機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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交錯する光 前編

noside

 

「状況を確認できるか!?」

 

月面裏側、ダイダロス基地レクイエム発射口の宙域にて、オーブ宇宙軍旗艦、イズモ級2番艦≪クサナギ≫のブリッジで、艦長であるソガ一佐の怒号が飛ぶ。

 

クルーは一様に緊張や恐怖に強張った表情を浮かべており、余裕などどこにもない。

 

副長であり、CIC席に座るアマギ一尉はあまりの衝撃に青ざめてしまっていた。

 

無理も無い、幾ら軍人であり、嘗てはタケミカヅチ、アークエンジェルと名のある船に乗り、前線を見て来た彼にも、それは到底信じがたく、ショッキングな物に映ったに違いない。

 

それは、ソガも例外など無かった。

 

「えぇい・・・!ザフトめ・・・!よもやあのような物を隠していようとは・・・!!」

 

怒りを籠め、彼は艦長席のアームレストを力いっぱい握り締める。

 

こんな事があってたまるか、そう言わんばかりの憤怒が見て取れた。

 

彼の視線の先には、ダイダロスクレーターを見下ろすように浮かぶ宇宙要塞の影が在った。

 

その要塞から放たれた光に、時を同じくして侵攻していた連合軍残党艦隊の大半は呑まれて消滅してしまった。

 

唐突過ぎる攻撃と味方艦隊の消滅の余波は兵達を一気に混乱の最中へと突き落とし、オーブ軍の指揮系統はほぼ崩壊の様相を呈していたのだ。

 

その要塞はメサイア。

第二次ヤキン・ドゥーエ戦後に、資源採掘用アステロイドの残骸を集めて建造された機動要塞であり、デュランダルが標榜するデスティニープランの計画の根幹である遺伝子データを集積する場所でもあった。

 

先の大戦で失われたボアズ、ヤキン・ドゥーエに代わるザフト軍の要塞だと思われたが、それは大きな間違いであった。

 

メサイアの脅威たる所以は、先の大戦で猛威を振るったジェネシスの小型版、ネオジェネシスを内蔵している事が挙げられる。

 

ミラーの換装と言う弱点は残っているが、メサイア自体が移動要塞である事も相俟って、射程の問題は最早あって無い様な物。

それに加え、要塞自体を取り巻くリングは陽電子リフレクター発生装置を内蔵しており、一切合切の攻撃を寄せ付けぬ鉄壁の防御力を誇っていた。

 

無論、ソガはメサイアの全てを知る訳では無かったが、それでも自軍が大ダメージを受けているこの状況を良しとする事は出来ない。

 

いや、状況はそれよりも悪い。

 

何せ、中継ステーションを落とし、レクイエム本体へと向かっているアークエンジェルとエターナルを追撃していた、巨大宇宙空母≪ゴンドワナ≫を中心とするザフト軍宇宙艦隊が、ネオジェネシスの脅威から体勢を立て直せずにいるオーブ宇宙軍に標的を移し、肉迫せんばかりの勢いだった。

 

アークエンジェルやエターナルへ救援を請おうにも、その二隻もまた、猛追するミネルバやメサイアより出撃したMS部隊の猛攻に晒されており、とてもではないが援護など受けられる筈も無かった。

 

だが、このままではこの窮地を脱することさえ出来ず、討ち取られてしまう事も明白だった。

 

敵の術中に嵌ってしまったチェスのプレイヤーの様に、打開策を探していた。

 

その時だった。

 

「ッ・・・!艦長・・・!!」

 

オペレーターを務める兵の、何処か困惑と驚愕が入り混じった言葉が彼を耳朶打った。

 

「どうした・・・!?」

 

「この宙域に急速接近してくる艦影を確認・・・!!」

 

まさか敵の増援か・・・!?

最悪の状況を予想しながらも、彼は何事か問い質す。

 

「識別コードは確認できるか・・・!?」

 

「識別確認・・・!これは・・・、イズモ級一番艦、イズモです・・・!!」

 

「なんだと・・・!?」

 

その報告は、それを聞いたすべての者を困惑させるには十分すぎるモノだった。

 

なにせ、これまでオーブが何度も危機に晒されても動く事の無かった、アメノミハシラに配備される船が現れたのだから。

 

「一体・・・、何が目的で・・・!?」

 

その船に乗る者達の思惑を計り知れず、ソガは困惑のあまり叫ぶ以外なかった。

 

その漆黒の船は、誰の意も介させぬと言わんばかりに向かってくるばかりだった。

 

