RAIL WARS ! ~車掌になりたい少年の話~   作:元町湊

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 お久しぶりです。

 提督業に勤しむ毎日です。はい。
 睦月型の駆逐艦って可愛いですよね。私は三日月、文月が好きです。

 ま、そんなことはどうでも良いです。
 それではどうぞ。


13両目

 階段を上がってホームに立つ。

 向かって左が9番線、右が10番線だ。

 飯田さんを探すと、品川の方に居た。

 

 

「飯田さん!」

 

「どこに行ってたの?高山君~。探したわ~」

 

 

 こんな状況(俺はわからない)でも飯田さんはいつもの調子だった。

 飯田さんの前方20mには犯人と思われる男女がいて、その内の女のほうが振り返った。

 この人が手宮だろう。

 その人につられるようにして、男のほうも振り返った。

 その顔を見て、高山は声を上げた。

 

 

「あっ!あなたは!」

 

 

 そこに立っていたのは、大宮駅でひったくりの男をAEDのケースで殴った人だった。

 

 

「いやあ、大宮では自己紹介もできずにすまなかったね。私はRJの士幌だ。ま、偽名だが」

 

 

 じゃあ自己紹介じゃないじゃないですかやだー。

 そんなツッコミは置いといて、こいつも(何の事件かよく分からないが)この事件の犯人らしい。

 いい加減気になったので、俺は小海さんに小さな声で聞く。

 

 

「ねえ小海さん。さっきから犯人って言ってるけど、この人たちって何の犯人なの?」

 

「あっ、そういえば臼井君は何も知らないんでしたね」

 

 

 なんかそう言われると俺が馬鹿って言われているようだ。

 実際何もやってないから反論できないけど。

 

 

「この人たちは東京駅爆破脅迫事件の犯人です。東京駅の爆破は未遂ですが、一件だけ駅構内で起こしています」

 

「よくそんなこと考えられるね。もしかしたら自分達の評判まで下がるってこと頭に無かったのかな?」

 

「今までの行動を見ると、浮かびすらしなかったようですね」

 

 

 頭がいいのか弱いのか。

 小海さんと話していると、いつの間にか桜井が銃を構えながら高山を盾にしていた。

 そして士幌の手には撃鉄(ハンマー)の下がった銃が握られていた。

 

 

「学生を撃つのはあまり好きではないのでね」

 

 

 士幌がそんなことを言ったが、それは撃鉄を上げたまま言ってほしい。

 今の状態で言っても説得力が無さ過ぎる。

 

 

「君達のような若者が國鉄とは残念だ。……高山君は國鉄がこのままでいいと思っているかい?」

 

 

 士幌は高山に問う。

 

 

「いえ、……全てこのままで良いとは思っていません」

 

「だろう?それならば ――――」

 

 

 士幌が同意を求めるように話すのを、高山は遮った。

 

 

「確かに現状のままでは國鉄の赤字が膨らむのは確実ですし、國鉄の中にはダメな人もいます」

 

 

 高山は続ける。

 

 

「ですが、ここ1ヶ月。俺が見てきた現場の人たちは、皆いい人でした。鉄道とお客様が大好きで働いているんだと思います。それは成果主義じゃないから。先輩は後輩にそのノウハウを惜しみなく伝えられます。お客様の安全を第一に考えるから、決して無理なダイヤは組みません」

 

 

 高山は自分の見たこと、感じたことを話した。

 士幌もそれを黙って聞いていた。

 やがて、高山の話が終わると今度は士幌が話し始めた。

 

 

「だからと言って、大事な税金を年間何億も ――――」

 

 

 士幌の発言はまたしても遮られた。

 ただし、今度は列車の警笛によって、だが。

 

 

ピィィィィーーーー!

 

 

 東京駅に機関車特有の甲高い警笛が鳴る。

 9番線に神田方面から電気機関車が入ってきた。

 車両の形式は“EH10-9001”となっている。

 車体中央に金色の帯が引かれた電気機関車と、それに牽かれた3両の黒く、所々に金色で英語の単語が描かれた客車が入ってきた。

 その機関車は、甲高い制動音を響かせながら減速し、停車した。

 ホームにいた全員はその列車に気を取られていた。

 ただ、一瞬だけしか気を取られなかった桜井は、すぐに腹ばいになって、前にいる高山に足を開くよう指示し、士幌の拳銃めがけて引き金を引いた。

 

 

ダァーーン!

 

 

 その銃声は機関車の音にかき消され、相手に気づかれること無く士幌の拳銃に弾は当たった。

 

 

「くっ!」

 

 

 弾が当たった衝撃により、士幌は持っていた拳銃を落とした。

 

 

「ま、ざっとこんなもんよ」

 

「士幌さんは大丈夫かよ!?」

 

 

 桜井のさも当然とばかりの台詞に、高山は士幌の心配をする。

 

 

「何犯人の心配してんのよ。それに、拳銃に当てただけよ。それに、男の急所を二人まとめて撃ってもいいのよ?」

 

 

 と、銃口を高山の急所に向けた。

 

 それは本当にやめてあげてください。冗談でもやめてください。

 

 そんなことをしていると、9番線に止まった車両から声が上がった。

 

 

「全員降車!」

 

 

 間違いない。姉さんの声だ。

 姉さんが声を上げると、客車の中からぞろぞろと人が出てくる。

 ヘルメット、プロテクター、アサルトライフル、肩には“國鉄特強”の文字。

 警察の特殊部隊みたいな人たちは、俺達の前に壁のようになって並んだ。

 

 

「高山班長代理、すまなかったな……。少し横浜のほうが手間取ってしまってな……しかし、よくやった。後は任せておけ」

 

 

 そう言って姉さんは横にいた人から黒いメガホンを受け取り、それを高山に渡す。

 

 

「やってみろ」

 

 

 姉さんがそう言うと、高山は力いっぱいうなずいて「はい!」と返事をした。

 高山がスイッチを入れた瞬間、大きなバウリングがした。

 高山は片手で音量調節し、犯人二人に向かって話し始めた。

 




※元ネタ解説※
EH10-9001:国鉄電気機関車最初で最後の8軸機関車(≒車軸が8つある機関車)。1200t貨物を単機(=機関車一機)で牽引でき、しかも関が原の勾配(10‰が6㎞続く。機関車牽引の重量級貨物列車にとっては難関)も補助機関車なしで通れるように設計したため、出力はかなり高い。俗称が“マンモス”。
 東海道・山陽本線の貨物列車の牽引機として運用された。(試験的に客車も牽いた事がある。)
 だが、日本有数の超重量級電気機関車であるが故に、その他の地方幹線・ローカル線には入線できなかった。
※1200tは、電車で言えばN700新幹線(16両編成)約1.7編成分。車で言えば、軽自動車約1200台分。戦車で言えば、10式戦車約27.2台分。航空機で言えば、B-787約7.45機分の重さ。


 解説が長くなってすいません。以降できるかぎり自重します。
 さて、東京駅爆破恐喝事件も終盤です。
 3回目で終盤とは随分早いような気もしますが、駅長室での出来事に宗吾君が関わってないので仕方ない。
 2巻以降の話はオリジナル要素も含みたいなと思いながら書いています。

 相変わらず次回は未定です。
 それではまた。

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