機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
noside
「あのMSは・・!」
ジャンク船、リ・ホームの艦橋で、風花は戦場に乱入してきた機体の姿に目を見張った。
その機体は、つい何日か前に劾のブルーフレームを追い詰め、セシリアの助力で何とか撤退させる事の出来た機体であり、その力は正しく本物、今のリ・ホームの戦力では倒せる敵では無い事は明白であった。
「どーしよ~!!新しい敵が出てきちゃったよぉ~!!」
「メンデルで襲ってきた奴ね、只者じゃなさそうなのは確かね。」
樹里とプロフェッサーの反応を見る限り、彼女達は既にあのMSと接触がある様だ、樹里の怯え方からして何かあった事だけは間違いない。
だが、これでハッキリした、あのMSは間違いなく危険であることが・・・。
だが、ここにいる彼女に出来る事があるとすれば、敵の動きを見極め、相手がどの様な戦法を使ってくるかを観察する事だけだった。
「(皆・・・、どうか無事でいて・・・。)」
仲間の無事を想い、彼女は小さく祈った・・・。
sideout
noside
「核搭載MSの情報を持つザフトを追っていたら、思いもしなかった奴と出会ったな・・・、まさか、生きているとは思わなかったぞ、赤いガンダム!」
ザフトとジャンク屋が入り乱れる戦場に乱入したMS、ハイぺリオンのパイロットであるカナードは、自身が撃墜したと思っていた機体がいる事に僅かに驚きながらも、銃口を赤い機体に向けた。
彼はアルテミスの指令であるガルシアが寄越した情報を基に、ザフトを追っていたのだが、どういう訳か、その標的がジャンク屋を襲っている様を捉えた。
しかも通信の内容をよくよく聞いてみれば、自分が追っていたMSをそのジャンク屋が持っていると言うではないか、これ程の僥倖、見逃す手は無い。
それに、自分がザフトを排せば、その技術は自分の機体が独占できる、願ったり叶ったりである事は間違いなかった。
故に戦闘に介入し、邪魔になるものをこれから排除しようと動いたのだ。
メンデルで遭遇した赤い機体も、彼に警戒しているのだろう、実体剣を構え、ハイぺリオンと向かい合う様な形で出方を窺っていた。
彼もそれを察知し、気を引き締め、赤い機体の出方に気を配る、自分の攻撃から逃れた機体だ、それなりの用心をしておいて損はないだろう。
そんな時だった、二機の、間に割り込む様に銃弾が発たれ、虚空を横切ってゆく。
それに反応した彼等は、まったく同時に弾丸が飛んできた方向へ目を向けた。
そこには銃剣を構えたジンのカスタム機、ジンハイマニューバの姿があった。
ジンハイマニューバ、既存のジンをベースに、次世代型スラスターを装備した機体であり、構成パーツの大半をノーマルのジンと共用しているため、生産性、整備性共に優れており、現在はエースパイロットを中心に配備が進められている機体の一つであり、多くの戦線で高い戦果を挙げている。
『やれやれ、極秘任務中にとんだ邪魔物が入ったモノだな、識別からして連合か?』
「なんだ貴様は?」
横槍に少し苛立ったのだろうか、カナードは棘を含んだ言葉を乱入してきたパイロットに投げ掛ける。
『質問に質問で返すとは、不躾な奴だな、まぁいい、私の名はミハイル・コースト、短い付き合いになるだろうが覚えておくと良い、まずはお前から処理してやろう。』
「処理だと?お前達がこの俺をだと?」
ミハイルと名乗った男の声に、カナードは僅かな侮蔑と、狂喜を滲ませた声で尋ね返した。
会敵したばかりで、戦闘能力もなにも分からない相手に対し、そんな言葉を吐ける彼を面白く思ったのだろう。
よほど自分の腕に自信を持っているのか、それとも己の力量も弁えられないただの愚か者か・・・。
『そうだ、そのMSがどの様な能力を持っているかは知らないが・・・、この私の指揮する部隊に勝てると思うなよ!!』
そう叫ぶや否や、ジンハイマニューバは速度を上げ、ハイぺリオンへと突っ込んできた。
「面白い、まずは貴様からだ!!」
ビームマシンガン、ザスタバ・スティグマトを構えた彼は、撃ち掛けられる弾丸を回避し、反撃にビームサブマシンガンを発砲した。
だが、彼が発った弾丸をいとも簡単に回避し、ハイぺリオンとの間合いを詰めながらも攻撃を仕掛けてくる。
「くっ・・・、やるな!」
思った以上の腕に、カナードは自分の中の何かが沸々と滾ってくるのを感じていた。
面白い・・・!キラ・ヤマトを見つける事は今だ叶っていないが、その代わりに腕の立つパイロットとよく相見え、その分、彼の生き甲斐である戦いを思う存分行えるのだ、心が沸き立って当然だ。
それに加え、ミハイルの僚機である他のジンからも攻撃が集中し始め、彼を責め立てて行く。
