機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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目醒

noside

 

アメノミハシラのMS格納庫、

そこにはハンガーに固定されていたストライクがあった。

 

電源が入っていない為、ダークグレーの装甲色を持ったその機体は、

今だ訪れぬ主を静かに待ち続けている様でもあった。

 

「それにしても、ストライクなんてレアな機体に乗ってたなんて、あの男は何者なんだ?」

 

「さぁ?俺に聞かないでくださいよ、

病棟に運ばれてから誰も見かけて無いんですし。」

 

ストライクをメンテナンスしていた二人の整備員は、

各々の役割を決めた上で作業しつつも、ストライクのパイロットについて詮索をし始めた。

 

現在、ストライクのメンテナンスはほぼ手の付け所が無いまでに完了し、

何時でも出撃が可能な状態となっている為、

余裕が出来たのであろう。

 

「ロンド・ミナ様が保護しろと命ぜられた方だ、

何かしらの繋がりがあるのだろうな。」

 

「そうかも知れませんね、まぁ、自分達には関係の無い事ですね。」

 

「違いないな。」

 

彼等が身を寄せるアメノミハシラの主、

ロンド・ミナ・サハクとの繋がりがある以上、

自分達が口出し出来る事では無いと割り切り、二名の整備員は自分の為すべき事に戻っていった。

 

 

その頃、当の本人達はと言うと・・・。

 

「もう起きていて大丈夫なのか?」

 

一夏に宛がわれた部屋を訪れたミナは、

なんの支えもなく逆立ち腕立てを続けている彼に向け、軽く驚きを含んだ言葉を投げ掛けていた。

 

それもそうだろう、つい二、三日前まで目を覚ます事の無かった者が、

もう全快したと言わんばかりに動き回っているのだから、驚くのも当然というものだ。

 

「流石に寝てばかりでは身体も鈍っちまうからな、

それに、俺は案外丈夫なんでね。」

 

彼女の問い掛けに答える様に、

彼は片手で逆立ちをしてみたりして、自分の身体が完全に癒えた事を表現する。

 

転生して、スーパーコーディネィター並の身体能力を誇っていれば当然ではあるとは言えるだろうが・・・。

 

「まぁ、アンタとアンタの部下達が手を尽くしてくれたお陰でもあるんだけどな。」

 

逆立ちをやめ、両の脚でしっかりと床を踏みしめた後、彼はミナに頭を下げた。

 

「改めて礼を言おう、ロンド・ミナ、世話になった。」

 

「気にする事は無い、ところで、お前はこれからどうするのだ?行く宛も無いのだろう?」

 

彼女は頭を下げる彼を制し、

これからの身の置き方を尋ねる。

 

確かに、一夏は元々別世界の人間、

この世界での彼の身の置き場所は皆無に等しい。

 

そんな世界に独りで放り出されれば、

間違いなく命は無いだろう。

 

「そう言えばそうだな・・・、傭兵やってく自信もねぇし、連合やザフトに入るのもなんだしなぁ・・・。」

 

ミナの言葉に苦笑しながらも、彼は自身の身の置き方を自分なりに考えては否定した。

 

その様子が可笑しかったのか、ミナは自然と笑みを溢した。

 

「ならば、私の元で働いてみないか?

お前の能力に見合う待遇を約束しようではないか。」

 

「良いのか?得体の知れない俺を置いても?」

 

突然の申し出に目を丸くしながらも、

確認をとるかの様に尋ねる一夏の顔には、困惑の色が色濃く浮かび上がっていた。

 

それも当然と言えるものだ、

かつての世界での繋がりが微かに残ってはいるものの、彼等はこの世界では顔を突き合わせて間もないのだ。

 

特に一夏の側にはデメリットらしい物は何一つとして見当たらないが、

ミナの側には、彼の様な身分不明者を抱える事で、

最悪の場合、アメノミハシラに仕える全ての者に不信感を抱かせてしまうというデメリットが発生する事もあるだろう。

 

その危険性を孕んでも尚、彼女が自分を取り込もうとしている事に、彼は驚きを禁じ得なかったのだ。

 

「構わん、お前程の者をこのまま手放すのも惜しい、

それともお前は、恩を返す事もしないのか?」

 

