プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第九十六話:歌姫VS音姫!

1、狼狽えるアコ

 

 シーレインが、加音町に迫っているとは知らず、響、奏、エレンは、ハミィやフェアリートーン達と共に、奏の店Lucky Spoonで夏休みの計画を立てていた。

 

「中学生活最後の夏休みかぁ・・・早いよねぇ?」

 

「そうねぇ、この三年間、色々有ったわよねぇ?」

 

 懐かしそうに入学した時から、今までの事を振り返った響と奏の二人、お互いの勘違いから生じ、中学一年の頃は微妙な距離感だった二人、進級して中学二年になった時、二人はキュアメロディとキュアリズムになってマイナーランドと戦い、その途中で他のプリキュアのみんなと出会った。エレンやアコもプリキュアとして仲間に加わり、ノイズと和解した事で、ピーちゃんも新たに仲間に加わった。中学三年になった時には、みゆき達プリキュアの後輩も出来た。そんな二人の思い出話に何の興味も無いかのように、ハミィとフェアリートーン達は、ガツガツカップケーキを食べて居て、そんな姿を見て居たエレンは、思わずクスリと微笑んだ。エレンも響と奏の会話に加わり、

 

「本当なら、マイナーランドとの戦いを終えた私は、メイジャーランドに帰って居た筈なのに、また加音町に戻って来るとは思わなかったわ」

 

 ノイズと和解し、伝説の楽譜がメイジャーランドに戻り、平和を取り戻した後、一度エレンは、ハミィやソリー、ラリーと共に、メイジャーランドへと帰った。遊びに行こうと思っていたものの、バッドエンド王国という新たなる敵が現われた事で、再び加音町で暮らす事になるとは、エレンも思わなかった。響と奏もエレンの言葉に頷き、

 

「うん、バッドエンド王国が現われたもんねぇ・・・」

 

「でも、私達にはハッピー達スマイルプリキュアの六人や、ソードと言う頼もしい後輩達も出来たわね!」

 

「そうだねぇ・・・折角だし、一日ぐらいは夏休みの間に、プリキュアのみんなと何処かに行ってみたいよねぇ?」

 

 響の何気ない提案に、奏とエレンも目を輝かせ、

 

「良いわね!今度みんなに提案してみましょう!!」

 

「プリキュアのみんなとなら、せつなも居るし、日帰りで何処かに行けるわね!」

 

 そんな会話をしている間に、ハミィは目の前にあったカップケーキを平らげ、膨らんだお腹を満足そうに撫でながら幸せそうに横になり、響、奏、エレンは、そんなハミィを見て思わずクスリと笑い合った。

 

 

 音楽の街に不釣り合いな、爆音が加音町に響き渡る中、赤いフェアレディZは加音町の中心部で止まり、中から水色の髪をした、モデルのようなスタイルの良い女性がゆっくりと降り立った。それは十二の魔神の一人シーレインで、シーレインは送ってくれた二人組のチャラ男達に声を掛け、

 

「送ってくれてありがとう!」

 

 シーレインは、チャラ男達にウインクすると、その場を見渡し、

 

「此処が音楽の街加音町・・・此処にプリキュアが居るかも知れないのね?」

 

 シーレインは、先程の横浜とも一味違う加音町の光景に目を奪われ、少しこの町を散策したくなり歩き始めた。シーレインが去ると、チャラ男達は我に返り、

 

「あれ!?俺達、何でこんな所に居るんだぁ?」

 

「さ、さあ!?それより・・・此処は一体どこ何だぁぁ?」

 

「「さっきの美女は・・・何所に消えたんだぁぁぁ?」」

 

 互いに顔を見合わせながら、チャラ男達は訳が分からず叫び、再び爆音響かせながら去っていた・・・

 

 

 奏太と一緒に下校していたアコは、奏太から夏休みには何処か行くのか聞かれたものの、特に考えては居らず、

 

(そう言えば、パパが一日でも良いから、帰って来いって言ってたっけ?)

