機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
sideシャルロット
「こちらシャルロット、玲奈、聞こえてる?」
『こちら玲奈、聞こえてるわよ、何時でも行ける。』
バスターを操縦しながらも、僕は付近を帯同するイージスの玲奈に通信を入れた。
僕の考えるA.G.R計画のプランは、火器の見直しをメインにしてるからね、それなりに動けて、それなりに近接戦も出来て、それなりに強い銃器を持ってるイージスに仮想敵を依頼したんだ。
ストライク+I.W.S.P.でも良かったんだけど、地の速さならイージスの方が上だろうし、何より一夏が相手だと欠点を捉える前に終わっちゃう可能性もあるからね。
本当は、バスターのメインラウンドの一対多でのシミュレーションでも良かったんだけど、今日は調整中だったからこうやって外に出てくる以外無かったんだよね。
ま、それでも納得のいくデータは録らせてもらわないとね、骨折り損になっちゃうからさ。
『デュノア卿、早間卿、データ収集準備完了しました、何時でも始めて下さい。』
『了解、シャルロット卿、遠慮なく来てくださいよ?アタシもデータ録る積りで行くからさ!!』
玲奈ってば、やっぱり逸り過ぎだよね、一応僕―の方が実年齢は下だけど―と一つしか変わらないのに、ね。
まぁ、僕達は一時そういうのから離れてた時期があったからね、だから、嫌が応にも若さを捨てなくちゃならなかったからなんだけど・・・。
それはさておき、心置きなく戦わせてもらうとしようかな?
「うん、撃墜しちゃったら謝るよ、『君の恋人を死なせちゃった』って。」
『ちょっ・・・!?縁起でもない事言わないでよ・・・!?アタシとアンタの技量差ならそれも有り得るんだから・・・!?』
あはは、冗談だってば、からかいがある娘で面白いね。
さっ、ジョークはここまでだ、本気で行くよ!!
「シャルロット・デュノア、バスター、模擬戦開始します!!」
『ちょっと!!アタシの話聞いてるー!?』
彼女の言葉を無視しながらも、僕はガンランチャーやビームライフルを惜しむ事無く撃ちかける。
だけど、イージスはMAの推力を駆使して逃げ回っていた。
流石、機動力だけは逸品だね、それだけってのが玉にきずだけどさ。
「やるやる~、次はこれだよ。」
ミサイルを撃ちかけ、進路を塞ぐようにばら撒いてみても、イージスはすぐさまMS形態へと変形し、イーゲルシュテルンやビームライフルの斉射で全ていなしていた。
「へぇ・・・、腕を前は避けるので手一杯だったのに。」
『だからって、ちょっとは遠慮しなさいよ・・・!?』
あー、聞こえない、聞こえないよーだ。
誤魔化す様に、僕はガンランチャーとビームライフルを連結させて対装甲炸弾砲を形成、ミサイルの爆発で出来た爆煙に向けて構える。
『そっちがその気なら・・・!こっちだって・・・!!』
そんな言葉が聞こえると同時に、爆煙からMS形態のイージスが、ビームサーベルを展開してこっちに向けて飛び出してきた。
「不意打ちのつもり・・・!?甘いっ!!」
『どっちがぁ!!』
トリガーを引くと同時に、振り下ろされたビームサーベルにガンランチャーが切り裂かれてしまうけど、散弾がひとつ残らずにイージスに直撃する。
「しまった・・・!高くつくよ、これ!!」
『こっちだって・・・!エネルギーがかなり減っちゃったわよ・・・!お互い様ね・・・!』
軽口を言い合ってるけど、これで分かった事が一つある。
前後連結方式じゃあ、発射までに一秒に満たないラグが出来てるって・・・。
僕の反応も少し遅れたってのもあるけど、玲奈みたいに動きの速いパイロットや機体を相手取るには今の武装じゃ手に余るっていうのが分かっただけでも十分だね。
「けどまぁ、この機体だって格闘戦が出来ない訳じゃ無い・・・!」
ストライクやデュエルと同じフレームを使ってる訳だしね・・・!!
どれだけ動けるかってのも、今後の参考に見ておきたいところだし、ね・・・!!
