機動戦士ガンダムSEEDASTRAY X INFINITY 作:ichika
side宗吾
「サー・マティアス、本当にこれでよろしいのですか?」
宇宙空間を、とある場所に向けて進むブリッツスキアーのコックピット内で、俺は補助シートに腰掛ける男性、サー・マティアスに確認を取っていた。
目的の場所を知らされて、俺は柄にもなく驚いたもんだ。
何せ、その場所は彼にとっての敵の本拠地だ、乗り込むにしても流石に無謀すぎる気もしなくもない。
「構わないわ、神谷卿、そうでもしないと、貴方達アメノミハシラの計画も危ういわ。」
「ですが・・・。」
俺達の事も考えてくれるのは嬉しいが、状況はどう見てもよろしくない。
まるで、その先に命が無いのを覚悟している様な、そんな想いが伝わってくるようだった。
「この世界のこれからに、一族の血縁は必要ないわ、それはアタシにも言えるコト、だから貴方は正しい事をしてるの。」
俺の言葉を遮って、彼は憂いを帯びた、それでも何処か澄んだ目で諭してくる。
そこまでの覚悟があるのならば、俺はもう止められない。
だから、彼の思う様にお膳立てする事しかない。
俺は無言で頷き、サブフライトシステム代わりのブースターから降り、ミラージュコロイドによる慣性移動に入る。
そのまましばらく進んで行くと、球体の様な要塞が見えてくる。
そこが、俺達の目的地、彼にとって最後の場所なのだ。
「ミラージュ・コロイド・ウィルス散布開始、連合軍宇宙要塞、メンティラへの潜入を開始する。」
言い聞かせる様に呟きつつ、俺は操縦桿を握り締め、ゆっくりと機体を開いたハッチから侵入させる。
一応、熱紋が出ない動かし方をしているが、それ以外でばれては元も子も無い。
一動作ごとに、俺は全神経を集中させて機体を動かす。
だが、それも杞憂に終わった様だ。
ミラージュ・コロイドやミラージュ・コロイドウィルスで細工しまくったからか、侵入警報なんてなる事なく、目的の区画まで侵入できた。
そこには、発進準備を整える一隻の戦艦、ガーディー・ルー級の姿があった。
「着いたわね、マティスはこれに乗って逃げるつもり、なら、待ち構えて見届けてあげるわ。」
「サー・・・。」
本来なら、俺は人間として止めるべきだ。
死ににいこうとする人を、みすみす活かせる訳にはいかない。
たとえ、命令に背いているとしてもだ。
だが、そんな俺の事を、彼は優しく微笑む事で制する。
「ありがとう、これで終わるの、アタシの背負う因縁が、そして始まるの、誰にも惑わされる事の無い、本当の世界が。」
本当の世界と言う言葉は、俺達が築こうとする世界の事を指すのか、それとも、別の何かか・・・。
だけど、本物の男の覚悟を止める程、俺は無粋ではないつもりだった。
だから、俺は頷き、そして、上官である一夏にすら滅多にしない、最敬礼で彼を見送る。
コックピットハッチが開き、最後の微笑みを残し、彼は通路へと降りて行った。
彼の姿がガーディー・ルー級の中に消えるのを確認した後、俺もこの場を退散する事と相成った。
どうか、彼の行く先に、彼の本懐が在るよう祈りながら・・・。
sideout
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同時刻、オーブ直上の衛星軌道上に聳える城、アメノミハシラでは・・・。
「リーカ、本当に良いんだな?」
展開するMS隊の先陣に位置取る純白の機体、ストライクSのコックピットで、アメノミハシラの最高幹部、織斑一夏はある機体に乗り込む人物に向けて通信を入れていた。
その相手は、ザフトに裏切られ、アメノミハシラに保護されたばかりの女パイロット、リーカ・シェダーだった。
そんな彼女に向ける彼の声色には、相手を心配する様な色が混ざっており、無理しなくても良いと言わんばかりの語気だった。
「・・・、天空の宣言は、個人の意思を尊重するのよね・・・?」
「あぁ、そうだ、だから出てくる事は止めない、けど、君は・・・。」