 

 アコを溺愛しているメフィストは、学校が夏休みの間は一ヶ月以上休みになると聞き、キラキラ目を輝かせると、エレンを通じてアコに連絡を取り、メイジャーランドに帰ってくるように、半ば泣き落としのように訴えた。アコも本心では、メフィストやアフロディテの顔を見に、メイジャーランドに帰りたいのは山々だったが、バッドエンド王国の事も気になり、特に決めてないと奏太に答えた。

 

「ふ~ん、家も店があるから、行けても一泊二日とかだろうなぁ・・・」

 

 奏太の家は、Lucky Spoonというカップケーキのお店をやっているので、連休などはそうそう取る事も無かった。だが奏も奏太も、そんな両親に愚痴を言う事もなく、店の手伝いすらしていた。そんな会話をしていた二人は、広場の方から流れてくる心地良い音色に気付いた。

 

「良い曲ねぇ・・・」

 

「何だろう!?何か分かんねぇけど、俺にも良い曲だって言うのだけは分かる!」

 

「奏太、行ってみましょう!」

 

 この時のアコは気付かなかった。この音色は、人々を呼び寄せる為に、シーレインが弾いているハープの音色だという事に・・・

 

 シーレインの音色に惹かれ、加音町の人々が次々に集まって来ていた。その中には、アコと奏太の姿もあった。まるで、自分の意思に関係無く、何かに引き寄せられるかの如く、ハープを弾くシーレインに近付いて来る。シーレインは、近付いて来る足音の数を聞くと、

 

(これだけ集まれば頃合いね!)

 

 シーレインの奏でるハープの音色が突然変わった。まるで、深い闇の中に堕ちていくような感覚がし、アコは思わずハッと我に返るも、時既に遅く、アコもまた深い闇の中に堕ちたように、催眠状態に陥った。シーレインは、ハープを奏でながら、

 

「あなた達に聞きたい事があります・・・プリキュアは、この町に居るのかしら?」

 

 シーレインのこの質問に、スイートプリキュアを見た事がある面々が「はい」と答えた。その中にはアコも含まれていた。シーレインは満足そうに頷き、

 

「じゃあ、この中に、プリキュアが誰だか知っている人は居るかしら?」

 

 この質問には皆無言だったが、一人だけ手を挙げそうな少女が居た。それはアコだったのだが、アコは無意識の内に、シーレインの呪縛に耐えようとするかのように、手を挙げようとする事に躊躇していた。シーレインはアコに気付き、

 

「お嬢さん、あなたはプリキュアを知っているようねぇ・・・何所に居るのかしら?」

 

「アッ・・・ウッ・・・・・い、言えません!」

 

「言えない!?妙ねぇ・・・」

 

 シーレインの質問に耐えるアコだったが、その姿こそ、自分でプリキュアの関係者だと暴露しているに等しかった。シーレインはクスリと笑うと、ハープを一本ずつ弾き、人々の催眠状態を持続させると、アコの目の前に歩き、右手の人差し指と中指で、指をパチリと鳴らした。思わずアコは正気に返りハッとすると、

 

「わ、私・・・一体!?」

 

「お目覚めかしら!?あなたひょっとして・・・プリキュアじゃない?」

 

「な、何の事!?」

 

 激しく動揺するアコの姿に、シーレインは再びクスリと笑った。

 

 

2、シーレインVSスイートプリキュア♪

 

 アコは、シーレインの追求に白を切ろうとするも、その態度が自らをプリキュアだと認めているに等しかった。白を通そうとしたアコだったが、得体の知れない技を繰り出すシーレインに対しては、もうプリキュアになるしかないと考えた。そんなアコの気持ちを察したかのように、紫色をした妖精ドドリーが、アコの周囲を飛び回り、シーレインは突然現われた小さな妖精ドドリーに驚いたものの、直ぐに口元に笑みを浮かべた。覚悟を決めたアコは、キュアモジューレを取り出すと、

 

「レッツプレイ!プリキュア!モジュレーション!!」

 

 アコの掛け声と共に、ドドリーはキュアモジューレの中にその半身を沈め、アコの身体を、黄色い衣装とバルーンスカートを履いた、まだあどけなさが残るプリキュア、キュアミューズへと変わった。

 

「爪弾くは、女神の調べ!キュアミューズ!!」

 

