プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第九十七話:シーレインの誤算

1、アモンVSアベル

 

 魔界・・・

 

 不気味な薄暗い空に雷が轟き、十二の魔宮を時折稲光が照らしだしていた・・・

 

 シーレインがスイートプリキュアと戦っていた同じ頃、シーレインの不在を利用したカインとアベルが、密かに動き出していた。十二の魔宮の一つ、巨蟹宮に向かったカインとアベル、まるで二人を歓迎するかのように、巨蟹宮に続く道を稲光が照らし、その稲光に導かれるかのように、カインとアベルが歩を進める。その姿を、息を潜ませながら鋭い双方の目が見つめていた。稲光がその人物を照らした時、姿を現わしたのはアモン!

 

「やはりシーレインの読み通り、カインとアベルが動き出したようだな・・・無人の巨蟹宮で、何を企んで居るかは知らんが、このアモンが居る限り、貴様らの好きにはさせんぞ!」

 

 アモンはシーレインに頼まれた通り、カインとアベルに対する警戒を怠らなかった。それが幸いしてか、アモンは、直ぐに行動を起こしたカインとアベルに気付き、その後を追った。だが、カインはその一歩上を行っている事を、アモンが気付く事は無かった・・・

 

 不気味に静まりかえる巨蟹宮の巨大な扉を、右側をカインが、左側をアベルが押し、ドアを全快に開くと、二人は薄暗い闇の奥へと歩を進めて行った。巨蟹宮の入り口に佇んだアモンは、無人の筈の巨蟹宮に、カインとアベル以外の気配を感じていた。

 

(何だ!?何者かが・・・居る!)

 

 アモンは、カインとアベルの企み、並びに巨蟹宮に潜む謎の人物を探る為、巨蟹宮の中へと歩を進めていった。巨蟹宮の奥深くからは、アモンをして緊張させる程の、重苦しい空気が流れてきた。魔界の魔獣と恐れられるアモンは、その緊張を感じたのもちょっと、逆にその正体を暴こうと、戦士としての心が高ぶっていた。どれくらい歩いたのか、アモンにも分からなかったが、薄暗い奥の部屋から、話し声が聞こえてきて、アモンはその場で足を止めた。

 

(この奥か!直ぐに踏み込むか、少し様子を見るか・・・)

 

 少し考えたアモンは、様子を見ようと決断し、奥の状況を、気配を消して探った。その奥からは、アベルが誰かと会話している声が、アモンにも聞こえていた。

 

「傷は癒えたか、ソドム?」

 

「問題無い!最も、この生首だけでは動く事も出来んがなぁ」

 

(ソドム!?何処かで聞いた名の気もするが・・・)

 

 ソドムという名に聞き覚えがあったアモンが首を捻ると、アベルは、そんなアモンの行為をお見通しとばかり、

 

「アモン、そんな所でコソコソしてないで、こっちに来たらどうだ?魔界の魔獣と恐れられた名が泣くぞ!」

 

(気付かれていたか!?)

 

 アモンは、気付かれたのならコソコソする必要も無いと思い、ゆっくりアベル、そして、黒い不気味な台に飾られていた生首、ソドムの前に姿を現わした。そんなアモンの姿を見るも、アベルは何故か口元に笑みを浮かべ、

 

「おいおい、気付かれないとでも思って居たのか?貴様のようなガタイの良い奴が、どんなに気配を隠そうとも、俺が気付かない筈無いだろう?」

 

「フン、気付かれていたなら隠れる必要も無い!アベル、そのソドムという者は何者だ!?」

 

 アモンは、ソドムをキッと睨み付けながら指差し、アベルに問い掛けた。アベルはソドムをチラリと見ると、アベルとソドムは不気味に笑い、

 

「「クククククク、アァハハハハハ!!」」

 

「貴様ら、何が可笑しい?」

 

 アベルとソドムに侮辱されたと感じたアモンは、戦士の誇りを傷付けられたように感じ、闘気を二人に浴びせた。だが、二人はそんなアモンを見ても笑いを止めず、アモンは大股でアベルに近付くと、アモンは右手で、アベルの白い軍服の胸ぐらを掴み持ち上げると、

 

「その薄汚い笑いを止めろ!貴様もその生首のようになりたくなければなぁ!!」

 

「クククク、止める!?これが笑わずに居られるか!」

 

「どういう意味だ!?」

 

 更にアモンは、アベルを締め上げようとするも、ある事に気付きアベルをそのまま投げ飛ばすと、アベルはクルリと宙で回転し着地した。アモンは周りを見渡し、カインの姿が消えている事に気付き、

 

「アベル、カインは何所だ!?貴様らは何を企んで居る?」

 

「クククク・・・良いだろう、貴様にも教えてやる!!我らの真の目的は・・・魔王ルーシェスによって封じられた、我らの本当の肉体を取り戻す事だ!!」

 

「本当の肉体だと!?」

 

 そう言ったアモンは、思わずハッとした!

