機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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進化の鼓動

sideコートニー

 

「で・・・、その結果がこれと・・・。」

 

試験監視艦に戻った俺を出迎えたのは、何とも不機嫌と言いたげなベルの言葉だった。

 

「・・・、仕方ないだろ、最高のストライク乗りが相手なんだ、僅差しかないスペックじゃこうなって当たり前だ。」

 

弁明の余地は無いが、せめてこれぐらいは言い訳させてほしいモノだ。

 

「だからって、機体をこんなにしただけとは言わせないわよ?」

 

「大丈夫だ、ザクのデータは完璧に録れているだろう、それに、ストライクの新しいストライカーのデータもわずかだが録れた、十分すぎる収穫だろう。」

 

中破したザクを指差しながらも、俺は彼女の脇を通り抜ける。

 

彼から貰ったデータはメモリに移し替えて消去したため、ザクには俺だけが録ったデータが残っているだけだ。

 

「それもそうね、お疲れ様、また後で報告書纏めておいて。」

 

「了解した、任せておいてくれ。」

 

気取られない様に気を付けながらも、少し急ぎ足で廊下を進み、宛がわれた部屋に入る。

 

人が入らない様にロックを掛け、監視カメラの映像もダミーを流す。

 

こういう小技も用意しておくものだな、そうでなければ、一夏の好意を無碍にしてしまう所だったからな。

 

持参しておいた端末にメモリを差し込み、ファイルを開く。

 

端末の画面に表示されるデータに目を通しながらも、メモを取る手は止まらない。

 

スペックは俺が使っていたブレイズウィザードと大して変わらなかったが、それはリミッターを掛けている間だけだ、外した後はかのフリーダムに勝るとも劣らない速度を叩きだしていた。

 

「流石一夏だな・・・、これほどまでの出力を操り切れるなんて・・・。」

 

ストライカーの構造に問題があったからだろう、最後の方に動きが鈍り、ストライカーを囮にしたのもその為だと考えられる。

 

調整は完璧だったんだろうが、このストライカーでは一夏の反応速度に耐えきれなかったのだと推測できる。

 

そう考えれば考える程に恐ろしい奴だ、戦闘能力だけなら並の戦闘用コーディネィターを遥かに上回っているなんて考えられやしないだろう。

 

このデータを用いれば、どんな機体だって作れてしまいそうだ。

 

それに、ザクの後に計画されている新たなXナンバーの存在もある事だ、これは有効活用できる事間違いなしだろう。

 

「だが、どうすればストライクは奴に追従出来たんだ?」

 

確かにストライクは連合初期GAT-Xナンバーの中でも特に運動性の高い機体だったが、それも所詮は整備がしっかり行き届いてこその代物。

 

そう考えれば、一夏はかなりの設備やスタッフが揃っている組織に所属しているのだろう。

 

そして、リーカは彼の女が彼をオーブのスーパーエースだと言っていたと聞いたらしい。

 

つまり、そこから導き出される答えは・・・。

 

「アメノミハシラ、あそこか・・・?」

 

オーブ本国の人間じゃないだろうから、考え得るならあそこしかないだろう。

 

彼処には世界屈指のファクトリーと、一国が保有すべき以上の戦力がある、それはザフトや連合が何度も攻撃を仕掛けても落とせない事からもよく分かる。

 

しかも、そこでXナンバー機に乗っているという事は、パイロットの中でもそれなりに地位のある人物と見ていい。

 

いや、アイツほどの人物が一パイロットなんていう小さな枠で収まる筈がない。

 

やれやれ、とんでもない大物と戦ってるんじゃないのか、俺は・・・?

 

だが、俺とアイツとの関係は変わらないだろう、織斑一夏と言う一人の人間と、俺は友人なんだから。

 

「まぁ、今度会った時にでも聞いてみよう。」

 

だから、また会って話せることを楽しみにしておこう。

 

共に酒でも飲みながら、語り合える日をな・・・。

 

sideout

 

sideシャルロット

 

『イズモ、帰投しました、第五整備班は第十三ドッグに集合してください。』

 

整備士の人達と共に宇宙港に併設されたドッグにやって来た僕とセシリアは、M1A二機に支えられてイズモから降りてくるストライクを見た。

 

左腕と右足が完全に破壊されていて、相当な戦闘だった事が分かる位の消耗状態だった。

 

「一夏様があそこまで傷を付けられるなんて・・・!」

 

「うん、多分彼だよ、ザフトのコートニーって人とやり合ったんだろうね。」

 

セシリアの驚愕の声に答えながらも、僕は半年ほど前にデブリベルトで遭遇したザフトの機体を思い出していた。

 

あの時のパイロットは一夏と同レベルかそれ以上の腕前を持っていたから、もし、一夏が彼と戦っていたんだったら、一夏が熱くなってストライクのダメージを無視した戦い方をとってもおかしくは無い。

 

「これは怒っとかないとダメだよね、セシリア?」

 

「それはそうですが・・・、一夏様は分かってらっしゃいますわよ?」

 

セシリアは優し過ぎるなぁ、もっと僕達との時間を増やしてって言うぐらい良いんじゃないかな?

