周りを見てごらん?」

 

 

 周りを見ると、いつの間にか停車していた“はやぶさ”からお客様が降りていて、煙に驚いていた。

 煙は全くの無害で、しばらくするときれいになくなっていた。

 士幌、手宮も消えていたが。

 

 

「私達公安隊はね、犯人の逮捕は第二なの。第一はお客様の安全を守ること。白い煙の中、もしもあのシルエットがお客様だったらどうするの?」

 

「そんなの……、絶対にありえません!あの状況下でそんなことは……!」

 

「世の中にね、“絶対”って事はないの。それこそむこうが言っていた様に、最悪の事態は常に想定してなきゃいけないの。それは國鉄でも、どの企業でも同じ。後先考えずに走っちゃうと、後で取り返しのつかないことになっちゃうかもよ?」

 

「それは……、そうですが……」

 

 

 桜井は悔しそうだった。何に対して悔しいのかは分からない。

 士幌たちを逃がしたことか、飯田さんに反論できないことか、両方ともか違うことか。

 

 そんな桜井に飯田さんは続けて言った。

 

 

「分かればよろしい。じゃあ、この件はこれでおしまいね?」

 

「……分かりました」

 

 

 桜井はまだ不満そうだったが、仕方なしといった具合に了承した。

 飯田さんは続けて高山と話していた姉さんに、

 

 

「瞳、今日はありがとう」

 

 

 と言った。

 姉さんは静かにうなずいた。

 

 

「みんなもありがとうね~」

 

 

 今度は警四の俺らに向かって言った。

 

 あれ、そういえば、いつの間にか9番にいた奴が消えてる。

 ま、どうでもいいか。

 

 

 

 

 

 

 事件が一段落し、事務所に戻ってくると、ピンと張られていた緊張の糸は、一気に緩んだ。

 ふうぅぅ、と息をつき、緩みきった糸を程ほどに張る。

 

 今日は濃い一日だった……。良い事も悪い事も。

 

 部屋に居る警四全員がそんな感じだったため、飯田さんは、

 

 

「今日はもうあがっていいわよ~」

 

 

 と言った。

 その言葉を聞き、最初に反応があったのは岩泉だ。

 岩泉は飯田さんにもう一度確認すると、ダッシュで更衣室に向かった。

 

 相変わらず現金な奴。

 

 高山も小海さんも桜井も俺も、その後に続くようにして更衣室に向かう。

 

 あ~、今日は疲れた。東京駅の神様は桜井に甘いんじゃないのか?

 もうこんな大事件はこりごりだ。

 

 俺はそんなことを考えながら着替えた。

 

 もうこんな事件起こさないようにお願いします。本当に。

 

 無駄だと分かっていても、俺は東京駅のいるかもしれない神様にお願い事をした。

 




 山手線に30番目の駅の計画があるそうですね。
 西日暮里のこともありますし、恋の山手線を書き直したいですね。
 あ、あと、鉄道唱歌での替え歌も。

 次回は相変わらず未定です。
 そろそろ書き溜めがなくなってきてヤバいと思ってたり、A9のV3、BVE5の作成等、やりたいことが次から次へと出てきて困ってますw。

 それでは、また次回。 ノシ

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