 

 アモンの脳裏に、忘れようとした悪夢が甦って来る・・・

 

 嘗て、ルーシェス以前にこの魔界を支配していた魔王の事を、巨大なる漆黒の身体と、巨大な蝙蝠のような羽を持ち、前、両横に顔を持つ、三顔の悪鬼、悪魔王ゼガンの事を・・・

 

 悪魔王ゼガンの姿を思い出した時、アモン程の勇者でも思わず全身に震えが走った。驚愕の表情を浮かべたアモンは、

 

「ま、まさか・・・貴様らは!?」

 

「そうだ!我らは三人であり、一人でもある!我らの本当の名は・・・ゼガン!俺とアベル、そしてカインは、ルーシェスの策略に陥り、三つの身体に分けられ、肉体を封じられた・・・」

 

「ルーシェスは、俺達を監視する事も含め、手元に俺達を置こうとした。それに気付いたカインは、ソドムの存在を隠し、魔王ルーシェスに従う振りをしながら、ソドムに真の肉体の探索を命じた・・・」

 

 ソドムとアベルの話を聞く内に、アモンにも当時の記憶が徐々に甦って来ていた。この魔界全土を巻き込んだ、魔界大戦の事を・・・

 

 ゼガンは、その圧倒的力で魔界を制圧し、その力を誇示するかのように、従わぬ者は次々八つ裂きにしていった。静観していた竜族の長、光の竜バハムート、普段はバハムートと啀み合いながらも、ゼガンの非道な行いに激昂したダークドラゴンも加わり、ゼガン率いる魔族と竜族との間で300年の長きに渡る戦いが繰り広げられた。その戦いに巻き込まれ、多くの魔界の者達が命を落とした。魔界の魔獣と恐れられたアモンだったが、この戦いには加わらず、もっぱら弱い魔界の精霊達を助け、静観をしていたが、一度だけゼガンと戦った事があった。魔界の魔獣と恐れられたアモンだったが、ゼガンが放つ圧倒的威圧感に飲まれ、為す術もなく殺されようとしたその時、天空より背中に10枚の天使の翼を持ったルーシェスが舞い降り、ゼガンと対決した。

 

「あの時、ルーシェス様が現われなければ、俺はゼガンに八つ裂きにされていただろう・・・」

 

「そうだ!だが、俺達はお前の事を評価していたのだぞ、アモン!!」

 

「我らに恐れつつも、精霊共を守る為に、我らに立ち向かった貴様の事は認めていた」

 

 アベルとソドム、二人は意思を合わせたかのように、

 

「「我らに手を貸せ、アモン!もうこの魔界に、ルーシェスは存在しないのだ!!」

 

「な、何だと!?ルーシェス様が・・・・どう言う事だ?」

 

 アモンは顔色を変えた・・・

 

 この魔界を治める魔王ルーシェスが、相手がゼガンならばいざ知らず、力を封じられている今のカインとアベルに倒せるとは思えなかった。そんなアモンの疑問に気付いたのか、アベルとソドムは低い声で笑い始めた。アモンは激昂し、

 

「何がおかしい!?良いだろう、貴様をこの手で倒し、我が手でルーシェス様を救って見せる!!ウォォォォォ!!!」

 

「ほう、この俺とやるのか・・・アモン!?」

 

 アモンが咆哮すると、巨蟹宮の中が地震でも起きたかのように激しく揺れ、アモンの身体に闘気が漲ってくる。それを見たアベルは、直ぐに臨戦態勢に入り、アベルの身体が発光しだした。両者が動き出し、アモンの鋭い爪から繰り出す素早い連続突きが、アベル目掛け炸裂する。アベルは躱し続けるも、何発か頬を擦り、両目を金色に輝かせたアベルが、アモンに雷を放つも、アモンは大きく息を吸い込むと、口から火炎を吐き、雷と相殺させた。

 

「流石は魔界の魔獣と言われるだけはある・・・この姿では、俺の方が不利か?」

 

「フン、ソドムとやらに手を借りても良いのだぞ?」

 

 アモンに名を呼ばれたソドムは、両者の戦いを見てクククと笑い、

 

「貴様ら、俺の巨蟹宮を壊す気か?ここで戦わせるのは・・・光の戦士プリキュアだけで十分何だがなぁ?」

 

(プリキュアだと!?)