 

まぁ、束縛するのはあんまり好きじゃないし、どっちかって言えば束縛はされる方が心地いいぐらいだけどね。

 

「お、セシリア!シャル!ただいま!」

 

イズモから降りてきた一夏が壁を蹴って僕達の方まで慣性で移動してくるのを見て、僕とセシリアは両サイドから手を伸ばして彼をしっかりと抱き寄せる。

 

「お帰りなさいませ、旦那様♪」

 

「僕達の亭主は留守が多いね?」

 

彼を出迎えつつ、僕達はしっかりと一夏の身体に腕を回して抱き着いていた。

 

何時も眠る時は彼の隣で身体を寄せてるけど、起きてる時は意外と触れ合う時間も少なくなってるからね、こういう時に体温とか息遣いを感じておかないと、ね・・・?

 

「亭主元気で留守がいい、って知らないか?ま、君達と離れてた間は寂しかったのは事実だけどな。」

 

「お上手ですこと・・・♪」

 

「今は誤魔化されておくよ♪」

 

こういう風に誤魔化されるけども、別に気にしちゃいない。

 

だって、幸せなんだからね・・・?

 

「しかし・・・、ストライクが・・・。」

 

彼から身体を離したセシリアが、ドッグへ運ばれていくストライクを痛ましげな表情で見ていた。

 

自分が使った機体じゃなくても、ずっと慣れ親しんできた白い機体は僕達にとっても大切な機体だから。

 

「あぁ、完全な俺の力不足だよ、ストライクにも無茶させちまった。」

 

何処か憂いを帯びた目で、だけど、何処か熱を帯びた声で呟いていた。

 

それ程に戦いが興奮するものだったんだろう。

 

「コートニーって人と戦ったの?」

 

僕の推測を肯定する様に、彼は深く頷いていた。

 

「あぁ、俺がここまでやられるのはアイツとミナしかいない、それに、俺の最高のライバルだ、熱くならない訳が無いだろ。」

 

「やはり、あの御方でしたか・・・、戦果は如何でしたか?」

 

一夏の言葉に確信を得たんだろう、セシリアは先頭の様子を尋ねていた。

 

それを知る事で相手の戦力を知ろうとしてるのか、それともただの好奇心なのか・・・。

 

「アイツの破損はメインカメラと左足だけど、俺はあの有様、機体の性能は量産前提でストライク以上、正直言って、これから先、今のままじゃやってけないわな。」

 

なるほど、新型と運悪く遭遇したって事か・・・。

 

それならストライクがここまでボロボロになるのも頷けるね。

 

「それでは・・・、計画を早めるのですか?」

 

一夏の言葉からある種の何かを感じ取ったのか、セシリアが何かを尋ねていた。

 

多分、機体を全面改修させる時期を早めようとか、そういう提案だろうと何となく分かる。

 

データは大体揃っているから、今から計画を開始しようと思えば不可能じゃないのは分かるけど、此処から先はアイデア勝負になってくるのは明らかなんだよね。

 

「あぁ、計画を変更して、MSの建造段階に入る、データが集まっている機体だけはな。」

 

「それって、イージスを除いてって事?」

 

玲奈には悪いけど、イージスは開発が行き詰ってるのは事実で、データも思う様に集まっていないのが現状だ。

 

スキュラを撤廃して、変形構造を見直す案が出てるけど、そうなると特徴を潰すから嫌だと玲奈から拒否されている。

 

気持ちはよく分かるから、僕達もあえて何も言わずにプランを何度も洗い直してるけど、どん詰まりになってもうかなりの日数が経過しているのも事実なんだ。

 

「あぁ、新造する様に働きかけるが、データが集まってないんじゃな・・・、まぁ、最悪の場合、俺がコートニーからデータ貰ってくるか何かしてやれれば早いんだけどな。」

 

そう言いながらも、今はそんな場合じゃないと言う様に首を振って、一夏は僕とセシリアから離れて通路を進み始めた。

 

「ジャックに今回のデータと俺の要望、それから計画を早める事を提案してくる、二人は先に部屋に戻っておいてくれ。」

 

振り返りながらも進んで行く一夏に手を振った後、僕はセシリアに向き直る。

 

「一夏のストライクが改修ドッグ入りなら、僕達四人の機体は少し後回しにしても良いかな?」

 

戦力を減らす訳にもいかないし、何より、整備士の人達には短い期間で最高の仕事をしてもらわなくちゃ困るからね。

 

「そうですわね、一夏様のご意向次第でしょうが、私達は私達の出来る事を致しませんと、ね?」

 

シャルさんの言葉に頷き、私達は通路を自室に向けて歩き始めました。

 

私達の、信じるモノを信じて・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

「と、いう訳なんだ、変形機構を撤廃して強度を高めて欲しい。」

 

ドッグに足を運んだ俺は、半壊したストライクの前で仁王立ちしているジャックに歩み寄り、先程の試験データを手渡しながらも提案した。

 

「なるほどなぁ、さっきの戦闘でオーバーロードしたって訳か、ソイツは悪かった。」

 