「ジンにしては動きが良い・・・、だが、数さえ揃えれば勝てると思っているのか!!」
相手の機体性能に感嘆しながらも、彼は敵のフォーメーションの杜撰さを見抜いた。
全機がただ同時、または時間差で攻撃すると言った、基本的かつ単調な攻めしか行ってこない。
確かに一般的なMS相手ならば効果的である事は間違いない、だが、カナードは曲りなりにもスーパーコーディネィターの資質を持っている、そんな彼に単調な攻撃が利く筈もない。
「バカめ!組織戦と言うモノを教えてやる!!」
この程度の敵など、自分の隊で磨いてきたフォーメーションには遠く及ばない、そう感じた彼は数機のジンから距離を取り、右手首から信号弾を発射した。
程なく、近隣宙域で待機していたオルテュギアが接近、六機のメビウスを発進させた。
メビウス、地球軍が開戦当初から使用していたMAであり、宇宙空間専用の戦闘機だ。
ただし、MAであるが故に旋回性がそれ程高くなく、高い機動性を持っていたMS相手には次々と撃墜されていった。
そんな時代遅れとも、そして無謀とも言える機体を何故彼は呼んだのだろうか・・・?
「兵器の優劣が勝敗を決する訳ではない、要は戦い方なんだよ。」
そう言いながらも、彼はコックピット内の機器を操作、ハイペリオンの特殊装備、アルミューレ・リュミエールを展開する。
「行くぞッ!!」
烈迫した意志と共に、彼はハイペリオンを敵の中枢へと突入させる。
それを認めた敵機は、ハイペリオンに向けてマシンガンやレールライフルを撃ちかけてくるも、光の壁に阻まれる。
「バカめ、このアルミューレ・リュミエールをその程度の攻撃で突破出来ると思うなよ!!」
アルミューレ・リュミエールは純粋なエネルギーで構成されたビームシールド、それを破れる兵器は今のところ、耐ビームコーティングを施された武装のみだ。
それを知っている彼は、それを基に戦術を立てていたのだ。
「これで終わりだッ!!消えろぉーッ!!」
トリガーを引き、彼はビームサブマシンガンを周囲に展開するザフトMSに向けて乱射していく。
一発一発の威力は低くとも、連続して降り注ぐ銃弾は、充分な驚異だった。
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉーッ!!」
彼は叫びながらも、弾切れを起こしたカートリッジを排除し、別の弾倉を充填、再び乱射するという手順を繰り返した。
予備として腰部に装備していた弾倉が尽き、本体に接続していた弾倉も弾切れを起こす頃には、周囲に展開していたザフトのMS部隊は撃破されてはいなかったものの、大なり小なりダメージを負っていた。
「今だ、殺れ!」
それを確認し、後方で待機していた僚機に通信を入れ、自身は僅かに後退する。
ハイぺリオンを追尾しようと追いすがるジンもあったが、スラスターを破壊された機体も多く、速度もあまりにも鈍重だ。
それに、彼等は気付いていなかった、今のハイぺリオンはただの囮である事、そして本当の脅威は別にあるという事を・・・。
カナードの指示で、後方待機していたメビウスが編隊を組み、傷つき、回避もままならぬジンに襲い掛かった。
機首に装備されたリニアガンがジンの装甲を貫き、爆散させてゆく。
逃れる事も出来ないまま、ザフトは瞬く間に殲滅されてゆき、残ったジンハイマニューバは単独で戦線を離脱していった。
「一機逃がしたか・・・、まぁいい、邪魔者は消えた、さぁて、臨検をさせてもらおうか?」
敵戦艦もオルテュギアの艦砲で轟沈したところだ、これで邪魔者は完全に消え去り、この宙域に残るは自分達と、目標のMSを積んでるジャンク屋の船だけだ。
その船所属のMSはすでに帰投しているらしく、彼の周りで動くMSの姿は見当たらなかった。
「(もうすぐだ・・・、待っていろキラ・ヤマト・・・、この船に積まれている物を頂いて、貴様を・・・!)」
今だその姿をとらえた事も無い仇敵に向け、彼は仄暗い笑い声と共に狂喜を滲ませた。
それは、まさしく悪鬼と呼ぶに相応しいものであり、聞く者全てを震え上がらせるものだった・・・。
sideout
noside
「ザフトが・・・。」
同じ頃、リ・ホームの艦橋内は何とも言えぬ重苦しい雰囲気に包まれていた。
自分達を追いつめていたザフトが、瞬く間に殲滅された事への驚愕が大きく、樹里は完全に取り乱してしまっていた。
「絶対的防御力を持った機体を敵中枢に突入させ、機動力を奪い、傷付いた機体を後方に控えたMAで止めを刺す・・・、恐ろしく計算されつくした戦法ですね・・・。」
そんな彼女の隣で、風花は至極冷静に状況を分析し、敵の戦法を評していた。
彼女の言葉通り、ハイぺリオン率いる連合軍は恐るべき戦法で、戦力的に上位に立っていたザフトを壊滅させてしまったのだ。
これを脅威と言わずして何と言えば良いだろうか・・・?