「行くよ、バスター・・・!あとでキチンと手入れするから・・・!!」
使い物にならないガンランチャーを格納しながらも、バスターの申し訳程度のスラスターを吹かして、僕はビームライフルを撃ちかけて突っ込んで行く。
『その機体の速さでイージスに対抗出来る訳ないでしょうに・・・!!』
「それはどうかな・・・!?」
ビームを回避したイージスは、その出力を活かしてバスターの背後に回り込んできたけど、もうそんな事は織り込み済みだ。
「その手の相手をたくさんして来てるからね・・・!御見通しだよ・・・!!」
強引にスラスターを使って回し蹴りを叩き込み、イージスの体制を崩す。
『うっそ・・・!?アンタ、格闘戦も活けるクチなの・・・!?』
「十代の頃はね・・・!この機体でも、君に負ける気はしないよ・・・!!」
構う事なくイージスを殴りつけるけど、このやり方はあんまり好きじゃない。
やっぱり、サーベルの一本は欲しいね・・・!!
『やめっ・・・!フレームが歪む・・・!!』
「後で焼切ってでも抉じ開けてあげるから・・・!!」
『そういう問題じゃないでしょう・・・!!』
いくらXナンバー系フレームでもやり続けたら破損なり歪みなりが生じてくるだろうね・・・。
だけど、それもデータ採集の一環だからね、限界までやってみるよ!!
関節や装甲の継ぎ目、それから首を狙って殴り続ける。
こんなに近付いてしまったらもうビームライフルは使っても嵩張るだけだ、殴った方が良い。
だけど、限界は近い、引っ切り無しに警告音が鳴り響いてるんだし・・・!!
「これで・・・!ラストォォ!!」
『やられっぱなしには、ならないわよぉぉ・・・!!』
突き出した右腕と同時に、イージスの左腕がカウンターとばかりに飛んでくる。
そして、全くの同時にお互いの拳が相手の顔面を捉えていた。
その衝撃でメインカメラがイカレたんだろう、モニターにノイズが走り、視界が極端に悪くなってしまった。
『こちら管制室、103、303共にメインカメラの損傷を確認、M1Aスクランブル、二機を回収してください。』
管制室からの通信が聞こえ、何とか慣性で流されない様に体制を立て直しながらも、僕は暑苦しいヘルメットを脱ぎ、髪を止めていたリボンを解いた。
『いったぁ~・・・、何すんのよシャルロット・・・、イージスまで整備ドッグ長期コース確定じゃない・・・。』
「あはは・・・、ゴメン、久々の接近戦だったからテンション上がっちゃったよ・・・。」
砲撃戦ならそれなりに冷静でいられるんだけどね・・・、流石に格闘戦になると昔ほどとは言わないけど、それでも熱くなっちゃうなぁ・・・。
「でも、お陰様で良いデータが録れたよ、付き合ってくれてありがと。」
『良いわよ、アタシも訓練のつもりだったしね、良い経験になったわ。』
玲奈と通コンタクトを取っていると、アメノミハシラから二筋のスラスター光がこっちへ向かって来ているのが見て取れた。
恐らくはお迎えが来てくれるんだろうね。
さて、と・・・、戻ったらデータの見直しと要望のまとめだね。
やる事は多いけどやってやろう。
それが、僕達の力になるんなら、ね・・・。
sideout
noside
「お疲れ様、玲奈、イージスの調子はどう?」
模擬戦を終えたシャルロットは、ドリンクボトルを二つ持って、今回の相手であった玲奈の下を訪れていた。
玲奈もイージスから降り、今は備え付けのベンチに身体を預け、ぐったりとした様子であった。
「お疲れ~・・・、イージスは当分整備ドッグ入りよ~・・・。」
「ゴメン・・・、今度何か奢るよ・・・。」
「良いわよ・・・、シミュレーションやっとくから・・・。」
愛機が損傷した事に意気消沈しているのだろう、彼女はぐったりとした様子でドリンクボトルに口を付け、それを見たシャルロットも何と言えばいいか分からずに引き攣った様な笑みを浮かべるだけだった。
「で・・・、問題点は見つけられた訳・・・?そうじゃなかったら、アンタ達から一夏を寝取ってやる。」
「ウソでもやけっぱちでもそんな事言わないでよ、傷付くじゃないか。」