 変身を終えたミューズが、シーレイン相手に身構えた。シーレインは、予想以上に早くプリキュアに出会えた事で、口元には自然に笑みが浮かんだ。それを見たミューズは、自分が小さいからバカにされたように感じ、少し不機嫌そうな表情を浮かべると、

 

「何笑ってるのよ?」

 

「フフフ、気に触ったのならゴメンなさい!」

 

 ミューズは、シーレインが何処か自分の事を見下しているように感じ、先制攻撃を仕掛けようと、青色の妖精シリーをモジューレにセットし、

 

「シ、の音符のシャイニングメロディ!プリキュア!スパークリングシャワー!!」

 

 シーレイン目掛け、ミューズが放った大量の音符の泡が、シーレインを包み込もうと飛んでいったものの、シーレインはフッと笑むと、

 

「フフフ、中々面白い技を使うわね?さあ、自分でも味わって見なさい!」

 

 向かってくるスパークリングシャワーをものともせず、シーレインはハープを巧みに奏でると、

 

「シベリウスシフ!!」

 

 ハープの曲調が変わったのと同時に、ミューズが放ったスパークリングシャワーが、ミューズ目掛け攻撃を開始した。ミューズは目を見開いて驚き、

 

「そんな!?キャァァァァァ!」

 

 自分の攻撃を、悲鳴を上げながらもすんでの所で躱し続けるミューズだったが、シーレインの得体の知れない強さに驚きを隠せなかった。

 

(私一人じゃ・・・勝てない!)

 

 ミューズは、シーレインの強さに気付き、焦りだしていた。周りの人々を巻き込む訳にはいかないと、

 

「場所を変えましょう!」

 

「別に私は構わないわよ?何なら、お仲間の所に行ったら?」

 

「バカにしてぇぇ!!」

 

 プゥと両頬を膨らませたミューズは、広場から離れた。シーレインが言う通りにするのは癪だったが、ミューズ一人で何とか出来る相手で無い事は、戦って居るミューズ本人が一番理解していた。

 

(もうみんな学校から帰っている筈・・・とすれば、奏のお店か、調べの館に行けば・・・)

 

 地上を走るミューズは、奏と奏太の家でもあるLucky Spoon目掛け走り続けた。その後を、身軽そうに屋根の上を飛ぶようにするシーレインが追跡する。二人は、一定の距離を保ち続けた・・・

 

 異変は響達にも分かったようで、三人は店の前に出て辺りの様子を伺っていると、ミューズがこちらに向かって駈けてくる姿が見えて目を見張った。

 

「ミューズ!?またバッドエンド王国が来たの?」

 

「とにかく、私達もプリキュアになりましょう!」

 

「幸い、この辺りに人は居ないようね!」

 

 顔を見合わせ頷き合った響、奏、エレンは、キュアモジューレを取り出すと、響のモジューレに、ピンク色をした妖精ドリーが、奏のモジューレに、白色をした妖精レリーが、そして、エレンのモジューレに、水色をした妖精ラリーが装着された。

 

「「「レッツプレイ!プリキュア!モジュレーション!!」」」

 

 三人の全身を光が纏い、プリキュアへと変えて行った・・・

 

「爪弾くは、荒ぶる調べ!キュアメロディ!!」

 

「爪弾くは、たおやかな調べ!キュアリズム!!」

 

「爪弾くは、魂の調べ!キュアビート!!」

 

 三人が変身を終えると、合流したミューズは、ホッと安堵した表情を浮かべ、そんな四人の前にシーレインが舞い降りてきた。四人はキッとシーレインを見つめると、

 

「「「「届け!四人の組曲!!スイートプリキュア!!!」」」」

 

 四人がシーレインに対しポーズを決めた。シーレインの目は輝き、

 

「その三人があなたのお仲間って訳ね?初めまして!私の名前はシーレイン!!」

 

「シーレイン!?」

 

「バッドエンド王国の新たなる刺客って事?」

 

 メロディとリズムは、困惑気味にシーレインに問い掛けた。バッドエンドプリキュア達の他にも、ジョーカーが新たに差し向けたのだろうか?と警戒した。シーレインは小首を傾げ、

 

「バッドエンド王国!?・・・・ああ、バルガンの言ってた?違うわ!私は、魔界の戦士とでも言えば分かりやすいかしら?」

 

