1、動き出す魔界の戦士達
魔界・・・
嘗てバルガンが守護していた宝瓶宮、そこはカインとアベルに任命された新たなる魔神、シャックスが治めていた。倚子に腰掛けたシャックスの目の前には、シャックスの配下である異種多様な生物達が跪いていた。シャックスは、爬虫類のような目で配下の者達を見渡すと、
「私は、前任のバルガンのように、自ら前線に出向こうとは思いません!何故なら、私にはあなた方のような、優秀な臣下がいるのですからねぇ!」
「オォォォォ!!」
シャックスに言われたお世辞を、言葉通りに受け取った配下の戦士達が雄叫びを上げた。シャックスは手をパチパチ叩き、
「これより、あなた方には人間界に出向いて貰い、プリキュア達に戦いを仕掛けて頂きたい!当然、カイン殿やアベル殿の許可は取ってあります・・・見事プリキュアを倒した者、並びに捕らえた者には、私からカイン殿とアベル殿に進言し、シーレインの代わりに、天秤宮の魔神に推薦させて頂きます!!」
プリキュアを倒すか、捕らえれば、シャックスは自分達の誰かを、シーレインの後釜に推挙してくれると言う言葉は、多くの戦士達の士気を上げた。トンボと蚊が合わさったような魔物が、揉み手をしながらシャックスに話し掛け、
「そ、それは誠でございますか?」
「はい!この場で嘘を言ってもしょうがありませんし・・・そうそう、皆さんにこれをお渡し致しましょう!!」
シャックスはそう言うと、一同に蛇の紋章が付いたヘアバンドを授けた。不思議そうに貰ったヘアバンドを弄くる魔物達に、
「邪魔かも知れませんが、人間界ではそのヘアバンドを付けて頂きます。それをしている間は、人間達にはあなた方が魔物とは分からない仕組みになっています。それと・・・人間を狩るのは構いませんが、程々にして下さいよ?魔王ルーシェス様贔屓の魔神達に知れたら・・・あなた方は八つ裂きにされるでしょうから?」
そう言うと、シャックスはニヤリと笑みを浮かべ、配下の者達は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。一同が去った後、シャックスは片眼鏡を右目に取り付けると、脇に付いて居る赤いスイッチを押した。ピィィと機械音が鳴り響き、配下の者達の話し声が聞こえて来る。
「クククク、あいつらに渡したアイテムこそ、この私がプリキュア攻略のヒントを得る為の重要アイテム、奴らの弱点を探り、それを利用すれば、プリキュアなど恐れるに足りない事でしょう!精々私の捨て石として、プリキュア攻略のヒントを探ってきて下さいよ!!」
片眼鏡には、今受診した相手が見て居る容姿が浮かんで居た。その姿は、河童に似て居た・・・
巨大な顔をしたカエルとアザラシが合わさったような魔物ヴォジャノは、両脇に生えた三本の長い髭を、指でチョンチョン突っつきながら、甲羅を背負った魔物に話し掛け、
「何だ河童、お前は、シャックス様に貰ったアイテムを付けないのか?」
「ああ、オイラは河童だ!元々オイラは、向こうの世界と魔界を行き来する物の怪、そんな物付けなくても、元々オイラはルーシェス様には許可を頂いてる!!それに俺は・・・あいつは好きじゃ無い!!」
「お、おい、滅多な事は言わない方が良いぜ?」
ヴォジャノは、周囲に誰か居ないか確認するも、特に誰も居らずホッと安堵した。河童の言葉を聞き、大きな顔を捻り思案すると、
「そうか・・・なら、俺はお前と共に行くかな?俺は人間界に行くのは初めてだし・・・」
「別に構わんが、俺の故郷で悪さはするなよ?」
「ガハハハハ、そりゃあ分からん!」
「あそこの人間達に悪さしたら・・・オイラもお前の敵になるのを忘れるなよ?」
「ガハハハハ、覚えておこう!」
河童は軽く舌打ちすると、ヴォジャノを連れて人間界へと戻って行った・・・
2、田舎へGO!