何となく、一夏が義理や恩という言葉に弱いと感じたミナは、意地悪く笑みながらも彼に仕官を然り気無く促した。

 

そう言われてしまえば断れないのか、

彼は両手を上に挙げ、降参の意を示した。

 

「そう言われちゃぁ立つ瀬が無いよな、

分かった、ロンド・ミナ、アンタに仕えよう。」

 

「このロンド・ミナ・サハク、織斑一夏を我が配下とする事をここに宣言しよう。」

 

ロンド・ミナが差し出した手を、

一夏は苦笑しながらも取り、契りは成立した。

 

「もう動けるのだろう?着いてくるがよい、

お前を守っていた機体の下へ案内しよう。」

 

「分かった、っと、その前に着替えをくれないか?

寝間着じゃ格好着かねぇだろ?」

 

「それもそうだな、今用意させよう。」

 

自分の格好を思い出した一夏に言われ、

ミナは部屋の外に待機させていたサーティンソキウスに命じ、彼に見合うサイズの制服を用意させる。

 

暫く待っていると、綺麗に畳まれた制服を持ったサーティンソキウスが部屋に入り、

一夏に差し出した。

 

「すまないなソキウス、助かる。」

 

「お気になさらず。」

 

礼を言う彼の言葉に無機質に返答し、

ソキウスは部屋を去っていった。

 

一見して無愛想極まりないが、それも仕方ないと言えるだろう。

 

なにせ、薬物で精神をかき消されているのだ、愛想良く振舞えという方が酷だろう。

 

それを理解していた一夏は、ソキウスの様子に苦笑しながらも寝間着を脱ぎ、渡された制服に袖を通す。

 

「見事にサイズが合ってるな、俺が寝てる間に計ったのか?」

 

「検査の時にバイタルデータは全て録った、

これを見てみると良い。」

 

ミナから手渡されたデータを見た一夏の表情が驚愕に彩られた。

 

それもその筈だ、元々180㎝はあった身長が190近くなり、

全体的な身体の年齢は二十歳を示していたのだから。

 

「どういうことだ?確か俺は十六だった筈だ、

何がどうなってやがる・・・。」

 

前世を入れれば確かに四十近くの年齢なのだが、

部屋にかけられていた鏡に写る彼の姿は以前と変わらない様にも見えるが、更に大人びた印象を強く受ける容姿になっていた。

 

何故今まで気が付かなかったのかと言うと、

彼はつい先程まで現在の世界情勢、

及びMS、MAの操縦を、寝食惜しんで全て頭の中に叩き込んでいたため、ベッドの上から降りる事が無かったのだ。

 

背が高くなれば、見える風景が変わった等で気付くかも知れないが、

生憎、机とベッド以外、何も置かれていないこの部屋では、

それすらも気付きにくくなっていたのだ。

 

「ったく・・・、あのアマ、俺の身体に何しやがったんだ・・・、まぁ、この年齢ならある程度の融通は効きそうだがな・・・。」

 

めんどくさそうに頭を掻きながらも、

彼はどうした?とでも言いたげなミナに向き直る。

 

「何でもない、それよりも行こうぜ。」

 

「分かった、案内しよう。」

 

気を取り直し、彼等は連れ立って部屋を後にした。

 

sideout

 

side一夏

 

ロンド・ミナに連れられ、

俺はアメノミハシラ内に存在するMSファクトリーに脚を運んだ。

 

メカニック達の喧騒が聞こえて来たが、

以前の世界でも似たような所によく居たため、

これぐらいの事は既に慣れっこだ。

 

「着いたぞ、ここがお前がこれから利用する事になるMSハンガーだ、場所は大体覚えたな?」

 

「あぁ、分からなくなったら誰かを頼るさ。」

 

ロンド・ミナに短く返答しつつも、

俺は周囲の設備を確認する。

 

MSの武器であるとおぼしきライフルや、

今は使われていないMSデッキ等、俺が見たこともない光景が広がっていた。

 

ここに来て漸く信じる事が出来るな、

ISが存在しない、異世界の内の一つだという事を・・・。

 

それは良い、俺がこの世界に来たということは何かしらの任務があると言うことだ、

ならば以前の世界の常識など忘れ去り、この世界に身を染めるとしよう。

 

