機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY   作:ichika

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宙の景色は

side一夏

 

『ストライクS、デルタ、着艦します!救護班は格納庫へ急いでください!』

 

俺がデルタを抱えて戻ると、既に救護班が格納庫に到着、救助の準備に取り掛かっていた。

 

アグニスの事を心配したのだろうか、ナーエやアイザックの姿も見受けられる。

どうやら、艦橋から走って来たのだろう、肩で息をしている事が窺える。

 

「下がっていろ、コックピットを抉じ開ける。」

 

ストライクSを動かし、パイロットを傷付けない様に気を付けながらコックピットブロックの装甲を剥がす。

 

マニピュレータが人間並みに器用に動くストライクタイプだからこそ出来る技ではあるが、パイロットの技量を問われる高等技術に過ぎるのも否めない。

 

だが、俺の腕なら問題ないがな。

 

コックピットハッチが剥がされると同時に、待機していたマーシャンの救護スタッフがパイロットであるアグニスを救出し、ストレッチャーに乗せて艦内の救護室へと急行して行った。

 

見た限り、致命傷は追っていない筈だ。

生き残るかどうかは、彼の生命力と運次第だ・・・。

 

「ミッションインコンプリート・・・、俺はここまで、だな。」

 

アグニスの次の目的地まで同行するとは言ったが、仕事が出来てはそれも叶わない事だ。

 

もうここには用は無い、さっさと御暇させて頂こう。

 

「ナーエ、ハッチを開けてくれ、オーブの兵を救助に向かう、短い間ではあったが、世話になった。」

 

『織斑卿・・・。』

 

実際、俺はなにもしちゃいないが、それでも一時は行動を共にした相手ともなるとそれなりに思うモノはある。

 

だから、せめて気持ちだけは残しておこうじゃないか。

 

「アグニスに伝えてくれ、光を信じろと、何時かアメノミハシラに来いと。」

 

アイツが生き残れたのなら、恐らく地球圏の様々な組織を尋ね、その考え方と行動を学んでいく事だろう。

 

その過程で、俺達の考え方を、戦いを知ってほしい。

それが俺の思う、マーシャンとの共存の一歩にもなる筈だから・・・。

 

『分かりました、卿もお気を付けて・・・。』

 

「あぁ、またな。」

 

敬礼を返しつつ、開かれたハッチより発艦、海に沈んだダガー二機の救出に向かう。

 

死んではいないだろうが、それでも長時間放置は出来ない。

 

待っていろ、俺の目の前で、もう誰も死なせはしないから・・・。

 

sideout

 

noside

 

「全員揃ったな、無事で何よりだ。」

 

それから十分と経たない内に、海に沈んだ二機のダガーを救出した一夏は、砲撃タイプの機体を倒した孤島に降り立っていた。

 

彼も機体を降り、五人のパイロットの前に立ち、彼等を睥睨していた。

 

「織斑卿、此度の無礼、何とお詫びすれば・・・。」

 

そんな彼に対し、パイロットの内の一人、浅黒い肌を持った青年、ガルド・デル・ホクハは膝を付き、今にも土下座せんばかりの様子を見せていた。

 

どうやら、一夏の事は天空の宣言の放送で知っていたのだろう、その表情には愕然とした様な絶望が浮かんでいた。

 

仕方あるまい。

所詮下士官である彼等が、高官である一夏に弓を引くなど言語道断、その場で処刑されてもおかしくない状況なのだ。

 

「気にするなと言った、次下らんこと言ったらブッ飛ばすぞこの野郎。」

 

「(口悪っ・・・!?)」

 

戦闘後のハイテンションに陥っているからか、何時もの二割増しで口の悪い一夏の言葉に、ファンファルトは声に出さないまでも驚いた様に表情を引き攣らせていた。

 

元帥である男が、まさかブッ飛ばすという過激発言をするなど、思いもしなかったのだろう。

 

「俺が俺を狙えと言った、それに君らは任務中だった、命令違反や上官侮辱罪は適用されん。」

 

「い、いや、しかし・・・。」

 

マーシャンを狙わせないため、将軍である自分の地位をダシにし、マーシャンの一行を狙えと言う命令を護らせた。

 

形はどうであれ、彼等5人の状況を、連合からの命令も、オーブ本国からの命令も、そして、一夏からの命令をも護ったという極めて異例に過ぎる場所に追い込んだのだ。

 