夏休みに入り、みゆきは、あかね、やよい、なお、れいか、あゆみ、キャンディ、グレル、エンエン、そして魔王を連れ、父方の祖母タエが一人で暮らす、田舎へと遊びに出掛けた。無論、真琴やアン王女も誘ったのだが、真琴は打倒バッドエンドピースの修行があると断り、アン王女は、のぞみ達に招待されてキュアローズガーデンに行くとの事だった。
みゆきの父博司が、一戸建てを購入した時、田舎にいるタエに一緒に住まないか誘ってみたものの、タエは感謝しつつも田舎暮らしの方が良いと言い、博司の申し出を断っていた。みゆきはお婆ちゃんであるタエの事が大好きだった。母である育代が身体を壊して入院していた時、田舎に住むタエの家に預けられたみゆきに、タエは色々な話しを聞かせてくれたり、絵本を買って来てくれたりしてくれて、みゆきが絵本大好きになったのも、タエのお陰と言っても過言では無かった。そんなタエが、一人で田舎に暮らす事をみゆきは心配し、母育代にも話して、田舎に遊びに行った時、もう一度一緒に住まないか誘ってみると話すと、育代も承諾した事で、みゆきは、育代にベッタリな魔王も無理矢理連れ出し、こうして田舎へとやって来たのだが・・・
空は快晴、入道雲が青空を覆い、山々に囲まれた喉かな風景、蝉の声がみゆき達一行を歓迎する・・・
彼女達の服装はと言えば、みゆきは、麦わら帽子を被り、肩にフリルの付いた薄いピンクのノースリーブのシャツと薄いブルーの短パン姿で、大きめの手提げカバンの中には、キャンディと魔王が入っていた。あかねは、黒と赤の二色の柄のキャップを逆にして被り、オレンジ色のTシャツの上に、少し薄めの橙色のタンクトップを着ていて、クリーム色の短パン姿、やよいは、黄色い縁が付いた麦わら帽子を被り、胸の位置に紐が付いた、白と薄い黄の半袖のワンピースを着ていて、なおは、白とオレンジのサンバイザーとオレンジ色のリボンをし、黄緑した半袖シャツと紺色のタイトスカート、れいかは、白い大きな帽子を被って、胸にフリルが付いた薄いブルーと白のワンピース姿、あゆみは、薄いブルー色をした首まで隠れるぐらいの大きめな帽子に、肩から胸元までフリルが付いた白い半袖のワンピース姿をしていて、大きめなカバンの中にはグレルとエンエンが入っていた。
時刻は既にお昼を過ぎ、一番暑い頃と言う事もあり、一同の足取りは重かった。顔には大量の汗が流れ落ち、やよいは舌を出してバテ気味に、普段元気なあかねですら、少しバテた表情をしていた。
「ハァハァハァ、何で不思議図書館から行かんかったん?」
「みゆきちゃん・・・まだ着かない?」
あかねとやよいに聞かれたみゆきは、少し困惑気味に、
「だってぇ、折角みんなと旅行するし・・・もうちょっとだから!」
「でも、みゆきちゃんのお婆ちゃんの家の近くまで、電車とバス、タクシーも走ってないとは思わなかったね?」
「うん!バスは通ってるって思ってたよ!」
あゆみとなおも、苦笑気味に話し、みゆきは少し頭を掻きながら、
「エへへへ、言うの忘れてたぁ!」
「そこ、重要やから!」
「ゴメェェン!」
「「「「「アハハハハ」」」」」
あかねに突っ込まれ、みゆきが照れ笑いをすると、一同がみゆきの仕草を見て笑みを浮かべた。魔王はバックの中から顔を出すも、その表情は不機嫌そうで、
「何で俺まで一緒に行くカゲ!?」
「たまには良いでしょう?」
「お前達とお風呂入れ・・・」
「「「嫌!」」」
魔王の言葉が終わる前に、あかね、なお、やよいが首を振り、魔王はふて腐れたのか、再びカバンの中へと顔を引っ込めた。あゆみは思わずクスリと笑い、
「フフフ、魔王、相変わらずだね?」
「うん!家でもこんな感じで参っちゃうよ!!」
