機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
「ナイロビの議会の方はどんな様子ですか?」
地球、ユーラシア西部にある屋敷の一室で、膝に黒猫を抱いた血色の悪い男性が、モニター越しに誰かと話していた。
彼の名はロード・ジブリール、軍産複合体《ロゴス》のトップであり、ムルタ・アズラエル亡き後のブルーコスモスの実質的な指導者である男だ。
『スカンジナビアの外相、リンデマンが提案したプランが可決された・・・。』
「ほぉ・・・、あのプランが・・・。」
『だがジブリール!こんなふざけた条件が飲めるものか!!』
そんな彼の通信相手である年老いた議員は、憤懣を隠す事無く怒鳴っていた。
どうやら、そのプランの内容に不満があるのだろうか。
それもその筈、リンデマンが提案したプランには、国土やそこに存在する基地の扱いについても触れられており、条文には、《地上の国境線及び国家は戦前の70年2月10日の状況へと戻す》とされているのだ。
『国境線と国家を戦前の状況に戻すだと!?みすみす勝ち取った領土を手放せるものか!!』
「それはコーディネィターも同じ事、奴らをこの大地から追い出せるだけでも上々ではありませんか、それに、貴方方が手放すのは南米ぐらいでしょう、あそこはマスドライバーがある以外価値は無い土地だ。」
連合としては己の権力と武力を誇示するため、領土の問題は死活問題でもあったが、《ロゴス》のトップであり、ブルーコスモスの指導者である彼には、それよりも何よりも、この美しき青い大地からコーディネィターが出て行ってくれる事こそが何よりだった。
何せ、これまでの戦争だけが全てではないのだから。
『軍は条約可決前にカタを着けるべく大軍を送った、我々としても軍の面目だけは保っておきたいのだよ。』
「ふっ・・・、ナチュラル同士で戦うなど、愚かな事を続けたがる・・・。」
メンツが何よりも大事と言いたげな議員の言葉を嘲笑う様に、ジブリールは独り呟いた。
自分達の敵は南米ではない、ザフト、コーディネィターなのだ。
何れまた、大きな戦争が起こる事は目に見えている、何せ、この条約案が可決されるという事は、それを決めた代表達の信任問題に係ってくる。
つまりは、そう遠くなく失脚するという事・・・。
それは、自分達の意のままに動かせる代表を選出できる事と同義なのだ。
その時に連合に協力させるためならば、今は譲歩して独立を認めさせ、後々、ザフトとの戦争が起きた際に武力なり交渉なりして従わせれば良いだけの事なのだ、合理主義的な考えを持つジブリールからすれば徒労以外の何物でもなかった。
だが、この戦争の行方がどうなるのかを見ておくのもまた一興か・・・。
そう考えたのだろうか、彼は薄く笑みながらも愛猫を撫で、モニターに目を通したのであった・・・。
sideout
side一夏
「ハァっ!!」
南米大陸のジャングル地帯で、俺の部隊は連合軍の侵攻部隊と交戦状態に入っていた
数ではこちらが格段に劣っている状況だが、部下のフォーメーションと、ストライクの性能、そして、敵軍の練度の低さによって何とか戦線を維持していられた。
まぁ、他にも相手がソード系主体だったのが幸いしているな、これで火器を使われてたら堪ったもんじゃない。
今しがた、俺は何機目になるか数えるのも億劫になってきたダガーを、敵から奪ったシュベルト・ゲベールで切り伏せ、振り向き様にそれを投槍の様に投擲、背後から俺を撃とうとしたダガーLを串刺しにする。
I.W.S.P.の対艦刀はまだ抜いていないため、エネルギーが続く限りは何とか戦えそうだ。
『隊長!御無事ですか!?』
「フィーネルシアか!そっちは大丈夫か・・・!?」
俺と背中合わせになるようにして飛来した彼女の105ダガーを敵の攻撃から庇いながらも、俺は周囲の状況を窺う。
今だ、俺の隊からの離脱者は無いが、それでも包囲網が時間が経つにつれて強化されていっている事だけは確かだった。
どうやら、俺達が目立ち過ぎてしまったようだ、倒した数よりも残ってる数の方が何倍も多いとは恐れ入る・・・!!