「魔界の戦士!?」

 

「その魔界の戦士が、私達に何の用?」

 

 警戒を続けながら、ビートが、リズムがシーレインに逆に何の用か問うも、ミューズは首を振り、

 

「話は後よ!彼女のせいで、加音町の人達の様子がおかしくなってるの!!」

 

 ミューズから、先程の事態を聞いたメロディ、リズム、ビートの表情は見る見る険しくなり、メロディはキッとシーレインを見つめ、

 

「本当!?加音町の人達に何かする何て・・・」

 

「「「「絶対、許さない!!!!」」」」

 

 四人は四方に散り、シーレインを包囲する陣形をするも、シーレインはハァと溜息を付き、

 

「私は、あなた達と話をしに来ただけ何だけど・・・仕方がないわね!」

 

 シーレインの目付きが変わり、瞳が金色に輝いた・・・

 

 

3、死のメロディ

 

 遂に戦いの火蓋を切ったスイートプリキュアとシーレインの戦い、メロディとリズムは、阿吽の呼吸でタイミングを合わせ、シーレインに突撃し、メロディはパンチを、リズムは連続して回し蹴りを繰り出すも、シーレインは見切ったように二人の攻撃を躱し続ける。ビートは、上空高くジャンプしかかと落としを狙い、ミューズは、シーレインの側で身を伏せ、足払いを放った。だがシーレインは、その時間差攻撃をも見切り、シーレインは四人から距離を取った。シーレインはどこからかハープを取り出すと、ミューズの顔色が変わり、

 

「みんな、気を付けて!あいつは、あのハープの技を使って不思議な事をしてくるわ!さっき私が、スパークリングシャワーを放ったら・・・何故か私の放ったスパークリングシャワーが、私を攻撃してきたの!!」

 

「「「エェェ!?」」」

 

 ミューズからの情報を聞き、三人は驚きの表情を見せた。メロディは試して見ようと思うと、リズムに目配せをした。リズムは頷き、メロディはミラクルベルティエを、リズムはファンタスティックベルティエを取りだし、メロディは、ミラクルベルティエをクロスロッド状態に、リズムは、ファンタスティックベルティエをクロスロッド状態へと変化させた。

 

「「駆け巡れ、トーンのリング!」」

 

 メロディとリズムは、クロスロッドを鈴のように振ると、

 

「「プリキュア!ミュージックロンド・スーパーカルテット」」

 

 二人の掛け声と共に、薄いブルー、薄いオレンジ、ピンク、薄いピンク、レモン色の五本のリングが現われ、ハート形の光と共に螺旋のようにシーレイン目掛け飛んで行った。

 

(仕方が無いわね・・・)

 

 シーレインは少し憂いを帯びた表情を浮かべながら、ハープを巧みに奏でると、

 

「シベリウスシフ!!」

 

 ハープの曲調が変わったのと同時に、メロディとリズムが放ったミュージックロンド・スーパーカルテットが、メロディとリズム目掛け飛んで行った。二人は目を見開き驚愕しながらも、自らが放った技を受け吹き飛ばされた。

 

「「キャァァァ!」」

 

「メロディ!リズム!」

 

 ビートは上空にジャンプし、飛ばされてくるメロディとリズムを、身体を盾にして何とか受け止めた。

 

「ありがとう、ビート!」

 

「ミューズの言った通りね!」

 

「だったら!」

 

 メロディ、リズム、ミューズの考えは同じのようで、三人は、肉弾戦を仕掛ける為に、シーレイン目掛け突撃した。その時、シーレインの目が妖しく輝き、

 

「近付けば何とかなると思ったのかしら?・・・ジ・レクイエム!」

 

 シーレインのハープから、物悲しい曲調の調べが奏でられた。それを物ともせず、シーレイン目掛けるメロディ、リズム、ミューズだったが、ビートは見る見る顔を青ざめ、

 

「な、何かおかしい・・・メロディ、リズム、ミューズ、逃げてぇぇぇぇ!」

 

「「「エッ!?」」」

 