みゆきは口を尖らせながら、魔王の事を愚痴り始めた。みゆきの母の事をすっかり魔王は気に入り、育代の事は育代ママンと言って懐くも、博司の事は嫌いらしく、博司が声を掛けても知らん振りをして、博司を苦笑させた。母の事も父の事も大好きなみゆきは、そんな魔王を快く思って居らず、良く魔王を注意するも、魔王は我関せずといった具合で何時ものように飄々としていた。母育代が入浴する時は、特に魔王から目を離す事は出来ず、結局みゆきが魔王とキャンディと一緒にお風呂に入る事も度々あった。
「エェェ!?みゆきちゃん、魔王と一緒にお風呂入るの?」
「最初は嫌だったけど、今は慣れちゃったかな?別段魔王も悪さしないし・・・」
「俺達もあゆみと入ってるよな、エンエン!」
「うん!」
「二人は良い子にしてくれてるから、私も安心して一緒に入れるし」
話しがお風呂談義になると、あかねの表情は益々困惑気味になり、
「何か余計暑くなってきよった・・・みゆき、何処か休む所無いんか?」
れいかは、あかねの言葉を聞くと、太陽を見上げながら、
「梅雨開け後は、毎日暑いですものね・・・」
「もう少し歩くと、私のお気に入りの場所があるんだぁ!」
「みゆきさんのお気に入りの場所ですか?」
みゆきがお気に入りの場所があると一同に告げると、れいかはちょっと興味を持ったのか、みゆきに確認するように聞き返すと、みゆきはコクリと頷いた。そのお気に入りの場所に、自分達より先に五人の少女達が居たとは、みゆき達は知らなかった・・・
3、みさきとタエ
みゆき達が向かう1キロ程先の道路脇に、木々が生い茂り、大きな岩と岩の間を川が流れて居た。綺麗な川で、川の底まで透けて見える程で、見た者は自然と顔が綻ぶ自然の美しさを醸し出していた。その川の側にある大きな岩に、七色ヶ丘中学の制服を着た五人の少女達が腰掛け、同じように足を川に入れて休息していた。その少女達はバッドエンドプリキュア、バッドエンド王国を出て、こっちの世界で夏休みの間過ごそうと決めた五人は、こっちの世界で動きやすい、学校の制服姿で過ごしていた。
「なぁ、田舎に来れば涼しい言うとったのは・・・何所の誰やっけ?」
「それは私!だってテレビでそう言ってたんだもん!!」
あかね同様、少しバテ気味なあおいに聞かれたみさきは、頭を掻きながら自分だと手を上げた。やおいは舌を出してハァハァ荒い呼吸をすると、川に入れた足をバシャバシャ動かしながら水飛沫を上げ、チラリとれいなを見ると、
「もう、暑いの嫌ぁぁぁぁ!ビューティ、冷たい風で冷やしてよ?」
「私を冷房代わりに使おうとは・・・良い度胸ね?何なら、夏が終わるまで此処で凍らせてあげようかしら?」
「え、遠慮しとく!」
れいなに脅され、やおいは益々顔から大量の汗をかいた。そうは言っても、この川の側は確かに気持ちが良い風も通り、なみは背伸びをしながら、ゴロンと岩の上で横になりながら辺りを見渡していると、何かの物体に気付いた。なみは起き上がると、その物体をジィと凝視し、他の四人は何事かとそんななみの行動を見守っていると、
「何だ!?何かざるの中に、野菜が入ってるぞ?」
「「「「エッ!?」」」」
なみが指さした場所を見て見ると、確かにざるの中に色取り取りの野菜が入っていた。何でこんな川に野菜など入れているのだろうか、五人は不思議そうに見て居ると、
「フフフ、むやみに川に足を入れてると・・・河童に川の中に引き摺り込まれるわよ?」
「「「「「エッ!?」」」」」
突然背後から声が掛かり、五人は思わず驚いて身体をビクリとさせた。暑さで思考が鈍っていたのは確かだが、バッドエンドプリキュアの五人は、今声を掛けてきた人物の気配を、五人揃って感じ取れなかった事に驚きを隠せなかった。五人に声を掛けたのは、七十前後の老婆で、何処か気品を漂わせていた。みさきは、この老婆を初めて見た筈なのに、何処か懐かしさを感じていた。
(何だろう!?初めて会った筈なのに・・・何だか懐かしい気がする?)