『何とか・・・!ですが、このままでは・・・!!』
機体の状況はまだ戦えるとは言えど、流石に戦闘経験の浅い彼女達には疲労の色が濃く滲み出ており、このまま戦い続ける事が本当に出来るのかも怪しく思えてくる。
「(撤退したいところだが、これ以上下がれない、か・・・!?)」
ストライクの武装は、敵から武器を奪い続けながらも戦っていたために消耗は殆どないが、他の隊員達はそうはいくまい、弾薬もエネルギーも心許無い所だろう。
だが、これ以上下がれば、基地に近付き過ぎてしまうために他の部隊では到底護り切れるとは思えない。
だからこそ、俺達がここで何としても踏み止まり、敵をひきつけ続ける事が最善だ。
分かっていた事とはいえ、流石にキャパを超えつつあるあるかもな・・・!!
そんな事に苦笑しながらも、こちらに向かって来るダガーの腕を、対艦刀を引き抜いた勢いのままで切り裂き、それを足場とばかりに跳躍、コージのダガーに向かって行く数機のダガーLに飛び掛かってその頭部や手足を切り落として行動不能にしていく。
武器を奪い、戦力としていくならば、この方法が一番手っ取り早いからな。
『隊長っ!!自分も前に出ます!』
「待て!お前の技量で格闘戦は無理だ!」
だが、牽制で崩せるほどの敵の混乱を誘発出来なくなってきたのも事実だ、どうする・・・!?
『きゃぁっ・・・!?このっ・・・!!』
『消耗が・・・!このままでは・・・!!』
ミーナやネーヴェも限界が近づいて来ているんだろう、焦燥に駆られた声が聞こえてくる・・・!
どうすればいい・・・!この状況を、俺はどうすればいいんだ・・・!
sideout
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その頃、アウトフレームに乗るジェスは、最寄りの南米軍基地へ向けて全速力で戻ろうとしていた。
撃たれたエドを救うために、彼はバックホームにエドと、成り行きで助ける事となったレナを収容し、カイトに応急処置を任せていたのだ。
『気道確保・・・!よし、レスピーダーに接続・・・!あぁくそっ!!もっと静かに走れないのか!!これじゃマトモに手当ても出来ん!!』
普段着ているスーツを脱ぎ、手袋を嵌めて応急処置を行っていたカイトは、ジェスの操縦に文句を垂れていた。
プロのMS乗りである彼は、こういう応急的な手当てにも明るかった事が幸いしているのではあるが、それでも、この様に部屋が丸ごと揺れる状況での手当てなど出来る筈もない。
「何とか頼むぜ、カイト・・・!!こんな所でエドを死なせる訳にはいかないんだ・・・!!」
彼の言葉に返しながらも、ジェスは只管に道を急いだ。
自分の手に南米の英雄の命が掛かっている、その重みを受け止めながらも・・・。
『前方にMS反応!!連合の侵攻部隊だ!!』
そんな時だった、『8』がビープ音を鳴らし、ジェスに前方注意の警告を発した。
「なんだって・・・!?もうこんな所まで来てるのか・・・!?」
彼が顔を上げると、道の先から黒煙が上がっている事が見て取れ、そこに近づくにつれて、鮮明に連合のMSの姿が見えてきた。
撃たれてはまずいため、彼はMS部隊と少し離れた場所で機体を停止させた。
『止まれ!!MSを停止し、パイロットは降りろ!!』
敵部隊の指揮官からだろうか、投降を勧告するかのような通信が届く。
だが、それに従ってしまえば、彼が守ろうとしている者が危機にさらされてしまうために、従う事は出来なかった。
「くそ・・・!こんな所で足止めをされるわけには・・・!!それに、今バックホームの中を見られたらまずい・・・!!」
『嘘を吐いて通るか!?時間が無いぞ!!』
何とかして通るために、嘘を吐いてでも通るべきだと『8』は言うが、彼には出来ぬ相談だった。
何せ、ジェスの信条は真実を伝える事であり、そのためにはまず、自分が嘘を吐かない事を心に決めているのだ。
「嫌だ・・・!たとえどんな事になっても嘘だけは吐きたくない・・・!!ここは・・・!!」
意を決したのだろうか、彼は生唾を飲み込み、連合の部隊との通信回線を開いた。
「こちらは報道関係の者だ!!現在重傷の負傷者を運んでいる最中だ!!通してくれ!!」
『怪我人だと?怪しいな、検閲に入る、見せてもらおうか!』
「時間が無いんだ!!」
『うるさい!言う通りにしろ!!』