 ビートの絶叫も空しく、ビートの声に気付いた時は、メロディ、リズム、ミューズは、シーレインの結界に捕らわれ、三人の耳に死のメロディが流れてきた。見る見る三人の表情は真っ青になり、力なくその場に倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。それを見届けると、シーレインはハープを奏でる事を止めるも、倒れた三人が動く事は全く無かった。呆然としながら三人に近付いたビートは、メロディ、リズム、ミューズの順番で三人の身体を揺すったり、声を掛けたりするものの、三人は何の反応も示さなかった。ビートの目から涙がポロポロ零れ落ちると、

 

「メロディ!リズム!ミューズ!イヤァァァァァ!!」

 

 ビートは、涙を流しながら絶叫した・・・

 

 

4、ビートの命!ハミィの命!

 

 泣きじゃくるビートの声に気付き、満足そうにテーブルの上で眠って居たハミィは、慌てて飛び起きると、心配そうにビートに近付き声を掛けた。

 

「セイレーン、どうしたニャ!?」

 

(セイレーン!?あのプリキュアは、セイレーンと言うの?)

 

 ハミィがビートの事をセイレーンと呼んだ事に、思わずシーレインはハッとしてビートを見つめた。自分と似たような名前を持つビートに、何処か親近感さへ湧いてきた。ビートは、どうしたら良いのか分からないといった表情で、ハミィに哀願するような表情を浮かべると、

 

「ハミィ・・・どうしよう!?メロディが、リズムが、ミューズが・・・息をしてないの!」

 

「ニャ、ニャンですとぉぉぉぉ!?」

 

 ビートの話を聞き、ハミィも円らな瞳を思いっきり開いて驚愕すると、倒れ込むメロディ、リズム、ミューズに声を掛けたが、三人からは何の返事も返らなかった。シーレインは、倒れ込む三人を物悲しそうに見つめながら、

 

「私も、出来ればこんな事はしたくなかったけど・・・ジ・レクイエムは攻防一体の技、この調べを聞いた相手を、穏やかな気持ちで死に至らしめる私の奥義!彼女達は、安らぎの中で、やがて・・・息絶える!!」

 

「そんなぁぁ!?メロディ!リズム!ミューズ!返事してよ・・・・・」

 

 必死に三人に声を掛け続けるビートとハミィだったが、三人は依然何の反応も示そうとはしなかった。シーレインは、そんなビートの姿を、見て居るのが辛くなったかのように目を閉じると、

 

「無駄よ!彼女達は・・・・・!?」

 

 シーレインは思わず話して居た言葉を飲み込み、半ば呆然としながら再び目を開きビートの事を見た。ビートは大きく息を吸い込むと、

 

「ララララ、ラララァラ・・・」

 

 ビートは、横たわる三人に聞かせるようにその場で歌い始めた。時折涙を啜りながらも、ビートは歌い出した・・・

 

 深い闇の中を堕ちていくメロディ、リズム、ミューズ、三人は心地良いハープの音に聞き入っていたが、そんな三人の耳に、ビートの歌声が聞こえて来た。まるでビートの歌声に止められたかのように、三人はその場に留まると、

 

「私、どうしてこんな所に居るんだろう?」

 

「メロディ、私達どうして・・・そうだ!ビートは?」

 

「そうだよ、私達戦って・・・」

 

 メロディも、リズムも、ミューズも、三人は同じように闇の中を見渡すも、ビートの姿も、シーレインの姿も何処にも無かった。ただあるのは無限に続くかのような闇、だがその闇の上の方から、確かにビートの歌声が聞こえていた。メロディ、リズム、ミューズは、顔を見合わせ合うと頷き合い、

 

「「「帰らなきゃ!みんなの居る加音町に!!」」」

 

 声に導かれるように闇の中を上昇して行った!!

 

 ビートが懸命に歌い続ける中、シーレインは首を横に振り、

 

「無駄な事を・・・・・エッ!?」

 

 思わずシーレインは目を見張った。何故なら、死のメロディを聴いて、死の淵へと堕ちていった筈の、メロディ、リズム、ミューズの身体が、ピクリと微かに動いたのだから・・・

 

「バカな!?私のジ・レクイエムを聴いて・・・クッ!」

 

 シーレインは再びハープを取り出すと、ジ・レクイエムを奏で始めた。今度はビートや側に居るハミィをも死へと誘おうとするかのように、だが、ビートは歌を止めなかった。更にはハミィも加わり歌い始めた。

 

「「ララララ、ララ、ララララァ」」

 

 シーレインも負けずとハープを奏で続けるも、次第に二人の歌声に聴き惚れていった・・・

 

(あの二人・・・何と心のこもった歌を歌うの!?まるで、命の・・・・・ハッ!?)