「凄いな・・・、これほどまでの設備、

人員、それに機体・・・、軍隊並、いや、それ以上か?」

 

「ここにはオーブより焼け出された民も集まっている、彼等全てに仕事を与え、いずれ訪れる再起の時の力を蓄えているのだ。」

 

なるほど、情報のみでなら知っているが、

オーブは既に滅んでいる、喩え残っている物があったとしても、それは所詮力を持たぬ小者のみ。

 

五大氏族の中でも今、最も力を有しているのがこのアメノミハシラ、サハク家だろう。

 

オーブの再建には、確かに力が必要となる、

ならば、強大無比な力を持って、反撃する、か・・・。

 

「再起の時、それはオーブの再建と言うことだけか?」

 

だが、オーブを奪回した後はどうなる?

オーブを支配している連合を排する様な行為を働けば、

間違いなく連合を敵に回す事になることは避けられないだろう。

 

その先に何がある?答えは至極単純な物になるだろう・・・。

 

「私の野望、世界支配の礎に過ぎぬ、

連合、ザフト、全てをオーブが支配することが私の望みだ、私の野望に手を貸せ、一夏?」

 

やはりな・・・、

だが、世界支配か、どうせ俺は戦いの中でしか生きられない、ならばそれに荷担するのも面白いというモノだ。

 

それに、俺にはもう・・・、守るべきモノなど何も無いからな・・・。

 

「なるほど、大体理解した、拾って貰った恩と、

アンタ個人への義理だ、俺も参加させてくれないか?」

 

「良いだろう、だが、その為にはそれなりの腕を着けて貰わねば困ると言うもの、分かっているのだろう?」

 

「あぁ。」

 

当然だ、俺には知識はあったとしても、

経験は無いと言うのが現状だ、現状では喩え動けたとしても、マトモに戦うことは不可能であると断言できる。

 

ではどうするか、

答えは至って単純、慣れろ、そして鍛えろ、それだけだ。

 

「では、私が直々に訓練を着けてやろう、

ソキウス達は恐らく加減をしてしまうだろうしな。」

 

なるほど、俺は見方を変えればスーパーコーディネィターと呼ばれる存在だが、

遺伝子を弄ってはいないため、ナチュラルであるという事には変わりはない。

 

ナチュラルを撃てないソキウスでは、

些か手に剰る存在と言っても過言ではあるまい。

 

「城主直々に、か?それは光栄だな。」

 

彼のロンド・ミナ・サハク直々に俺を鍛える、か・・・。

 

上等だ、ありがたい事この上無い。

 

「よろしく頼む、ロンド・ミナ、早速で悪いが、相手になってくれ。」

 

「良いだろう、直ぐに準備するがよい、

いや、その前にお前の機体に案内してやろう。」

 

俺の機体?

そう言えば何かMSに乗って漂流してたと言われたから、それの事だろうか・・・?

 

ロンド・ミナに連れられて暫く歩いていくと、

先程までの量産機が置かれていた場所ではなく、

ソードカラミティ、フォヒドゥンブルー、レイダー等のガンダムタイプの機体が置かれている区画にたどり着いた。

 

なるほど、量産機とワンオフ機で区画を分けているのか、確かにそれならば部材を混同させたりするミスも無くなるだろうから実に効率的だ。

 

と言っても、ここに置かれてるレイダーは制式採用機だから量産機といえば量産機なんだけどな。

 

にしても、本当にデケェな、

想像の中では大体の大きさは分かっていたが、目の前に立っているのを見ると、圧倒されてしまうものだな。

 

「着いたぞ、これがお前が乗っていた機体だ、名は、分かるな?」

 

ロンド・ミナが足を止め、彼女が見上げた先を見てみると、

特徴的なツインアイを持ち、アスリートの様に無駄な物を省いた様なスマートな印象を受ける機体が俺を見下ろしていた。

 

知ってるなんてものじゃない、

コイツとは幾つもの戦場を駆け抜けたんだ。

 

「GAT-X105、ストライクだよな、間違いない、俺の機体だ。」

 

「やはりな、バックパックを装備してない状態で宇宙を漂っていたのだ。」

 

そうか、お前まで来ていたのか・・・。

 

ロンド・ミナの言葉なんて耳に入らない、

俺の視線はストライクに釘付けになった。

 