軽いのか重いのか分からないやり取りをこのまま続ける訳にはいかない。
そう判断したのだろう、シャルロットは彼女の隣に腰を下ろし、持って来ていたディスプレイにデータを映し出す。
「さっき、ガンランチャーを切られた時と、殴り合いをしてる時に感じたんだけど、バスターに足りてないのは取り回しの良い武器、だね。」
「武器?あぁ、そう言えば長物ばっかりだもんね、バスターって、器用貧乏なブリッツやイージスよりは一点特化型って感じがしてるけど?」
先程の模擬戦のデータを見ながら語るシャルロットの言葉に納得しながらも、玲奈は自機の特性を考慮しながらも言葉を紡いだ。
「うん、ロングレンジは圧倒的に強いけど、流石にクロスレンジだとストライカー着けてないストライクよりも何も出来なくなるからね、ちょっと見直す点かなって。」
「ほぇ~・・・、たったあれだけの戦闘で癖も欠点も分かるなんて、流石スーパーエースね・・・、羨ましいわ。」
「そんなんじゃないよ、ずっと昔から乗ってるし、身体の一部に近いから何となくね。」
欠点を次々に上げていく彼女の観察眼に驚愕しているのだろう、玲奈は舌を巻く様に驚き、ある種の畏怖を籠めた目でシャルロットを見ていた。
その視線をくすぐったく感じているのだろう、シャルロットは苦笑とも照れ笑いとも取れる様な表情を浮かべながらも話を続けようとしていた。
「あっ、でも感じたんだけどさ、やっぱりバスターって推力が少ないよね、せめてもう少しぐらいスラスターの数増やした方が良くない?」
そんな時だった、何かを思い出したかのように玲奈がディスプレイの数字を指差しながらも提案をしていた。
「へぇ、そこに気付くなんて君も良い眼をしてるんだね、僕もそう思うね、重力下飛行が出来るまで強化するのは難しいだろうけど、せめてそれなりに動ける様にしなくちゃだよね。」
「ほ、褒めても何も出ないわよ・・・!でも、シャルロットにそう言われると自信が着くわ。」
驚いた様な口調ながらも、自身を褒めるシャルロットの言葉がむず痒かったのだろう、玲奈は照れながらも口籠るように小さく呟いていた。
そんな彼女の表情を好ましく思ったシャルロットは、それで良いとばかりに立ち上がった。
「さて、と・・・、僕はジャックさんにこのデータを持って行くよ、玲奈は先に上がってくれていいよ。」
「分かったわ、お疲れ様。」
用事を済ませに行くと言うシャルロットの背中を見送った彼女は、一つ大きな仕事が終わったと言わんばかりにタメ息を吐き、ベンチに深く座り込んだ。
「あんだけ激しい模擬戦やった後に、よくもまぁあれだけしゃんとしてられるわ・・・、あの三人は化け物か何かなの・・・?」
模擬戦とは言えど実弾やビームを使った戦いだったのだ、まだ戦闘に慣れきっていない玲奈にしてみれば何時、どんな時に流れ弾で死ぬか分かった物ではないのだ、気が張り詰めてしまっていたのだろう。
それが一旦緩むと一気に疲労が押し寄せてしまうのも無理はない。
「けど・・・、それも何かあったからなのよね・・・、私達が知らない、昔に・・・。」
だが、彼女は気付いてもいた、化け物じみた体力とテクニックを持った彼等が、後ろめたい何かを抱えている事に・・・。
だが、それに気付いたとて、その根底にあるモノを理解出来ぬ彼女には何もできないと知っていた。
故に、奇妙なフラストレーションがたまり続けているのも、また事実ではあったが・・・。
「でも、一夏達には恩も義理もあるし、放って置けないってのが本音だけど・・・。」
それも余計なおせっかいかと言う様に、彼女は苦笑していた。
他人を気遣える余裕が出来た事に対する、自分自身への呆れか、それとも別の何かか・・・。
それすらも可笑しく思いながらも、彼女は汗に濡れ、倦怠感がまとわりつく身体を引き摺るように、格納庫を後にした。
sideout
次回予告
影に忍び、影から敵を討つため、彼は進んでゆく、その先がなんであろうとも・・・。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
マイスターズ 宗吾編
お楽しみに