老婆も老婆で、みさきを見ると、自然に顔が綻んできた。
(あの子・・・みゆきに似てるわねぇ?)
老婆の名前はタエ、みゆきの実の祖母で、みゆき達が訪ねようとしている人であった。タエは普段から、自然がもたらした冷蔵庫とも呼べる川で、野菜や果物を冷やしていて、みゆき達がそろそろ来る頃合いを見計らって、野菜を取りに来た所だった。タエは、籠に入れて居た野菜から、キュウリを一本取り出すと川に流し、キュウリは流れに身を任せながら、やがて完全に川の中に沈んで行った。みさきは不思議そうに、
「何であの野菜捨てちゃったの?」
「フフフ、あれは河童へのお供え物よ!」
「「「「「河童!?」」」」」
みさき達は、初めて聞く河童と言う言葉に興味を持った。タエはフフフと笑い、
「そう、河童!川に住む妖怪で、時々人を川に引き摺り込んで悪さをするの、だからどうか悪さをしないで下さい!代わりにお供え物を差し上げますってね」
「「「「「へぇ・・・」」」」」
バッドエンドプリキュア達に取っては、何の事だか分からなかったが、タエの話し方は上手く、五人は思わず感心しながら聞き入った。タエは、冷やしていたスイカを、ヨイショと川から持ち上げると、スイカを岩に置いてみさきを見て微笑みながら、
「その制服、七色ヶ丘中学校の制服に似て居るのねぇ?」
「エッ!?お婆ちゃん、七色ヶ丘中学校を知ってるの?確かに私達、そこの生徒だけど?」
七色ヶ丘中学校の事までタエは知っている事で、益々みさきはタエに興味を持った。タエも、みさき達はみゆきが話していた友人じゃないかと思ったものの、みゆきの姿が見えない事だけは、タエの頭に引っ掛かっていた。そんなタエの背後から声が掛かり、
「お婆ちゃん!」
声を掛けたのはみゆき、タエは数ヶ月振りに聞く孫娘の声に目を細め、背後をゆっくり振り返ると、
「お帰り、みゆき!」
「「「「「こんにちは!!」」」」」
みゆきの背後から、あかね、やよい、なお、れいか、あゆみが頭を下げて挨拶したものの、タエの側に居たみさき達を見ると驚愕し、あかねはあおいを指さすと、
「な、何であんたらが此処に居るん!?」
「それはこっちのセリフや!夏休みは、涼しい所でゆっくり過ごそう思うてやって来たら、何であんたらの顔みなアカンねん?」
互いに視線で火花を散らしたあかねとあおい、タエはヨイショと二つ目のスイカを手に持つと、
「フフフ、みゆきのお友達なのね?あなた達も一緒にいらっしゃい!スイカも良く冷えたわよ!!」
タエは微笑みながらみさき達五人も家に招待した。五人は顔を見合わせて困惑するも、その表情は何処か嬉しそうでもあった。タエがスイカを両手に持った事で、
「「アッ、お手伝いします!」」
こういう時、やはり普段から家の手伝いをしているれいかとなおが、真っ先にタエの側に駆け寄った。だがなおは、川の側に祠が建っているのに気付くと、顔から脂汗が流れ出し、タエに確認するように祠を指差し、ゴクリと唾を飲み込みながら、
「あ、あれは・・・何ですか?」
「あれは、河童の祠よ!」
「「「「「河童!?」」」」」
先程のバッドエンドプリキュア達と、同じような表情で驚愕する一同、みゆきはタエに確認するように、
「お婆ちゃん、河童さんにキュウリ上げたの?」
「ええ、さっき上げたから大丈夫!今日は河童も悪さはしないわ!!」
みゆきとタエの会話を聞いたなおの表情は、変顔浮かべながら見る見る青ざめ、なおは恐る恐る二人に話し掛けると、