以前の世界に俺と共に飛び込んだ機体だが、

あれはMSではなく、ISだった。

 

しかし、この世界にISは存在しない、

だからこそ、MSでなければ都合が悪い、

その為に、女神が手を回したんだと言うことぐらい、すぐに察する事が出来た。

 

なるほど、だからこそ、首に着けていた待機形態がなくなっていたのだな、これで合点がいったぜ。

 

だが、姿形は変わっても、コイツの本質は何も変わらない、

俺が最も慣れ親しんだ乗機であり、

何度も激しい戦いを乗り越えた相棒と呼べる存在・・・。

 

俺は独りじゃない、初めてそう感じることが出来た気がするよ。

 

「ロンド・ミナ、ストライカーパックの予備は無いか?

I.W.S.P.とは言わん、エールストライカーさえあれば、直ぐにでも俺は腕をあげてみせる。」

 

「すまない、エールは今は部材が手に入りづらい状況なのだ、I.W.S.P.ならば、ORB-02用の予備パーツがあった筈だ、それを組ませよう、

それまでは、M1Aにでも乗るといい。」

 

ミナは申し訳なさそうな表情を僅かに伺わせながらも、

M1Aが二機固定されている場所を指差した。

 

既に整備士達も作業を終えたようで、

周囲には殆ど人影は見えなかった。

 

「私の機体も整備が完了するまでの時は長い、

ならば、既に完成している機体を使う以外あるまい?」

 

「なるほど、その通りだな、それじゃあ、早速やらせて貰うかね。」

 

ロンド・ミナが言い切る前に、俺は動き出していた。

 

早く動きたい、出来る限り身体を動かしておきたい。

 

そんな感情が俺の身体を突き動かしていた。

恐らくは、寂しさを紛らわせるためなんだろうけどな。

 

漂流時に俺が着用していたと言われたパイロットスーツを身に纏い、

リフトを使用してコックピットに入る。

 

なるほど、これがMSのコックピットなのか。

 

実際に見たことは無いが、

戦闘機のコックピットに近いモノはあるな。

 

だが、モニターやペダル、それに操縦捍等は大きく異なっていた。

 

さて、乗り込んだは良いが、果たして俺に扱えるかが問題だ。

 

OSは並のコーディネィターが扱えるレベルに設定し、初心者向けのアシストも付けてはいるが、それでも不安は残る。

 

操縦マニュアルなんぞ、所詮はマニュアル、

何事も経験に勝るモノなど無いのだ。

 

為せば成る、そう思い込む以外成功する事も無いだろう。

 

「おい、あんちゃん!!」

 

「は?」

 

コックピットハッチを閉じようとした直前、

誰かが俺に話し掛けてきた。

 

あまりにも唐突だった為に、気の抜けた返事を返してしまったが、仕方ない事だと思う。

 

俺が声の主を確かめようと顔をあげると、

いかにも職人、と言わんばかりの中年の男性がコックピットを覗き込んでいた。

 

「ロンド・ミナ様から聞いたぜ!これからミナ様に仕えるんだってな!?」

 

「あ、あぁ、それはそうだが、貴方は?」

 

「俺か?俺はジャック・ウェイドマン!アメノミハシラの整備士長だ、あんちゃん、確かあのストライクのパイロットだったよな?」

 

呆然とする俺を置いてけ堀に、

ジャックと名乗った整備士は矢継ぎ早に質問してくる。

 

こういう気質のオッサンにはあった事があまりないから、正直対応に凄く困る。

 

「そ、そうだ、名乗るのが遅れてしまいました、

今日よりロンド・ミナ・サハクに仕える事になった、織斑一夏だ、よろしく頼みます、ウェイドマン整備士長。」

 

「おうよ、よろしく頼むぜ!」

 

握手を求めて差し出された手を握り、

俺は焦りが少し和らいだのを感じた。

 

やれやれ、何を焦っているんだ、俺は?