天空の宣言を引き合いに出されても困るがとでも言いたいのか、一夏は彼女の言葉に歯噛みした。
自分が言いたい事はそうではない。
ここでアメノミハシラと共闘するという事は、本格的にザフトと交戦する意思を示す事に他ならない。
何せ、アメノミハシラを狙うのは、何も連合軍だけではないのだから。
だが、それを知っていて尚、リーカは友と呼べる者達と肩を並べる事を選んだ。
「ザフトから見捨てた私を真っ先に救ってくれたのは、この城の皆よ、だったら、それに報いないと友情も恩も、全部が嘘になっちゃう、そんなの、死んでも嫌だ。」
静かに、それでいて、妙に熱の籠った声で、自身の決意を語るリーカに、一夏は何も言えなくなる。
これ以上苦しむ様な真似をしてほしくない。
だが、誰かと一緒ならばそれを受け止められる、そんな想いが彼女からは伝わってくるのだ。
それを否定し、戦うなと言う事など、一夏には出来なかった。
「死んでも嫌とは、大きく出たもんだ、分かった、君が死なない様に、俺達が共に戦おう、共に生きる、それが俺達の夢だったな!」
「うん・・・!!」
だったら、死力を尽くして、何が何でも生き残る。
生き残って、その先にある夢を掴む、それが、今出来る事だと。
『連合軍艦隊捕捉しました!!アガメムノン級5隻!!』
そう覚悟を決めた時だった、索敵に出ていた僚機からの通信が、彼等の耳を打った。
数としてはこれまで攻め入って来た数よりも僅かに多い位だったが、今は状況が状況だ、何が何でも護り切らねばならない。
「おいでなすった!!リーカ、二号機は君のモノだ、好きに使え!」
「うん!リーカ・シェダー、プロトセイバー二号機、GO!!」
裂帛した気合と共に、薄桃色の装甲色を持った機体、プロトセイバー二号機が前線へ躍り出る。
その機体は、数か月前に一夏が親友であるコートニー・ヒエロニムスより、機動試験の見返りとして送られたものだ。
テスト当時は白い装甲色に、計測用の赤いラインが入っていたが、現在はリーカの手に渡り、彼女のパーソナルカラーである薄桃色の装甲色に調整されていた。
元々テスト機であったため、試験終了後は廃棄される予定であった。
そのため、強度などを一切考慮されていなかったが、受け取り直後から再調整や整備を繰り返し施した結果、アメノミハシラのMSの中でも、特に頑強なMSとして日の目を見る事となった。
「俺も行くか、各機、フォーメーションを取りつつ迎撃!一機たりとも欠けて帰るんじゃないぞ!」
『了解!!』
死ぬなと言う、唯一絶対の命令と想いに呼応し、彼の後ろに控えるMS隊からは勇んだ応答が幾つも返ってくる。
彼の想いに応え、命を懸けて生き残る、その想いだけがアメノミハシラの精鋭たちに息衝いていた。
「織斑一夏、ストライクS、行くぜ!!」
故に、彼は宇宙を駆ける。
それが、未来へ続く歩みだと信じて・・・。
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そして、そこから更に一時間ほど経過した時、宇宙のとある場所では・・・。
「サー・・・、やはり、貴方はそれを望まれていましたか・・・。」
宇宙空間に佇む一機のMS、ブリッツスキアーのコックピットで、宗吾は独り呟きつつも、目を閉じ、静かに敬礼をしていた。
その視線の先には、船体の各所から爆発光を散らすガーディー・ルー級の姿があった。
無論攻撃を受けたわけでは無い、隠密作戦をメインとする船が、敵機に気付かれる事など滅多にないのだから。
そんな艦が、何故今にも爆散しようとしているのか。
その理由など、一つしかあるまい。
内部からの自爆、それが艦の末路だった。
「呪われた血統を全て断つ、か・・・、それには自分自身も含まれていた・・・。」
マティアスの望み、それは、一族の支配より世界を解き放つ事、そして、一族の滅亡だった。
だが、彼自身も一族の出、これからの世界に在ってはならない存在だった。
故に、彼は血を分けた妹、一族の長であるマティスと共に散る事を選んだ。