「か、かかかか、河童!?河童って・・・・・本当に居るの?」
「うん!なおちゃん、大丈夫だよ!お婆ちゃんが河童さんにお供え物上げたし・・・」
「本当!?本当に本当だね?」
なおは涙目浮かべながら、尚も念を押してみゆきに確認した。なみは、そんななおを見ると溜息を付き、
「ハァ・・・あれがあたしの元になってるプリキュアかと思うと・・・情けなくなってくる」
「だってぇぇぇぇぇ!」
なみに呆れられ、まだ涙目のなおが頬を膨らませ、れいかはフフフと笑うと、
「なおは昔から、妖怪とかの話も苦手でした」
「しょ、しょうがないでしょ~~う!」
そんななおの態度を見て、一同が笑い声を上げた。ようやく落ち着きを取り戻したなおとあゆみが、スイカを一つずつ手に持ち、れいかはざるを手に持った。みゆきは、タエの右腕に左腕を絡め、嬉しそうにタエを引っ張りながら道路へと戻った。あかねは変顔浮かべながら、
「此処で休憩するんや無かったん?」
「あかねちゃん、諦めた方が良いよ!」
「置いて行かれちゃうよ!」
「やよい、あゆみ、待たんかぁぁ!」
置いて行かれそうなあかねは、変顔浮かべながらみゆき達の後を追った。みさきは仲間達を振り返ると、
「折角だから、私達も行こうか?」
「せやなぁ、スイカっちゅうもんに興味もあるし・・・」
「私も良いよ!」
「何か食べさせてくれそうだしな!」
「マーチ・・・あなたもたまには、食事の事を頭から離したらどうなの?」
自然とれいなは、そんななみを見てクスクス笑った。一同が去った後、川から大きな顔がヌゥゥと顔を出した。それは河童と共にこの世界にやって来たヴォジャノで、ヴォジャノは、エラを膨らませたり戻したりしながら、去って行く一同を目で追い、
(クククク、スゲェ御馳走がウヨウヨ居るじゃねぇか?幸い河童の野郎は、さっきのお供え物とやらを食べてご機嫌で寝てやがるし・・・俺も久々の人間の獲物を食いてぇ!)
ヴォジャノは、長い舌でペロペロ口まわりを舐めると、ゆっくり川から上がり、みゆき達の後を追った。
4、ヴォジャノVSスマイルプリキュア
田舎道を大人数の少女達が歩き、擦れ違う近所の人達に、みゆきは嬉しそうに挨拶し、挨拶された老人達も、タエの孫みゆきだと分かると、皆懐かしそうに声を掛けてくれた。一同は、周囲を畑に覆われ、家の脇を小さな小川が流れて居るタエの家にやって来た。タエの家は、段々畑の上にあるので、家の庭から辺りの自然がよく見えて、一同は、思わず絵に描いたような自然の風景を見て、感嘆の声を発した。バッドエンドプリキュア達でさえも思わずその美しさに目を奪われた。妖精達も顔を出し、魔王を見たなみは慌てて飛び退き、
「ゲッ!?いつぞやの変態妖精!あんたも来てたのか?」
「カゲカゲカゲ!お前達も居るとは奇遇カゲ・・・ちょっと楽しくなってきたカゲ!!」
魔王のスケベ笑いを聞き、バッドエンドプリキュア達は背筋に悪寒が走った。みさきはみゆきに小声で話し掛け、
「あの子連れて来て大丈夫!?何か視線が・・・」
「アハハハハ!エェェと、多分平気かな?」
みゆきはみさきに愛想笑いを浮かべ、みさきはもう一度魔王を見て顔を顰めた。キャンディ、グレル、エンエンも目をキラキラ輝かせ、
「キャンディも楽しみクル!」
「何か妖精学校を思い出すよな、エンエン?」
「うん!みんなどうしてるかなぁ?」
妖精達が楽しそうに外の景色を楽しんでいると、あかねは軽く咳払いをし、