らしくない、あぁ、らしくないぞ。

 

「あんちゃん、いや、一夏はこれからミナ様と模擬戦をするんだってな?大体の配置は解るか?」

 

「はい、療養している間に操作法と操縦捍やフットペダル、それにコンソールの位置も大体覚えました、

後は自分の身体に馴染ませるだけかと・・・。」

 

「そうか!なら、心配要らねぇな!!頑張ってこいよ!!ストライクの方は俺が整備しておいてやるからな!!」

 

サムズアップしながらも言ってくれる事に安心したのか、

俺は自然と笑みが溢れた。

 

ありがたい、程よくリラックス出来た、

なんとか、やれそうだな。

 

「出撃します、ハッチを閉めるので下がってください。」

 

「おう!頑張ってこいよ!!」

 

ウェイドマン整備士長が離れていくのを確認し、

M1Aのハッチを閉じる。

 

ヘルメットのバイザーを下ろし、準備完了だ。

 

さぁて、まずはカタパルトまで歩かせねぇとな。

 

機体を固定していた金具が外れた直後、

俺は操縦捍を少し押し込んだ。

 

機体が動きだし、しっかりと格納庫の床を踏み締めて歩いていく。

 

ズンッ!という振動がコックピットにまで伝わり、

内心、気分の高揚が抑えられない。

 

さぁ、M1Aでの初出撃だ、

出来ることを出来る限りやれば良い、それだけで十分だ。

 

『進路クリアー、M1A、発進してください!』

 

「織斑一夏、M1A、発進する!!」

 

加速する際のGに、身体を抑え込まれる様な感覚に陥るが、どうという事は無い、

こんなもの、以前の世界で既に慣れている。

 

一つだけ違うことがあるとするならば、

飛び出す場所が重力も空気もない絶対零度の冷たさを持った真空の宇宙というだけだ。

 

周り一面を覆っていた無機質な壁が開けると同時に、

遠くに数多の星が煌めく宇宙へと飛び出した。

 

話には聞いた事はあったが、

本当に目の当たりにするとは夢にも思わなかったな。

 

「すげぇ・・・、吸い込まれちまいそうだ・・・。」

 

シートベルトで身体を固定しなければ、

身体が浮いてしまいそうな感覚があるから余計に実感出来る。

 

ここが本当に宇宙なのだと。

 

『来たか。』

 

宇宙の光景に見入っていると、

俺の気を引き戻すかの様にスピーカーからロンド・ミナの声が聴こえて来た。

 

「あぁ、出撃時のGには慣れてたからどうという事は無い、だが、本題はこれからだよな?」

 

『そうだ、まずはマニュアル通りに機体を動かしてみろ、模擬戦はそれからだ。』

 

「了解した。」

 

彼女に言われた通り、まずは機体の姿勢維持を意識し、ゆっくりとスラスターを吹かし、

彼女の機体の周囲を動き回る。

 

ここまではまずまずだな、

出来て当然というべきレベルだしな。

 

『初めて動かしたにしては、中々の動きではないか、

次に武器を使ってみろ。』

 

「OK、織斑一夏、M1A、狙い撃つぞ。」

 

M1Aの右手に保持されていたロングライフルをスナイプモードに切り換え、

遠くにあるデブリに照準を合わせる。

 

引き金代わりとなるボタンを押し込み、

ビームを発射した。

 

それは漆黒の宇宙空間を突き進み、

照準を合わせていたデブリに直撃した。

 

乗ってみて分かる、この機体は本当に誰にでも使いやすい、良い機体だ。

 

『ほう?なかなかやるではないか、もっと的外れな場所を狙うと思っていたが、どうやら杞憂の様だな。』

 

「機体のサポート機能のお陰だ、それがなけりゃ、とっくにひっくり返ってるさ。」

 

この機体の安定が保たれているのは俺の腕等では無く、単純にM1Aに搭載されているOSの優秀さの賜物だと言える。

 

それを自分の腕と履き違える程、俺は愚かでは無い。

 

まだまだ精進が必要な様だな、

面白い、だからこその命だ。

 

『では、私とのセッションでもするとしようではないか、そろそろ慣れてきた頃であろう?』

 

「望む所だ、よろしく頼む!」

 

ありがたい、変な癖を付ける前に、エース級以上のパイロットと戦える事なんて無い。

 

それが俺の技量の向上に繋がるならば、

何も躊躇う事など無い、ただ、やり遂げるのみだ!!