 

 シーレインはそう考えた時ハッとした。二人は自らの命を燃やして、仲間の三人を助けようとしているのではないかと思うと、

 

「止めなさい!それでは、あなた達まで命を落とすわよ!!」

 

 シーレインは、敵である筈のビートとハミィの身を思わず案じ声を掛けるも、

 

「構わない!それで、メロデイが、リズムが、ミューズが・・・三人が生きてくれるなら!!」

 

「な、何を!?」

 

(私の・・・負けね!あなた達の歌声に聞き惚れた時点で分かっては居たけど、認めたくなかった!!)

 

 自らの命を燃やしながら、再び歌い続けるビートとハミィを見たシーレインは、自らの負けを心の中で認めた。シーレインは、再びハープを奏で始めるも、それは死のメロディ、ジ・レクイエムとは明らかに違う曲調だった・・・

 

 

5、シーレインからの忠告

 

「「「ウ、ウゥゥン・・・」」」

 

 何処か艶やかな声を発しながら、メロディ、リズム、ミューズはゆっくり目開いた。まだ身体が馴染んでいないかのように、全身が怠かったが、三人がゆっくり起き上がると、その側で、プリキュアの姿を解いたエレンとハミィが、笑みを浮かべながら横たわって居た。慌てて三人はエレンとハミィを抱き上げ声を掛け、

 

「エレン、ハミィ、どうしたの?」

 

「二人共、返事して!」

 

「そのまま寝かせて上げて!」

 

「「「エッ!?あなたは!!」」」

 

 シーレインを見つめるメロディ、リズム、ミューズの視線は厳しかったが、シーレインは首を振り、

 

「私は、あなた達と敵対する意思はもう無いわ!私は、彼女達に・・・負けたのだから」

 

「「エッ!?エレンとハミィに?」」

 

「どう言う事よ?」

 

 シーレインの敗北宣言を聞き、メロディ、リズム、ミューズは、訳が分からずシーレインに問うと、シーレインは今までの経緯を三人に簡潔に話した。シーレインのジ・レクイエムを聴いた三人は、一度は死の淵に堕ちた事、それをエレンとハミィが、自らの命を燃やして歌い続けて三人を救った事、力を使い果たしたエレンとハミィの事を・・・

 

「じゃ、じゃあ、エレンとハミィは・・・」

 

「この私が、心から負けを認めた彼女達を・・・死なせる訳無いでしょう!」

 

 シーレインがそう断言すると、メロディ、リズム、ミューズはホッと安堵し、寝ている二人の耳元に感謝の言葉を伝えた。シーレインは、改めてメロディ、リズム、ミューズの前に立つと、

 

「さっきも言ったけど、元々私はあなた達と敵対するつもりは無かったの!成り行きで戦った事は謝るわ・・・ゴメンなさい!!」

 

 そう言うと、シーレインは素直に頭を下げた。

 

「ううん、分かってくれたなら・・・私達もつい感情的になって、あなたの話を最後まで聞かなかったのも悪いし・・・」

 

「そう言って貰えると助かるわ!改めて自己紹介するわね、私は魔界に住むシーレイン!」

 

 シーレインにもう敵対意思が残って無いと分かり、メロディ、リズム、ミューズも変身を解くと、

 

「私は、北条響事キュアメロディ!よろしく!!」

 

「私は、南野奏事キュアリズムよ!」

 

「私は、調辺アコ事キュアミューズ・・・私も早とちりしてゴメンなさい!」

 

「いえ・・・それで本題だけど、私がこちらの世界に来たのは、あなた達に聞きたい事があるからなの!!」

 

「「「聞きたい事!?」」」

 

「ええ!この前、私達が住む魔界に、一人のプリキュアが乗り込んで来たの!!」

 