「エエか、キャンディ、グレル、エンエン、魔王、みゆきのお婆ちゃんの前では、ぬいぐるみの振りをするんやで?」
「俺もカゲか?俺は良いカゲ!」
「まあ、魔王の事はお婆ちゃんにも話してあるから大丈夫だけど・・・キャンディ、グレル、エンエン、ゴメンね!お婆ちゃんの家に居る間は、おとなしくしててね?」
グレルとエンエンは直ぐに快諾し、キャンディは少し渋ったものの、ぬいぐるみの振りをする事に同意した。そこにスイカを切ったタエが入ってきて、
「みんな、今日は疲れたでしょう?スイカでも食べて!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
あかね達五人がタエに深々とお辞儀をし、みさき達も思わずタエに頭を下げた。どうやって食べるのか不思議そうにしているみさき達に、
「何や、スイカの食べ方も知らんのか?こうやって食べるんや!」
あかねはそう言うと、一気にスイカを口の中に頬張ると、あおいに近くに来いとジェスチャーすると、あおいは小首を傾げながらあかねの側に寄ると、あかねは勢い良くあおいの顔目掛けスイカの種をプププと飛ばした。あおいは慌てて手でガードすると、表情を険しくし、
「何するんや?喧嘩なら受けて立つでぇ!」
「シシシシ、これがスイカの正しい食べ方や!口の中に堪ったスイカの種を、勢い良く飛ばす!!」
「そ、そんな風に食べるのか?知らなかった・・・」
少しカルチャーショックを受けたあおい達、れいなは、あかねを指差しながら、れいかに話し掛け、
「そうなの?」
「信じないで下さい!」
れいかは困惑気味に首を振り、違うと答えたものの、既に他の仲間達はスイカを口一杯に頬張り、種の飛ばし合いを始めて居た。れいかは慌てて、
「み、皆さん、そんな下品な食べ方は・・・アッ!?」
あかねとあおいの二人から、スイカの種攻撃を受けたれいかの顔に、ほくろのようにスイカの種が付き、俯いたれいかは身体を震わせると、無言でスイカを口に入れ、種飛ばしに参加した。スイカの種飛ばしの戦場と化した庭先から逃れた妖精達は、縁の下で美味しそうにスイカを頬張っていた。タエはそんな子供達を、笑いながら見守っていたが、晩ご飯の仕込みをしに奥へと消えていった。
種飛ばしを終えたみさき達は、奥の台所で顔を洗いに向い、みゆき達は後片付けをしていると、キャンディやエンエン、グレルが騒ぎ出し、
「みゆき、みんな、何か嫌な気配がするクルゥ!」
「何だかこっちに近付いて来るよ!」
「俺も感じるぜ!」
妖精達の視線が、タエの家の横を流れて居る小川に向けられると、みゆき達も釣られるように視線を向けた。小川から大きな顔がヌゥゥと現われ、思わずなおは悲鳴を上げれいかの後ろに隠れた。大きな顔の正体はヴォジャノ、ヴォジャノは小川からその全身を現わし、そのおぞましい姿に一同は思わず怯んだ。表情を険しくしたみゆきは、ヴォジャノを睨むように、
「あなたは!?まさか、魔界の・・・」
「クククク、その通り!さてと、ようやく追いついたぞ!さあ、何奴から頂こうとするかな?」
ヴォジャノは、舌なめずりをしながら、みゆき達六人の品定めをするかのように、一人ずつ凝視していった。
「何奴も柔らかくて美味そうだ!俺は美味い物は最後に味わう主義だなぁ・・・骨ばかりで不味そうな、さっきの婆さんから食らうとするか!!」
(まさか・・・お婆ちゃん!?)