 

 プリキュアの名を聞き、一瞬虚を突かれたアモンに、アベルの雷を帯びた右ストレートがアモンの顔面に炸裂し、アモンは右片膝を付くも、二発目のパンチは左手で受け、逆にアモンはアベルに右ストレートを放つも、今度はアベルが左手で受け止めた。ガップリ四つの体勢で力比べを始めたアモンとアベル、パワーではアモンが上かと思われた時、アモンは、アベルの背後から突然現われたカインを見て驚愕した瞬間、身体が言う事を聞かず、そのまま地面に倒れ込んだ。カインはゆっくりアモンの前にやって来ると、

 

「殺しはせん!アモン、俺達の為に働いて貰うぞ!!」

 

(グゥゥゥ・・・シーレイン、スマン・・・俺は・・・俺は・・・)

 

 アモンの意識は、深い闇の中に沈んで行くかのように、ゆっくり遠のいて行った・・・

 

 

2、束の間の親睦

 

 調べの館に勢揃いしたなぎさ達と、魔界の戦士シーレインとの間に、奇妙な友情が芽生え始めて居た・・・

 

 奏は、響、あかね、なお、真琴を連れ、一度家に戻ると、家からカップケーキを一杯持って来て、一同を喜ばせた。奏はシーレインに、生地がチョコベースで、上に苺と生クリームタップリのカップケーキを差し出すと、シーレインは最初こそ戸惑ったものの、一口口の中に頬張ると、見る見る表情が和らいだ。魔界で生まれたシーレインにとって、初めて食する未知の食感、口の中に広がる生クリームと、チョコ味のスポンジケーキが口の中でマッチし、思わず目を見開くと、

 

「お、美味しい!?」

 

「本当!?喜んでくれて良かった!まだまだ色々な種類があるから、良かったら食べてね!!」

 

 奏は、シーレインが喜んでくれて、嬉しそうにそう言ったものの、持って来た箱の中身を見て見れば、既に残りは後一個になっていて、思わず奏は目を点にした。みんなに一人三個は余裕で配れる計算で持って来たのに、足りないような状況に、奏は思わず響をジロリと睨むと、響は慌てて口の中の物をゴクンと飲み込んだ。見る見る奏の顔は真っ赤になり、

 

「響ぃぃぃ!!」

 

「良いジャン!持ってくるの手伝ったんだし・・・奏のケチ!!」

 

「ケチじゃない!毎回のように摘み食いしてぇぇ!!」

 

 怒った奏を見た響は、脱兎の如く逃げ出し、その響の後を奏が追いかけ、響と奏、二人が調べの館の中で追いかけっこを始める。そんな中、慌てて飲み込んだ者が更に三人居て、なぎさ、のぞみ、なおは、同じような表情で誤魔化し、一同を笑わせる。思わずシーレインもクスリと笑い、

 

「随分楽しそうねぇ・・・何時もこんな感じなの?」

 

「フフフ、大体こんなものよね!魔界ではどうなの?」

 

 今度は逆にエレンがシーレインに問い掛けると、シーレインは憂いの表情で、

 

「向こうで笑顔を見せた事何て・・・ほとんど無いわ!ところで、あなたセイレーンと言うのね?その猫ちゃんが呼んでいたけど・・・」

 

「ええ、メイジャーランドの名前ではね!でも、こっちの世界では黒川エレンよ!!」

 

「少し親近感が湧いたかも?」

 

「フフフ、私も!さっき、あなたが本気だったら、私達四人掛かりでも勝てなかった相手と、今はこうして笑顔で話を出来る何てね!出来れば他の魔界の人達とも、こんな風に過ごせれば良いんだけど・・・」

 

「さっきも言ったけど、それは無理!ルーシェス様がお姿を現わして下されば別だけど・・・」

 

 ルーシェスの姿を思い描いたのか、シーレインの表情が優しげになり、目をキラキラ輝かせたえりかが会話に加わり、

 

「ホホォ、恋する乙女の目をしてますなぁ?」

 

「エッ!?べ、別に・・・そういう訳じゃ・・・」

 

 えりかに図星を指されたかのように、シーレインの頬が赤く染まり、周りに居た一同からヒューヒューと声を掛けられ、益々シーレインは頬を染めた。こんな穏やかな気持ちになれたのは何時の事だろうかと、シーレインは、プリキュア達との親睦を心から喜んだ・・・

