機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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過去と今と

noside

 

L3宙域を、ジャンク船、リ・ホームはゆったりとした速度で航行していた。

 

特に急ぐ仕事も無ければ、今向かうべき所も無いため、仕事の依頼を待ちながらのんびりと航行しているのであろう。

 

「うーん・・・、モーターが見事なまでにイカレてるな・・・、一体何やったんだよ?」

 

その格納庫内、正確にはそこに置かれているデュエルに取り付き、何やら作業しているロウは、少し離れた所に立ち、作業の様子を見ているセシリアに尋ねた。

 

「タクティカルアームズを無調整のまま使ってしまいまして・・・、やっぱり駄目でしたか・・・?」

 

「そりゃそうだ、レッドフレームとブルーフレームには専用のチューニングを施してるが、このデュエルは無調整なんだろ?タクティカルアームズを使っちまったらそりゃイカレちまうぜ。」

 

何処か不安そうに話す彼女に、彼は少し苦笑交じりで理由を話していた。

 

「そうですか・・・、直りますわよね?」

 

「任せとけって!俺は宇宙一のジャンク屋なんだぜ!完璧に直してやるぜ!!」

 

不安そうなセシリアを励ます様に笑いながらも、彼はデュエルの腕の修理を続けていた。

 

「それにしても・・・、世の中何があるか、本当に分からないよね。」

 

そんな彼女に、作業の様子を見ていたシャルロットはドリンクボトルを手渡し、しみじみと呟いていた。

 

「そうですわね・・・、つい先程まで、会えないと思っていましたのに、ね・・・。」

 

彼女からドリンクボトルを受け取り、口を着けつつも、セシリアは嬉しそうに呟く。

 

彼女の想いも当然であると言えるだろう、何せ、最初は自分だけが見知らぬ世界に飛ばされたと、孤独に苛まれながらも生きてゆくと諦めていたのだ。

 

そこに、嘗ての世界での最愛の友が、生きて同じ世界にいると知り、再び巡り会う事が出来たのだ、嬉しくない訳が無かった。

 

「うん、最初にデュエルを見た時はそんな事有り得ないって僕も思ったよ、まさかそんな都合よくセシリアが来てくれたなんて、考えられなかったんだもん。」

 

「お互い様ですわ、私もそうでしたもの。」

 

二人は互いの顔を見合わせつつも、何処か照れくさそうに笑っていた。

 

その雰囲気は、嘗ての世界でのモノと全く変わる事無く、ただ愛しい者との時間を楽しもうとする想いだけに包まれていた。

 

「本当に仲がいいんだね、セシリアとシャルロットって・・・、アタシが割り込める隙なんてないね・・・。」

 

そんな中、風花は彼女達の傍により、二人の仲の良さを羨ましそうに呟いた。

 

彼女はサーペント・テールと言う組織の中で育ってきたと言う事もあり、年上の大人達と接する機会は幾度もあった。

 

しかし、それと同時に、同世代の子供と接する機会は非常に乏しく、取り立てて仲の良い同年代の人間ははっきり言って皆無に近い。

 

それ故に、同性であり、同い年であるセシリアとシャルロットの関係を非常に羨ましく思っているのであろう。

 

「そうだね、僕の初めての友達だったし、同じ人を好きになってたからね。」

 

「えぇ、一度死ぬ直前までご一緒しておりましたもの、そんな御方を軽んじる事なんて出来ませんわ。」

 

そんな彼女に微笑みかけながらも、二人は自分達の思い出を語る様に話し始めた。

 

殺戮を繰り返すばかりの荒んだ日もあった、誰かの想いを踏みにじる時もあった・・・。

 

しかし、そんな辛い時でもいつも一緒に戦ってきた、最高の友と呼び合える間柄だったからこそ、共に想い合い、笑い合えて来れたのだ。

 

「いいなぁ・・・、アタシも二人とそういう関係になりたいなぁ・・・。」

 

同世代で同性は今だ会った事はないが、彼女達ならば自分を対等な存在として接してくれるかも知れないと、風花は直感でそう思っていた。

 

尤も、セシリアとシャルロットならば、友達と言うよりは姉と呼んだ方が良いかもしれないが、彼女の性分からすれば、やはり対等の存在で在りたいと願っているのだろう。

 