みゆきの脳裏に真っ先にタエの姿が目に浮かんだ。タエを食べようとする目の前の物の怪の事を、みゆきは許せなかった。
「そんな事させない!みんなぁぁ!!」
みゆきの合図に、あかね、やよい、なお、れいか、あゆみが頷くと、六人はスマイルパクトを構え、
「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!!」」」」」
「キラキラ輝く、未来の光!キュアハッピー!!」
「太陽サンサン、熱血パワー!キュアサニー!!」
「ピカピカぴかりん!じゃんけん・・・ポン!キュアピース!!」
「勇気リンリン、直球勝負!キュアマーチ!!」
「しんしんと降り積もる、清き心!キュアビューティ!!」
「思いよ、届け!キュアエコー!!」
「「「「「6つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!!」」」」」
六人のスマイルプリキュアが、ヴォジャノに対してポーズを決めた。ヴォジャノは驚愕した。捜していたプリキュアに、こうもいとも簡単に出会えるとは思っていなかった。ヴォジャノは鼻息荒く、
「俺は、何て付いてるんだ!此処でプリキュアを倒せば・・・」
ヴォジャノの野心に火が付いた・・・
だが、ヴォジャノはプリキュアの力を甘く見過ぎていた。怖がりながらも、タエを食おうとするヴォジャノへの怒りが、マーチを俊敏に動かせ、ヴォジャノの液体攻撃をものともせず躱し続け、ヴォジャノの腹に蹴りを放ち、入れ替わりに上空からサニーがヴォジャノの顔目掛けスパイクを決めてヴォジャノを下の川へと落下させた。
(こ、こいつらぁ・・・戦い慣れてやがる!?)
川へ落ちたヴォジャノを追いかけ、スマイルプリキュアも川へと追いかけた。
「何や、これが魔界のもんの力かぁ?」
「これならアカンベエの方が手強いかも!?」
サニーとピースの一瞬の油断が、ヴォジャノに反撃の機会を与えてしまい、ヴォジャノはカァァァと痰を口内に溜めると、ペッとスマイルプリキュア目掛け放った。六人は瞬時に攻撃を躱したものの、地面に吐かれた痰から異臭が発生し、スマイルプリキュアは、身体が痺れたようにその場で蹲り、苦悶の表情を浮かべた。
その戦いを、庭先に戻ってきたバッドエンドプリキュアの五人が気付き、ジィと戦いの様子を見つめていたが、
「あらら、あいつら苦戦してるようやなぁ?」
「まあ、私達には関係無いけど!」
「スイカも食ったし、そろそろ帰るか!」
「そうね、これ以上彼女達と馴れ合う必要も無いわね!」
あおい、やおい、なみ、れいなは、そろそろ飽きてきたから帰ろうと話す中、みさきは尚も戦いの様子をジィと見つめていた。
「カァカカカ!俺をバカにするからそんな目に合うんだ!!さっきの婆さんや若いのは、お前達の仲間だろう?・・・食うのはお前らだけにして、あいつらは俺の溶解液で、跡形も無く消し去ってやる!!」
勝ち誇ったヴォジャノは、胃液を口内に逆流させ蓄え始めた。一同は顔面蒼白になり、ハッピーは必死に立ち上がろうと試みるも、ヴォジャノは大きく口を開いた。
「な、何を!?止めてぇぇぇぇ!!」
ハッピーの絶叫空しく、ヴォジャノの溶解液が、タエの家に向かって発射された。あおい、やおい、なみ、れいなは、我関せずとタエの家から距離を取り、あおいはみさきに声を掛け、
「何してるんや!?はよ、こっちに・・・・ハッピー?」
みさきの脳裏に、タエの優しげな顔が浮かんだ瞬間、みさきは無意識の内にバッドエンドハッピーの姿に変化すると、向かってくる溶解液目掛けジャンプし、
「バッドエンド・・・シャワー!!」
バッドエンドハッピーは、指をハート形の形にするや、まるでハッピーシャワーのような光弾を、溶解液目掛け発射した。溶解液は、バッドエンドシャワーの前に、跡形も無く消滅し、ヴォジャノは驚愕する。バッドエンドハッピーは、一同に檄を飛ばし、