 

 

 楽しい一時も終りを迎えようとしていた・・・

 

 シーレインは、響と奏の案内で、一同と共に人気の少ない天文台の近くにやって来ていた。シーレインは、一同を振り返り笑顔を向けると、

 

「あなた達と出会えて良かった!念を押すようだけど、用心だけはしていて!私のように、精神攻撃を得意としている者も居れば、バルガンのように毒を、戦った相手に呪いを掛けるような者も居る。私も出来るだけ、あなた方と魔界の者が戦わないで済むように、みんなに話して見るけど、おそらくは・・・・」

 

「魔界がそんな状況なのに、このまま帰ってあなたは大丈夫なの?」

 

 ほのかに聞かれたシーレインは、少し影のある笑みを浮かべると、

 

「おそらく、只では済まないでしょうね・・・でも、カインとアベルを追求できるチャンスでもある!大丈夫、私には信頼できる仲間が居るから!!」

 

「そっかぁ・・・また会えるよね?」

 

 なぎさに聞かれたシーレインは、コクリと頷いた。何処か陰のあるその表情を見て一抹の不安を覚えたものの、シーレインは、そんな一同を心配させないように、

 

「ええ、必ず!プリキュアの皆さん、ありがとう!」

 

 シーレインは一同に頭を下げると、一同も釣られるように頭を下げた。

 

(もう、会えないかもしれないけど、あなた達プリキュアとの交流は忘れない!)

 

 シーレインは、魔界に繋ぐ時空を出現させると、魔界へと帰って行った。その姿を、一同は手を振って見送った。

 

 

3、処断

 

 魔界に戻ったシーレインは、魔神達に招集を掛けた・・・

 

 黒き塔内部に続々と魔神達が集まってくる中、天羯宮を守護するベレルは、アモンに対して妙な違和感を感じていた。ベレルは、魔界の魔獣とも、勇者とも言われるアモンを、戦士として尊敬していた。魔界は強さこそ正義、弱者は当然明日をも知れぬ我が身に怯え、ひっそりと暮らし続ける。だがアモンは、そのような弱者を自ら進んで庇い、慕われていた。だが、今目の前に居るアモンは、闘気を満々と発し、威圧感を周囲に張り巡らし、弱き精霊達もここに来るまで怯えていたのを、ベレルは見て居た。

 

(アモン殿はどうしたのだ!?これでは、ミノタウロスやバルバスと変わらぬではないか?)

 

 ミノタウロスやバルバスは、常日頃から乱暴狼藉を繰り返し、弱者である精霊達から恐れられていた。アモンは、そんな二人を見付けるや、精霊達を庇い続けて居たが、ベレルが見た今のアモンは、そんな二人と大差が無いように思えてならなかった。ベレルは、アモンの真意を探ろうとするかのように話し掛け、

 

「アモン殿、シーレイン殿が、是非拙者達に報告したい事とは何でござろうな?」

 

「・・グゥゥゥゥ・・・・・・・・・・」

 

「アモン・・・殿!?」

 

(おかしい・・・明らかに変だ!?)

 

 アモンは、話し掛けたベレルの言葉を聞こえ無いかのように無視し、ドスドス足音を立てながら大股歩きで奥へと消え去った。ベレルの身は朽ちて、骨となっている為、ベレルの表情は分からない、だが、動揺している事は明らかだった・・・

 

 再び集結した12の魔神達、シーレインは一同の顔を見渡すと、

 

「私は、人間界でプリキュア達に会い、アベルから報告があった、魔界に乗り込んで来た真意を聞きました。彼女達の中の一人は、此処に居るアベルと・・・ダークドラゴンの争いの影響で、この魔界に迷い込んだそうです!!」

 

 アベルがダークドラゴンと戦ったという報告を聞き、カインとアモン、シーレイン以外が思わずざわついた。ベレルは確認するように、

 

「アベル殿、それは事実でござろうか!?ドラゴン族に手出しする事は、この魔界で最大のタブーですぞ?」

 

(さあ、どう言い逃れするのかしら、アベル?)