ジェスの言葉を不審に思ったのだろう、連合の指揮官は全く聞き入れる様子は無く、寧ろ武器を持ち、アウトフレームにじりじりと迫ってくる。
『ジェス!!俺がコックピットに移る!!早くそこから出ろ!!』
「ダメだ!!俺じゃ手当てが出来ない!!お前はそこから動くな、カイト!!」
自分に出来ない事をやれるカイトに戦う事を任せてしまえばどうなるか、ジェスも気付いていたのだ。
『思い出したぞ、そのMS!南米軍のプロパガンダをやっているジャーナリストだな!?』
だが、現実は簡単に行くほど甘くは無かった。
先頭の一機に乗るパイロットが、ジェスの報道を見た事があったようだ、彼の乗るアウトフレームを見ながらも思い返す様に言葉を発した。
「違う!俺はただ、在るがままを伝えただけだ!!」
『認めたな!!お前は南米軍の一味だ!下らん報道をした報いだ、死ねっ!!』
「うわっ・・・!?」
弁明する暇も与えんとばかりに、ダガーはシュベルト・ゲベールを引き抜きながらもアウトフレームを切りつける。
なんとか直撃だけは回避するが、掠めた部分の装甲が抉れてしまい、生じた衝撃にジェスは呻いた。
『ジェス!!お前を死なせる訳にはいかん!俺に代われ!!』
この状況を見たカイトは、自分が戦わねばとばかりに声をあげたが、ジェスは再度それを拒否する。
「ダメだ!ここは、俺が切り抜ける!!『8』!ビームサインをバトルモードで!!」
『合点だ!!』
自分が今出来る事、それはここを何としても切り抜ける為に戦う事だけだと考えた彼は、同乗する『8』に武装の展開を依頼、腰部アンカーラック内からビームサーベルの柄の様な物がせり出し、アウトフレームのマニュピレータがそれをしっかりと掴む。
それと同時にエネルギーが送電され、ビームの刃が形成された。
『お前が戦うなんて無茶だ!!ジェス!!』
「俺が戦わなきゃ・・・!皆やられちまうんだ・・・!!だから・・・!!」
『・・・、好きにしろ・・・!まったく・・・!!』
そんな彼の行為を引き留めようとカイトは声を荒げたが、そんな事で止まる様なジェスでは無かった。
その熱意に折れたのだろうか、彼は止める事を止め、人の気も知らないでとばかりに大きなタメ息を吐き、治療に戻った。
『投降しないつもりか!構わん、破壊しろ!!』
ジェスに戦闘の意志が在ると認めた連合のMS部隊は其々の手に武器を構え、彼に攻め込んでゆく。
「『8』!サポートを!!」
『任せろ!!』
切りかかってくるダガーのシュベルト・ゲベールを何とか半身になりながら避け、擦れ違いざまに頭部をビームサインの光刃で破壊した。
だが、それと続けざまに別のダガーLが彼に襲い掛かるが、ビームサインをシールドのように広げ、何とかダメージを軽減させる事には成功した。
だが、そのせいで体制を崩してしまい、尻餅を付いてしまった様な格好になる。
立ち上がろうとするよりも早く、二機のダガーLが襲い掛かってきたが、『8』がとっさの判断で脚部サブワイヤーを発射、向かって来ていたダガーLの腕部を破壊した。
『危なっかしい・・・!マトモに見ていられん・・・!!』
揺れるバックホームの中から戦闘の様子を感じ取ったカイトは、その素人的な動きに頭が痛そうな表情をしながらも呟いていた。
だが、今のジェスにはそんな彼の声は届かない、目の前の事に集中しすぎているのだから・・・。
「まだ・・・!戦うのか・・・!?」
睨む彼の目の前では、指揮官機が撃破された事と、ジェスが戦術マニュアルに無い動きを見せた事で動揺が広がったのだろう、ジリジリと後退していく敵機の姿が見えた。
「(良いぞ・・・!そのままどっか行ってくれ・・・!!)」
このまま威嚇でもしておけば、いずれは南米軍の基地まで行ける、そう考えた彼はダガーとの距離をゆっくりと詰めていく。
だが、そんな彼の耳に、金属がぶつかり合う様な音が飛び込んでくる。
「・・・っ!?」
見ると、先程ノックアウトさせたダガーのパイロットが、持っていた拳銃をアウトフレームに向けて乱射していたのだ。
だが、彼の眼にはそんな事は写っていなかった。
彼が見ていたのは、そのパイロットの恐怖に引き攣った表情・・・。
「あ・・・、あぁ・・・!!」
それを見てしまった彼は、自分が今やっている事に気付いてしまった。
そう、彼は今、戦争を自らしてしまっているのだ・・・。