「何暢気に倒れてるのよ!さっさとそんな奴倒しちゃいなさいよ!!」
「バッドエンドハッピー・・・・・ウン!」
まるでバッドエンドハッピーに力を貰ったかのように、六人は立ち上がった。形勢不利と見たヴォジャノは、魔界へと逃げ帰ろうとしたものの、足に何かが絡みつき、ヴォジャノの動きを封じた。
「な、何だ!?足が?アァァ!お前は、河・・・」
何者かに足の動きを封じられたヴォジャノに対し、
「「「「「ペガサスよ、私達に力を!!」」」」」
「鳳凰よ、私に力を貸して!!」
六人がキャンドルを合わせ、ペガサスと鳳凰に力を貸して欲しいと願うと、六人の姿が変化を遂げていく・・・
「プリンセスハッピー!」
「プリンセスサニー!」
「プリンセスピース!」
「プリンセスマーチ!」
「プリンセスビューティ!」
「プリンセスエコー!」
「「「「「プリキュア!プリンセスフォーム!!」」」」」
六人は、まるでドレスのような衣装を纏い、頭には天使の輪のような光のリングが装着された。
「今クル!みんなの力を合わせるクルゥゥ!!」
キャンディは、ロイヤルクロックの上に付いているボタンをカチリと押した。針は動き、数字の4に合わさると、ロイヤルクロックからフェニックスが舞い上がり、エコーの身体を包み込み上昇させる。エコーはプリンセスキャンドルをスマイルプリキュアに向けて構えると、エコーの背後に、巨大なフェニックスのシルエットが浮かんだ。
「集え!五つの希望の光!!」
「「「「「羽ばたけ、光輝く未来へ!」」」」」
ハッピー達五人は、五色のペガサスに跨るや、エコーに導かれるように上空高く舞い上がった。五色のペガサスは、上空でフェニックスと合わさると、フェニックスは命を宿したかのように咆哮を上げた。
「「「「「「プリキュア!ロイヤルレインボー・バ~~スト!!!!!!」」」」」」
フェニックスの口から、強烈な虹のエネルギー波がヴォジャノ目掛け放たれた。ハッピー達六人は、キャンドルの炎を吹き消し、キャンドルをクルクル回してヴォジャノに背を向けポーズを決めると、
「「「「「「輝け!ハッピースマイル!!」」」」」」
「ち、畜生!!」
背後で爆発が起こり、ヴォジャノは浄化され、その時川にポチャンと水飛沫が立った・・・
戻って来たみゆき達、みゆきはみさきに笑みを浮かべ、
「ありがとう!あなたが助けてくれなかったら、私、お婆ちゃんを助けられなかった!」
「べ、別に・・・あなたのお婆ちゃんには、借りがあったから返しただけだよ!」
「もう行っちゃうの!?今日は泊まっていけば良いのに?」
「べ、別に私達の勝手でしょう!みんな、行こう!!」
「「「「う、うん」」」」
みさきのさっきの行動を見ていたあおい達は、困惑気味にみさきの後に続いた。その時、奥からタエが出てきて、
「あら!?もう帰るの?今日は泊まっていけば良いのに・・・」
「ううん、私達はもう帰る!」
「そう・・・・また何時でも遊びにいらっしゃい!」
「・・・・・ウン!!」
タエに何時でも遊びに来て良いと言われ、思わず振り返ったみさきは、満面の笑みを浮かべていた。その姿はみゆきにそっくりで、タエも自然と笑みを浮かべていた・・・
みゆきはこの時、心の底からバッドエンドプリキュア達とは、友達になれる気がしていた・・・
第九十八話:お婆ちゃんとの思い出!
完
季節感無いですが、夏休み編の始まりです!
親父の一周忌も今日無事終了!一年経つのも早いものです・・・
魔法つかいプリキュア見てて思ったのですが、折角魔界編書いてるし、魔法の世界とコラボさせるのも有りかなぁ!?
リコ出しちゃおうかなぁ?
そうすると続編に出さないと・・・悩む所です!