「「「エェェ!?」」」

 

「私は、その本当の目的が知りたいだけ・・・本当に魔界に攻めてきたのか、それとも迷い込んだだけなのかをね!」

 

 腕を組んで首を捻った響は、

 

「ウゥゥン、少なくても私達じゃ無い事は確かだけど・・・他のみんなもそんな事しないと思うなぁ」

 

 響の言葉に奏も相槌を打つと、

 

「ええ、私達が魔界に行く理由が無いものねぇ?」

 

 響と奏の会話を聞く限り、二人が嘘を言っているとは感じられず、シーレインはコクリと頷きながらも、

 

「そう・・・出来れば他のプリキュアにも、聞いて欲しいのだけれど・・・」

 

「そういう事情なら・・・エレンが起きたら、みんなに連絡取ってみるよ!」

 

「そうしてくれると助かるわ!あなた達を見た限り、魔界と戦う意思を持っているとは思えないし・・・」

 

 それから30分後、目を覚ましたエレンによって、一同にメールが送信された。続々と返信されてくるも、皆そんな事はしていないと答える中、なぎさだけは、心当たりがあるから、今からせつなに頼んで加音町に来ると返信があった。シーレインは嬉しそうに頷き、

 

「それは助かるわ!直に何か知っている人に話を聞けるなら、それはこちらの手間も省けるわ!!」

 

「じゃあ、調べの館に場所を移しましょう!人前じゃ色々と言いにくい事もあるだろうし」

 

 エレンはそう言うと、なぎさ宛てに調べの館で待っていると返信を返した。それから約十分後、調べの館のエレンの部屋が騒がしくなり、

 

「何!?私の部屋から声が・・・」

 

 恐がりなエレンはビビりながら、響と奏、アコとシーレインにも来て貰い、恐る恐る自分の部屋をソッと空けてみると、中には美希、みゆき、あかね、やよい、なお、れいか、あゆみ、真琴、アン王女、キャンディやエンエンとグレルが居て、思わずエレンはそのままドアにズッコケテ中へと入った。

 

「人の部屋で何やってんのよぉぉぉ!」

 

 みゆきは頭を掻きながら、

 

「エへへへ、ゴメンなさい!あの後、なぎささんが、魔界の人と話すチャンスだから、みんなも一緒に行かないって誘われちゃって」

 

「それで、あたし達も加音町に来ようと思った訳!」

 

 みゆきの言葉に苦笑を浮かべた美希も同意し、なおが美希の言葉を引き取り、

 

「エレンさんの部屋は、調べの館にあるって聞いてたのを思い出したら・・・」

 

「「「「「「「「不思議図書館からこの部屋にみんなで来ちゃった!」」」」」」」」

 

「やっかましいわ!私の部屋を滅茶滅茶にしてぇぇ・・・後で片付けてよね!!」

 

 目を吊り上げて怒るエレンの表情を見て、思わずシーレインはクスリと笑った。それに気付いたみゆき達は、見掛けない顔のシーレインを見て首を傾げ、

 

「ひょっとして、その人が?」

 

「ええ、私は魔界から来たシーレイン!以後お見知り置きを!!」

 

 シーレインが頭を下げて挨拶を始め、慌てて美希やみゆき達も挨拶を返した。更にその数十分後には、せつなに連れられた一同が調べの館に集まり、総勢33人の少女達が勢揃いした。さすがにプリキュアがこれだけ居るとは思わなかったシーレインは驚き、

 

「あなた方全員が・・・プリキュア?」

 

「わたくしは違いますけどね!」

 

 アン王女は、少し愁いを帯びた表情で、自分は違うとシーレインに告げた。シーレインは一人一人顔をジィと見つめると、

 

「それでも・・・想像してたより遥かに多いわ」

 

「実は、他にも居るんだよねぇ!」

 

 えりかの言葉に咲も同意し、

 

「まあ、地球に居ないから、中々こっちから連絡つかないんだけど」

 

「そ、そうなの!?」

 

 一体何人居るのだろうか?シーレインは呆然としていると、なぎさは咳払いを始め、

 