「ここまで計算された戦法を取ってくるなんてね・・・、今までの敵とは一味も二味も違うと言うわけ、か・・・。」
「で。でも、ザフトをやっつけてくれたんだし、いい人達なんじゃぁ・・・?」
プロッフェサーの溜息交じりの呟きに、もしかして助けてくれただけなんじゃないのと言いたげな樹里が、彼女の様子を窺う様に尋ねるが・・・。
「ないだろうな。」
「今のリ・ホームの戦力では絶対に勝てない相手である事は間違いないでしょう、それに、こっちを狙っているみたいです。」
「そ、そんなぁ~・・・!!」
彼女の考えを否定する様なジョージの呟きと、風花の冷静な分析に、彼女はまたしてもこの世の終わりの様な声を上げ、蹲ってしまった。
だが、彼女の絶望も理解できる物であることは間違いない、なにせ、一難去ってまた一難だ、泣きたくもなるだろう。
「・・・、プロフェッサー、皆を船に戻してください、私に考えがあります。」
「分かったわ、どうせ逃げ切れる様な相手でも無いでしょう、此処は策を講じるなりしてやり過ごしましょう。」
風花の言葉に同意する様に頷き、プロフェッサーは通信機を操作し、出撃中の各機体に通信を入れた。
「皆、船に戻って頂戴、少しでも時間を稼ぐわよ。」
危機的状況にも関わらず、プロフェッサーは何処か豹を思わせる様な顔で笑う。
「見せてやろうじゃ無い、ジャンク屋と傭兵の戦い方をね・・・?」
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「くそっ・・・、生き残りは私だけか・・・、何が精鋭部隊だ、使えぬ奴等め・・・!!」
宙域を離脱するジンハイマニューバのコックピット内で、パイロットであるミハイル・コーストは、自分が指揮した作戦が失敗した事に毒づいていた。
元々は医者である彼のプライドは高く、自分の腕に絶対的な自信を持っていた。
そのため、迅速且つ的確に戦闘を行い、敵を殲滅させる事においては、成功率95%という驚異の数字を残し、その神業的な戦術、戦い方、そして医師であったという事から、何時からか〈ゴッドハンド〉と呼ばれる様になっていた。
そんな彼が、突如として乱入してきたMSに敗れたのだ、毒づきたくならない方がおかしいといえるだろう。
「ちっ・・・!この私がオペレーションミスとは・・・!!まぁいい・・・、極秘任務の最中だったのだ、表沙汰にはなるまい・・・。」
彼の言葉通り、先程の作戦は協定違反の作戦だ、表沙汰になればザフトの、ひいてはプラントの立場を悪くしかねない問題だ、それをわざわざ公表する様なマネはしないだろう。
それ故に、彼の表向きの経歴に傷が付く様な事は無い、だが、それでも敗北した事への不満、悔しさが無い訳ではない。
「この借りはいつか必ず返してやるぞ、連合のMS・・・!」
何時か訪れる再戦を固く誓いながらも、彼の乗る機体は虚空を進んでゆく。
その先にある、新たな戦場へと・・・。
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次回予告
ドレッドノートを狙うカナードと、ドレッドノートを護るプレアが今、巡り会う。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY
ジャンク屋の戦い 前編
お楽しみに~。