 

 シーレインは、お手並み拝見といった表情でアベルを見つめた。だがアベルは意に介さず、

 

「それがどうした?ダークドラゴンは、竜族との交流を絶った存在だ。問題あるまい?それに、奴が暴れていたのでな、この俺自ら奴の横暴を止めたまでだ!!」

 

 カインも、それがどうしたという表情を浮かべながら、

 

「その事については、既にルーシェス様に許可を得ている!問題あるまい?」

 

「ルーシェス様が!?ならば問題無いわよねぇ?」

 

 ルーシェスの許可も得ているというカインの言葉を聞き、リリスは長い髪を搔き分けながら、他の一同に確認するように声を掛け、一同がコクリと頷いた。シーレインはアモンをチラリと見ると、

 

(アモン、私が留守中、カインとアベルに動きは無かった?)

 

 シーレインは、アモンの心の中にテレパシーで話し掛けるも、アモンはシーレインの問い掛けに、何も答えようとはしなかった。シーレインは小首を傾げながらも、今一度アモンの心に話し掛けるも、アモンはまるで聞こえていないとばかり、無言を貫いた。

 

(アモン、一体どうしたの!?アモン?)

 

 シーレインの表情に、焦りが生まれた事を見抜いたカインは、逆にシーレインに尋問を始め、

 

「それよりシーレイン、貴様はプリキュアに会っていながら、何の手土産も持たずに戻ったのか?」

 

「プリキュア達に、魔界に対する敵意は無かったわ!それが分かれば・・・」

 

「魔王様はこう言っていた筈だぞ!魔界に仇なすプリキュアを・・・倒せとな!そして、見せしめに何人か魔界に拉致して、我が生贄に捧げよと!!」

 

「だから、それは誤解だったと・・・」

 

「黙れ!貴様は、四神の身でありながら、魔王様の命に背いた・・・」

 

 シーレインが弁明しようとすると、アベルがそれを遮った、カインは、シーレインを威圧するように、

 

「シーレイン、魔王様の命に背けばどうなるか、分かって居るよなぁ?如何に四神と言えど、その罪は重い・・・よってシーレインの処断を、これより決める!!」

 

(クッ!?下手に動けば、返ってこちらが不利か?)

 

 何とかカインとアベルの企みを、白日の下に暴こうとしたシーレインであったが、カインとアベルは、巧みにそれらを魔王ルーシェスの名の下に一蹴し、逆にシーレインの処遇を決めようと動き出した。シーレインは、ここで反論するのは返って自らを窮地に陥れると判断し、一同の出方を伺った。真っ先にカインとアベルに反論しようとしたのは、双魚宮のニクスだった。ニクスは激しく動揺しながら、

 

「お、お待ちを!シーレイン様に悪意があるとは・・・」

 

「ニクス、シーレインと懇意な貴様の弁解など聞かんぞ!」

 

「ですが・・・」

 

「これより、シーレインの処断について決を採る!知っても居る通り、反対が賛成を上回らない限り・・・シーレインは処刑する!!」

 

 カインの宣言を聞き、一同はシンと静まりかえった。

 

「では、問う・・・当然俺は処刑こそ相応しいと思っている!アベル、お前は?」

 

「無論だ!シーレインは、ルーシェス様の命を独断で破ったのだからな!!アモン、貴様は?」

 

「・・・・・グゥゥ・・・殺す!」

 

「「エッ!?」」

 

 アモンは唸りながら、ただ一言殺すとハッキリ叫んだ。シーレインとニクスは、信じられないといった表情でアモンを見つめた。同じ四神であり、魔王ルーシェスに忠誠を誓う同志と信じて居たシーレインにとって、アモンのその一言は、とても信じられなかった。

 

「ア、アモン・・・」

 

 シーレインはそのまま膝から崩れ落ちた・・・

 

 信じて居た者に裏切られた絶望が、シーレインの心を覆い尽くして行く。そんなシーレインを見て、カインとアベルは口元に笑みを浮かべた。ベレルはそんなアモンの表情に疑惑を持ち、

 

(やはりアモン殿は・・・おかしい!?何か裏がある!)

 

 ベレルはそう確信した・・・

 

 アベルは口元に笑みを浮かべながら、

 

「そうか!アモン、お前も処刑に賛成か・・・ミノタウロス、お前は?」

 

「フン!そんな事、俺は興味が無い!!」

 

「俺もだ!プリキュアとやらと戦わせろ!!」

 

 ミノタウロスとバルバスは、シーレインの処断については、何の興味も無いようで、頻りにプリキュアと戦わせろと騒いだ。カインはやれやれといった表情を浮かべると、ニクスを見つめ、

 

「ミノタウロスとバルバスは棄権か・・・ニクス、貴様は?」

 

「も、勿論反対でございます!シーレイン様を処刑だ何て・・・」

 