「くそっ・・・!!」
それに気付いてしまった彼は、敵部隊に背を向けながらもバックホームに装備されていた煙幕弾を発射、全速力で元来た道を逆走し始めた。
『南米軍基地とは真逆だぞ!どうした!?』
突然の逃亡に驚いたのだろうか、『8』がビープ音を鳴らしながらも尋ねてくるが、当のジェス本人はそれどころではなかった。
「俺は・・・、今まで何を見てきたんだ・・・!?何かを撮る事だけに気を取られて、大切な事を忘れていたんじゃないのか・・・!?」
自分がやるべき事は、そこにある出来事を取材し、それを全世界に伝える事だった筈だ。
取材対象と同じ様に戦う事や、まして人を殺める事が仕事では決してないのだ。
「俺がやるべき事はこんなんじゃない・・・!この現状を誰かに伝える事、それだけじゃないか・・・!なのに・・・!」
『ジェス!二人とももう長くは保たんぞ!』
『引き返して戦うか!?』
打ちひしがれる彼の耳に、エドとレナの容体が悪くなる一方だと告げるカイトの言葉が入り、彼等を救うために戦うかと尋ねてくる『8』の表示が目に留まるが、ジェスはどうすべきか決めあぐねていた。
「もう戦いは御免だ・・・、俺は人殺しをしに来たわけじゃないんだ・・・!」
もう戦いたくはない、だが、ここから一番近い南米軍基地は戻った先にある、他の基地に向かっていれば、その間にエドは間違いなく力尽きてしまうだろう。
顔も知らぬ連合軍人を殺してエドを生かすか、それとも戦いを避けてエドを見殺しにしてしまうか、彼は苦渋の決断を迫られていたのだ。
だが、選択肢はそれだけではない、中道を選ぶという手も存在していたのだ。
「そうだ・・・!ここからなら、ザフトの監視所が近い・・・!」
つい先日、一夏に呼ばれて出向いた先の事を、彼は忘れてはいなかった。
そこにいるジャーナリストのベルならば、何かと口聞きしてくれるやもしれないが、敵でも味方でもないのだ、受け入れてくれるかどうかなどの保証はどこにもない。
だが、それでも、僅かな希望でも縋るしかないのが現状、最早悩んでいる時間はどこにもない。
「『8』!目的地変更だ!!ザフトの監視所に行く!!ベルに連絡を取ってくれ!!」
『合点だ!!』
『8』に指示を出しながらも、彼は今出来る事、やるべき事の為に機体を動かした。
「(エド、頑張れ・・・!俺が必ず・・・!)」
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ジェスからの連絡を受けたベルは、医療スタッフと共に患者の到着を待っていた。
別段、彼女達ザフトが南米軍の急患を受け入れる義理は無いのだが、自分達は人道に則った事をする立場だ、ここで拒否すれば後々面倒になるだけでなく、露呈した際の信用問題に関わってくるため、特別措置として受け入れる事を決め、プラントにも密かに話を通していたのだ。
ここに来てどうも、自分が苦労する羽目になっているような気がする。
どうやら、ジェスと関わり過ぎているせいかも知れないと彼女は内心でタメ息を吐いた。
そんな時だった、遠くから地響きが聞こえ、それから間もなく、ジャングルよりアウトフレームが姿を現した。
「来たわよ、急いで!!」
『はい!!』
それを認めた彼女は控えていたスタッフに指示を出し、それを受けた医療スタッフ達はすぐさまストレッチャーや医療器具を抱え、アウトフレームに向けて走った。
ジェスのアウトフレームはバックパックを下ろし、中からカイトが姿を現し、中にスタッフを招き入れ、横たえられた二人をストレッチャーに寝かせた。
「急げ!三番棟なら使える!!」
リーダー格である医師が全員に指示を出し、スタッフ達はエドとレナが寝たストレッチャーを引いて建物の中に入って行った。
「エド・・・!」
そんな彼等を、機体から降りたジェスは祈る様な眼差しで見送っていた。
「二人は必ず助けるけど、これは人道的措置で特別なんだからね?」
そんな彼に、彼女は念を押す様に話しかけていた。
「あぁ・・・、頼むよ、ベル・・・。」
分かっていると言う様に答え、彼は彼女に向けて頭を下げていた。
あまり印象が良くない間柄だが、こういう時に頭を下げないのは如何なものか、ジェスもそう考えているのだろう。
彼女は別段気にした様子は無かったが、大事な話があると言う風に表情を引き締めた。