だが、それに気付いていながらも、納得できないのが、追撃隊の5人だった。

 

何故自分達を殺さなかったのか、何故このように直接話をしているのか、それが理解出来なかったのだ。

 

「アメノミハシラとは言え、俺もオーブの軍人だ、仲間をみすみす死なす訳にはいかん。」

 

「織斑卿・・・。」

 

部下の命は必ず守る。

一夏の言おうとする事が分かったか、ガルドは心を打たれた様に呟く。

 

その裏にある何かには、流石に気付けなかった様だが・・・。

 

「まあ、俺に負けたのは事実だ、君達の本国での出世は当分お預けだな。」

 

「ッ・・・!!」

 

しかし、それも束の間の事だった。

何処か挑発する様な言葉に、ワイドとホースキンは表情を顰める。

 

さっきまで良い事言っておいて、結局は嫌味でも言うつもりか。

その苛立ちを必死に抑え込んでいる様にも見えた。

 

「しかし、君達の実力は買おうじゃないか、実戦経験が少ないオーブにこんな良いパイロットがいるとは思いもしなかったさ、本当に惜しい事をしたよ。」

 

だが、そんな彼等の様子を悟ったか、一夏はまたも語り続ける。

 

まるで、俺の話を聞けと言わんばかりに。

 

「そこで提案だ、君達にアメノミハシラのMS隊に転属する権利を与えたい、アメノミハシラで開発した新型機のパイロットとしての地位もな。」

 

「ッ・・・!?」

 

まさかの提案に、一同は驚愕のあまり声も出なかった。

 

将軍と言う地位は手に入らなかった。

しかし、その将軍に見出され、まさか新型MSのパイロット、しかも本格量産前の先行生産型という、エース級パイロットですら中々手に入らない地位をポンと与えられる事になったのだ、驚かない方が無理も無かった。

 

無論、一夏も只でその地位を与える訳ではない。

 

アメノミハシラに忠を誓う者だけでなく、様々な思惑を持つ者を腹の内に取り込む事で、天空の宣言の意味を広げようとしているのだ。

 

それは、彼自身がロンド・ミナの思想を、アメノミハシラを、そして、天空の宣言の未来のみを優先させている事を如実に示していた。

 

「無論、本国での出世は不可能になるし、家の再興も出来るかどうかは分からん、だが、変わりゆく世界の中心で、世界そのものを相手取る英雄には成れるだろう、君達の働き次第では、一国の将官など、ちっぽけな存在にする事すら容易い。」

 

「ッ・・・!」

 

英雄、その一言にもっとも惹かれたのはワイドだった。

 

彼は誰よりもカガリの夫と言う地位を欲している。

故に、一国の将官と言う、どうしてもカガリの下にならざるを得ない地位よりも、世界を相手取る英雄は大きく、それでいて魅力的であったのだ。

 

「強制はしないよ、俺も地球にずっといる訳にもいかないからな、俺について来てくれる奴だけ連れて行こうじゃないか。」

 

言うが早いか、彼は踵を返し、愛機のコックピットハッチから垂らしていたラダーに掴まって昇って行く。

 

後ろから撃たれると言う事を考えていない愚者か、それとも撃たれないと確信している豪胆か。

どちらにしても、一夏のその行動は、追撃隊の5人の出方を試すものだった。

 

その意図に気付いたか、ガルドはすぐさま立ち上がり、差し出された一夏のストライクSの掌に脚を掛ける。

 

「お、おい、ガルド・・・!正気か・・・?」

 

「ホースキン、俺達は織斑卿に生殺与奪を握られている、それに・・・。」

 

まだ理解出来ないと言わんばかりのホースキンに、ガルドは考えてみろと言わんばかりに言葉を紡ぐ。

 

ここに置いて行かれてはどうなるか分かった物では無い。

さらに付け加えるならば、一夏がその気になれば、この場で銃殺する事も出来る。

 

それを加味して考えてみても、今の彼の言葉は信に足るモノであると感じられたのだろう。

 

「それに、俺はあの御方の目に、さっきまでの言葉以上の想いを感じた、だから、信じてみたくなった。」

 

「だ、だが・・・。」

 

「俺も、ガルドに賛成だ。」

 

信じられると心の底から感じたガルドは、迷うことなくその掌に身を預ける。

それを止めようと食い下がるホースキンを止めるように、ファンファルトはガルドと同じ様にストライクSの掌に乗った。

 

「ファンファルト・・・!」

 