「ふふっ♪私と風花さんは、もう友達ではありませんか、焦らずとも、いずれもっと仲良くなれますわ♪」

 

「そうだね、セシリアの友達は僕の友達だよ、今はまだ会ったばっかりなんだもの、まだまだ先は長いんだ、これから仲良くしていこうね♪」

 

そんな彼女の心情を察した様に微笑みかけながらも、彼女達は風花の頭を撫でながらも語りかけた。

 

自分達の雰囲気は長い付き合いが在ってこそだと、だから無理をしてそうなろうとしなくても良い。

 

そんな彼女達の思いやりが溢れていた。

 

「セシリア・・・、シャルロット・・・。」

 

彼女にとって頭を撫でられるという事は、子供扱いされているのと同義だったが、今回は不思議と心地良さを感じていた。

 

二人が年上だからという訳ではない、恐らくは彼女を自分達と対等の存在として見ながらも、何処か妹を見る様な優しさを持っているからなのだろう。

 

「うん・・・、ありがとう・・・。」

 

同時に二人の姉が出来た様な感覚を憶えながらも、風花は笑っていた。

 

その笑顔は劾や母親のロレッタ、そしてサーペント・テールのメンバーにもあまり見せた事の無い、心からの笑みだった。

 

「ねぇ、シャルロット~、この前教えてくれた一夏って人の事、もっと知りたいんだけど~。」

 

そんな中、ロウを手伝っていた樹里が、自分が手伝える範囲が終わったのだろうか、彼女達の傍にやって来ながらも尋ねた。

 

どうやら、ガールズトークに気付き、自分も参加しようと考えたのであろう、その瞳はある種の好奇心に輝いていた。

 

「一夏様の事、ですか・・・?」

 

樹里の問いに、セシリアは困惑の色を浮かべながらも、隣に立つシャルロットの表情を窺う様に視線を向けた。

 

「うん!セシリアも知ってるんだよね?二人が好きだった人の事、気になるんだもん!それにさ、二人みたいに生きてるかもしれないじゃない、どんな人か知っておけば、シャルロット達が会えなくても、もし私が会えたら、その人に二人が生きてるって伝えられるでしょ?」

 

「「っ・・・!?」」

 

彼女の言葉に、セシリアとシャルロットは驚きに目を見開いていた。

 

どうやら、その可能性に辿り着いていなかったのだろう、親友との再会で、ある種の幸福を味わっていたため、愛した男も同じ様に生きている事を考える余裕が無かったのだ。

 

「(一夏様が・・・、生きているかもしれない・・・。)」

 

「(僕達が生きてるんだ・・・、有り得ない話じゃない、かな・・・。)」

 

確かに考えてみれば、何の不思議も無い。

 

彼女達は彼と共に死んだも同然、そんな自分達がこの世界に流されているのだ、彼も例外では無いと考える事も出来る。

 

だが、それは所詮可能性でしかない、高望みをし過ぎていれば、今度こそ裏切られるリスクも当然出てくる。

 

いや、今現在では裏切られる確率の方が高いだろう、何せ、彼の手掛かりとなるモノを何も見付けられていないのだから・・・。

 

だが、会えるものなら、どれだけ傷つこうとも、裏切られたとしても望みだけは捨てたくない、それが今の二人の共通の心境であった。

 

「(セシリア、一夏の事、教えてあげようよ、樹里はロウの事が好きなんだよ、だから、僕達の話も聞いて参考にしておきたいんだと思うよ。)」

 

「(えぇ、私もそう思っていた所ですわ、なるほど・・・、やはりそういう事でしたか、ふふっ、可愛らしいですわね♪。)」

 

気持ちは同じとばかりに、彼女達は互いに耳打ちし、樹里に向き直った。

 

「分かりましたわ、樹里さんがお喜びになりそうなお話をお聞かせ致しましょう♪」

 

「うんうん!聞かせて聞かせて!とびっきり濃いの!!」

 

彼女の言葉に、樹里は絵本の読み聞かせを心待ちにしている子供の様に表情をパッと明るくし、続く言葉を待っていた。

 

そんな樹里の様子に、風花とシャルロットは苦笑を浮かべながらも顔を見合わせていた。

 

「そうですわね・・・、シャルさんから既にお聞きになっているところもあるでしょうが、やはり、とてもお強く、そして何処までもお優しい方でしたわね・・・。」

 