「分かった、もう良い!アロン、貴様は?」

 

 カインに聞かれたアロンは、目を閉じ腕組みしながら思案していたが、腕組みを解くと目を見開き、

 

「・・・・シーレイン殿の言う事も一理ござろうが、魔王様の命に背く事は・・・」

 

「アロン!」

 

「案ずるな、ニクス!カイン殿、私は反対に回ります!!」

 

 アロンも反対に回り、軽く舌打ちしたアベルは、ニヤニヤしているシャックスを見つめ、

 

「シャックス、貴様は?」

 

「フフフフ・・・そうですねぇ、シーレイン様のような美女を殺すのは惜しいですねぇ・・・どうせなら、魔界の者の慰め者にするのは如何ですかな?一生を掛けて魔界の者達の子を産み続ける・・・そうそう、オークの子など如何ですか?二週間に一度、醜いオークの子を産むなど、裏切り者にはお似合いかと?」

 

 シャックスが口に出したオークとは、魔界に住む者に取っては蔑むべき者と言われていた。豚とゴリラが合わさったような醜い容姿をしていて、オークの知能は低く、雄しか居なかった。だが、その分オークの生殖本能は凄まじく、集団で行動しては、あらゆる種族の女を浚っては犯し、犯された女は一週間でオークの子を孕み、二週間目には子を産む、生涯をオークの子を産む慰め者となった。魔族、動物、人間等、あらゆる種族の女や雌と交わっても、オークは、自分達種族の子を孕ませる事が出来る脅威、魔界に住む女モンスター達に取っては、最も忌み嫌う存在・・・それがオークだった!!

 

 魔王ルーシェスは、オーク達をある一点の森に集め、そこで暮らすように命じ、結界を張った。その場所はオークの森と呼ばれ、女魔族に取って、決して近付いてはならぬ禁断の地と語られていた。そのオークに、あろう事かシャックスはシーレインを与えてはどうかと提案したのだから、ニクスの怒りは頂点に達しようとしていた。髪が真紅に染まり始め、シャックスを物凄い表情で睨みだし、リリスも今の言葉は聞き捨てならないと言うように、リリスの髪が、まるで生き物のように動き出した。

 

「貴様ぁぁ、シーレイン様を侮辱するなら・・・」

 

「シャックス・・・今の言葉は、私も聞き捨てならないわねぇ!」

 

「オォォ、怖い、怖い、こんな野蛮な者達と仲良くしている女は、殺した方が良いでしょうねぇ・・・賛成です!!」

 

「シャックスゥゥゥゥ!!」

 

 今にもシャックスに飛び掛かりそうな勢いのニクスを、細身の愛刀を引き抜いたベレルが抑え、

 

「ニクス、場をわきまえろ!シャックス、貴様も言葉を慎め!!」

 

「ウゥゥゥ・・・ベレル様、しかし」

 

「フフフ、申し訳ありません!」

 

 ベレルに止められたニクスは、まだ不満そうにしながら、何処か人を小馬鹿にした態度を取るシャックスを、恨めしそうに睨み続けた。場が落ち着いた事で、カインはリリスを見ると、

 

「リリス、お前はどうだ?」

 

「此処はシーレイン様に貸しを作っておきましょう!反対ですわ!!」

 

「リリス・・・相変わらず素直じゃ無いわね?」

 

 十二の魔神の中で、三人の女魔神と言う事もあり、シーレインとニクスの関係とは違いながらも、リリスも心の中では、シーレインとニクスの事は認めて居た。ニクスもまた、憎まれ口を叩きながらも、リリスならきっと反対に回ってくれると信じていた。心を読まれたように感じたリリスは、少し跋が悪そうに、

 

「お黙りなさい!反対に入れて上げた事、良く覚えておきなさい!!」

 

 女達の戯言など聞いておれんとばかり、カインはベレルを見つめると、

 

「ベレル、お前はどうだ?」

 

「拙者は当然反対しましょう!シーレイン殿のような貢献者を、処刑などはもっての他と存じまする!!」

 

「ベレル様ぁぁ!!」

 

 カインとアベルにも忠誠を誓っているベレルが、ニクスにもどう動くか分からなかったが、ベレルは処刑しようと試みる事自体不満そうで、ニクスは嬉しそうにベレルを見た。

 

「成る程・・・賛成は、俺とアベル、アモンにシャックス、反対は、ニクス、アロン、リリス、ベレル、棄権はミノタウロスにバルバスかぁ・・・」

 