「それよりも、条約の骨子が固まったわ、調印ももうそれほど遠くない内に行われるらしいわ。」
「そうか・・・、でも、それがどうかしたんだ?」
彼女が話した内容に合点が行かなかったのだろう、彼は今話すべき事かと言う様に首を傾げていた。
そんな彼に、ジャーナリストなら今の世界がどんな風になっているのか知っておくべきじゃないかと言う様にタメ息を吐き、彼女は話を続けた。
「《国家及び国境線を70年2月10日以前の状態に戻す》、こんな条文があるのよ。」
「なっ・・・!?」
彼女が語った思いもよらぬ内容に、ジェスは絶句した。
そう、それはつまり、この戦争の目的が、違う形で達成されてしまうと言う事だ。
「そんな・・・!それじゃあ、此処の戦いは!?エドの戦いはどうなるんだよ!?」
これでは、今までの戦いが、エドの戦いが無駄になってしまうのだ。
「エドの戦いは、無駄になるっていう事なのか・・・!?」
「そう、ね・・・、でも独立は独立よ、これでここの無駄な殺し合いは終わるわ。」
それを肯定しながらも、彼女は平淡な声で答えた。
無駄な戦争が終わる、そこには彼女個人の想いが乗せられている様でもあったが・・・。
「いいや、戦争は終わらんだろうぜ。」
だが、そんな彼女の言葉を否定する様に、それまで話を聞いていたカイトが口を開いた。
「この戦い、連合は何としても条約可決前に南米を落とそうと躍起になるだろう、己の力を誇示するためにな、勝ち取る戦果を得られない南米軍の指揮はダダ下がり、次々と討ち取られて負けは見えている。」
「そんな・・・!」
無慈悲なカイトの言葉に、彼は項垂れてしまった。
確かに彼の言う通り、南米軍はエドが精神的主柱になっていると言っても過言ではない。
今でこそ、それなりに士気も、個々人の志は高くなっていて、尚且つ自分の意志で戦っている協力者達がいるとは言えど、エドの存在はあまりにも大きすぎたのだろう。
「だけど、私達はそれを伝えるわ、そうする事が報道者としての使命だもの。」
そんな彼の言葉を聞きつつも、ベルは自分の使命を優先させる事にするようだ。
彼女にとって南米は縁も所縁も無い地、それを優先させるよりも自分の使命こそが先決だと感じたのだろう。
「(俺は・・・、俺はどうしたらいんだ・・・!?)」
そんな中、ジェスは己が何をすべきなのか決めあぐねていた。
ジャーナリストとしてならば、一刻も早くこの事を発信すべきだが、彼個人の感情はそれを半ば拒否していた。
南米の為に戦っているすべての者の心を折る様な事だけは、決してやりたくないのだ。
使命と感情、その二つに、彼はジレンマに陥っていた。
――何があっても、お前は自分の信念を貫け――
――とにかくやれる事をやる、それが最善だろ――
そんな彼の脳裏に、嘗て一夏とエドが語った言葉が反芻する。
一夏の言葉は、自分に出来なかった事を悔やみ、それを彼にさせないために。
エドの言葉は、力強く、前に進むと言う志だけが籠っていた。
それは、彼の迷いを祓うかのようでもあり、彼に道を示している様でもあった。
「(そうだ・・・!俺が出来るのは・・・!!)」
彼はエド達と関わり続けてきた、それ故に、彼しか知らぬエドの一面を、想いを知る事が出来た。
それこそ彼が伝えるべき事柄であり、彼自身がやりたいと願ってやまぬ事だったのだ。
「俺もそうしたい、だけどベル、ひとつだけ頼みがある、俺にも話させてくれ!」
それに気付き、最早迷っている場合じゃないとばかりに顔を上げた彼の瞳には、強く輝く意志が在った。
「分かったわ、二つ目の貸しにしておくわ、付いて来て。」
そんな彼の熱意に、いや、彼の方がエドの身に起きた事を正確に伝えてくれると判断したのだろう、ベルは一瞬だけ考える様な素振りを見せたが、その場で許可を出し、放送の準備をしている報道スタッフの下へと向かった。
「あぁ、ありがとう!!」
そんな彼女の打算的な思惑に気付きながらも、彼は礼を述べながらもベルの後を追った。
今は、何よりも果たさねばならない役割があるのだから・・・。
sideout
次回予告
倒れてしまった英雄の願いを、戦うすべての者に伝える為に、彼は言葉を紡ぐ。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
絶望を希望へ 後編
お楽しみに。