 

sideout

 

noside

 

ミナの言葉を受けた一夏は、

フットペダルを踏み込み、一気に彼女の乗るM1Aに向かっていく。

 

M1Aは元々、宇宙空間での使用を想定している為、

原型機であるM1アストレイよりも、宇宙空間では高い運動性能を誇り、AMBAC機能も三割増しな為、

量産機の中でも頭一つ抜きん出たスペックを誇っている。

 

その上、乗り手を選ばない操作性の良さも相まって、

アメノミハシラを守護する主戦力に恥じない活躍を見せている。

 

だが、その性能を活かし、限界以上の動きを見せるのも、性能を殺してしまうのもパイロットの力量次第という事であった。

 

ロンド・ミナ・サハクはコーディネィターとして非常に完成度の高い能力を誇っていると同時に、

自身が積んだ修練の賜物としての技量の高さを持っている。

 

それに対し、一夏は秘めたる能力はロンド・ミナよりも俄然上位に位置するも、MSを動かした経験が皆無な為、その能力を十全に発揮出来てはいない。

 

「くそっ・・・!!やはり慣れてないせいで巧く扱えんか・・・!!」

 

模擬戦用のシールドと一体化していた訓練刀を引き抜き、彼は相手に向けて迫る。

 

しかし、その差はあまりにも大きく、一夏が攻めているにも関わらず、ミナは微風でも吹く様な感覚で回避していた。

 

「良い機動だ、初搭乗でその機動は滅多に無い、

誇りに思って良い。」

 

「ありがたいが、俺はこんな事で満足できない性分でな!!」

 

機体を反らし、攻撃を避けるだけの行動に、

彼は内心で燻る焦りを隠せなかった。

 

嘗ての世界で最強と謳われた自分が翻弄される事への不甲斐なさが、その焦りをより大きくしているのであろう。

 

「(クソッ・・・!俺ごとき、マトモに相手にするのも徒労だって訳か!?)」

 

どれ程攻撃しようとも、直撃どころか掠りもしない事への苛立ちが、彼を力ませ、能力を十全に発揮しきれない状況へと陥らせていた。

 

「(MSの扱いには慣れていない様だが・・・、

ここまで戦い慣れているとは思わなかったな・・・、

良き者と手を組めたものだ・・・。)」

 

一夏が苛立ち始めている最中、

彼を相手取っているロンド・ミナは、内心冷や汗と高揚を抑えるのに必死だった。

 

まさか自分が心踊る相手と巡り会えるとは露程にも思った事もなく、ただ己の力を誇っていたのだ。

 

「(まだまだ粗い部分は多い、だが、磨けばいずれは・・・。)」

 

その先を想像し、彼女は僅かに身震いした。

 

何十を越える機体をたった一機のMSが相手取る、

正に一騎当千に値する場面を幻視したのだろう。

 

だが、それは現実になりうる可能性を持っていた、

 

何せ、織斑一夏という男は、

それを実現しうるポテンシャルをその身に秘めているのだから。

 

「だが、今はまだ、耐える時だぞ、一夏!」

 

一夏が駆るM1Aの斬撃を左腕に装備されていたシールドで逸らし、そのままの勢いで訓練刀を引き抜き、

コックピット部に直撃させた。

 

「ぐぅぁっ!?」

 

いくら慣れてるとは言えども、

自身の攻撃をいとも容易く流し、そのまま攻撃を叩き込まれた事による衝撃への備えが出来ていなかった彼の身体は、無慈悲に揺さぶられ、一瞬の硬直を生み出した。

 

「終わりだ!」

 

その硬直を見逃す程ミナは甘くない、

強引にスラスターを吹かし、後ろ回し蹴りを再びコックピットに叩き込んだ。

 

「がは・・・っ!?」

 

二度目の衝撃を堪える間もなく、

彼は激しくシートに押し付けられた。

 

彼の乗るM1Aは大きく後方に吹き飛ばされ、

付近を漂っていたアメノミハシラの構造部材に叩き付けられた。

 

「コックピットにサーベルの直撃、

実戦ならばお前は戦死だな、一夏?」

 

「そうだ・・・、俺の敗けだ、

それを認めない程、頑なじゃないさ。」

 

ロンド・ミナの問い掛けに顔をしかめながらも、

彼は降参の意を表した。

 

その拗ねた様な仕草に、

彼女は少々苦笑しながらも、彼が乗るM1Aを掴み、

アメノミハシラに向けて機体を駆った。

 