「謝る必要なんてないさ、俺も無茶しすぎたんだ、お相子さ。」

 

ジャックも俺の戦い方は熟知しているだろうから、それに装備が追随できなかった事が純粋に悔しいんだろう、あっさりと自分の力不足を詫びてくれた。

 

だが、詫びなければならないのは俺の方だ、折角仕立ててくれた装備を壊しただけでなく、ストライクまでレストアさせる羽目になったんだ、色々と申し訳ないよ。

 

「で、注文はストライカーの構造見直しだけでいいのか?武装類の総見直しもできるが?」

 

「そうか、なら・・・、ミサイルとバルカンポッドを撤廃して、代わりにスケールダウンした対艦刀を二本に増やしてくれ。」

 

I.W.S.P.と同じ装備系統の配置なら、目隠しをしていても操縦できるし、武装の操作も単純化出来るから機動に意識を割ける。

 

まぁ、それは俺が戦争のためだけに生きているような感覚がするから嫌なんだけどな・・・。

 

「了解したぜ、ついでに、リミッターも外して強度をもう一度見直して見るわ、当分ストライクもレストアだしな。」

 

「あぁ、思い出した、その事で少し話があるんだ、良いか?」

 

忘れるところだった、ここに来たもう一つの理由を、な?

 

懐からメモリースティックを取り出し、振り向いた彼の胸元のポケットに滑り込ませる。

 

「プランSに基いてストライクを改修してほしい、ハイぺリオンやザクでデータは集まっている筈だしな。」

 

「おいおい、あのプランかよ、お前、廃案にしたんじゃなかったのか?」

 

ジャックの言う通り、ストライクの幾つかあった改修プランの内、プランSは色々と問題があって一度は廃案になったが、俺は何度も見直しを繰り返して構造をある程度簡略化する事で問題を少なくしたつもりだ。

 

「取り敢えず装備の類いを見直して、加速装置だけを取っ払った、これでエネルギー効率も重量も何とかなる筈だ。」

 

「確かに・・・、あれさえ取り除けば安定が取れた機体になるけどなぁ・・・。」

 

元々、SSというプランをメインに推そうと考えていたんだが、そのプランのメインになるべきシステムが完成の目処どころか、そのシステムを開発する為のデータすら集める事すらできなかった。

 

だが、SならばI.W.S.P.の純正強化のストライカーと、少ない機体改修で済むために、現状では一番手っ取り早く再現できるストライカーだと言えるだろう。

 

だからこそ、今のままでも充分に再現できる代物だという事だからこそ、そこで今は折り合いを着けておこう。

 

「頼む、今はストライクも戦えない、だからせめて、戦えるようにならないとな。」

 

「そりゃそうだ、早速部材を掻き集めておくぜ、お前さんに頼まれた期限も、そろそろ半分を切っちまうしな。」

 

戦時中にしては長めの期間だが、休戦時と考えれば可なり短い期間だ、無理強いしちまってるようで申し訳ない限りだ。

 

「よろしく頼むよ、ミナのところに報告に行く前に、ちょっと失礼するよ。」

 

「おうよ、嬢ちゃん達の要望も纏めておいてくれ、そろそろ、イージス以外の機体を一通り内部から改修させてもらうからよ。」

 

「OKだ、伝えておく。」

 

彼の言葉に答えながらも、俺はストライクの足元に置かれていたリフトに乗り込み、ストライクのヘッド部分にやって来た。

 

そこまで頭部の損傷は酷くないとタカを括っていたが、予想以上のダメージを受けていた様だ、あちこちにひび割れや亀裂が見て取れた。

 

「相当な無茶をさせちまったな・・・、ゴメンな、ストライク・・・。」

 

相棒とも、己の身体の一部とも言える機体をここまで傷着けてしまった。

 

それは、俺がまだ未熟であるという証拠に他ならないだろう。

 

けど、コイツの無理があったればこそ、俺がこうして生きている事に他ならない。

 

「ホント・・・、お前には感謝しかないよ・・・。」

 

ここまでボロボロになっても、文句ひとつ言わずに俺の操縦に応えてくれる、最高の機体・・・。

 

だから、このままになんてさせて堪るか、絶対に綺麗に仕上げてやらないとな。

 

「だから、少しの間だけど休んでてくれ、俺達が、次のステージに行く時まで、な?」

 

ストライクのヘッドを撫で、俺はリフトに乗り込んで床まで降りた。

 

さぁて、休んでる暇なんて無い、一秒たりとも無駄にはしたくない。

 

信じてくれる人たちのためにも、俺は強くなくちゃいけないからな。

 

それが、俺に出来る唯一の事なら、なおさらだ。

 

喩え、俺のこの身が壊れても、誰かの為に戦えるのならそれで良い。

 

だから、俺は戦って行こう、今の仲間達と友と共に・・・。

 

sideout




次回予告

プランを取り纏めた一夏達は、計画を新たな段階へと推し進める、それが、新しき戦いに備える旗印になるべくと・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

REVOLUTION

お楽しみに

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