 現状は賛成4、反対4、棄権2の全くの互角で、最後の一人、オロンの決が重要となった。オロンは、そんな一同の視線を知ってか知らずか、自分の白い体毛を使って、床に何か描いていた。カインは呆れながら、

 

「オロン、遊んでないで貴様も・・・」

 

「待って下さい!これは・・・反対!?見て下さい!オロンは、反対って毛で書いてます!!」

 

 ニクスの指摘を受け、棄権したミノタウロスとバルバスが確認すると、確かに毛は反対と読めた。ニクスは嬉しそうにオロンに抱き付き、オロンはオロロォンと嬉しそうに一鳴きした。カインは舌打ちしながらも、

 

「結果が出たな・・・シーレインは、この塔の牢で謹慎処分とする!良いな、シーレイン?」

 

 だが、アモン以降の一同のやり取りを、シーレインは知らない・・・

 

 彼女の心は、深い哀しみに沈んだままだった・・・

 

(アモン、どうして!?私は、何の為に人間界に・・・プリキュア達よ、私はあなた達の為に、何もしてあげられなかった・・・)

 

 ミノタウロスに担がれたシーレインは、荒々しく黒き塔の最下層に幽閉された事を、プリキュア達は知る筈も無かった・・・

 

 

4、あ~夏休み!

 

 翌日・・・

 

 七色ヶ丘中学校は、終業式を迎えていた・・・

 

 一同は、明日からの夏休みをどう過ごすかなどを語り合い、和気藹々としていたが、バッドエンドプリキュア達に取っては、夏休みとは何の事だか理解出来なかった・・・

 

 今日も真琴をからかってやろうと、やおいは真琴の教室一年一組に来ると、キョロキョロ部屋の中を見回したが、真琴の姿は見当たらなかった。やおいは、近くに居たツインテールをした緑髪の少女若林さなえと、赤髪のショートヘアーの真鍋ゆきに、ブリッ子風に声を掛けると、

 

「ねぇ、今日はソード・・・じゃなくて、真琴ちゃんは居ないのぉ?」

 

「真琴ちゃんですか?あれぇ、今まで・・・・・」

 

 今まで居たのになぁと、さなえとゆきが真琴の机の方を見ると、真琴は机の下に隠れ、右手の人差し指を鼻に当て、シィとジェスチャーをしていて、思わず二人は目を点にした。

 

「あ、あのぅ、何処か行っちゃったみたいです!」

 

「エェェ!?居ないのぉぉ?残念だなぁ!昨日の写真が出来たのにぃ・・・」

 

(昨日の写真!?)

 

 真琴は、やおいが言った昨日の写真という言葉が気に掛かり、少し顔を持ち上げると、

 

「まっ、いっかぁ!そうだ、あなた達も、ソード・・・じゃなかった、真琴ちゃんの面白い写真見て見ない?」

 

「「面白い写真ですか?」」

 

「うん!」

 

 さなえとゆきが小首を傾げるも、やおいは意に介さず、上着のポケットから一枚の写真を撮りだし、

 

「昨日、真琴ちゃんが泣きながら・・・・」

 

「ワァァァァァァァ!!」

 

 真琴は、やおいの企みにまんまと嵌り、さなえとゆきに変な写真を見せようとしているやおいを、慌てて教室の外に連れ出し、階段の方まで連れて行った。やおいはゲスイ表情を浮かべると、

 

「なぁんだ!ソード、やっぱり居たじゃない!!」

 

「わ、私に、何の用よ!?」

 

「アレェ!?先輩にそんな態度取って良いの?」

 

「ウゥゥゥ・・・な、何の用ですか?」

 

「何の用ですか、やおい先輩・・・でしょ?」

 

 やおいはニヤニヤしながら、真琴に自分が言ったように呼んでみてと告げると、真琴は屈辱感で一杯になりながらも、

 

「ウゥゥゥ・・・な、何の用ですか?や・お・い・・・先輩!」

 

「別にぃぃ、暇つぶしぃぃ!ソードからかうと面白いんだもん!!」

 

「そんな事で教室に来ないでぇぇ!」

 

「エへへへ、これからソードは、私のパシリにしてあげるぅ!」

 

「だ、誰がぁぁ!!」

 

「あれぇ!?この写真バラ巻いても良いんだぁ?」

 

 やおいはそう言うと、昨日泣きながら焼きそばパンを渡す真琴の写真を見せた。見る見る真琴は頬を染めて、

 

「い、何時の間に・・・返してぇぇ!」

 

「嫌だよぉぉぉ!ベェェェ!!」

 