「で、さっきのメールの内容の事何だけど、あなたが知りたがってた、魔界に行ったプリキュアの名前は・・・バッドエンドピース!けど、彼女は何かの拍子に魔界に迷い込んだって言ってた」

 

「やはりそうでしたか・・・」

 

「その時に、アベルって奴と、ダークドラゴンって言うのが戦ってて、バッドエンドピースは、アベルに攻撃されてやられそうになった時、ダークドラゴンに助けられて魔界から逃げ帰ったんだって」

 

「まっ、待って下さい!アベルがダークドラゴンと戦って居たのですか?」

 

「うん!バッドエンドピースはそう言ってた」

 

 なぎさの話を聞き、見る見る表情を険しくしたシーレイン、本来ドラゴン族に手を上げる事は、魔界の中でもタブーとされていた。何故なら、竜族は仲間意識が強く、竜族に手を出せば、魔界全土が戦場となる魔界大戦が勃発すると言い伝えられているのだから・・・

 

「それが本当なら、アベルを問い詰める絶好の機会!」

 

「ねぇ、アベルっていう奴に付いて知りたいんだけど、教えてくれないかな?その戦いが元で、ダークドラゴンは命を落としたそうだし・・・」

 

「エッ!?ダークドラゴンが?そうですね・・・あなた方は知っている限りの事を話してくださいましたし、私も魔界の事をお話ししましょう・・・」

 

 シーレインは、そう言うと魔界の状勢について話し始めた・・・

 

 魔界は、魔王ルーシェスが治めてからは、ただ争いに明け暮れる世界では無くなった事、天に聳える黒き塔、そこに住む魔王ルーシェスを守るように、十二の宮が存在する事、各宮には、魔王を守護する魔神達が居る事、自分はその中で天秤宮を守っている事、その魔王が表舞台に出て来なくなった事を良い事に、双児宮を守護するカインとアベルが暗躍している事などを語って聞かせた。ほのかは少し真顔になり、

 

「十二の魔宮・・・それぞれの宮を守護する魔神」

 

「ええ、あなた方もバルガンと闘った事があるのでしょう?バルガンは、宝瓶宮を守護していたの」

 

「ああ、あの人面樹の人ね!」

 

 バルガンと闘ったのぞみが、少し嫌そうな表情で思わず呟いた。シーレインはコクリと頷き、

 

「ええ、バルガンの事は私からも謝るわ!魔王ルーシェス様は争いを嫌うお方で、人間界には手出ししないように言われていたのだけど・・・」

 

 何かを思案するように言葉に詰まったシーレインの間に割り込むように、再びなぎさがシーレインに問い掛け、

 

「私達、妖精学校でソドムって奴に、酷い目に遭わされたんだけど、そいつは十二宮の魔神じゃないんだ?」

 

「ソドム!?いえ、私は初めて聞く名前ですが・・・」

 

 シーレインは初めて聞くソドムと言う名が気になり、一同にどんな人物だったか容姿を問い、一同から聞かされたソドムの容姿を思い描いて目を見開いた。

 

「それでは、まるでカインとアベルそっくりな・・・やはり何かを企んで居るのは確かなようね」

 

 つぼみは不安な心を打ち消すかのように、シーレインに話し掛け、

 

「でも、こうしてシーレインさんと親睦を深める事が出来たし、魔界と争わないで済めば良いですね?」

 

「それは・・・残念だけど無理ね!」

 

「エッ!?」

 

「私は、あなた達ともう敵対する意思は無いけれど、魔界に戻った私は、おそらくカインとアベルによって、何らかの処断をされる。もちろん、あなた方に魔界と敵対する意思は全く無い事は、みんなに伝えるけど、カインとアベルが、人間界に対し、何らかの手出しをしてくるのは、避けられないと思う・・・注意して!!」

 

 シーレインからの忠告を聞き、一同は思わず沈黙した・・・

 

 

             第九十六話:歌姫VS音姫!

                   完




 今日のGo!プリンセスプリキュアを見てたら、力が沸き上がったのか、一気に96話を書き終える事が出来ました!
 Go!プリンセスプリキュア関係者の皆さん、一年間楽しませて頂きありがとうございました!!良い最終回を見られて感無量です!!!
 次作の魔法つかいプリキュア!も楽しみにしております!!

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