愛しき男を、自分の運命を良くも悪くも変えた男を、彼女は慈しむ様に話した。

 

「優しいだけじゃなくって、自分で如何したいかを決めさせてくれる人だったね、まぁ、放任主義って言われたら否定できないんだけどね。」

 

シャルロットも語り始めるが、どこか冗談を言う様な口調で話し、何とか暗い雰囲気に持っていかない様に勤めていた。

 

「へぇ~・・・、セシリアもやっぱり、その人に好きだって言ってもらえたの?」

 

その事に気付かない様にしているのか、それとも本当に気付いていないのか、樹里は身を乗り出し、セシリアに尋ねていた。

 

彼女の隣にいる風花も、何だかんだで気になるのだろう、ジッと彼女達を見詰め、話の続きを待った。

 

「えぇ、最初は偶然、私とシャルさんの立ち話を一夏様が聞かれていて、その流れで言って頂けましたの♪そう何度も言ってはいただけませんでしたが、それでも、行ってくださる時は、大事にしてくださいましたわね♪」

 

「そんな事もあったね~♪あの時は恥ずかしくって、凄く暑かったよね~。」

 

セシリアの思い出話に、シャルロットはそんな事もあったと笑っていた。

 

そろそろ惚気に入ってきそうだが、生憎彼女達を止める者は、近くにはいない。

 

「いいなぁ~・・・、聞いてるだけで二人が幸せだったって分かるね・・・、あっ、そうだ、その人ってどんな顔だったの?」

 

二人の話にテンションが上がってきたのだろうか、樹里は一夏の容姿を彼女達に訪ねていた。

 

確かに、一夏の顔を知っていればセシリア達が彼に会えずとも、樹里や風花が彼にあった時に彼女達の存在を伝える事が容易になる。

 

そのためかどうかは定かではないが、樹里の判断は正しかった。

 

「え?一夏の顔・・・?教えたいんだけど・・・、写真とかあったかな・・・?」

 

「さぁ・・・?そういえば、一緒に写真を撮った事、ありましたかしら・・・?」

 

だが、当の本人達は、その問いに困惑し、顔を見合わせていた。

 

そう、彼女達は彼とあまり写真を一緒に撮った事が無かったのだ。

 

転移してきた為とも言えるが、かつての私物は悉く失われ、残っている物は皆無だった。

 

その為、彼に貰った指輪が無くなっていた事に気付いた彼女達は、残っていると思っていた唯一の繋がりが断ち切られたと思い、発狂しかけたという。

 

それは置いといて・・・。

 

「そっか・・・、絵でも書けたらいいのにね・・・。」

 

彼女達の反応に、樹里は何処か申し訳なさそうに項垂れた。

 

自分のせいで嫌な思いをさせてしまったとでも思ったのであろうか・・・。

 

彼女達の間に気まずい雰囲気が流れ始める、正にその時だった。

 

「おーい、セシリア~、デュエルの修理終わったぜ、後で動作確認しといてくれよ。」

 

修理が終わったのであろう、ロウが工具を持ったまま彼女達の方へとやって来た。

 

「あっ、ロウさん、お手数をお掛けしましたわ、ありがとうございます。」

 

それに気付いたセシリアは彼の方へ行き、その顔に笑みを湛えて一礼した。

 

「良いってことよ、俺も珍しいMSが弄れて楽しかったんだしな、それはそうと、さっきコックピットでこんなもん見付けたんだが、見覚えはないか?」

 

「はい?」

 

ロウがポケットから取り出したのは、写真の様な紙であったが、それに心当たりのない彼女は首を傾げながらも受け取った。

 

裏返しにされていたため、写真を見るために表側を見てみると、そこにはかつての世界でのセシリアとシャルロット、そして・・・。

 

「っ・・・!一夏様・・・!?」

 

「えっ・・・!?」

 

セシリアの声に驚き、シャルロットはその写真を覗き込み、口元を押さえた。

 

そう、そこに写っていたのは、彼女達が愛した男、織斑一夏のかつての姿だったのだ。

 

「え?この人が、一夏って人・・・?」

 

彼女達と同じ様に写真を覗き込んだ樹里は、彼の顔に釘付けになった。

 

癖のある黒髪、端正な顔立ち、この世界ではあまり見ない、黒曜石の様な黒い瞳、そして何よりも、その幸せそうな笑顔・・・。

 

その全てが魅力的でありながらも、何処か浮世離れしている様な美しさに、いや、正しくは得体の知れなさに樹里は息を呑む。

 

本当に彼は人間なのか・・・?