その思惑が、一人の男のエゴが始まりだったとしても・・・。

 

sideout

 

noside

 

「アメノミハシラの尖兵か・・・。」

 

イズモが宙域に接近してきた事は、既にメサイアの指令室にも届いていた。

 

その報を受けたデュランダルは、その端正な面を僅かに歪める。

 

ネオジェネシスの発射により、大打撃を受けたオーブ宇宙軍を殲滅し、最後の障壁であるラクス・クライン、キラ・ヤマトの両名を討ち果たせば勝利出来ると言うところまで来ていた。

 

他の国の部隊は最早動かせる訳も無く、これで詰めという状況にまで場を整えていたのだ。

 

だが、どういう訳かこれまで一度たりとも表舞台に姿を現さなかったアメノミハシラが兵を挙げ、この大詰めとなった戦場に現れた。

 

その意味を、彼もまた測れずにいた。

 

「まったく・・・、困ったモノだ・・・。」

 

深いため息と共に、彼は不快感を隠す事無く吐き出した。

 

仕方あるまい、計画に無いイレギュラーの出現は、彼を苛立たせるには十分すぎる材料だったのだから。

 

アメノミハシラは、天空の宣言と称する計画を実行してきた事は、逐次仕入れる情報で把握はしていた。

故に、デスティニープランもまた、思想の一つと見做す物と彼は考えていたのだ。

 

だが、そうはさせないと言わんばかりにイズモは現れ、カタパルトからは次々にMSが発艦していく様を確認する事は出来た。

 

「だが、まぁいい・・・、こちらにも戦力はある。」

 

しかし、それが如何したのだと言うのだ。

 

幾らアメノミハシラだろうとも、たかだか一隻しか現れていない。

此方に向かってきている一隻だけならば、どうとでもなる。

 

それに、今倒すべきはアメノミハシラでは無い。

もっと性質の悪い、キラ・ヤマトとラクス・クラインのみ。

 

この二人を始末できれば、デスティニープランの障害は最早あって無い様なものなのだから。

 

とは言え、無視する事が出来ない戦力である事も事実ではある。

 

ならばどうするか?

 

答えは単純明快だった。

 

「ヒエロニムス隊長、新たに敵軍が現れた、部隊を率いて討滅に当たって欲しい。」

 

通信を格納庫へとつなぎ、そこで待機している特務MS隊の隊長、コートニー・ヒエロニムスに命令を下す。

 

彼は一度、アメノミハシラ攻略戦の指揮を執り、幹部を一人討った経験を持っている。

対アメノミハシラの戦力としては、これ以上ない存在であると言えるだろう。

 

尤も、アメノミハシラには彼が友人と呼ぶ者達がいる事も、デュランダルは知っていたのだ。

 

故に彼は、何処の軍が現れたかを明確にはしなかった。

コートニーを躊躇わせない為に、想いのまま使う為にも。

 

『了解しました・・・。』

 

短く、只諾々と、コートニーは了解と返して通信を切る。

 

これで良い。

デュランダルはほくそ笑んだ。

 

彼等がどうなるかは能力を司る遺伝子が、彼等が持つ運命が決めるだろう。

 

デスティニープランを敷くため、彼は目まぐるしく移り変わる戦場を眺めた。

 

この戦いの先に待つ未来に、想いを馳せて・・・。

 

sideout

 

noside

 

「現宙域に展開するザフト、オーブ全軍に通達する、こちらアメノミハシラ、ロンド・サハク。」

 

イズモの出現に困惑する宙域に、一夏の力強い声が響く。

 

そのあまりにも唐突な出現と声に、ダイダロス基地周辺の宙域に展開していた者達全てに、驚愕と困惑、そして、得体の知れない恐怖を抱かせる。

 

彼が自身の名を名乗らなかったのには、一重にロンド・ミナの名の影響力を計算に入れての事だった。

 

ミナの様に表舞台に立つ事なく、裏方としてアンダーグランドに潜んだ一夏では、その名の持つ影響力はそれこそ雲泥の差である。

 

仕方のない事とは言え、一夏個人としては個人攻撃されなくて良いと思う反面、もう少し自分の名前が通る様になればなぁ、とも思わなくは無かったが、それは今語る事では無い。

 

「我々は天空の宣言を掲げる者として、デュランダル議長が推し進めるデスティニープランへの、その武力及び思想面の強制は見過ごす事は出来ない。」

 

建前を語りつつも、それは一夏の本音でもあった。

確かに平和は欲しいし、争いが無くなるならばそれは望ましい事ではある。

 