 半泣き状態の真琴が、やおいから写真を奪おうとし、やおいは逃げ惑ってそんな真琴をからかっていると、突然やおいの頭に拳骨が落ち、やおいは思わず舌を噛んで涙目になった。恨めしそうに背後を向くと、そこには周囲に冷気を撒き散らしたれいなの姿があり、

 

「学校で目立つ行動をするなって、私言って置いたわよねぇ?」

 

「ビュ、ビューティ!?アハハハ、ちょっと退屈凌ぎに・・・」

 

「教室に戻るわよ!もうすぐ終業式も始まるんだから!!」

 

「分かった!分かったから引きずらないでぇぇ!!」

 

 れいなに襟を掴まれたやおいが、ズルズル引き摺られながら真琴の下を去り、真琴は思わず鼻を啜りながら、

 

「た、助かったぁぁ!バッドエンドピース・・・絶対許さないんだからぁぁぁぁ!!」

 

 そう言いながらも、写真を取りあげそこなった真琴は、心の底から、明日から夏休みで良かったとホッと安堵した。

 

 

 終業式も終り、みさき、あおい、やおい、なみ、れいなの五人は、屋上にみゆき、あかね、やよい、なお、れいかを呼びつけた。やって来たみゆき達五人は、皆何の用だろうかと警戒し、あかねは少し表情を険しくして、

 

「何や、ウチらを屋上に呼んで?」

 

「こんな所でまた戦う何て言わないよな?」

 

 なおも怪訝な表情でみさき達を見ると、あおいはニヤリとしながら、

 

「お望みちゅうなら、ここで戦ってもエェで!」

 

「お止めなさい!あなた達を呼んだのは他でもないわ・・・夏休みって何をすれば良いの?」

 

 れいなはあおいを窘めると、みゆき達五人を見つめながら、夏休みについての質問を始めた。予想外の出来事に呆然としたものの、戦いに来た訳では無いと知ったみゆきは、少し楽しげに、

 

「エッ!?エェェと、その名の通り、夏の間学校がお休みになる事で、その間は大いに遊んで、大いに遊ぶ有意義な事だよ!」

 

「オォォ!?それは良いねぇ!」

 

「でしょう?」

 

 似た者通し気が合うかのように、みゆきとみさきが笑い合うと、れいかは少し溜息を付き、

 

「みゆきさん・・・勉強の事が抜けてますが?」

 

 れいかが少し呆れたように、みゆきに勉強の事が抜けていると伝えると、みゆきは苦笑しながら、

 

「エへへへ!宿題があるのが難点何だけどねぇ」

 

「でも、一ヶ月以上あるから・・・」

 

「じゃあ、遊び優先で大丈夫じゃん!」

 

「そうそう!」

 

 やよいとやおい、同じようにブリッ子風仕草で相槌をうち、益々れいかの表情が曇った。れいなを除いた四人は、嬉しそうにハシャギ、れいなはれいかを見つめると、

 

「宿題もやらなきゃ不味いんでしょう?」

 

「はい!後で苦労する事になると思いますよ!」

 

「まあ、あの子達に何言っても無駄よね?」

 

「・・・・そのようですね?」

 

 こうして語り合う姿は、とても敵味方同士には見えなかった・・・

 

 

 バッドエンド王国・・・

 

 ジョーカーは、学校に通い始めてから、バッドエナジー集めが疎かになっている、バッドエンドプリキュア達に活を入れようとやって来たものの、彼女達の姿は見当たらなかった。

 

「全く、何所で遊び呆けてるんですかねぇ・・・ン!?」

 

 ジョーカーは、五人が食事をする時に集まる大きなテーブルの上に、紙が置いてある事に気付き、手にとって読み始めた。そこにはこう書かれていて・・・

 

 ・・・ジョーカーへ!

 人間の世界には、夏休みが有るんだってぇ!

 羨ましいよねぇぇ・・・

 て事で、私達も9月迄バカンスに行ってきまぁぁす!!

 捜しに来ちゃダメだよ!

  バッドエンドプリキュアより・・・

 

「な、何じゃコリャァァァァァ!?」

 

 ジョーカーは、読み終わった紙をビリビリに破いて撒き散らすと、尚も口惜しいのか、何度も足で紙を踏みつけた。

 

            第九十七話:シーレインの誤算

                   完

 




季節感無いですが、次回からは夏休み編になります・・・

魔法つかいプリキュア!始まりましたねぇ!!
どんな話しになっていくのか、楽しみです!

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