それだけが彼女の頭を占めていた。

 

浮かべている笑みまでもが何処か作り物めいており、人間にある感情というものが、写真に写る彼からは見受けられなかったのだから・・・。

 

「ねぇ・・・、セシリア・・・、この人って・・・?」

 

「ご安心くださいな・・・、この御方は、ちゃんと人間ですわ。」

 

彼女の思いを察したのか、セシリアは彼女を安心させる様に微笑んだ。

 

だが、その笑みには何処か影があり、哀しんでいる様にも見えた・・・。

 

「分かってるよ・・・、この時の彼、人間辞めてたから、感情の無い人形みたいに見えるんだよ・・・。」

 

「何と言えば良いのでしょうか・・・、私達の、消し去れない過去と罪という事ですか・・・。」

 

シャルロットの言葉に頷き、彼女はその写真を胸に抱き、静かに目を伏せた。

 

彼の事を想っているのか・・・、それとも、自身が犯してきた罪を、殺してきた者達の事を思い返しているのか・・・。

 

それは彼女達以外の誰にも分からなかった・・・。

 

「セシリア・・・、シャルロット・・・。」

 

彼女達の雰囲気に、風花は幼いながらも何かを感じた様で、不安げに彼女達を見ていた。

 

自分の知らないところで、彼女達は何をしていたのだろうか・・・?

 

その凄絶な過去に触れた様な気がして、彼女は何処か悲しげな表情を浮かべた。

 

「ですが・・・、くよくよしている暇は有りませんわね。」

 

「たぶん、彼も生きてると思うし、探し出してあげないとね。」

 

そんな風花の心配を他所に、セシリアとシャルロットは顔を上げ、新たな目標が見つかったと言う様に表情を引き締めた。

 

「そうか、なら、俺達も協力するぜ、一人よりも二人、二人よりも三人だ、大勢で協力した方が見つけやすいしな!!」

 

彼女達の意気に、ロウは自分も協力すると名乗りを上げた。

 

離れていても何時かは会える、そして探し出せると考えている彼にとって、二人の様に進もうとする姿勢は好ましく映るのだろう。

 

「ならアタシも!劾達に頼めば絶対に協力してくれるよ!」

 

「私も、かな・・・?頼りないかもだけど、二人の力になりたいな。」

 

風花、樹里も彼に同意する様にセシリアとシャルロットに告げ、ある種の決意を籠めた瞳を向ける。

 

「皆・・・。」

 

「ありがとうございます・・・。」

 

彼等の想いに触れ、シャルロットは感激に瞳を潤わせ、セシリアは微笑みながらも礼を述べた。

 

自分は、自分達は孤独ではないのだと、彼等に教えられた様な心地だったが、それでも、彼女たちの心は何時になく晴れやかだった。

 

「よっしゃ!やる事も増えた事だし、ぼちぼち行くか!早く見つけてやろうぜ!」

 

言うが早いか、ロウは彼女達に先駆け、格納庫から出て行こうとする。

 

どうやら、プロフェッサーやリーアム、そしてプレアに今後の方針を伝える為でもあるだろう。

 

「あっ!待ってよロウ~!!」

 

そんな彼を追いかける様に、樹里も慌てて動き出す。

 

その様子は、まるで親に付いて行くヒヨコの様にも見えるが、これも彼女の気質故だろう。

 

「あははっ、樹里ってば、慌てすぎだね。」

 

彼女の様子に苦笑しながらも、シャルロットはセシリアと風花と共に彼等を追いかける様に宙を進んで行く。

 

二人の表情に、最早迷いや自己憐憫の色は全く見えなかった。

 

その姿勢は、今度は自分達が彼を見付けてみせるといった想いに満ち溢れ、ただ進むべき道を進んでいる様だった。

 

その先に、彼がいると信じて・・・。

 

sideout




次回予告

迫り来る魔の手の元凶は、彼等が招き入れたのか・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

遭遇

お楽しみに~

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