「お前はまだまだ粗い部分が多い、

だが、伸び白は計り知れない、熱くならず、今は堪えろ。」

 

「全くだぜ・・・、熱くなりすぎたか・・・。」

 

揺さぶられた際に首でも痛めたか、

首に手を当てながらも彼女の講評に返答し、

自分でも情けないと言わんばかりに溜め息混じりに呟いていた。

 

「だが・・・、これで生き甲斐が出来ると言うものか、な・・・。」

 

ヘルメットを脱ぎ捨て、パイロットスーツの胸元を大きく開きながらも、

彼は何処か愉しげに呟く。

 

まるで、我が意を得たりと言うかの様に・・・。

 

sideout

 

side一夏

 

アメノミハシラへと戻った俺は、

汗を拭う事すらせずにストライクのコックピットに乗り込み、

OSの再設定を行っていた。

 

M1Aに乗っていて、ほんの僅かだけ感じた事なのだが、

並のコーディネィターが扱うレベルのモノでは、

俺の反応に付いてこれない様だ。

 

先程の模擬戦ではそこまで感じることは無かったが、

それは所詮、俺が慣れる為の試験稼働だったからであり、

もし、俺が機体の性能をフルに引き出そうと思うのならば、OSの設定を書き換えねばならない。

 

そういう訳もあり、早速作業に打ち込んでいると言う訳だ。

 

時はまだまだ来ない、何せ、ロンド・ミナが動くのは恐らくこの戦争の終結後、それも連合、ザフトが互いに疲弊しきった時だ。

 

漁夫の利を狙う様だがそれも戦略の内のひとつ、

卑怯もへったくれも無い。

 

俺も、狙うとすれば相手が弱りきり、

戦う力が皆無な時だろうしな、別にどうとも思わない。

 

それに掛かって負ける方が悪い、

戦いとは常にそう言うものだ、敗者は勝者に対してひざまづかねばならない。

 

そうさ、最後に王となるのは、

我が主、ロンド・ミナ・サハクだ。

 

今の俺は彼女の忠実な飼い犬、

ならば、彼女の野望を叶える為に、身体張ってやろうじゃねぇか。

 

何の為に、俺がこの世界に来たのかは分からねぇが、

やるべき事が出来た以上、それを為すために我武者羅にやるしかねぇんだ。

 

さてと、調整も大方終わった、後は実際に動かしてから考えるか。

 

コックピットから出て行き、リフトを操作してストライクのヘッドまで登る。

 

幾度となく死線を潜り抜け、

何度も俺の命を救ってくれた相棒・・・。

 

その姿をISからMSに変えても尚、

俺の命を護ってくれた大切な機体・・・。

 

「ありがとな、ストライク、お前とはまた、共に戦うことになる、

俺の命、もう一度お前に預けるぜ。」

 

機体が物を言わぬと分かっていても、

何処か俺の気持ちを汲んでくれているような気もする。

 

俺は孤独ではない、

お前だけでも、かつてのモノがこの世界に来てくれているなら尚更だ。

 

だが・・・、やはり両隣が寂しいな・・・。

 

物理的な理由だけでなく、精神的な理由もあるのだが・・・。

 

どうして俺だけ生かされたのだろうか?

孤独に苛まれ続けろという呪いなんだろな、これまで殺めた命への贖罪という意味の呪いだ。

 

だからこそ、セシリアとシャルが俺の傍にいてくれないのだろう、

これこそ、俺にとっては最大の苦痛であり、最大の咎だ。

 

だが、この痛みを抱えたまま生き続けなければいけない、

それが俺への罰だ・・・。

 

セシリア、シャル、共に逝けずにすまない、

俺はこの世界で生きていく、お前達を忘れる訳じゃないから・・・。

 

「じゃあな、もう少し待っていてくれ、何時の日か、俺は必ずお前達と・・・。」

 

ストライクと、此処にはいない二人に告げた後、俺はリフトに乗り込み、

アメノミハシラの床に降りてロンド・ミナの下へと歩く。

 

この世界こそ、俺が再び活きる場所なんだと、己に言い聞かせながらも・・・。

 

sideout

 




次回予告

離れ離れとなった者達への想いを募らせながらも、
彼女が進む道とは何なのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

惑い

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