だが、それは人間が人間らしく生きる事で、夢を追いかけ傷付きながらでも生きようとする事に意味がある。

 

だから、最初から夢や未来と言う選択肢を与えないデスティニープランを、受け入れる事など出来なかったのだ。

 

運命に抗うと決めた者としても、乗り越えたいモノだった。

 

「故にその不要な大量破壊兵器を護るザフト軍諸君を攻撃させて頂く、悪く思うな。」

 

その宣言と共に、彼はストライクSⅡの背からアスカロンⅡを抜刀、その切っ先をメサイアに向けた。

 

その行為は、デュランダルに対して、デスティニープランに対しての宣戦布告と同義だった。

 

「各機作戦行動に移れ!イズモはゴンドワナを牽制してオーブの艦隊を援護しろ!」

 

一夏の戟とも取れる号令が響く。

 

その通信はわざとオープンチャンネルにて発せられており、ザフト軍MS部隊に動揺と緊張を与える意図があった。

 

その命令に、アメノミハシラの兵達は雄叫びをあげながらも戦線へと加わって行く。

その勢いは正に怒涛であり、あまりの勢いに呑まれる者もチラホラと見受けられた。

 

ザフトが優勢である現在の戦場に、一種の楔を打ち込む心積もりで放たれたそれは、見事に望む効果を出していた。

 

『了解!!』

 

一夏の命令に、アメノミハシラMS隊の全員が勇んで応じ、各々が敵へと向かって行った。

今回の討ち入りに際し、一夏の腹の内など参加している全員が察している物だった。

 

基本的に大規模抗争には参加しない立場のアメノミハシラの事情を無視してでも、一夏の想いを遂げさせてやりたい。

それが、一夏に拾われ、救われ、導かれた者達の想いだった。

 

「一番槍はアタシが貰うわね!!」

 

その想いを一番強く持ち、真っ先に飛び出して行ったのは、イージスシエロだった。

 

ムラサメを凌駕するその機動力は、ザフト軍主力MSのザクウォーリアをあっさりと置き去りにする程であり、幹部機であるイージスシエロはすれ違い様に、トルメント・フロストに展開したビームソードで斬りつける。

 

その刹那に、漆黒の宇宙空間には大輪の華かと錯覚する閃光が煌めき、消滅していく。

 

その速さは正に神速であり、斬られたザクのパイロットも、斬られた事に気付かぬままだった事だろう。

 

呆気にとられていたザフト軍MS部隊も、攻撃されていると気付き、すぐさま彼女に向けて攻撃を開始しようと動き出す。

 

その数は実に10を超え、その中でも先じていた一機のグフイグナイテッドが猛然と迫って行く。

 

だが、そうはさせないと言わんばかりに、次なる矢は飛来する。

 

幾重もの光条がザクやグフの行く手を遮るかのように撃ち掛けられる。

 

その圧は正に壁と呼ぶにふさわしく、その攻撃に巻き込まれた数機のザクが被弾、離脱していった。

 

まさか増援部隊か?

なんとか回避したグフのパイロットが、向かって来た方向へと目を向けると、そこには全身に火器を備えた一機のMSの姿があった、

 

一機であれほどの量の火器を操れると言うのか!?

 

それを見たパイロットは、愕然とした心持だったに違いあるまい。

 

「可愛い後輩をヤラせはしないよ、僕にだって意地はある!」

 

その機体、バスターイグニートを駆るシャルロットは、迫り来るMS部隊に向かって咆えた。

 

仲間を討たせはしない。

そして、未来を掴む。

 

その想いを籠め、彼女は愛機に搭載される火器を全て開き、有効射程距離にいるすべての敵をロック、躊躇う事なく銃撃の雨霰を撃ち掛ける。

 

活動時間を一切考慮しないその攻撃力は凄まじく、辺りを漂うデブリもろとも焼き尽くしていく。

 

そのあまりの火力を恐れたか、ザフトMS部隊の多数がバスターイグニートを狙い動く。

 

厄介な火力持ちを潰しておこうと言う魂胆だろうが、戦法的には実に理に適っている。

 

だが・・・。

 

「行きなさい、クリスタロスッ!!」

 

何処からともなく四刃の煌めく牙が飛翔、近付くザクやグフの手足武装を一瞬の内に斬り飛ばして沈黙させる。

 

パイロット達は何が起こったと言わんばかりに瞠目するが、それの正体に気付いたとて何も出来る筈も無かった。

 

そんな彼等を見下ろす様に、四基のソードドラグーンを従えた蒼いMS、デュエルグレイシアが舞い降りる。

 

それを操るセシリアは、女王の如き威厳と、騎士の如き勇壮さを以て、敵を睥睨していた。

 

またしても厄介な敵が現れたと、ザフトのMS隊は火線を逃れながらも撃滅に動く。

 

しかし、その内の一機が、まるで何かに絡め取られたかの様に動けなくなる。

 

一体何事か!?