「あの人、ワイドの機体が乗っ取られた時、一番に俺を逃がそうとしてくれたんだぜ?それに出世のチャンスまでくれるんだ、同じ死ぬなら、バカな事やってやろうぜ?」

 

「なに難しく考えてんだよ、英雄に成れるんだ、これ以上ないチャンスじゃねぇか。」

 

ファンファルトもまた、ガルドと同じく一夏を信じた。

それとは対照的に、ワイドは自身の功名出世の為に付いて行く事を決めた様だ。

 

良くも悪くも、自身の立身出世にしか興味の無い、ワイドらしい選択であった。

 

「ガルドが行くなら、僕も・・・。」

 

「サースまで・・・、くそっ・・・、俺も行く、ここで俺だけ帰ったら何て言われるか・・・!」

 

最年少のサースまでMIAになっては、自分だけおめおめ逃げ帰って来た臆病者と言う評価を与えられかねない。

 

そんな不名誉な事になる位ならば、いっそ新天地で戦い、立身した方がマシと考え、彼もまた、掌へと身を任せた。

 

『全員乗ったな、振り落とされるんじゃないぞ。』

 

それを見届けた一夏はスピーカーで注意を促しつつも風圧で彼等が吹き飛ばされないように左手でしっかりと風よけを作って飛翔する。

 

その先の未来へ、宙の景色を見る為に・・・。

 

sideout

 

noside

 

その頃、プラントコロニー群、アプリリウス市に設けられた宇宙港の一角にて、数名のザフト兵が集められたブリーフィングが行われていた。

 

「以上だ、質問はあるかな?」

 

その男、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルは目前に控える数名に大丈夫かと念を押す。

 

それに対し、ザフト兵の中でもトップクラスの者が属する部隊FAITHの隊員達は口を揃え、NOと答えた。

 

直属であるが故に、何の疑問も持たず、従う者がほとんどだった。

 

だが、その大半以外で、ただ独り、その男だけは浮かない顔をしたまま、心此処に在らずと言った風に返答していた。

 

「・・・。」

 

デュランダルが部屋を辞した直後、彼は頭を抱えてシートに深く沈み込む。

 

最悪の事態に陥った。

その表情からは絶望、そして、諦観にも似た何かが見て取れた。

 

「結局、俺は戦う事しか出来ない、か・・・。」

 

何が争いをさせない兵器を創るだ。

結局自分がやっているのは、血で血を洗う戦争で、その場に躍り出る最新鋭の兵器を駆って、敵を屠り続ける事だけだった。

 

「何が夢だ・・・、俺は、結局何を・・・。」

 

自分は一体、何の為にザフトに入った、何の為に、陰謀渦巻くプラントに残ったのだ。

 

結局は、命惜しさに駒に成り果てただけではないか。

それが、彼のプライドに傷を付け、更なる沼へと陥らせている元凶でもあった。

 

だが、彼はもう逃げられる立場にいなかった。

 

コートニーは監視の最も強い立場、FAITHの実働部隊長に任命されていたのだ。

エース級以上のパイロットの上に立つ者として、デュランダルと直接面と向き合う立場に押され、今では片腕的な扱いまで与えられてしまった。

 

それが何を意味するか。

語るに及ばない事は明らかであった。

 

「一夏・・・、俺は、お前を、お前の大切な物を、壊さなくてはならないのか・・・?」

 

絶望に打ちひしがれる彼の手より、一枚の資料が零れ落ちる。

 

そこには、ただ一文の作戦名のみが記されていた。

 

それは、彼にとっては受け入れがたく、何よりも逃れられない呪縛だった・・・・。

 

その作戦名は

 

『オペレーション・フォーリンエンプレス アメノミハシラ攻略戦線の概要』

 

彼の友人たちが集う、天空の城を落とせと言う命令であった・・・。

 

sideout

 

 




はいどーもです

別作品の方でもあとがきに書かせて頂きましたが、ここでも一応のご報告を・・・。

私事で大変申し訳ありませんが、仕事や資格試験の都合のため、暫くの間、更新ペースがこれまで以上に落ちる事が予想されます。

私めの稚作をお待ちいただいている皆様には申し訳ありませんが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

それでは次回予告を

宙へ戻る一夏は、自らの立場から若者への指導に身を入れる。
その背後に忍び寄る、闇に気付かないままに・・・。

次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY

宙に戻りて

お楽しみに

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