人類は、誰かに導かれずとも歩いて行ける存在だと示すために・・・。
「でも・・・、だからって死ぬ事なんてないじゃないですか・・・。」
それは彼も頭では理解している。
だが、どうしても心が納得できなかった。
如何に彼の熱意に負けたとしても、死んでほしくなど無かった。
生きて、その先の世界にいて欲しかった。
生きている事は素晴らしい。
それが、彼が二度目の命を授けられ、一夏に救われた時に感じた事だった。
「貴方の想いは、俺が継ぎます、誰も犠牲にならなくても、幸せになれる世界を、俺が・・・。」
だから、人が人として生きられる世界を、人間を単位としてでは無く、一人格として見る事が当たり前の世界を、彼は望む。
それが、真に正しい世界だと信じているから。
「今度こそ・・・、きっと・・・。」
小さく呟き、彼は機体を反転させて帰路に就いた。
そこで待つ仲間達と、共に歩むために・・・。
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その頃、L5宙域に存在するプラントコロニー群のひとつ、アプリリウスの兵器開発部門では・・・。
「・・・。」
格納庫の一角で、その男、コートニー・ヒエロニムスは苦痛と悲嘆に苛まれながらも目の前に聳える機体を見上げていた。
此処に来ることは、彼も何度かあった。
だが、それは一介の技術者としてだ、今の様な状況でなど、来たくも無かっただろう。
その表情は、語るまでも無く彼の心境を如実に表していた。
彼の服装は、先日までの作業服では無く、ザフト軍属を示す赤い制服に身を包んでいた。
更に、左胸には銀色に光るバッチの様な物が着けられていた。
それは、ザフト軍の中でも、特に実力の抜きん出た者にのみ選ばれる特務隊である事を示す称号、FAITHだった。
FAITHとは、軍の命令体系に縛られず、独自に行動できる権限を持った者の事を指し、その権限は非常に強く、独断でMSや艦を動かす事が出来る程だ。
だが、言い換えてみればそれは、上層部にマークされていると同義であり、常に監視が為されている様でもあった。
後ろ暗い思惑や、組織に対する疑念が無いモノにとっては気付かぬ事だろうが、生憎、彼は違ったのだ。
『今日から、君にはこの機体の開発と調整、並びに実戦でのテストを行ってもらいたい。』
彼に直接命令を下す事になった男の声が、彼の頭に響き、こびり付いて離れなかった。
まるで、そう在って当然だと、それが正しい道だと言わんばかりに、その男はコートニーに戦いを、そのための兵器の開発を強いた。
冗談じゃない、自分の望む兵器の姿は、争いをさせない為に存在するものだ。
こんな、争いを助長し、全てを破壊するために在る様な兵器ではない。
しかし、それでだけではないと彼も気付いていた。
その男は、争いの果て、戦争がなくなった後の兵器の姿を見ている。
不幸な事にそれは、コートニーが抱く理想と合致してしまっていたのだ。
無論、興味が無いわけでは無い。
だが、彼とて自身が置かれた状況は良くないと分かっている。
恋人が陰謀に巻き込まれて生死すら分からず、そして、自身はその陰謀に気付いてしまったが故に、こうやって監視と、半ば強制される形で戦いに身を投じる事となった。
逃げれば、自身の夢と命は無い、故に、彼はその欲求を呑む以外になかった。
「リーカ・・・、一夏・・・、皆・・・、俺は、俺はどうすれば良いんだ・・・?」
ロケット型のペンダントに飾った写真に写る友と恋人に問いかけるも、その問いに答える者は誰一人としていなかった。
そこにあったのは只一つ。
彼を見下ろす、無機質で冷たい双眸だけであった・・・。
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次回予告
地球を訪れていた火星からの来訪者、マーシャン。
彼等と対峙した時、一夏が抱く想いとは。
次回機動戦士ガンダムSEEDASTRAYXINFINITY
最終章 終わらない明日へ編
マーシャン
お楽しみに