そのパイロットが振り向くと、右腕と左足が見事にワイヤーアンカーが巻き付いていた。

 

一体何処から?

アンカーの先に視線を移せど、そこには宇宙の漆黒が広がるのみであり、それを撃っている機体は見受けられなかった。

 

だが、不意に空間が揺らぎ、蜃気楼の如く黒いMSがその姿を現す。

 

パイロットが驚く間も無く、黒いMS、ブリッツスキアーは腰刀を抜刀、最低限の動きであっさりとバックパックと右腕を斬り飛ばし、行動不能に追い込んだ。

 

その腕、まさに仕事人と呼ぶべき技であり、無駄の無い洗練された動きがあった。

 

「ウチのお嬢をやらせる訳にはいかないからな、我が主に面目立てる為にも頑張らせてもらうぜ。」

 

ザクをザフト軍艦隊が展開する方向へと蹴りとばしつつも、宗吾は次なる獲物を求めて姿を潜める。

 

正に闇夜に紛れて敵を狩る忍者の如く、そして、主に忠を立てる義士の如く。

 

ガンダムタイプが数機いる。

それはザフトのパイロット達にとっては最早戦慄するものではないだろうか。

 

ガンダムタイプのMSは、言ってしまえばワンオフの高性能機である事が多く、それを与えられるのもかなりの腕を持つスーパーエースであると同義である。

 

現に、フリーダム然り、ジャスティス然り、ガンダムタイプは先の大戦から多大な戦果を挙げ、伝説となるほどなのだ。

今の大戦の中でも、ガンダムタイプは連合ザフト問わず、それぞれの陣営に対しての驚異の一つともなっている程なのだから。

 

それが一機だけならまだしも、数機連携して攻めてくるのだ。

恐怖以外の何物でもない。

 

「閣下たちに後れを取るな!イズモにはミサイルの一発たりとも近付けるなよ!!」

 

『おう!!』

 

幹部達の勢いに負けじと、ガルド達も己が愛機を駆り、群がりはじめたザフト軍MS部隊を蹴散らしていく。

 

オーブ軍のムラサメをベースにしながらも、プロトセイバーのデータも取り入れられた宙の黒鳥は、最早誰にも止められぬ程の速さと動きを見せ付けていた。

 

困惑に対処が遅れたザフト軍MS部隊だったが、反撃とばかりにイズモに狙いを定めた。

 

目論見が上手くハマった、一夏は自身の一手が成功した事を満足しつつ、ダイダロス上空より逃れたクサナギへと通信を入れた。

 

「クサナギ、応答せよ、こちらロンド・サハク。」

 

『クサナギ艦長のソガであります・・・!ロンド・サハク様・・・!これは一体・・・!?』

 

通信が繋がるや否や、血相を変えたソガの顔がモニターに映し出された。

 

一体どういう事か、その説明を求めているのだろうが、悠長に話している暇は何処にも無い。

 

「ソガ艦長、イズモを起点に体制を立て直せ、ゴンドワナを牽制出来ている今がチャンスだ、急げよ。」

 

手短に返しつつ、彼はストライクSⅡをメサイアへ向けて奔らせる。

 

何時もの、好敵手であり親友と呼び合う感覚がそちらからしている事に気付いていたから。

 

『お待ちを・・・!何故今になって・・・!?』

 

とは言え、何も知らぬソガには、彼の行動全てが不気味にしか思えぬものに違いない。

 

少しは説明してほしいと言うのが本音だっただろう。

 

「上からの命令は絶対、だろ?オーブの軍人ならやり遂げてみせよ!」

 

だが、それを説明している暇は無い。

故に、彼は命令するだけに留めた。

 

オーブの兵ならば、生き残れと命令するだけでやり切ろうとする気概を信じてみる方が幾らか楽だと。

 

故に、彼は只只管に走った。

 

友の為に。

その夢の為に・・・。

 

sideout




次回予告

運命が錯綜する戦場で、二人は再び相見える。
夢と想いが交わる時、彼等の瞳には何が映るだろうか。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

交錯する光 後編

お楽しみに

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